一村を変えた南国への旅
スケッチ旅行の始まり~
単なる景観の描写にとどまらず、新しい作品挑戦への心を
奮い立たせた貴重な旅であった。
想像力を湧出させる旅でのスケッチ・・・
画家にとってはさらなる飛躍のために不可欠なもの。
旅は、画材の宝庫!
そこで出会う自然との遭遇は感性の錬磨なのだ。
新しい発想もそして数々の悩みも吹き飛ばす。
先ずは、九州阿蘇山に登った。(写真利用)
このスケッチ旅行の経路と考えられる~ルートは
阿蘇山~高千穂~宮崎(青島)~鹿児島~雲仙~長崎~大分~別府~
八幡浜~松山~高知~足摺岬~室戸岬~高松~鳴門~洲本~和歌山
~新宮~熊野
*旅先からK氏に送ったハガキが残っている。
四国に廻り、紀州熊野川まで見て帰る予定です。
車中にて 田中一村と記す。
「放牧」 昭和30年
阿蘇の放牧を。一村の心が広がっていく
途方もなく大きなスケールで広がる新芽の絨毯
のびやかな情景。
旅に出たのが正解であったと思わせるものであった。
「山村六月~北日向にて」 高千穂
梅雨の季節豊かな田園風景 遠くに高千穂の峰を
手前ハンカイゾウの黄色い花
「ずしの花」
「阿蘇付近北日向 ずしの花多し 山間田蛙路傍到ル所にアリ
草丈八尺に達す」と記す。
「青島の朝」 宮崎
枇榔樹の葉はそよぐ… 青島を航空写真で見る(参考)
「海ハ碧玉 空ハ緑玉 枇榔樹ノ葉ハソヨグ 南国ノ夢アリ」と記す。
鹿児島(桜島)の噴煙を仰ぐと、さらに南の島々への思いがつのっていった。
船便を見つけてて、種子島、屋久島、トカラ列島まで足を延ばした。
黒潮に浮かぶ南の島々は、一村の心を魅了した。
「岬~トカラにて」
雲仙・島原へ~
「雲仙雨霽(うせい」
「雲仙山麓 雲乱レ飛ブ 長崎ヨリ島原ニ向フ車中即目」
牛にすきを引かせ田を耕す農民…
雨上がりの情景をしっとりと描いている。
長崎から久大線 ~大分
「由布嶽朝靄」
別府から四国へ渡った一村は、足摺岬や室戸岬を巡った。
「足摺狂濤」 足摺岬
「室戸ハ奇石累々 足摺は断崖千尺
太平洋ノ怒涛ハ脚下ヲ噛ム」とある。
黒潮の打ち寄せる荒々しい情景を、群青の濃淡と
胡粉の白波によってみごとに表現している。
高知から松山~鳴門へ そして洲本~和歌山へ。
和歌山に出て、筏流しの名勝・瀞八丁と那智の滝を見た。
高みから流れ落ち、岩にあたって砕け広がる滝の様子を
描いた1枚があります。が、
この作品は「岡田美術館蔵」なので、今回、参考として掲載します。
参考: 「瀑布」
旅から帰った一村は、南国の風光や黒潮に浮かぶ南の島々の
印象を、姉喜美子に語り続けた。
南国のイメージは、日ごとに膨らんでいった。
やはり千葉を離れなければいけない。
必死で勉強してきた成果を集大成しなければならない。
絵かき人生を締めくくる最後の絵は、
やはり旅先で描くことになるだろう。
もう時間はない。
一村の心は決まった。
黒潮に浮かぶ南の島々に心は飛んでいた。
最終章へ~