蔵書目録

明治・大正・昭和:楽器・音譜目録、来日音楽家、音楽教育家、来日舞踊家、士官教育、軍内対立、医学教育、林彪、北京之春 

「西洋音楽の理解について」 小倉末子 (1919.9)

2017年11月03日 | 小倉末子 2
  

  西洋音楽の理解について
 
                東京音楽学校教授 小倉末子

 西洋音楽を聴いて解 わか るやうになるには何 ど ういふ用意をしてゐたら好いか、何ういふ心懸でゐたら西洋音楽が解るやうになるか、と申しますと、矢張管絃楽 オーグストラ を聴き馴れるのが第一だと思ひます。解らうとして、色々な書物など読むより、出来るだけ多く聴いて、耳を敏 さと くするより外にないと思ひます。それから、上流や中流の家庭の方は、ピアノでも、ヴアイオリンでも自から稽古することが好いでせう、自分で弾奏して見ますと、音色の微妙なところまで気が付くやうになつて、自然と味 あじは ひが判 わか つて来るだらうと存じます。

 オーケストラは多くの楽器を用ゐて、器楽の総合演奏をいたしますから、あれを聴いてゐて、音 ね の区別が耳敏 さと く解るやうになつて来ると好いのです。ヴァイオリン、井゛オラ、井゛オロン・セロ、ダブルベースのやうな絃楽器と、横笛 フリユート 、縦笛 オボワ 、クラリネツト、バツズウン、角笛 ホルン のやうな木製の管楽器と、喇叭 トラムペツト 、大喇叭 トロンボーン 、金属角笛 ホルン 、チユーバなどの金属製の管楽器と、太鼓 ドラム 、釜太鼓 チムパニー 、鐃鉢 サンバル のやうな打楽器に立琴が加はつて、少なくも八九十人から多くは四百人位の音楽者が一団になつて演奏するのがオーケストラです。その光景が見てゐるだけでも面白いものだと思ひます。オーケストラを聴いてゐて、各々の楽器の音の区別が解るやうになつて来ると、馴れるに随つて、またその音の高低が解つて、それに依つて情緒を喚 よ び起されるやうになります。同じ太鼓 ドラム の音でも、螺旋 ねぢ の締め方や打ち方で音が一々異 ちが つて来ます。その外の楽器に就いても同じことです。初めに、楽器の区別が出来るやうになり、それから、その楽器の音の高い低いが解つて来ると、自然にその音楽の表はす情緒や感情が胸に通つてまゐります。そして、後には余程複雑な思想や感情を含んだものでも理解が出来るやうになつてまゐります。私は、音楽を味つて見たいと思ふ方には、出来るだけオーケストラをお聴きなさるやうに勧めたいと思ひます。

 それから、音色と言つて、音にも色彩がございますから、詩や絵画のやうな姊妹芸術を理解するやうに努めることも必要でせう。画布に絵具を置く時に、その色の置き方がまづいと、見られないやうに、音楽でも、音色の配置が悪いと立派な音楽でないことになります。田園の光景や牧場の景色、低い丘や小川のありさま、嵐の日や穏かな海の喜びなどを描写したものなども沢山あります。かういふ風に唯だ自然を描写しただけのものも短いものには沢山ございますから、詩に親しんだり、絵画を見たりして、感情を養つて置くと音楽も早く判るやうになります。教育が立派に出来た方ですと、余り度々音楽を聴いてゐないでも、或る程度までは解るものです。外国にゐました頃、お目に懸つた方で、これまで音楽を本当に聴いたことがないと云はれる方が、同じ曲を二度聴いて、その三回目の演奏で違つてゐたところを知つてゐられたことがありました。それですから、自然や芸術に依つて感情を養つて置くことも、間接に音楽を理解する助けになると思はれます。

 耳敏く音色が判るやうになるには、オーケストラを聴くのが第一であると、前に申しましたが、日本では未 いま だ本当の立派な管絃楽が出来てゐないので困りますが、日比谷公園の音楽堂で日曜などに陸軍と海軍の軍楽隊が交替に管絃楽の演奏をいたしてゐますから、東京に住まつてゐられる方は、涼しい秋の散歩の序 つい でなどに、立寄つて聴くと好いと考へます。仲々好いものを演奏してゐられます。あゝいふ演奏会が芝にも上野にもあるやうになると、大変好いだらうと思はれます。亜米利加 あめりか では、何んな都会の公園にでもあゝいふ演奏会があつて、仲々好いものを演奏します。そして、誰でも自由に聴くことが出来るやうになつてゐます。それですから、一般の方の耳もよく音楽に聰 さと くなつてゐるやうです。これは音楽を解るやうになる個人的な用意ではございませんが、一般の人々に音楽を解る機会をなるべく多く與へられるやうに、社会に愬 うつた へたいと思ひます。

