愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

新緑

2012年10月02日 10時43分25秒 | 

広い公園が見渡せる、南病棟801号室
昨日の大雨で桜はずべて散ってしまった
その代わり 新緑が鮮やかに太陽に照らされ 輝いている
退院が近いことを思わせる
新緑から強いメッセージをもらい、僕はベッドに戻った
心残りが一つある それは・・・
その時ナースが病室のドアをゆっくりと開けた
入院した日、一目惚れしたナースだ 神尾ひかりさんという
「もうすぐ退院ですね 短いおつきあいでした」
僕は思いきって切り出した
「ねえ、彼はいるの?」
「さあ、どうでしょう」
「僕がここにいる間 君は優しく僕の面倒をみてくれた
今度は僕に君の面倒を見させてもらえないだろうか」
「え?どういう意味ですか?」
「僕と結婚を前提につきあってほしい」
彼女はしばらく黙って僕の目を見つめていた
永遠のように長い時間の後 ひかりさんは言った
「私は子持ちよ 3歳になる娘がいるの 離婚して2年になる そんな私でもいいのかしら?」
「もちろん かくいう僕もばついちだ」
ひかりさんは窓に近づき 新緑を見つめていた
「考えさせてください 退院の日にお答えします」
そう言うと 彼女は後ろも見ないで部屋を出ていった
それから退院までの一週間 ひかりさんは僕の病室を訪れることはなかった
僕はひとしきり後悔した
要らぬことを言ったばかりに彼女は担当を替えてもらったのだろう
それでも 僕は四六時中彼女のことを考えている
未練がましいやつだと自分でも思う
いよいよ退院の日が来た
彼女はいなかった
精算を済ませ 僕は公園を散策することにした
相変わらず新緑は光り輝いていた
ひかりさんのことで気を落とし 下を向いていた僕の目を新しい命が上を向かせた
その時 前に子連れの女性がいた
ひかりさんだった 驚くと同時にどきどきした
「退院おめでとう ここに来ると思ってたわ もし会えなかったらそれは運命とあきらめるつもりでいたの
この子がみどり 私の生き甲斐 どう 二人の面倒見てくれるの? ずっと」
「もちろん 三人で生きていこう」
空を見上げた みずみずしい木々の間から青空が覗く
と ツバメが 空の青に三本の直線を描いて舞い上がっていった

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