もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

116冊目 藤田紘一郎「医療大崩壊 *文庫書下ろし」(講談社文庫;2009) 評価3

2012年01月06日 05時45分40秒 | 一日一冊読書開始
2012年1月5日(木):

172ページ  所要時間3:45

著者70歳。「笑うカイチュウ」で有名な東京医科歯科大学医学部名誉教授。今もお腹に10m近いサナダ虫の「マサミちゃん」を飼っている。

本書は、基本的に良心的で、随分お得感のある良書である。表題は「医療大崩壊」とセンセーショナルであるが、内容は、日本の医学教育と医療現場における諸問題について冷静な批判・問題提議および解決への処方箋・方向付けを説いたものである。

取り立てて初めて耳にして驚かされた、という内容はない。むしろ、これまでに耳にしたことがあるような事柄について、その深刻さと、問題の根深さを従来より一歩踏み込んだ形で指摘して、「そろそろきちんと考えて取り組まないと大変なことになりますよ」と、多少のユーモアと役に立つ医療情報を合わせて警告として訴えた内容である。

目次::1章 大混乱の日本の医療現場 /2章 立派な医者が欲しい /3章 医学教育の改革が必要 /4章 医者を選ぶのも寿命のうち /5章 患者主体の医療とセカンドオピニオン 

「日本は医師不足。人口1000人当たりの医師数は、OECD(先進国)30カ国中27位の2.0人。特に産婦人科と小児科が不足している。他に麻酔科・外科も厳しい」

「医師の大半が地方嫌い。医局の弱体化で拍車がかかった。2004年に医師免許取得後2年間、医療現場で経験を積む臨床研修制度がスタートしてから、地方の医師不足が深刻化した。略。背景に、医学部の<偏差値主義:特にセンター試験受験>が医師の偏在に関係していると思う。○×思考&数値指標思考の医者に向かない学生が入学している。」

「医者と病院によって寿命が変わるのが現実である。」「慶応大学病院の外来患者は1日6000人近いが、これは異常である。軽い病気の時、大学病院に行くのは医療費と時間の無駄使いである。まず<かかりつけ医>を確保することが大切。」 

「日本の医療現場は世界一!。例えば、虫垂炎手術=NYで入院1日244万円、香港4日入院153万円、ソウル7日入院51万円、日本は7日入院38万円と以上に安い。」

病気とは、病気そのものが病気を治し、体を治そうとしている現象である。略。体に何か異変が起きた時に、「すぐ薬」という対症療法は、原因療法と程遠い、本質に逆行する治療法である。略。対症療法の最大の問題点は、病気の本質を知るという考えを、医師も患者も含めて、医療から失わせていること。症状を消すことを治療だと考えると、薬を使えば使うほど、症状は消していながら、病気の本質が悪化することになる。つまり、「治療が病気をつくる」ことになる。この矛盾の代表的例が、アトピー性皮膚炎とステロイド外用薬の関係や抗生物質が効かなくなった「病院内感染」などである。」 

「風邪の原因の90%はウイルス。細菌を殺す抗生物質は菌の細胞に作用する。細胞をもたないウイルスには効果がない。抗生物質が必要なのは、三日以上高熱が続くなど、その風邪が細菌によるものと診断されてからのはず。友人の開業医は「患者を手ぶらで帰すわけにはいかず、患者の方も欲しがっている」と打ち明ける。結局、医師の儲けにつながるだけのことである。」

「胸部エックス線検査は病気の発見という利点よりエックス線被曝の害の方が大きい、というのが今や医学の常識である。また、CTをたびたび撮ると、がんになりやすい。」  

「がんはコレステロール値の低い人たちに多い病気です。脳梗塞もそうです。貝原益軒の『養生訓』の粗食長寿説は必ずしも正しいわけではない。標準体重よりやや太り気味の方が長生きである。」

「セカンドオピニオンの最大の問題は、保険適用にならないことです。略。しかし、一方で、2006年からセカンドオピニオンのための紹介状を書くと、500点(5000円)の診療報酬がつくことになったので、患者は堂々とセカンドオピニオンの機会を求めてよいのです。」   

「医療総合会社<テーペック株式会社>は藤田先生が社外取締役を務める注目すべき団体。」

「病院の安心度総合第1位は、断トツで聖路加国際病院。がん部門は国立がんセンター中央病院、あと大阪府立成人病センターもすごい。脳血管疾患部門は国立循環器病センター。心臓病部門は国立循環器病センター。略。しかし、格付けランキングも大事だが、病院を取り巻く環境は刻々変化しているので、結局一番大切なのは<立派なかかりつけ医>を探して、大切にしておくことである。」

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