 管絃楽演奏団 シムフオニイ・オーケストラ でも、亜米利加には、何れの都会にも、好いのが二つや三つはあるやうです。ボストンには、ボストン管絃楽演奏団があつて、これは米国第一だと云はれてゐますし、紐育 ニューヨーク には、紐育管絃演奏団といふ立派なオーケストラがございます。日本でもオーケストラが澤山出来てまゐりますと、西洋音楽の理解を求めてゐられる方の為めに大変好いことだと思ひます。
かういふ点では、政府の力が、篤志家の保護をねがひたいと思つてゐます。そして、東京にも大阪にも、京都にも名古屋にも、立派なオーケストラが出来るやうになつて、公園の自由演奏所なども多く出来るやうになることを待ち望みます。

 それから、初めに、上流か中流の家庭の方は自からピアノでもヴアイオリンでも稽古なさるのが、西洋音楽を理解する第一の道だと申しましたが、やさしい好い曲から、何れ先生につかれるでせうから、その先生に随つて習つて見ると、音色の捉へがたい味はひなども自然と会得してまゐります。うまく弾奏の出来るやうになるには、容易でないが、解るだけには直 す ぐなるだらうと思はれます。

 この文は、大正八年 〔一九一九年〕 九月一日発行の『女学世界』 第十九巻 第九号 に掲載されたものである。 
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「日比谷公会堂開場記念 大演奏会曲目」(1929.10.20)

2017年09月19日 | 小倉末子 2
   

    昭和四年十月二十日(日曜日)夜七時開演
 東京市
  日比谷公会堂開場記念
   大演奏会曲目
                       主催 東京市

    曲目

 一、ソプラノ独唱              … 長坂好子氏
    い、三ツの花びら … テイリンデルリー作曲
    ろ、家婦なる下婢 … パイシエルロ作曲 ナポリターノ編
 ニ、ピアノ独奏              … 小倉末子氏
    い、練習曲(作品二五・第 一番) … ショパン作曲
    ろ、 〃 (〃 一〇・第十二番)
    は、夜曲 (〃 一五・第 二番)
    に、諧謔曲(〃 三一・〃   )
 三、ソプラノ独唱             … 長坂好子氏
    小抒情調(真珠採リの) … ビゼー作曲
 四、ピアノ及ヴアイオリンの二重奏 ヴァイオリン 安藤幸子氏 ピアノ レオニッド・コハンスキー氏
    ハ短調ソナタ(作品三〇・第二番) … ベートーヴェン作曲
     アレグロ コン ブリオ
      アダヂオ カンタビレ
       スケルツオ アレグロ
        フィナーレアレグロ
               一、三、  伴奏  高折宮次氏
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「音楽演奏会」「東京音楽学校管絃合唱団演奏会」 東京音楽学校

2017年04月25日 | 小倉末子 2
 音楽演奏会  東京音楽学校 

                大正九年 〔一九二〇年〕 十二月四日 土曜日 五日 日曜日 午後二時開会

 
 

  ベートーヴェン誕生第百五十年記念曲目

 、管絃楽

   ゲーテ作悲劇「エグモント」の序曲(作品八四)

 、上高音独唱 … 長坂好子

   ゲーテ作悲劇「エグモント」の小歌二篇

 、管絃楽

   変ホ長調交響曲(第三番、作品五五)

      休憩 十分間

 、管絃楽附ピアノ … 小倉末子

   ハ短調競奏曲(第三番、作品三七)

 、絃楽附混声合唱

   悲歌(作品一一八)

      指揮者 グスターブ、クローン

 

 

  

       クローン教授 小倉末子女史 竹岡鶴代嬢

   東京音楽学校管絃合唱団演奏会 (岡本洋行楽器部寄贈)

 上の写真と説明は、絵葉書のものである。
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「小倉末子女史洋琴独奏会」「小倉末子 ネトケ・レーヴェ 演奏会」「新興音楽会第一回演奏会」

2014年05月28日 | 小倉末子 2
 

 Ⅰ A) 奏鳴曲 ヘ長調   スカルラッティーバッハ
   b) 奏鳴曲 イ長調    〃
   C) 月光の曲      ベートーヴェン
 Ⅱ    厳正な変奏曲    メンデルスゾーン
 Ⅲ A) 夜想曲 嬰ヘ長調  ショパン
   b) 練習曲 ハ短調   〃
   C)  前奏曲 雨滴れ    〃
   D) 諧謔曲 變ロ短調   〃
 Ⅳ A) グノーメンの踊り  リスト
   b) 匈牙利狂想曲 十一番 〃
   C)  泉のほとり       〃
   D) ラ・カンパネラ   〃

