天地わたる手帖

ほがらかに、おおらかに

鷹の長老石雀さんを悼む

2019-05-30 15:37:36 | 俳句

奥坂まやと星野石雀。これを撮ったのは2008年あたりか。中央例会にて。



「鷹」6月号を読み、日光集同人・星野石雀さんが5月2日に亡くなったことを知った。大正11年 (1922年)生れというから97歳か。
今月欠詠したので心配していたがとうとう来るものが来たのか、という思いである。

「天地わたるブログ」に「中央例会がさみしくなった」という題で石雀さんのことを書いたのが2012年6月24日のこと。それがもう7年前のこと。
細谷ふみをさんに「石雀さん、中央例会にお出にならなくなりましたねえ」というと石雀さんは大正11年生まれだからもう90歳だとのこと。今までよく出てくださいましたね、という方向へ話が進んだ、と書いている。
あれから体の不調に耐えよく天寿を全うしたものである。

ぼくが思い出す石雀さんは、横に必ず奥坂まやさんがいた。こらからの文章は2012年6月24日の天地わたるブログからの引用である。



石雀さんの相手をするのはいつもまやさんだった。
石雀さんはまやさんがもてなしてくれるので中央例会に来ているのではないかと思うほど、まやさんとの会話を楽しんでいた。
最前列にいると二人の会話はいやでも耳に入る。
それがおもしろいのだ。
石雀さんはべらんめい調で、他結社の俳人の病気などの話をするのだが、それに応じるまやさんの合いの手が絶妙。
石雀さんはどんどん気分が高揚してしゃべる。
それがおかしくて選句どころではなかった。
石雀さんに応対するまやさんも才気と色気がほとばしっていた。
ぼくはこの両人の雑談を聞くのが大好きだった。
石雀さんの句会での講評もおもしろかった。
「採ることは採ったんですが、まあ、俳諧の中の平句としておもしろいというところかな」とか「まあ女の俳句はナルシズムと台所だね」とかいって、必ずしも褒めない。むしろけなすために採ったということが多く、石雀選に入ると主宰選に入らないのではという感じもしてはらはらした。
石雀選と主宰選に同時に入ったとき豊穣な気持ちになったものだ。


ここで石雀さんの主な作品を見たい。

醜女日記<鴨をむしり/少年をほどく>
南都に学び北嶺に入り蟇となる
春寒料峭曖昧宿の置き薬
卒業名簿作成爆死狂死など
秋は木洩れ日を大事にしよう老仲間

(以上がぼくのベスト5)

「醜女日記」、俳句でこんな物語が可能かと度肝を抜かれた。南都と北嶺について作者が「南都北嶺をばらしただけ」と煙に巻いた表情は忘れられない。
「春寒料峭」はぼくとまやさんが酒を飲まずに盛り上がる句。置き薬の中身はなにかということがいつも議論の中心にあり、まやさんが「石見銀山」説を唱え、ぼくが媚薬のはずだと反論したものだ。「卒業名簿」に込められた時代性にはたじろぐばかり。



吾れ老いて年の湯に浮く空華さん

「鷹」へ来る前「曲水」にいた石雀さんから渡辺水巴の「名はよく聞いた。村上鬼城や飯田蛇笏などとともに大正初期の「ホトトギス」中興を支えた俳人の一人で、江戸趣味を湛えつつ繊細で唯美的な作風とのこと。
斎藤空華(くうげ)の名も句によく出た。渡辺水巴に師事し第1回「水巴賞」の受賞者。ずうっとこのころのことが懐かしかったようだ。


断腸花いい服を着て別れよう
「断腸花」は「秋海棠」の別名。言葉遊びをさせたら右へ出る者まずはいない。


鶏頭に風吹く母のみそかごと
鳴神の下にころげし女かな
身の毒の蜜蓄ふる夏書かな
河童忌や天井高きビヤホール
蠅うなる札所の厠なむまいだ
山の湯の秋や老妓の尻笑窪
売れもせぬもの書くによき夜の長さ
妾の肩借りて厠へ西鶴忌
春愁や疵物といふ肺ふたつ
すぐ風邪をひくので山頭火にもなれぬ
ダリの死を梟どのへ知らせよう
なほ生きる寒さや波郷忌の目覚め
みやあみやあ鳴く子猫をにぎりつぶしたい
亀が鳴くのは眠られぬ人のため

どの句もどこかに屈折やら引っかける罠があって並ではない。いったん覚えると虜になるという句風である。


したがって、中央例会で石雀選と主宰選は重なる率が低かった。石雀選に入ると「今日は主宰選ダメか」と暗雲がただよう気分であった。もう一人主宰選とほとんど重ならないのが日光集同人・細谷ふみをさん。
この二人が採って主宰が採ったのが以下の句。


星の数嘘の数年惜しむなり わたる
(2008年12月中央例会)石雀選+ふみを選+軽舟選。これは快挙だと思った。


昼寝覚砂丘を砂の流れをり わたる
(2008年7月中央例会)石雀選+軽舟選。今思うとこの年はぼくが鷹に入っていちばん輝いたときであった。石雀さんも元気で毒舌が楽しかった。


白蟻と木屑ひしひし蠢くや わたる
(2008年5月中央例会)石雀選。「くそリアリズム、楽しくはないね」と採って文句を言った。石雀さんは文句を言うためによく採った。それは褒められるより印象深い思い出である。貶して味のある人がいるのもので、その筆頭が石雀さんであった。


 味わい深い石雀さんの筆跡


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1 コメント

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Unknown (シロウ)
2019-05-30 19:31:41
どの句も読めば詩の礫をぶつけられている気にさせられます。
星野石雀さんを存じておりませんでしたが俳人というより根っからの詩人というイメージがします。

卒業名簿作成爆死狂死など

はパンクロックです。
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