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『マグナオルガンの御紹介』 日本楽器製造株式会社 (1935.10)

2013年02月05日 | 楽器目録 昭和 日本楽器、楽器製作者

  新電気楽器
 マグナオルガンの御紹介
              日本楽器製造株式会社

  

  特許第一〇八六六四号 
  同 第一一〇〇六八号 
  同 第一一一二一六号
 「マグナオルガン」は
 日本楽器製造株式会社の発明製作に係る新電気楽器であります。
 輓近欧米各国に於ては競って新しい電気楽器を研究して居る趨勢でありますが、従来試みられた電気楽器中音源として真空管発振装置又は類似装置を用ふるものは、使用の際に生ずる熱のために電気抵抗或は電気容量等が変化して音階に狂ひを生じ、演奏不能になるとか、同時に複音を出す事が出来ぬとか、色々の不便があり、又音源として機械的振動体を使用するものも構造複雑で音色の変化に乏しいとか、何れも一長一短で未完成の域を脱せざる有様であります。弊社は先年来此の研究に没頭して居りました所、幸に優秀なる電気楽器「マグナオルガン」を創作致し、今回初めて博く世上に発表する事となりました。茲に好楽家各位に御紹介申上げ、尚一層の改良に対する各位の御教示を仰ぐ次第であります。

  昭和十年 〔一九三五年〕 十月
                  浜松市 日本楽器製造株式会社  

 一、「マグナ・オルガン」は高価なるパイプ・オルガンに匹敵するのみならず、更に夫れ以上に独特の華麗なる音色を有する電気楽器であります。

 「マグナ・オルガン」はコンソールと拡声機とから成って居て、電気装置は全部此のコンソールの中に装置されてありましてパイプ・オルガンに見る様なパイプの如きものは全くなく、その機能は全然電気的であります。
 演奏方法は一般のオルガン奏法と全然同一で、フリュート、絃、ダイヤパーソン、リードに属する各種の音がストップの操作一つで自由に奏し得られます。而も従来の電気楽器に起った様な使用中の音階の狂ひとか、複音の演奏不可能と云ふ様な不便なく、パイプ・オルガンと同様に自由に複音が奏し得られ且つスエル・ペダルによる音の抑揚はパイプ・オルガンより遥かに楽に出来ます。
 音色は従来の楽器では聞き得なかった、独特の美しさを持って居り、従ってその楽音は従来普通のオルガンによって表現出来なかった作曲に対する新しい解釈を可能ならしめるでありませう。
 「マグナ・オルガン」の大きさは竪型ピアノよりも小さく、運搬に便利で取付が容易で、而もその機能は高価なるパイプ・オルガンに匹敵し、電気の消費量は家庭用電燈三燈分位で、維持費は極く少額で足ります。
 以上の様な特徴を有する新電気楽器「マグナ・オルガン」は真に楽界未曾有の画期的発明品であると信じます。

       

  「マグナ・オルガン」のコンソール

    五オクテーヴ(六十一鍵)象牙鍵盤 ウォルナット塗  高サ 3.80尺 間口 4.35尺 奥行 2.20尺 重量 53貫

   

  「マグナ・オルガン」の拡声機

    ウォルナット塗 間口 4.30尺 重量 32貫 高サ 4.00尺 奥行 2.60尺

 二、「マグナ・オルガン」 は凡ゆる音色を自由に表現する事が出来ます。

 「マグナオルガン」の演奏方法を述べるに先だって、之が製作の原理の大体を御了解願ふ必要があります。
 一八七三年に不世出の音響学者ヘルムホルツは「総ての楽音は之を分析すると基音と陪音とから成り立ってゐる」と云ふ事を明かにし、更に又同時に「同じ基音と陪音とから成立してゐる音の中にもフリュートの音又はクラリネットの音と云ふ様に各種の音の存在する事は、音の種類に依って基音に対する陪音の強さの割合が異るからである」と云ふ事を證明しました。
 此の説を逆に考へると「或る楽器の音、例へばクラリネットの音を分析し、其の中に含まれて居る基音と陪音の割合を知り得れば、其の割合に従って基音と陪音とを別々に作り、之を混合すればクラリネットを用ひずともクラリネットと少しも違はぬ音が合成出来る」と云ふ事が言へます。
 然し何分にも今迄は音を定量的に分析する事と又陪音を人工的に作る事が六ヶ敷かった為に音の合成も出来ずにゐたが、最近に至り精密電気機械の出現によって今迄の困難は征服される様になりました。弊社では音響記録分析装置其の他の精巧なる機械を使用して研究した結果、弊社の所有する特許第一〇八六六四号、第一一〇〇六八号、第一一一二一六号に依って保護せらるヽ独特なる方法に基いて、「マグナ・オルガン」を案出し簡単な電気装置によって容易に基音及陪音を合成して自由にパイプなしでパイプの音を出したり、絃なしで絃の音を出したり希望の音色を表現する事が出来ます。

     