 小倉末子女史洋琴独奏会
  昭和六年 〔一九三一年〕 一月廿九日午后三時
    帝国劇場に於て

  主催 都下女子教育者及婦人団体有志
    ベツヒシュタインピアノ使用(日本楽器東京支店提供)

  

 小倉末子 ネトケ・レーヴエ 〔MARGARETE NETOKE-LOEWE〕 演奏会 
                     昭和六年 六月六日 神宮外苑 日本青年館
      - 曲 目 -

 1.ソプラノ合唱
    イ)私の悩みの美しい揺籃    シューマン作
    ロ)私のバラ            〃
    ハ)憐れなペーター         〃
    ニ)天は涙流せり          〃
    ホ)長春樹と薔薇をもて       〃

 2.ピアノ独奏
     変奏曲作品廿一番       ブラームス作

 3.ソプラノ独唱
    イ)自由            シュトラウス作
    ロ)白いやすみん          〃
    ハ)私の眼             〃
    ニ)打たれた心           〃

             (休憩)

 4.ピアノ独奏
    イ)練習曲作品廿五番の一    シヨパン作
    ロ)子守唄             〃
    ハ)幻想即興曲           〃
    ニ)夜想曲           スガムバツチ作

 5.ソプラノ独唱
    イ)秋の夜           小倉末作
    ロ)ライン古譚         マーラー作
    ハ)絲             ウオルフ作
    ニ)子供とすみれ          〃
    ホ)愛のいわひ日        ワインガートナル作

 6.ピアノ独奏
    イ)支那の官吏マンダリーン   ニーマン作
    ロ)西班牙の女           〃
    ハ)黒人の踊り         シリル・スコツト作
    ニ)月光            ドビユツシイ作
    ホ)前奏曲             〃  

   

 紀元二千六百年 〔一九四〇年〕 奉祝 日独伊同盟祝賀  新興音楽会第一回演奏会  

 プログラム

 ドイツ歌曲

   1 シユーベルト (イ)死と少女
              (ロ)魔王             鈴木信子
 
   2 ブラームス  (イ)永遠の愛
              (ロ)子守唄
              (ハ)いとも静けきわが眠り
              (ニ)鍛冶屋            リア・フオン・ヘツセルト
 
 ピアノ二重奏
     モツアルト  奏鳴曲 ニ長調
             アレグロ コン スピリト
               アンダンテ
                 アレグロ モルト     小倉末
                              パウル・ショルツ

 イタリー歌劇

   1 プチーニ  ミミの詠唱“ラ・ボエーム”より
   2 ロシーニ  ロジーナの詠唱“セヴイラの理髪師”より 長坂好子

   3 マスカーニ サンツーザの物語“カワレリア・ルスチカナ”より デイナ・ノタルジヤコモ

   4 プチーニ  ある晴れた日“蝶々夫人”より     三浦環

   5 ヴエルデイ 二重唱“アイーダ”より         デイナ・ノタルジヤコモ
                                   リア・フオン・ヘツセルト

 ピアノ二重奏
     リスト   交響詩曲 哀歌と凱歌
            レントーアダジオ メスト
              アレグレツト モツソ コン グラツイア
                アレグロ コン モルト ブリオ
                               パウル・シヨルツ
                               小倉末

 日本歌曲
 
   1 信時潔   海行かば
   2 山田耕筰  松島音頭
   3 本居長豫  通りやんせ
                               長坂好子

   明治天皇御製
     松島 彝 謹作 (朝礼歌)親
     松島 彝 謹作 (朝礼歌)國
   4 山田耕筰    この道
                               鈴木信子

   5 瀧廉太郎    荒城の月
   6 杉山長谷夫   勿忘草
                               三浦環

 合唱

   明治天皇御製
     幸田延子 謹作 天   
   1 プチーニ    羅馬の頌歌
   2 ドイツ民謡   いざ我等歌ふ
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「楽聖グノー百年祭記念大演奏」 (1918)

2012年11月23日 | 小倉末子 2
    

 音楽学校に於ける楽聖グノー百年記念大演奏会

 音楽春秋会の主催に係る楽聖グノー百年記念演奏会は大正七年 〔一九一八年〕 三月二日上野なる東京音楽学校で開かれたが春の音楽期に於ける記録を破る程の大盛会であつた。来会者仏国大使夫妻始め貴紳淑女の群は楽堂に溢れ、先づ横枕新楽長の指揮する海軍々楽隊の演奏多大の興味を以て迎へられ武岡鶴代の独唱、小倉末子女史のピアノ独奏、芝杉山東儀多四氏の絃楽四重音等何れも大喝采を博したるが殊に花の如きルマノフ夫人とカール教授のピアノ二部合奏は満場唯一人其妙音に魅せられぬものはなかつた、最後は海軍々楽隊の管絃楽「フアス」〔ファウスト〕七種の大連舞の演奏があつて同会は耳に美しき印象を残して散会した。写真は当日の演奏者右より小倉末子、ルマノフ夫人、横枕海軍々楽長、長坂好子、武岡鶴代子、原みち子である。

 A memorial concert was held at the Tokyo Music School.

