大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年06月14日 | 植物

<2717> 大和の花 (820) ナワシロイチゴ (苗代苺)                                       バラ科 キイチゴ属

        

 山野の日当たりのよいところに生えるつる性の落葉低木で、軟毛や刺のある枝が地を這うように伸びる。葉は長さが8センチから14センチの奇数羽状複葉で、普通小葉が3個。小葉は長さが4センチ前後の倒卵形で、先は丸く、縁には欠刻状の鋸歯が見られる。裏面は白い綿毛が密生する。葉柄は長さが数センチで、刺と軟毛が生え、互生する。

 花期は5月から7月ごろで、枝先や葉腋に紅紫色の5弁花が上向きに咲く。白っぽい萼片5個が開き切っても、花弁は閉じた状態で完開しない。それでも花粉伝達者のミツバチの仲間がやって来て、花に向かっているのが見られる。実は集合果で、直径1.5センチほどの球形。苗代をつくる6月ごろ赤く熟すのでこの名がある。別名のサツキイチゴ(皐月苺)、ワセイチゴ(早稲苺)も実の熟す時期による名。実は熟すと甘く食べられる。

 日本全土に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和ではほぼ全域的に見られるキイチゴで、ナガバモミジイチゴ、ニガイチゴ、フユイチゴ、ミヤマフユイチゴ、クマイチゴなどとともに多いキイチゴの種である。 写真はナワシロイチゴ。左から花期の姿、ミツバチが見える花、花のアップ、赤く熟した実が見える8月の草原(曽爾高原など)。 高原に苗代苺の実の季節

<2718> 大和の花 (821) クロイチゴ (黒苺)                                         バラ科 キイチゴ属

         

 山地の明るい崖地や林縁などに生える落葉低木で、高さは1メートルほどになる。茎には刺や軟毛が生え、葉は奇数羽状複葉で、広卵形に近い小葉が3個つき、互生する。小葉は先が尖り、縁には欠刻状の鋸歯が見られ、頂小葉は側小葉より大きい。また、小葉には裏面に綿毛が密生し、葉柄にも細かい毛と刺がある。

 花期は6月から7月ごろで、枝先や葉腋の花序に淡紅色の5弁花を5個から10個つける。花はナワシロイチゴに似て、萼片5個は平開するが、花弁5個は直立し、完開せず散る。萼や花弁には白い軟毛が密生する特徴がある。集合果の実は直径1センチほどの球形で、8月ごろ紅色から黒紫色に熟し、美味で、食べられる。完熟すると黒紫色になるこの実の色によってクロイチゴ(黒苺)の名がある。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では中国、台湾、ヒマラヤ地方に見られるという。大和(奈良県)では紀伊山地に自生が集中し、北部には見られず、奈良県版レッドデータブックは希少種にあげている。 写真はクロイチゴの花(左)と実(右)。

  蟻塚に蟻の見えゐる安堵感

 

<2719> 大和の花 (822) クマイチゴ (熊苺)                 バラ科 キイチゴ属

            

 日当たりのよい山地の林縁や荒れ地に生える落葉低木で、高さは1、2メートルになる。赤紫色で無毛の枝に太い刺が真っすぐ立ち、葉や花がなくてもクマイチゴとわかる。葉は長さが6センチから10センチの広卵形で、3から5中裂し、裂片の先が細く尖るものが多く、基部は心形。縁には不揃いな鋸歯が見られるが、変異がある。質はやや厚く、葉柄は長さが3センチから8センチで、刺と軟毛があり、互生する。托葉は長さが1センチほどの線形で、葉柄に合着する。

 花期は5月から7月ごろで、葉腋の花序に直径1.5センチ弱の白い5弁花を2個から数個固まってつける。花弁は細く、隙間があり、その隙間は先の尖った緑白色の萼片5個が埋める。萼片には内面と縁に軟毛が密生する。萼片は果期にも残存する。雄しべ多数が雌しべを囲んで立つ。集合果の実は直径1センチほどの球形で、8月ごろ赤熟し、食べられる。クマイチゴ(熊苺)の名は、クマが食べるイチゴ、もしくはクマの出没しそうなところに生えるからとも言われる。

  北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国東北部に見られるという。エゾノクマイチゴ(蝦夷の熊苺)の別名でも知られ、大和(奈良県)ではほぼ全域的に分布し、標高1300メートル以上の深山でも見られ、垂直分布の幅も広い。 写真はクマイチゴ。左から花期の群落、花と葉、花のアップ、実(大台ヶ原ドライブウエイの西大台付近)。  

  崩れても崩れてもなほ崩れても蟻塚の蟻は塚を作れる         

 

<2720> 大和の花 (823) エビガライチゴ (海老殻苺)                                      バラ科 キイチゴ属

             

 山地の日当たりのよい林縁などに生える落葉低木で、枝がつる状に伸び上がり、高さが2メートル超になる。枝には紅紫色の長い腺毛が密生し、鋭い刺が混じる。葉は長さが10センチから20センチの奇数羽状複葉で、小葉は3個から5個つき、互生する。小葉は卵形に近く、先は尖り、基部は心形で、縁には欠刻状の粗い鋸歯が見られる。裏面には綿毛が密生し、白く見えることからウラジロイチゴ(裏白苺)の別名でも知られる。

 花期は6月から7月ごろで、枝先に淡紅紫色の5弁花を数個つける。萼片は平開するが、花弁は直立して平開しない。萼の外面には枝と同じく赤紫色の腺毛が密生し、軟毛も混じる。実は集合果で、直径1.5センチほどの球形。8月に赤く熟す。萼は果期にも残る。エビガライチゴ(海老殻苺)の名はこの赤紫色の腺毛に彩られた姿によると言われる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。大和(奈良県)では北部の一部を除いて全域的に見られ、紀伊山地でよく出会う。 写真はエビガライチゴ。左から花と実(川上村ほか)。  蝸牛天下泰平緑色界

2721> 大和の花 (824) ミヤマモミジイチゴ (深山紅葉苺)                           バラ科 キイチゴ属

                         

 深山、山岳の林床や岩場に生え、草本のように見える落葉小低木で、高さは20センチから50センチほどになる。枝は刺を有しないが、ときに細い刺が見られる。葉は直径が6センチから10センチほどの円形に近く、掌状に5から7深裂する。裂片の先は尖り、基部は心形で、縁には不揃いの鋭い鋸歯が見られる。葉柄は長さが4センチから7センチほどで、互生する。ミヤマモミジイチゴ(深山紅葉苺)の名は、葉がモミジに似て、深山に生えることによる。

 花期は7月から8月ごろで、枝先に白い小さな花を数個ずつつける。花柄は1.5センチから4センチほどで、先に1花をつける。花弁は5個。長さが数ミリのへら状倒卵形で、平開しない。萼裂片は先が尾状に尖り、果期にも残存する。実は集合果で、直径1センチほどの球形。秋に赤く熟す。

 本州の関東地方から近畿地方、四国に分布する日本の固有種で、紀伊山地は産地の1つとして知られ、大峰山脈の高所(標高1500メートル以上)で見られるが、シカの食害の影響により減少が著しく、奈良県のレッドデータブックは絶滅寸前種にあげ、保護を訴えている。オオヤマレンゲ自生地の八経ヶ岳周辺のシカ避け防護ネット内では繁茂している。 写真はミヤマモミジイチゴ。花(左)、赤く熟した実(中)、シカの食害を避け、岩場の崖地に陣取る個体群(右)。

   現身の身の上にある現身や雨傘が往きつばくろが飛ぶ