 三、「マグナ・オルガン」 は普通オルガンの演奏家には容易に演奏し得られます。

 「マグナ・オルガン」の鍵盤を押へれば、その内部に音階の順序に排列してある機械的振動瓣が振動して空気の波が出来ます。之を独特なる電気装置によって電流に変へ、ケーブルによってスピーカーに連結し、スピーカーから発音せしめるのであります。夫故スピーカーは如何なる場所でもその部屋に最も適した場所に据え付け得られます。
 鍵盤は普通のパイプ・オルガンと同様に出来て居て、標準型は一段鍵盤ですが、二段でも三段でにでも製作し得られます。
 ストップはパイプ・オルガンと全然同じでストップを下げれば、ストップに明記された音が出て、上げれば止まります。
 標準型に於てはストップが十六個あってそのストップにより各々違った音色が出ます。

   

 四、「マグナ・オルガン」 は自由に強弱音が得られます。

 「マグナ・オルガン」の最も著しい特徴として先づそのスエル・ペダルの機能と効果を挙げる事が出来ます。
 従来のパイプ・オルガンではスエル・ボックスのシャッターを徐々に開閉する方法か若しくは鳴らすべきパイプの数を増減して音の強弱を加減して居りますが、之の方法では一定の範囲の制限を受けたり且つ階段的にしか出来ません。けれども「マグナ・オルガン」に於ては右側のペタル即ちスエル・ペダルをふめば電気装置の抵抗を加減出来る様になって居て人の耳では聞き得ない程度の弱い音から非常に大きな音迄自由に而も円滑に出す事が出来ます。又音の最大限は増幅機と拡声機を拡大する事によって如何様にでも増加し得られます。
 従って家庭其他小室の演奏は勿論の事学校、公会堂、野外等の如き如何に広大なる場所でも夫れゞの場合に応じ適当な強さの音が出し得られます。
 左側のペタルはパイプ・オルガンのクレスチェンド・ペタルと同じ効果を持って居りまして、これを踏めばフルオルガンの効果が得られます。
 是等の機能により従来のパイプ・オルガンでは奏し得なかった様な音楽的表現が出来、従って音楽の解釈に於て新生面が開かれるものと信じて居ります。

 五、「マグナ・オルガン」 はエコー・オルガン(こだま)が簡単に表現し得られます。

 普通のオルガンでは音の遠近感を音の強弱のみによって表して居りましたが「マグナ・オルガン」に於ては音の強弱以外にスピーカーを数個所に離して据付けて次第に遠くのスピーカーから近くのスピーカーへ切り換へる事によって実際的に音の遠近感を出す事が出来ます。
 又スピーカーを二個使用して一個はステージの正面に、一個は聴衆席の背面に据付けて只単にストップの切り換へだけでパイプ・オルガンに於ては巨大の費用の掛るエコー・オルガンの效果が得られます。
 この特徴だけを以てしても此の楽器は画期的であり、充分に価値のある新楽器であると称し得られると存じます。

 六、「マグナ・オルガン」 は パイプ・オルガンに比し殆んど調律の要を認めません。

 「マグナ・オルガン」の音源となるものは厳密に調律した小型振動瓣或は笛の如き機械的振動体でありますからパイプ・オルガンの様に湿度や温度による調律の狂ひは殆んどありません。又音源として機械的振動瓣を使用して居りますから電源の電圧や周波数によって調子が変ったり、音色が変る様な事は絶対にありません。

 七、「マグナ・オルガン」 の備付けは至って簡単であります。

  a. 据付は極く簡単で、電燈の受口へソケットを挿し込むだけで取付けられ、音の調子は電源の電圧、サイクル数其他に無関係でありますので、何れの土地でも使用出来ます。
  b. 場所を取らない事
   竪型ピアノよりも小型で且つ重さは一人で押し動かし得る程度であります。
  c. 容易に移動し得る事
   パイプ・オルガンは一旦備付け後移動する事は非常に困難でありますが、「マグナ・オルガン」は何時でも何処でも容易に移動する事が出来ます。

 八、「マグナ・オルガン」 の楽界に於ける新分野の開拓。

 「マグナ・オルガン」の音は近代的明朗さを持って居りますので、宗教音楽は勿論の事軽妙華麗な音楽も奏し得られ、且つ音の抑揚も自由に、普通オルガンで奏し得なかった色々な表現が為し得られ、作曲家竝に音楽家に音楽に対する新しい解釈を與へるものと信じます。
 且つ音は電気装置によって非常に大きな音を出し得られますから従来のリード・オルガン、グランド・ピアノ其他では音量の不足する様な
    学校、大会堂、野外演奏、演奏会、軍隊
 等に於て用ひらるヽ事は勿論其他利用の道は無限で音楽に対する新分野を開拓するものと信じます。

 九、尚「マグナ・オルガン」は次の如き諸設備に直に利用が出来ます。

  A.「パブリック・アドレス・システム」(高級講演拡声設備
    高級講演拡声設備は、大会堂に於ては是非必要な時代となりましたにも拘らず、之が設備費丈けでも数百円を要する為めに未だ普及されないで居りますが、此の「マグナ・オルガン」は最高級の電気増幅機・拡声機・送話器等を具備して居りますので、楽器の裏側の扉を開いて送話器を取り出す丈で、至って簡単に、一分間も掛らないで、直ちに優秀な高級講演拡声装置として利用する事が出来、演説、号令等を拡声して大衆に聴せる事が出来ます。
 更らに若干の装置を附加すれば、
  B.高級電気蓄音機
  C.ラジオ
 として至って簡単に而も最高級の効果を発揮せしむる事が出来ます。



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