 上左の写真と説明文は、『写真通信』 第四十八号 大正七年 四月号 に掲載されたものである。

 楽聖グノーの百年祭記念大演奏会 

Great memorial concert of Gounod, the French composer.

 独逸の楽聖グノーの百年祭記念演奏会は大正七年三月二日午後東京上野の音楽学校に於て催された。グノーの写真を美々しく飾った前で小倉末子女史のピアノ独奏、芝、杉山、東儀、多四氏の弦楽四重奏は共に大喝采。次で花形ルマノフ夫人とカール教授とのピアノ二部合奏は当日の白眉であった。尚最後にグノー傑作中のファウストは管絃楽で奏せられたが当日の入場者は千五百、近時稀に見る盛会であった。写真は当日音楽会の光景で右より小倉末子女史、ルマノフ夫人、横枕楽長、長坂好子嬢等である。

 大正七年三月、在東京上野音楽学校、開徳国楽聖顧納百年祭記念演奏会、由右方起、小倉末子女史、魯瑪諾福夫人、横枕楽長、長坂好子嬢。

 上右の写真と説明文は、『歴史写真』 第六十号 大正七年 四月号 に掲載されたものである。

  

 体育に注意する独逸の女学生 東京音楽学校教授 小倉末子

 独逸の女学生の夏の生活!其れはなかゝ面白うございます。平生は側目(わきめ)もふらずに専念自分の研究に没頭してゐますので、夏休みには身体を主として、涼しい郊外に運動するとか遊戯するとか、多くさうした方面に日を送り、学問とか研究とか云つたものからすつかり離れて頭脳を空にして遊ぶのでございます。

 ◎緑蔭に端艇 ボート を浮べ庭球を遊ぶ

 独逸では六月が割合に暑いので、夏休みはこの月から始まります。私は重 おも に伯林 ベルリン に居りましたが、日本の夏に比べると幾らか涼しくはありますが、町には舗道に敷きつめたアスファルトの照返しでかなり暑苦しく感じられます。それで多くは思ひゝに避暑地へと出かけます。こんな風で十一月頃から翌年五月初旬頃までは音楽会 オペラや其他の催しがあつて華やかな交際の季節になつてゐるのですが、夏になると都はひつそりとなつて、避暑地が賑かなにるのでございます。
 女学生は名目の家の経済状態で行く先は一様ではありませんが、何処かしらへ出かけます。或は遠く端西 スイス あたりへ出かけて風光明媚な山水に思ふ存分接して平生の疲れを休める者もあれば、亦伯林から程近き郊外、ザクセン王宮の所在地で且 かつ は名所旧跡多いポツダムなどに遊びます。そして湖水や河にモーターボートを浮べ、或る時は端艇を操り、運動場に出て庭球やゴルフ等の遊戯に耽ります。その快活な様子は見てゐても気持よく思はれます。服装の関係もありますが、活発な運動を自由にする事が出来て、登山等をする人も大分あります。道を歩いてゐても私共日本の婦人では追付ない位よく歩きます。

 ◎独逸婦人の強健は平生の資 たまもの

 私は音楽学校に居たのですから、他の学校の様子は余りよく存じません。私共の先生はお一人で十一人位の生徒しか受持たれないので、総べての方面に細かく気をつけていたゞくことが出来ました。就中 なかんづく 体育には絶えず注意して下さいまして、一日の中でも必ず一度は運動しなければと云つて散歩や遊戯をお勧めになりました。夏休みになる一寸前には伯林を少し離れた景色の善い所にお招き下さいまして、楽しく一日を遊んだ事もございました。
 こんな風に彼地 あちら の女学生はよく運動する事と云つたら、とても日本婦人の及ぶ所ではありません。独逸の婦人が強健なのは斯 こ うした平生の注意が與 あづか つて力のある事を思ひます。私なども彼地に居りました際にはよく運動しましたが、さて帰つて来ますと運動する設備も充分備つてゐない為でもありませうが、運動する機会が無いので少し歩くと疲れてしまひます。日本の習慣として女が一人で唯ぶらゝ町を歩いてゐるのも何だか変に思はれますので、つひ運動不足になつてしまひます。

