もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

7 037 星野博美「転がる香港に苔は生えない」(情報センター出版局:2000)感想 特5

2018年03月08日 17時55分12秒 | 一日一冊読書開始
3月8日(木):  

582ページ    所要時間10:40     アマゾン349円 

著者34歳(1966生まれ)。東京都生まれ。OL、写真家・橋口譲二氏のアシスタントを経てフリーに。2001年『転がる香港に苔は生えない』で第32回大宅壮一ノンフィクション賞受賞

典型的な失敗読書である。速読できなかった訳ではないと思いたいが、結果としてダメだった。一番の原因は3分の2ぐらいまで進んだところで最後まで一気に読み切らなかったこと。次がインフルエンザB型になって、回復期も含めて読書復帰が遅れたこと。結局調子が上がらず読むことから避けていた。

それでは、つまらなかったのかというと真逆で無類に面白かった。そのため手放すこともならず、読書生活が糞詰まり状態になっていたのだ。今は、ブログ更新が大変で少し憂鬱だが、すっきりした腹ぐあいになった感じである。

【目次】一九九六年八月十九日香港時間午後一時四〇分// 第1章 香港再訪/第2章 深水捗/第3章 返還前夜/第4章 返還/第5章 逆転/第6章 それぞれの明日/第7章 香港の卒業試験//二〇〇〇年三月十五日、日本時間午前二時二〇分浅い眠りの中で見る夢は

【アマゾンの紹介】がよくできている:
  ノンフィクション作家であり、写真家でもある著者は、香港の中国返還の瞬間(1997年7月1日を体験するため、2年にわたって香港で暮らした。観光客が足を踏み入れることのない下町の古アパートに居を定め、生活者の立場で香港と向き合ってじっくりと観察した。そこから生まれたのが、第32回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した本書である。受賞発表後の記者会見で、著者は「子どものころから中国に興味があった。大学生で1年間香港留学もした。返還は自分にとって大事なことだと感じていたから、人から聞かされるのでなく、自分自身で体験したかった」と香港に住んだ理由を説明している。
  もちろん、返還は本書の重要なファクターだ。しかし、そこだけに焦点を当てたドキュメンタリーではない。むしろ、およそ返還とは関係なさそうなエピソードにこそ、この本を読む楽しさがある。たとえば、著者が飲食店で働く美少年に興味をひかれ、なんとか彼に近づこうと努力する話。あるいは、仕事を得るために白髪を染めた中年カメラマンが仕事と一緒に若い彼女を手に入れた話。また、地下鉄に乗り込んできた家族が、幼い息子の活躍によって次々と席を確保していくありさま。返還があろうとなかろうと、たくましく暮らさざるを得ない香港人こそ本書の主役といえるだろう。


香港返還から20年が経ち、昔のことだから、今の香港は変わってしまっているので読む価値が無いのか…?という問いに、俺は「それには全く当たらない。面白がる精神さえあれば、(現在の現実を知らないが)たとえ、あの時の香港が今存在しなくても全く構わない」と俺は答える。

本書の中の香港は、特定の場所、特定の時期の出来事であって、一方で実は今だって世界中のどこかであり得る人間社会の普遍性を感じさせてくれる。観光で有名な素敵な香港のウラ側に、全く別の香港が息づいている。その生活の臭い、息遣いが尋常でなく活気に満ち満ちていて面白い。じっとしてると死んでしまうから動き回る、みたい強迫性とともに、「転石苔を生じず」から来たまさにタイトル通り、本書を読んでいて退屈することが無かった。

ただ、雑多で膨大な本書の内容をまとめるとなると全くのお手上げだ、と思っていたのだが、それが今日読んだ終章「二〇〇〇年三月十五日、日本時間午前二時二〇分浅い眠りの中で見る夢は」の574ページ~581ページで見事にまとめられていた。著者にしか書けない、著者の深い香港愛を感じさせる少し泣かせる素敵なまとめ方になっていた。

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