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『アンノウン』

2011年06月01日 22時49分00秒 | 新作の批評部屋(2011~2012)
UNKNOWN / アンノウン [DVD]
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『アンノウン』 2011年(米)監督ジャウマ=コレット・セラ

●ミステリーよりもサスペンス
 自分になすましている男が、自分の家族と楽しそうに過ごしている光景を窓越しに目撃してしまうのは、『シックス・デイ』(00)のアーノルド・シュワルツネッガーだった。『フライトプラン』(05)はヒッチコックの『バルカン超特急』(38)を真似ている作品で、飛行機という密室空間で娘が行方不明となり、困惑する母親をジョディ・フォスターが演じている。子供は過去に死んでいたという事実を聴かされるが「機内にいるはずだ」と奮闘するジョディ・フォスターに迫る�結末�を期待させる「予告編ありき」の純粋なミステリー映画であったように思える。
 一方、ミステリーだけで押していく作品をゴミのように観てきた大衆を相手にしている2011年公開の『アンノウン』はどうだろう。交通事故から目覚めたら妻が自分のことを忘れ、彼女の夫を名乗る見ず知らずの男が、自分になりすまして妻と生活をしているという衝撃のミステリーから始まる。一見、予告編に頼ったミステリー(謎解き)映画の王道であるように思えることであろう。しかし本作の巧妙で映画的なサスペンスの前においては、(過去に散々流行った)ミステリー要素は、ただのスパイスにしかすぎないのだ。
 病院でCTスキャンを撮影しているシーン。リーアム・ニーソン演じる主人公の視点ショットにより地下鉄で見かけた男が映し出され、主人公が陰謀にはまっていることがわかる。暗殺者らしき男が点滴に怪しげな薬品を入れると男は別室に移る。その隙に床に転がっている看護婦のポケットにあるハサミを取ろうとする主人公。ここからは一気にサスペンス。
 表情をこわばらせる主人公のショット。ハサミと指先のショット。プラスチックの紐で縛られ、血が滲み出る手首のショット。暗殺者が戻ってくるのではないかと別室を見つめる主人公の視点ショット。そして薬品が徐々に投薬されていく点滴のショット。複数のショットを同時進行で魅せていくことによって緊張感が観る者の心を揺さぶる。それはミステリー以上の映画的(映像と音響で魅せていく)な刺激に溢れている。さらに本作がミステリーよりもサスペンス(緊張感)を一つの大きな魅力にしていることをも意味しているように思える。
 しかもそうしたサスペンスが脚本上のサスペンスで終わらず、現場で収穫した(映画的な視覚表現に満ち溢れた)�素材�とポスト・プロダクションでの�編集�が呼応し、映画でしか体感することのできない感覚、すなわち�映画的刺激�を抱かせているから素晴らしい。
 また、パーティの会場で妻に話しかけても「あなた誰?」と言われるシーンの会話劇もただの会話劇に終わらず、彼らの表情を映す全てのショットにおいて、ダッチ・アングル(カメラが斜めに傾く心理表現の手法)で魅せることで、人物の不安や混乱を感じさせてしまっているように思える。また暗殺者がタクシー運転手だった女性の部屋に侵入してくるシークエンスでも壁に背中を合わせ、息をもらしながら隠れる女性の表情を暖色系のライトで陰湿かつ重々しく魅せる表現もサスペンスを高めていくための(近年稀な)視覚表現に思える。

●�映画的�ということ
 本作は一見すると安易なミステリー映画のように思えるが、真摯で強烈なサスペンス演出に溢れたサスペンス映画の佳作ではないだろうか。前半をミステリーで構築し、後半はミステリー映画においてしばしば訪れる�ネタばらし後の失望感�や�失笑�を�サスペンス�で防ぎ、そのまま一気にサスペンス映画として飛ばしていく脚本力も秀逸で、なおかつ脚本力に負けないサスペンス演出が巧みに冴えわたっている。興行要素を入れこみながら映画的な表現力としても優れている本作は、まさにモダン・サスペンスである。こうした純粋な映画的表現に溢れる(ヒッチコック式を現代にアレンジしたような)秀作を観られるのはシネフィルにとって大変幸福なことではないだろうか。


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