<540> フ ク ジ ュ ソ ウ
雪中に 魁の花 報春花
今年は立春を過ぎてから寒さの厳しい日が続き、大和でも雪の降る日があったが、山間地では積もった雪が融けずに残っているところも多く見られる。そんな寒さの中、五條市西吉野町では野生のフクジュソウが雪の中から茎を立て、花を咲かせ始めた。今日はその春を告げて咲くフクジュソウの花を見たいと思い出かけた。
フクジュソウはキンポウゲ科の多年草で、光沢のある黄金色の花を開く。全草にシマリンなどの物質を含む毒草で知られる。この毒性を逆用して漢方では強心剤とするが、不用意に使用すると心臓麻痺で死に至ることもあるので、注意が必要という。この花は春一番に咲くこの花が好まれ、縁起のよい瑞祥植物として正月の祝花として床飾りにされたりする。俳句の季語では「新年」に属し、福寿草というめでたい和名を得た。
フクジュソウ(福寿草)はほかにも賀正蘭、長寿菊、元日草、歳旦草、朔日草、報春花、福人草、福神草、福徳草、献歳菊、満作草、側金盞花、雪蓮など多くの別名を持つが、みなめでたい名ばかりで、園芸種も見られる。全国的に分布するが、北国に多い草花で、関東以西では局地的に分布し、大和では西吉野町津越、檜川迫などに自生地があり、珍しい群落として昭和四十八年(一九七四年)、奈良県の天然記念物に指定され、今日に至っている。
なお、西吉野町の自生地では野生の減少が著しく、平成二十年(二〇〇八年)に刊行された『大切にしたい奈良県の野生動植物』(奈良県版レッドデータブック)はフクジュソウを絶滅寸前種にあげている。最近、自生地は保護を兼ねて見学路が整備され、通路以外は立入が制限されている。
見学路の斜面は十センチほどの積雪があり、その雪にぽっかりと穴が開き、フクジュソウが茎を出しているのが見られた。ほとんどは蕾の状態であったが、中には光沢のある黄金色のパラボラアンテナのような花を開いているものもあり、今日は土曜日とあって、カメラを持った大阪方面からの見学者も見られた。雪の中から咲き出すフクジュソウの花を見ていると、フクジュソウの生命力が思われて来る。
自生地一帯は山里で、まだ、雪は消えず、気象予報では二月いっぱい寒い日が続くようであるが、花の里でも知られるこの山里では、雛祭り用の桃の切り花の出荷準備をする風景なども見られ、フクジュソウの花をかわきりに春の気配がそこここに感じられる時期を迎えた。 写真は雪の中から伸び出して咲き始めたフクジュソウ。