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どの家電メーカーも、創業者が持っていたダイナミズムは、高学歴社員たちによって去勢されてしまった。

2016年03月31日 | 経済

どの家電メーカーも、創業者が持っていたダイナミズムは、高学歴社員た
ちによって去勢されてしまった。彼らは保身のために安全運転を繰り返す。


2016年3月31日 木曜日

シャープ買収の鴻海こそが支那共産党と戦っている 上念司

シャープが鴻海に買収された。浅薄な陰謀論を語る人たちが、「軍事にも転用できる技術が支那に盗まれる!」と大騒ぎしているようだ。まったくおめでたいとしか言いようがない。商売の世界がそれほど単純だったら楽でいいが、現実はまったく違う。

 私はシャープ製品を愛用してきた。初めて買ったウィンドウズPCはメビウスだったし、液晶テレビもアクオスを愛用していた。さらに、今のスマホの技術を先取り(?)していたザウルスにも相当なお金をつぎ込んだ。彼らの描く未来の大きな絵を信じて。

 しかし、私の期待はことごとく裏切られた。新しい製品をぶち上げるときのコンセプトは素晴らしい。しかし、それが毎回と言っていいほど長続きしない。だからこそ、客はシャープを見放した。

 結論から言えば、今回の鴻海による買収はシャープの自業自得である。そこにたまたま鴻海が現れた。それが現実だ。日本の家電メーカーはかつて優秀だったかもしれない。しかし、創業者が一線を退き、サラリーマン経営者が跋扈するようになって何かが変わってしまった。

 そもそも、戦後世界を席巻した日本の家電メーカーは、当時はみんなベンチャー企業だった。しかし、会社の経営が安定し、サラリーマン経営者が台頭すると、日本の家電メーカーの既得権の上に胡坐をかくようになった。彼らはリスクを取らない安全運転に終始する。さらに、不幸にしてこの時期に政府、日銀の失政によるデフレが重なってしまった。その結果、日本の家電メーカーの凋落は顕著になった。

 例えば、アメリカのアイロボット社が作ったお掃除ロボット「ルンバ」。なぜこの製品は最初に日本のメーカーから発売されなかったのか?パナソニックでは、とっくの昔に試作品が作られていたそうだ。ところが、「掃除ロボットが仏壇にぶつかり、ろうそくが倒れ、火事になる」とか、「階段から落下し、下にいる人にあたる」とか、「よちよち歩きの赤ちゃんの歩行を邪魔し転倒させる」といった小役人的な発想でこの企画は潰されてしまった。(※1)

 1980年代にウォークマンで世界を席巻したソニーが、どうしてiPodのような製品を作れなかったのだろうか? 当時の経営者にネットがわかる人が一人もいなかったからだ。(※2)そして、ソニーはいま保険でしか利益を上げられない金融会社に成り下がった。

 どの家電メーカーも、創業者が持っていたダイナミズムは、高学歴社員たちによって去勢されてしまった。彼らは保身のために安全運転を繰り返す。しかし、それは危険を避けているようで、却ってリスクを増大させる愚かな行為だった。シャープが経営不振に陥った理由もまさにこれである。だからこそ、私は今回の鴻海への身売りは自業自得であると考える。


 確かにシャープは大量の特許を出願している。企業別国際特許出願件数でみるとそのランキングは以下のように推移していた。
 
2009年 997件 10位
2010年 1287件 8位
2011年 1757件 4位
2012年 2002件 3位
2013年 1839件 6位
2014年 1227件 14位
 
 しかし、シャープの経営不振が顕在化したのは2008年度決算からだ。2009年、2010年は何とか会計を工夫して黒字を出したが、結局そのツケは2011年に顕在化した。次のグラフをご覧いただければ事実を確認できるだろう。
 
 これだけの特許を出願していながら、何一つヒット商品を出せなかった会社。それがシャープなのである。いったい何のための特許だったのか?経営が下手くそだと言われても文句は言えまい。実際に、台湾のある電機メーカーの関係者に聞いてみたところ、次のような辛辣な答えが返ってきた。
 
 「シャープの液晶パネル技術が世界トップなんて20年前。今は見るべきものがない。辛うじてLTPSがあるが、それも技術トレンドから外れた。鴻海の金を使って、必死に追いつけるかどうかという状態。故に鴻海にとってもシャープの液晶事業はベストパートナーじゃない。ベストはLGD、Samsung D。しかし彼らは鴻海と組む必要がない」
 
 製品化できない、あるいは製品化しても大して売れなかった特許にいったい何の価値があるのだろうか? しかし、それでも鴻海のトップである郭台銘氏は7000億円もの買値を付けた。陰謀論者たちは「この金額は支那共産党がシャープの技術を盗むためにつけた値段だ」という。まったく商売が分かっていない。

 例えば、一般人とガソリンスタンドのオーナーがガソリンの先物取引を行う場合には決定的な違いがある。一般人は必ず反対売買によって決済するしかない。だから、価格が値上がりすることに賭けて買い建玉をしたとき、予想に反して値下がりしたら損失覚悟で決済売りをせざるを得ない。これに対して、ガソリンスタンドのオーナーは買ったガソリンを現物で受け取る(現受け)ことができる。指定の場所にタンクローリーで乗り付けて、買った分だけガソリンを受け取り、自身の店で売ればよい。市場価格は即座にガソリンの小売価格に反映するわけではないので、こうすることで損失をカバーすることができるのだ。

 鴻海はまさにガソリンスタンドのオーナーの立場にいる。日経新聞の報道によれば(※3)、鴻海は、アップルのiPhoneのような完成品の組み立て自体で利益を出しておらず、むしろ現在の鴻海の稼ぎ額となっているDELLやHPのPCのように、優良顧客の有力製品における設計、製造、アフターサービスなどを丸抱えすることによって利益を生みだしている。シャープを取り込むことで、例えばこれまで鴻海が苦手にしていた白物家電(冷蔵庫、洗濯機など)にも丸抱えサービスを広げることができるようになる。これは大きなチャンスだ。だからこそ、これだけの値段を付けることが正当化されるわけだ。

 もちろん、陰謀論者はそれでも疑うことを辞めないだろう。確かに支那の地方政府と鴻海は一見仲がいいように見える。やっぱり技術を支那共産党に横流しするのではないか?

