腰を打って来院された70代前半の女性の患者さんは、心臓の冠動脈のバルーン手術を3回受け、窓口で計3万6000円を支払いました。高額医療費の助成を申請していましたので、この額ですみました。
後日、病院から医療費の明細書が郵送されてきました。そこには「156万円」と記載されていました。施療が終わったあと、患者さんが「私は国民健康保険で1割負担なので、36万円の明細書になると思っていたのに、なんで156万円なんでしょう。私が払う額が増えるわけではないので、個人的にはどうでもよいことですが‥」と私に尋ねました。
ネットで、大阪市の国民健康保険のページを見ました。70代前半の高額医療費は、市民税非課税世帯では1回の医療費が1万2000円とあります。この女性は3回、入院手術を受けていますから、計3万6000円となったと推測しました。次の来院されたとき、それとなく「市民税は払っていますか」と聞きますと、「払っていません」と答えました。それで、70代前半の高額医療費は1回の入院手術につき1万2000円なので、医療費が計156万円かかっても支払う料金は3万6000円ですむことを説明しました。
この女性は不整脈が見つかり息苦しいことが続いたので、医師に勧められてバルーン手術を受けたといいます。1回目は太ももから入れたのですが、症状が改善しなかったそうです。このため、2回目は手首からバルーンを挿入したところ、呼吸が楽になり、毎日の生活がとても楽になりました。
ところが、医師の診断で、冠動脈のバルーン手術をもう一度した方が良いとされ、太ももから3回目の手術をしました。すると、症状は元に戻り、息苦しさが続くといいます。「3回も手術をしたのに、良くならないのはどうしてでしょうか」
3回の手術医療費156万円が高いかどうかはわかりませんが、もし自由診療で全額自己負担でしたら、手術を受けるかどうか、を慎重に検討したうえで判断することでしょう。女性が話したように、国民皆保険で、自己負担が少なくてすむから手術に同意したのでしょう。
自由診療が原則のアメリカでは、高額の手術を受けると、医療保険の保険額がアップしますから、患者は手術医療費の削減を病院側に申し入れるそうです。さらに、手術して症状が改善しなければ、患者側から病院に詳しい説明責任が求められることでしょう。
156万円は当院の年間収入を大きく上回る金額です。日本の国民皆保険のあり方に考え込まさせられるとともに、問題点の一端を見た気持ちがしました。