 ◎設備の整うてゐる海水浴場

 それから又海水浴も盛んに行はれて、誰でも自由に行ける所ではまるで人の海かと思はれます。風光明媚な瀬戸内海あたりの海岸は彼地には見当たりません。それでも入場券のいるやうな所は設備もよく出来て居ります。海岸の砂地に行つて見ると、身体に日光の直射しないやうに出来た椅子が幾つもあつて、海に入らない人でも子供を伴れて遊んでゐます。着物を脱ぐには車の附いた箱のやうなものがあつて、其の中ですつかり海水浴衣に着更へて車を水の中まで入れる事が出来ますから身を人の前に見せる事なく水の中に入つて行けるのでございます。

 ◎忘れられぬ独逸の夏の思出

 瑞西あたりへ避暑に出かけるのは先づ贅沢な方で極く質素にいたしますには伯林に近い田舎の旅館か農家などの一室を借りるのです。彼地では町から避暑に行く人を喜び迎へて深切に世話して呉れます。それから伯林から遠く離れぬ処にスプレーウオルドと云ふ水の清い河に沿うた道には日本の櫻のやうな樹の茂つてゐる村がありました。其処にはスプレーウォルダリングと云ふ昔のまゝの優美な服装をした婦人がゐて、伯林あたりでは其処の婦人を子守に雇ひました。頭に美しいレースの頭巾を被つた婦人の姿の見える並木道に沿うて、半日位流れを舟で上つたのも今に忘れぬ思出の一つであります。

 上の一文は、大正七年七月発行の『女学世界』 七月号 第十八巻 第七号 に掲載されたものである。

 

 海外の誌友 伯林小倉末子

 上の写真と説明は、明治四十五年八月発行の『淑女画報』 第一巻 第五号 に掲載されたものである。
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「小倉末子女史ピアノ独奏会」 帝国劇場 (1926.6)

2012年09月07日 | 小倉末子 2
   

 上左の写真: 『歴史写真』 大正十五年 〔一九二六年〕 八月号 第百五十七号 に掲載されたものである。〔なお、この写真と下の説明文は、すでに『西美濃わが街』 No.252 の中で「一枚の写真から覗く「日本洋楽事始」」で紹介されている。〕

 一万円のピヤノを弾ずる小倉末子女史 

 女流ピヤニストとして其名高き小倉末子女史は久しく楽壇から遠ざかり専心研究に没頭すると共に門下生の教養に余念なかったが、東京音楽学校教授ネトケ・レーヴェ夫人の賛助の下に、今回新にアメリカから買ひ入れたメーゾン、エンド、ハモクンのグランドピヤノ価格一万円といふのを以て独奏会を開催することとなり、六月二十日午後一時から帝国劇場に於て満場立錐の余地なき聴衆の前に天稟の妙技を発揮した。写真は即ちピヤノに対へる小倉女史とネトケ夫人である

 上右の写真: 『写真通信』 大正十五年 八月号 第百五十号 に掲載されたものである。下は、その説明文。 

 一万円のピアノの音色小倉女史の妙技

 久しく楽壇から遠ざかつて専心研究に没頭してゐた洋琴家小倉末子女史は今度一万円の巨費を投じて米国から買ひ入れた世界最高級のグランドピアノを以つて去六月二十日帝国劇場に華やかな独奏会を催した。が当日集つた紳士淑女が何如に女史の芸術に陶酔した果か改めて云ふがものはなからう。写真は花環に埋つた小倉女史と賛助者音楽学校教授ネトケ女史

 なお、当日の演奏は、写真では分りにくいが、和服ではなく洋服での演奏のようである。

 

 上は、当日のプログラムの裏表紙、下は、記載の日文のプログラムである。

 大正十五年六月二十日(日曜日)午后一時
 丸の内 帝国劇場 に於て

  小倉末子女史ピアノ独奏会

    賛助出演 ネトケ、レーヴェ夫人

         主催 葵会
 
    演奏曲目
 
  一、ピアノ独奏
      プレリュードとフューゲ(オルガン フューゲ) … バツハ作 リスト編
  二、独唱
      あゝ無情(コンセルト アリア)        … ベートーヴェン作
  三、ピアノ独奏
   (イ)練習曲 作品第二十五番の一          … ショパン作
   (ニ)練習曲 作品第十番の五            …   〃
   (ハ)ファンタジー アンプロムテュー        …   〃
   (ニ)子守歌                    …   〃
   (ホ)バラーデ 作品第二十三番           …   〃
  四、ピアノ独奏
      ヴァリェーション 作品第二十一番       … ブラームス作
  五、独唱
   (イ)思ひ出                    … ブラームス作
   (ロ)消え行く我がうたゝねの夢           …   〃
   (ハ)太鼓の小唄                  …   〃
   (ニ)薔薇に似たる我が恋人の唇           …   〃
  六、ピアノ独奏
   (イ)夜の曲                    … スガムバッティ作
   (ロ)泉のほとり                  … リスト作
   (ハ)トッカッタ                  … デビュッシィ作

