大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写俳 写歌~ 小筥集

2012年05月28日 | 創作

<269> 童話  「朴の花の王国」

           窓に寄り 睡る青年 初夏の 風は夢へと 誘へるらし

 窓に寄りかかりながら青年は午睡していた。初夏の爽やかな風がレースのカーテンを揺らしながら通って行く。私は心地よさそうに眠る青年がいま夢を見ていると思い、その夢を想像してみた。朴の花に違いない。向かいの山の際に高い木があって白い花を点々とつけている。朴のあの大きな杯形の花は一国一城を想像させる楽しさを持っている。私は青年がその朴の花に王国の夢を見、その王国の王様になっているのに違いないと思った。

 その国は五十万エーカーの国土に十万人の国民。農業を主な産業とする小国寡民の理想的な国であった。人々は食べ物にこと欠くことなく、みな純朴で、いがみ合うことなどほとんど見られず、国内は極めて平和だった。彼は王様の義務として、暑い日も、寒い日も、雨や風が強い日も、毎日欠くことなく国内を見て回った。

 彼は南の争いの絶えない国で体験した三つの教訓についていつも心を配った。人々に衣食住は足りているか。医療は十分施されているか。教育、文化は行き届き、人々を満足させているか。王国には法律はなかったが、一つだけ罰則があった。他人に迷惑をかけてはいけないという考えから生まれた迷惑に対する罰則で、迷惑は申告によって取り上げられ、側近の智慧と議決によって裁かれた。そして、罰には迷惑の倍に当たる償いが科せられた。

                

 王様は象徴でも、権力でもなく、理想的な愛の表れで、国民の誰もがその愛を受けることが出来た。この愛を巡っていさかいがないわけではなかったが、人に迷惑をかけなければ罰せられることはなかった。王様の愛に関わることについては王様自身が見聞きし、解決に当たったが、みな王様を信頼しているので、姑息な言い訳をする者などほとんどなく、王様の裁量に従った。

 王様は国民の間に貧富の差が生じることを一番懸念していたので、各地を歩くときはその点を注意深く見た。王国では利己的で、欲を通すことが最も軽蔑され、それは教育によって徹底されていたので、欲を通して周囲を不愉快にする者はほとんどなく、まれにあっても、欲を通すことを周りが認めない雰囲気にあったので、欲を通す利己主義が蔓延することはなかった。そして、いま王国では迷惑をかけてはいけないという考えから一歩踏み込んで、思いやりの思想を発展させるべく方針を打ち出している。

 風はいよいよ心地よくカーテンを揺らし、頬をやさしく撫でてゆくので、窓に寄りかかって眠る青年はいよいよ気分よく理想の国の王様である自分の夢を進めることが出来ているように思えた。 写真はイメージで、ホオの花。

   夢に夢の 夢は一途に 朴の花 咲きゐる辺り 美しく見ゆ