大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2014年06月10日 | 植物

<1010> 大台ヶ原山のシロヤシオ (白八汐)

        霧の中に浮かび咲きたる白八汐 乞へばこそなれ 深山の花

 昨日、大台ヶ原に出かけ、シオカラ谷から大蛇を経て牛石ヶ原を巡るコースを歩いた。霧の濃い一日で眺望はよくなかった。しかし、この時期はヤシオツツジの見られる時期で、ゴヨウツツジのシロヤシオが花盛りでみごとだった。霧の中で見るシロヤシオも趣がある。また、アカヤシオの母種であるベニヤシオのアケボノツツジもちらほら見られた。

  シロヤシオはアカヤシオやベニヤシオと同じく、ムラサキヤシオとともに花の色によってその名があるヤシオツツジで、大台ヶ原に自生するのはこのシロヤシオとアケボノツツジである。三重県の山々にはアカヤシオが多く、紀伊半島におけるアカヤシオとアケボノツツジの分布は奈良三重県境が境目になっているということが出来る。なお、アケボノツツジは紀伊半島、四国、九州に分布を限る襲速紀要素のツツジとされ、この二つのツツジは極めてよく似ていて、外見では見分けがつかないほどで、花柄に毛があるかなしかで判別される。毛が生えているのがアカヤシオで、毛のないのがアケボノツツジということになる。

            

  大台ケ原はアケボノツツジの分布域であるが、よくこのアケボノツツジの花を見て、アカヤシオというのを聞く。これは多分、三重県方面から訪れた登山者がアケボノツツジをアカヤシオと混同していると思われる。因みに、ヤシオというのは八汐で、『万葉集』の巻十九の長歌(4156)にも登場する八潮(原文では八塩)染めから来ている。紅く染めるのに、何回も布を染料に入れて濃く染めるやり方をいう。

  シロヤシオはこのアカヤシオの対の名で、花が白いのでこの名がある。別名をゴヨウツツジというのは、小葉が五つ輪生状につくためで、花は新葉の展開と前後して開く。因みに、このゴヨウツツジは敬宮愛子さまのお印としても知られるツツジである。

  それはさておき、今日はこのシロヤシオ(ゴヨウツツジ)の花に淡紅色のぼかしたような太い条の入る珍しい花を見かけた。大台ヶ原山はシロヤシオの極めて多い山であるが、登山道でこの淡紅色に彩られた花のシロヤシオ数本に出会った。中でも、シオカラ谷から大蛇嵓に向かう途中の一本はシロヤシオとも思えないほどの花を咲かせていた。樹高は十メートルほど、樹皮には赤みがあった。

  この辺りにはアケボノツツジが見られ、ヤマツツジも見られるところで、ほぼ同じ時期に花を咲かせる。もしかしたら、アケボノツツジかヤマツツジと自然交配したシロヤシオの雑種ではないか。ミヤコツツジのようにヤマツツジとモチツツジが交配して出来た例もある。で、この花に私はオトメヤシオと命名した。 写真は深い霧の中で咲くシロヤシオ(左と中央)と淡紅色の太い条が入ったシロヤシオの花。