 また、この独奏会については、『帝劇』 大正十五年 八月号 第四十五号 (一九二六年七月)の消息日記に次の記録がある。

  六月 □二十日

   マチネー、小倉末子女史ピアノ独奏会、開演午後一時(劇場貸切)。久邇宮朝融王殿下、同妃知子女王殿下、閑院宮華子女王殿下台臨


 なお、上の『歴史写真』の同じ八月号には、次の写真と紹介もある。

 

 天才ピヤニスト井上園子嬢(九ツ)

 六月二十二日日比谷公園音楽堂に於ける大演奏会にモツアルトの難曲を弾いて大喝采を博した天才ピヤニスト井上園子嬢(九ツ)である

 さらに、『音楽グラフ』 七月号 第四巻 第七号 大正十五年七月一日発行 に、次の写真及び 演奏会 欄に下の記事がある。

 

 東京音楽学校教授
  洋琴家 小倉末子女史(右)
 六月二十日帝劇で久振に独奏会を催す、声楽家ネトケレーヴェ夫人の賛助出演もあった。

 小倉女史の独奏会

 久しく研究に没頭して公開演奏をしなかつた洋琴家小倉末子女史は葵会主催の下に六月二十日日曜日午後帝国劇場でリサイタルを開き声楽家レーヴェ夫人の賛助出演もある演奏曲は一、独奏バッハ作リスト編プレルードとフーガ(オルガンフーガ曲)二、独唱ベートーベン作あゝ不忠実者よ、三、独奏ショパン作エツード作品二十五の第一、同十の第五、同ファンタジェ・インプロンプツ、同ベルセース、同二十三バラッド、四、独奏ブラームス作品二十一変奏曲、五、独唱思ひ出、我が眠は静まり行く、太鼓の歌、吾が乙女は薔薇の如き唇、六、独奏、スガンパチー作ノクターン、リスト作泉のほとり、デビュッシー作トッカッターであるが女史の使用するピアノは米国のメーソン・エンド・ハムリン会社製で随分高価なものだと。
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『卒業記念写真帖 師範科』 東京音楽学校 (1937)

2011年07月09日 | 小倉末子 2
 内表紙には、「昭和十二年 〔一九三七年〕 度 卒業記念写真帖 師範科 東京音楽学校」とあり、下の写真が貼られている。34センチ、厚さ5センチ。

 ・学校長〔乗杉嘉壽〕、校舎前景

  

 ・先生寄書〔欠〕、諸先生
 ・声楽(イロハ順)伊藤武雄先生、田中伸枝先生〔欠〕
 ・長坂好子先生、浅野千鶴子先生
 ・齋藤秀子先生、木下保先生
 ・ピアノ(イロハ順)井口基成先生、萩原英一先生
 ・貫名美名彦先生、小倉末子先生

  

 ・渡邊トリ先生、川上きよ先生
 ・高折宮次先生、田中規矩士先生
 ・室岡清枝先生、宇佐美ため先生〔欠〕
 ・山田菊枝先生、福井直俊先生
 ・見田公子先生、同期本科生全員
 ・定期演奏会 ラダムナヌイオン デ フアウストベリオーズ、ミサ パフヱ マルセリ パレストリーナ  
 ・級会〔欠〕、落書
 ・芝生ニテ、風景(ドーム)
 ・或ル一日 登校、控室(男子)
 ・控室(女子)、授業(山下先生)
 ・昼休ミ、複科
 ・演奏旅行 新潟(昭和九年初夏)、大阪公会堂(昭和十年六月)〔欠〕
 ・大阪 宿屋ニテ 〔二枚〕
 ・和歌山(昭和十一年十一月五日)、奈良公会堂
 ・奈良公園ニテ〔二枚〕
 ・ー朝カラ晩マデー 〔四枚〕
 ・記念祭 A、B
 ・予餞会 A、B
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「第四十八回演奏会曲目及梗概」・「慈善演奏会曲目」 小倉末子 (1922)

2011年06月23日 | 小倉末子 2
 表紙には、「 第四十八回演奏会曲目及梗概 独奏者 小倉末子 音楽奨励会 大正十一年 〔一九二二年〕 二月廿五日(土曜日)午後七時開会 丸ノ内日本工業俱楽部」とある。21.3センチ、三つ折れ。

       PROGRAMM

   Ludwig van Beethoven.