 しかし、よく考えてみてほしい。台湾人は支那から見れば外国人だ。仲良くしてくれるのは鴻海がオイシイ利権であるうちの話でしかない。工場が拡張して、不動産価値などが上がっているときは蜜月かもしれないが、撤退が始まれば手のひらを返される。

 鴻海は2013年2月にフォックスコン(鴻海精密工業のブランド名)の新規採用凍結と新規投資の延期などを発表した。すると、翌年の2014年の4月から5月にかけてフォックスコン深セン工場で連続自殺事件が発生した。これをきっかけに支那国内で鴻海に対する大々的なネガティブキャンペーンが展開されたのは記憶に新しい。

 その後、鴻海(フォックスコン)は支那で工場拡張をほとんどしていない。むしろ、撤退を加速し拠点をインドに移している。昨年はその動きが加速し何度もニュースになった。何を隠そう、支那の企業は鴻海にとってライバルなのだ。

 支那共産党は儲かりそうな事業をパクり、巨額設備投資を行って価格競争を仕掛けてくる。その結果、鉄鋼、太陽光パネルなどは過剰生産による大幅な価格の低下を招いた。鴻海はむしろパクられる側にある。先ほど紹介した日経新聞の記事によれば中小型ディスプレイの分野で、支那共産党の後押しを受けるパクり企業が誕生し、激しい価格競争を仕掛けてきた。だからこそ、この難局を打破し、市場の主導権を握り続けるにはシャープが必要だったのだ。

 商売の世界は単純ではない。目まぐるしく市場環境が変化するエレクトロニクスの分野においてはなおさらだ。単純な陰謀論は確かに分かりやすい。しかし、それは実情をまったく無視した妄想である。そんなものに付き合っていても一円も儲からない。商売の世界は厳しいのだ。



(私のコメント)

シャープがいよいよホンハイに買収される事になりましたが、三洋電気やシャープや東芝と言った日本を代表するような超優良企業が次々ダメになっている。これは高学歴サラリーマンが社長になる事による病気であって、社内政治には巧みであっても、経営的センスは学歴などでは評価できない。

私自身も上念氏のようにシャープのパソコンとテレビのユーザーだった。しかしパソコンもテレビも韓国製の製品が価格競争を仕掛けて来て日本メーカーは円高のせいもあって儲からなくなり、経営戦略の見直しが求められていた。生産拠点の中国への移転などは一つの戦略ですが、それに伴って技術も流出してしまった。

ホンハイにしても中国の工場があるから、生産技術を盗まれて中国の競合企業に苦しめられている。だから日本ブランドを買収して脱中国を目指しているのだろう。シャープも東芝も白物家電は赤字が続き、東芝は白物家電を中国に売却する。

上念氏が書いているように、ロボット掃除機の「ルンバ」のようなものは、日本の家電メーカーでも試作品が作られていたが、サラリーマン社長に潰されてしまったそうだ。アップルの「アイパッド」もソニーが原型のようなものは作っていたがそれもサラリーマン社長に潰された。

ダイソンの掃除機のように独自の技術で売ればもうかるのでしょうが、サラリーマン社長ではそのような決断が出来ない。他のメーカーで成功すれば類似品を作るのでは独創的な製品が出来るわけがない。あくまでも安全運転第一になり時間をかけて独自商品を作る事は敬遠される。

スマートフォンの原型となるザウルスなどもシャープは出していたが、結局はアップルとの競争に負けた。携帯ゲーム機もスマホに吸収されて行くのでしょうが、OSやアプリの開発力が日本の家電メーカーには無い。日本の家電メーカーにとってはソフトは下請けが作るものであり、ネットやソフトの分かる社長が日本の家電メーカーにはいない。

今では、デジカメもビデオカメラもゲーム機能もスマホに内蔵されるようになり、それらの日本の製品作りが危機に直面している。カーナビなどもスマホで代用できるようになり日本の家電メーカーはスマホからも撤退が相次いでいる。それらの製品を作るにはOSからソフトを作らなければならないから、アンドロイドのOSに制約されてしまう。

いずれは自動車開発でも、コンピューターのOSが支配するようになり、ソフト開発力がカギとなるだろう。しかし日本の学校ではコンピューターソフトは教えていないし、パソコンを持つ若者もスマホに押されて少なくなってしまった。

韓国にしても中国にしても日本のメーカーに対して価格競争を仕掛けて来て、日本のメーカーはそれに負けたという事だ。液晶パネルもDRAMもリチウム電池も、儲かりそうになると韓国や中国は大規模な工場を作って安売りを仕掛けてくる。それらの製造装置を売っているのが日本のメーカーであり、主要部品を売っているのも日本のメーカーだ。

シャープも東芝も組み立てメーカーであり、実質的には製造装置や主要部品メーカーが主導権を持つようになっていた。結局はブランドだけで商売をするようになり製品開発力は落ちて行って、韓国や中国の価格競争で負けてしまった。ロボットなどもこれからの主力商品になるのでしょうが、日本の家電メーカーは人型ロボットを作っていない。作れなくなってしまったのだ。


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