575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

若狭の海幸山幸物語⑫~釣り針を抜く~竹中敬一

2018-05-11 09:30:11 | Weblog

一人の翁の案内で竜宮に着いた山幸彦は、そこで海神の娘トヨタマヒメと結婚、
暮らしていましたが、ある日、兄の海幸彦から借りた釣り針をなくしたことを
思い出して、大きなため息をつきました。これに気づいたトヨタマヒメは、
心配になって父の竜王にその経緯を語りました。
このことを聞いた竜王は、直ちに海の魚を集めて、釣り針の行方を探し始める
という場面をここでは取り上げてみます。

この場面は「彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)絵巻」(明通寺 蔵) にも
異時同図画法を取り入れて 、劇的に描かれています。この絵巻は平安時代末期
(12世紀後半)に描かれましたが、江戸時代に消失。若狭小浜藩主 酒井忠勝の命で
模写されたものです。
場面は竜宮の前庭、サザエの形をした冠姿の男が、"喉を腫らしている男を連れて
来ました"と竜王に告げています。続いて、魚形の冠に唐風の衣装を身につけた男が、
赤ら顔の太った男を竜王の前に差し出しています。
(「古事記」「日本書紀」では 赤鯛となっており、その赤鯛の喉を探ると、はたして
針があったので取り出したと簡単な記述になっています。)
更に、向かって、左から右へ、同じ登場人物が三つの場面で時の経緯を超えて同時に
描かれています。ここでも異時同図画法です。太った男のアゴを触っているのは、
どうやら医者のようです。
次に 片肌脱いだその医者が太った男の上半身を裸にさせ、ペンチのような金火箸
(かなひばし)で ノドに刺さっている針をはさんで、力任せに引き抜いています。
見るからに痛そう。
この場面のすぐ右側では、釣り針をやっと抜いてもらって、地面にしゃがみ込む
太った男の姿があります。口から血を吹き出しています。

この絵巻の場面はどう見ても、若狭彦姫神社に伝わる「秘密縁起」の記述を参考にして
描かれた としか言いようがないと私は思っています。その「秘密縁起」の記述を
小松茂美(古筆字学者)が文語訳したものを、更に、私なりに現代文にしてみました。
「竜王が海にいる魚どもに"誰か釣り針を口にしているものはいないか"と尋ねられた。
すると、しばらくして、一匹の魚が " そのような者がいます"と言って、仲間を館に
連れて来た。竜王が庭を見ると、赤みがかった顔の太った男が喉を腫らして召し出され
ていた。医者(くすし)を呼んで、男の喉を探らせると、案の定、針が刺さっていた。
竜王は直ちに、医者に針を抜くよう命じた。
医者は鉄(くろがね)の箸で針を抜きにかかった。この男は苦痛悩乱して暴れるので、
皆んなして、男の腰、膝を押さえたり、頭の周りやあちこちを動かないようにして、
やっと、件の針を抜くことができた。この針を竜王に差し出し、点検すると矢張り、
尋ねていた針であった。」

この場面からだけでも、私が「秘密縁起」の記述をもとにして、平安時代末期、
「彦火火出見尊絵巻」が描かれとする一つの証拠だと思っています。


写真は、福井県小浜市の明通寺に伝わる「彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)絵巻」を
筆者がエンピツで模写。
場面は竜宮の前庭。向かって左手。サザエの冠を被った男が竜王に喉を腫らした男を
連れて来たと告げている。
左から右へ。魚の冠に唐風の衣装の男が赤ら顔の太った男を竜王の前に差し出している。
更に、右へ。片肌脱いで、歯医者らしい男がペンチのようなもので、赤ら顔の太った
男の喉に刺さった針を力任せに引き抜く。(異時同図画法)

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