       (1770-1827)

 Ⅰ. Op.2,Ⅲ. C-dur-Sonate. … (1795)

     Allegro con brio
       Adagio
          Scherzo (Allegro)-Trio
              Allegro assai

      Pause 15 Minuten

 Ⅱ. Op.27,Ⅱ.cis-moll. Mondschein-Sonate. … (1801)

     Adagio sostenuto
       Allegretto
           Presto agitato

       Pause 15 Minuten

 Ⅲ. Op.53, C-dur. Waldstein-Sonate … (1804)

     Allegro con brio
        Introduzione (adagio molto)
           Rondo (Allegretto moderato-Prestissimo)

    解説

 Ⅰ.Op. 2, Ⅲ.C-dur-Sonate.

 1792年に芸術の都 Wien に移り Haydn の高弟となつた Ludwig van Beethoven (1770-1827)は 1795年に作品二番として初めて三つの大きな Sonaten(f.A.C) を発表しヴイーンの学界を風靡した。此の作品は Op.1, Trios と共に第一期(1770-1800)の作品中重要な意味を持つてゐる。このOp.2 の三つの Sonaten は明に Mozart , Haydn の形式に従つて Allegro-Andante (Adagio) -Scherzo (Menuetto) -Rondo の四楽章に書かれてゐる。乍併三曲は各々異つた感じを持ち、f moll-Sonate の暗い感じに反して、今度弾かれる C-dur-Sonate は明るい歓喜に充満した作品であると批評家は言ふ。
 第一楽章の Allegro con brio は非常に生気のあるもので、此の第二主題は彼が15歳の時故郷 Bonn で作曲した Klavier-Quartett (C-dur) から取つたものである。第二楽章 Adagio (E-dur) は静かな美しい而も明暗と気分に富んだもので Beethoven の新しき批評家 Paul Bekker は Op.2 のすべての楽章中で F-moll-Sonate の第四楽章と此の E-dur-Adagio は途中で一度 e-moll に転調する。第三楽章の Scherzo (C-dur) には Beethoven の特色はまだ出てゐない。Menuetto-Trio の形式に依つたものであるが第四楽章との対照がよいと Elterlein は言ふ。 Trio は a-moll である。第四楽章 Allegro (C-dur) は若い生命に満ちた感じを持つたもので Elterlein は Baccanalia と呼んだ。輝きと力とを持つた此楽章の中頃に dolce で出る F-dur のメロディーは美しいものである。

Ⅱ. Op.27,Ⅱ. cis-moll-Sonate quasi una Fantasia.

 1801 年の作である。此の Sonate は Beethoven の中期(1800-1815)に於て、Op.53 と共に代表的作品であり、又彼の全作品を通じての傑出したものの一つである事は批評家の一致する所である。従来此の曲に就いては、種々の伝説が説かれて来たが、作曲者自身標題楽として書いたのでは無い以上、強いて此の曲の解釈の為めに、月光の曲と云ふ標題の誤謬であつた事を指摘する必要もなく、又 Julie Guicciardi との恋愛問題を此の曲の背景と考へる必要もない。若し失恋と苦悩との精神状態から此の曲が生れたとするならば、此の曲と同時に作曲してゐた Op. 27, I. (E-dur-Sonate) を何んで説明す可か。一体 Beethoven の創作意識は二つの相反した感情内容を持つて同時に二つの作品を作つてゐる。一方が明るく快適であるならば、他方は暗く情熱的である。即一方が多くの場合 Dur であり他方が Moll dである。其例を挙げれば Op. 2 の A-dur と f-moll, Op. 10 の F-dur と c-moll, Op. 27 の Es-dur と cis-moll, Op.31 の G-dur と d-moll, Op. 53 (C-dur) と Op. 57 (f-moll) 又交響曲では6番と5番の如きである。此等は皆二曲づゝ殆んど同時に作曲されてゐる。
 Bekker は此の Op. 27, Ⅱ を其形式から見て Phantasie-Sonate と呼んだ。(Op. 27, Ⅰも同様)此の曲は先づ荒涼たる感じの前奏曲的な第一楽章(cis-moll-Adagio)に始まり、 Scherzo 風の間奏曲的な第二楽章 (Des-dur-Allegretto) に始まり、Scherzo 風の間奏曲的な第二楽章(Des-dur-Allegretto) を経て、精神の叫び、情熱そのものゝ様な長い第三楽章(cis-moll-Presto) に終る。我々は伝説のすべてを捨てゝたゞ Beethoven の絶対的音楽と共鳴したい。

 Ⅲ. Op.53, C-dur. Waldsteinsonate.

