下水道の行き先は、下水処理場でその先は海(場合によっては川)だ。仙台では、七北田川の河口に近い蒲生地区に処理場があった。処理水の排水口は砂浜に設けられていた。大学の研究室では、下水処理場の排水がノリ養殖に与える影響を調査していた。私は2年間、秋から冬にかけて処理場に毎日通った。処理場の排水と海水を色々な割合でリアルタイムに混合した水槽でノリを培養していたのだ。毎日、排水と混合水の水質を検査すると共に、ノリの葉長を測定していた。ノリは、葉全体が生長点で、条件が良ければ1日で1割も2割も大きくなるのだ。下水処理場の排水は、太平洋に流れ込むのであるが、その付近一帯は、ボラの群れで埋め尽くされていた。一面魚群で、波が盛り上がって砕けるその波は、ボラで真っ黒だった。絶対奴らは、ウンコを喰うために集まっているのだ!!
下水処理場の排水は、いくら処理したといっても臭く、黒く濁っている。大雨で雨水が下水に流れ込み、処理水量が多くなると、処理などしないで、そのまま海にスルーしているのだ。雨水で薄まればOK!と考えているらしい(信じられない事だが、事実だ。今は改善されたかも)。そこに群がるボラなど誰も食べようとは思わないのだが、私は喰ったド-!!
ある晩、研究室で酒盛りが始まったが、喰うものがない。唯一シラフだった私が処理場のボラを釣ってきて食べようと冗談で提案したところ、酔っぱらい連中は、まさかの賛成。真っ暗の闇の中で、15尺のヘラの仕掛けを砂浜の波打ち際に振り込むと、まさかの1発アッパー!もちろん餌など付けていない。良型が面白いようにスレてきた。持ち帰り、研究室でアライにするとこれが極めて美味。やっぱりウンコで育った魚は味が違う!!ドラフトで焼いてもみたが、こちらは臭くて食えなかった。
ボラは、アライにすると血合いもきれいでとても美味しい。今度、横利根で釣れたら食ってやろうか・・。
追伸:グーグルの地図(上空からの航空写真)で蒲生の処理場を見ると、黒い処理水が太平洋に流れ出ているのが良く見えます。その沖にはノリの養殖場が広がっているのも良く写っている。排水口前面海域の黒い影は、ひょっとするとボラの大群かもしれない。
実は、仙台湾のノリ養殖にとって、仙台市の下水処理場の存在は極めて重要なのだ。この処理場が無かったら、仙台湾沖のノリ養殖は存在していなかった。ノリの成長には栄養塩が必要であるが、外海では栄養塩濃度が低く、ノリは成長するものの、色が付かず商品にならないのであるが、処理場からの豊富な栄養塩が外海でのノリ養殖を初めて可能にしたのだ。仙台湾のノリはウンコの栄養で育つ!!
追伸2:後年、私の体内から病原性大腸菌が検出されたのであるが、ボラを喰った件とは一切関係ないと信じている。