<380> シラネセンキュウ
谷筋にシラネセンキュウ咲き始む ここにも秋の来向かふ気配
今の時期、紀伊山地に出向き、谷筋を歩くと、セリ科の多年草であるシラネセンキュウ(白根川きゅう)に出会う。草丈は〇.八メートルから一.五メートルほど、葉は二から四回の羽状複葉で、小葉には鋭い鋸歯がある。九月の初めごろより枝先に複散形花序を出し、白い小さな花を多数咲かせる。よく似た花にシシウド(猪独活)があるが、シラネセンキュウは外側の花から順次開花するので、この花が判別点になる。
シラネセンキュウは本州、四国、九州に分布し、日光の白根山の一帯に多く、中国原産の薬用植物川きゅうに似るところからこの名が生れたと言われ、三重県の鈴鹿山系にも多く見られることからスズカゼリ(鈴鹿芹)の名でも知られる。シシウドよりも少し花期が遅く、この花が咲き始めると紀伊山地も秋である。
野山の花には類似したものがそれぞれに見られ、間違いやすく、このため見分けのポイントを解説した参考書なども出ているほどであるが、このセリ科の草花にも言えることである。私は初めシラネセンキュウをシシウドと思っていた。しかし、あるときふと違うと感じ、図鑑を調べたところシラネセンキュウとわかった。以後、今に至るまで、山野に自生する花に接するときはよほどの確信がない限り図鑑と照らし合わせることにしている。 写真は上北山村の水太谷で。辺りの木々が色づくのは一ヶ月ほど先である。