柴犬日記と犬の児童小説

初めて飼った犬の記録と犬が出てくる児童小説+共感した記事

カズとおじいちゃん<5>

2018-02-17 21:57:10 | 小説
開けて日曜日の早朝。白石家と団地四人組の家はもちろん、竜崎老人も地元新聞の朝刊を見て度肝を抜かれた。
”山の穴に札束一千万円、登山の家族ら届け出、大山“
 この見出しは一面トップを飾っていた。
「あのカバンに一千万も入ってたのか」
 食堂のテーブルにつき左手に新聞、右手にトーストを手にした雪男が声を上げた。和彦も公子も手にしていたトーストを置いて席を立ち、雪男の後ろに回り込んだ。
「あなた、その金の出どころ書いてある?」
「ああ。商事会社の社員が持ち逃げした金だそうだ」
「その人、逃げてるの?」
「いいや、とっくに捕まってるんだが、金のありかは明かさなかったそうだ」
「じゃあ、僕たち、お手柄なんだね」
 和彦が二人の会話に割って入った。
「そういうことになるなあ。表彰でもしてもらえるのかなあ。ははははっ」
新聞をテーブルの上に置いた雪男は残りのトーストを口に入れると席を立って食堂の隣にある洗面所に行き、鏡の前でネクタイの結び目をチェックし始めた。
「おじいちゃんと仙吉さんのタイムカプセルは捨てられたのかなあ」
 和彦が開けられたままのドアの向こうにいる雪男に尋ねた。
「あるべきところを掘ったら別のものが入ってたんだから、そういうことになるなあ」
「僕、これからおじいちゃんの所へ行って昨日のことを報告してくるよ。おじいちゃん、仙吉さんと一緒に入れた手紙がなくなってきっとショックを受けてるよ」
 和彦が言い終えた瞬間、玄関のチャイムが鳴った。タンがいつものように地団駄を踏んで吠え始めた。
「あら、こんなに朝早く誰かしら」
 公子が食堂を出ていった。
「まあ、竜崎さんですの。お初にお目にかかります。和彦がお世話になっております」
 廊下の向こうの玄関から食堂にまで公子の驚いた声が聞こえてきた。和彦は急いで玄関に出た。
「おじいちゃん」
「いやあー、和彦くん。昨日は少し気分が悪くて来れなかったんだよ。君たちやご両親に大変な思いをさせてしまってねえ。電話帳で住所を調べてタクシーで飛んできたんだ」
「おじいちゃん、仙吉さんと一緒に埋めた手紙も連絡用のメモも全部なくなったんだよ。おじいちゃんも被害者なんだよ」
「そうですよ。別にわたしたちは犯罪に巻き込まれたわけじゃないですから、そんなにお気遣いなさらなくても」
 和彦も公子も竜崎老人に慰めの言葉をかけた。
「ほんとに申し訳ない。手紙のことはもうあきらめましたよ。こういう巡り合わせだったんですよ」
 老人は何度も胡麻塩頭に手をやった。
「初めまして。和彦の父です。わたしは今から出勤ですが、良かったら上がってお茶でもどうですか」
 スーツを着た雪男が柔らかい物腰で玄関に現れた。和彦は普段と違う雪男の物言いに驚いた。
「やっ、ありがとう。タクシー待たせてるんで、わたしはこれで失礼させてもらいます。和彦くん、よかったらまた遊びに来ておくれよ」
「はい」
 竜崎老人は和彦たち三人に見送られ、再びタクシーに乗り込み白石家を後にした。
                  ◇
 一か月後。四月に入り春休みもあと数日を残すのみとなった。和彦はもうすぐ六年生の新学期を迎える。六年生のクラスは五年生からの持ち上がりで弘人たち団地四人組と同じクラスだ。和彦は春休みに入ってから毎日のように団地の広場でタンと一緒に弘人たちと遊んだ。和彦にはもう孤独の陰はなかった。
「ウー、ワワワーン」
リビングにある電話が鳴ると同時にタンが激しく吠え始めた。昼食を済ませた和彦は公子とともにタンをあやして遊んでいた。和彦はタンの首輪を引っ張りリビングを出て自分の部屋に連れて行った。
「はい白石ですが。あら、竜崎さん。はい、はい……。いえ、子供が入れるほどの大きさではなかったですよ。大きくても四、五十㌢四方の穴だったような気がしますが。えっ、じゃあ違うんですか。上の方にある杉の大木? 分かりました。和彦に伝えておきます。はい、失礼いたします」
 受話器を置くと公子はドアを開けた。
「和ちゃーん」
和彦がタンを連れて戻ってくると公子は微笑んだ。
「どうしたの、お母さん」
「和ちゃん。今の電話ね、竜崎さんからだったのよ」
「おじいちゃんが何だって」
 和彦は細い目をぱちくりさせた。
「わたしたち、どうも穴を掘る場所を間違えていたようよ」
「えっ」
「わたしたちが掘った所から登山道を十㍍ほど行って、斜面を少し登った所にあるのが目的の大木みたいだわ。竜崎さん、今朝、ふっと思い浮かんだんだって。手紙を埋めた大木に行くまでの所で根元が空洞になってる杉の木がもう一本あることをね。ほんとの大木は和ちゃんが入れるくらいの空洞があるのよ。わたしたちが穴を掘った杉の空洞はそんなに大きくなかったじゃない」
「わー、よかった!。おじいちゃん、ほんとによく思い出してくれたね。僕、これからおじいちゃんとこ行ってくるよ。あっ、お母さん。今度の土日どっちかでお願い」
「はいはい。お父さんに頼んでおきますよ」
 和彦は公子に見送られ、タンとともに竜崎老人宅に向かった。
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