天地わたる手帖

ほがらかに、おおらかに

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わたしの空と五・七・五

2019-03-19 14:04:52 | 


森埜こみち『わたしの空と五・七・五』(2018年2月/講談社、本体1400円)。初心者向け俳句入門書と思い手に取った。

中学校に入学したばかりの1年生、伊藤空良(そら)が何のクラブに入るか迷うところから話が始まる。スポーツみたいな派手なところはとても無理。

しゃべりはだめでも
ペンをもったら
本音をぶちまけられる者よ!
文芸部に入るべし
    文芸部長 滝沢冬馬
    同副部長 谷崎潤子


という文芸部のビラを見て興味を持つ。

2の「うじ虫をにぎって離すな」という単元がふるっている。
空良が「本音をぶちまけられる者よ!」という訴えはいいのになぜ文芸部への入部者が少ないのかを谷崎に聞くくだり。


谷崎「それは隠したいから。認めたくないから。自分はいつも本音でしゃべっていますって顔していたいから。つまり、ほんとうの自分を隠したいから。なぜ隠すかといえば、本音はうじうじしているからよ。嫉妬だってあるし、劣等感だってある。相手のことが嫌いで、腹のなかで、あっかんベーをしていたりする。腹のなかには、そういううじ虫がいるのよ。みんな、このうじ虫を飼いながら過ごしているわけ」
「いい? こういうどうしようもないうじ虫をしっかりにぎって離さないこと。うつくしい物語って、うつくしい成分からできているわけじゃないんだから。うじ虫からできているのよ。うじ虫!」


表現欲求と自己顕示欲の原点を「うじ虫」に象徴させたのはうまい。うつくしい物語がうつくしい成分からできているわけではないという指摘も秀逸である。
やさしい言葉で本質をえぐっていてたんに俳句へのいざないに止まらぬ文芸の深みがある。

添削もおもしろい。もう一人の一年生、小林静香が次のように書いた
きれいだな桜の花が川の上
 
これに対して滝沢は「きれいだ、うつくしいという言葉は、できるだけ使わないこと」とアドバイスして、
波に揺れひまもてあます花筏
とする。これはやりすぎだ!とぼくは思った。ぼくなら<揺らぎつつ桜の花が水の上を>と原形を残したいと思ったら作者は滝沢に「いまのは、小林さんの思いから遠くなってしまいましたね」と言わせてフォローする。
ぼくが老人ホーム初句会で避けた「二句一章」の説明をしたりと、そうとう詳しく俳句に参画していて驚いた。

6章は「新入生歓迎句会」、これが圧巻である。
小林が空良の2句を採る。

春の朝傷つくことがこわいのだ
両の手をさしだしてみる春のなか


空良の「この句ができたとき、わたしは、わたしのうじ虫はこれなんだってわかった」という思いを、小林は
「このふたつの俳句は、わたしのなかでは対のようでした」と鑑賞する。
友だちに認められて空良は、句が黒板に書かれたときは恥ずかしいと思ったのに、いまはもう思わない。自分の気持ちにちかいといってくれた小林さんのおかげだ、と思う。
句会における人間関係、友情という本質がずばりと出ていて心地よい。

ほかの例句も水準が高く作者のレベルの高さを感じた。初心者のみならずそうとう俳句をやってきた者も刺激を受ける一書であろう。


森埜こみち
秋田育ち、埼玉在住。東京学芸大学特殊教育学科卒。
本作で第19回ちゅうでん児童文学賞を受賞してデビュー。
日本児童文学者協会、日本児童文芸家協会会員。


版元は以上のように作者を紹介する。生年月日がないのが気になった。それは人に関する基本的なデータゆえ発表してほしいと思った。
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1 コメント

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面白そう! (めぐる)
2019-03-20 02:10:12
わたるさん、いつもさまざまな本の紹介を有難うございます!
私も思わず立ち止まりそうなビラです。
文芸部の部長と副部長のネーミングも素敵ですね。
図書館で探してみます!

先日、アプリゲームで「あやかし夜市」というのをやりました。
以前わたるさんがご紹介くださった「夜市」と世界観というかあらすじが似ていて、とても面白かったです。
本書も読んでみたくなりました!!

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