 此の作品は Op. 57 (Appassionata)〔熱情〕 と共に、1804 年の作で、彼の天才が最も円熟した時代の作である。此の二曲は共に司伴楽的な形式を持つものであるから Bekker は Konzert-Sonate と呼んだ。若き日の友であり保護者であつた Waldstein 伯に捧げた此の曲は Sonate の中でも最大にして難曲の一つである。此の曲に表現されたものは、音のなし得るあらゆる世界の展開である。五彩陸離たる音の世界と且つ其規模の雄大さとには総ての批評家が等しく賞讃の辞を呈する所である。形式より見れば二大楽章(共に C-dur)からなり、前者は Allegro con brio (4/4 拍子)で、後者は Rondo (初め Allegretto, 2/4 拍子 - 後に Prestissimo, 4/4拍子)である。最初中間の楽章 Adagio は無かつた為め Beethoven の或る友人が余り此の Sonate は長過ぎると言つた。そこで彼は中間の楽章の為めに F-dur-Adagio を書き、第二楽章 Rondo の初めに附けて Introduzione としたのが現今存してゐるものである。Andante の方は単独に翌年出版された。Beethoven は非常に此の曲を好み、Andante favori と呼んで幾度か人の前で弾いたと Ries は言ふ。

 

 公会堂ピヤノ開キ 慈善演奏会曲目

 〔大正十一年〕 十月廿一日(土) 午後七時 於 岡崎・市公会堂 

主催 桜楓会京都支部 
後援 京都市 
後援 大阪毎日新聞社京都支局

 市は私共市民の為に数千金を投じて関西の地には未だ見ぬ優秀なるピアノを購ひ公会堂に備へられました。当会が何か奉仕の企を持つて居りました矢先皆様に之れが紹介の為に働き得られます事は誠に喜ばしい次第で御座います。
 現代女流ピアニストの第一人者東京音楽学校教授小倉末子女史、声楽家東京文化学院講師荻野あや子嬢バイオリスト東京音楽学校講師奥村艶子嬢 伴奏同上宇佐美ため子嬢を迎へて初秋の気爽かなる一夜皆様と共に芸術の妙技をうかがふ事はどんなに幸福で御座いませう。
 小倉女史の天才的芸術については既に皆様ご承知の通りで今更改めて申上くる迄もございませぬ荻野、奥村、宇佐美、三嬢は共に新進音楽家の妙手として東都の楽壇に名声嘖々たる方々許りで御座います。殊に小倉氏の曲目中には 畏くも嘗て 皇后陛下が音楽学校へ行啓の砌(みぎり)御前演奏の栄誉に浴した同氏得意の名曲も入れられて御座います。
 斯る卓越せる方々によつて初めて開らかれるピアノの幸ある将来と、かゝる優秀なるピアノによつて益々向上さる可き旧都楽壇の光ある将来とを思ふて祝福する時、私共は皆様と共に欣喜の情を禁じ得られない次第で御座います。

 

 曲目

 一、ピアノ独奏:    小倉末子 
    狂想曲(歌劇『アルツエステ』中の舞踊曲より) ‥‥ グレツク
                                      サンサーン編
 二、ソプラノ独奏:   荻野あや子
     イ、悲歌(ヴアイオリン助奏) ‥‥ マツスネー
     ロ、ソクヴエーヂの歌     ‥‥ グリーク
     ハ、〔汝が碧き眼を開け    ‥‥ マツスネー
 三、ヴァイオリン独奏: 奥村艶子
     熱情的幻想曲(第一楽章)   ‥‥ ヴユターン

            休憩

 四、ピアノ独奏:    小倉末子
     イ、夜の曲          ‥‥ スガムバテイ
     ロ、泉のほとり        ‥‥ リスト
     ハ、前奏曲          ‥‥ デビユツシー
 五、ソプラノ独唱:   荻野あや子
     抒情調(歌劇『お蝶夫人』より) ‥‥ プツチニー
 六、ピアノ及ヴァイオリン二部合奏:     宇佐美ため子 奥村艶子
     ソナタ(長へ調第一楽章)   ‥‥ ベートヴエン
 七、ピアノ独奏:    小倉末子
     變奏曲(作品二十一番)    ‥‥ ブラームス

             伴奏:    宇佐美ため子

 なお、同日同時刻は、アンナ・パヴロワの京都公演 〔於 南座〕 最終日開演予定時間でもあった。

 

 大舞踊観覧券
 アンナ・パヴロワ夫人
 学生券 金貮圓
 御一名
 十月十八・十九・二十・二十一日毎夕七時開演
 京都 南座 四條

 〔下は、「瀕死の白鳥を演ずるパヴロワ」:『京都音楽史』より〕

 
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