本日ご紹介するLPは、前回に続き『フレディ&ザ・ドリーマーズ』です。今回は1965年にリリースされたカナダ盤の『1st』です!
リード・ヴォーカルの『フレディ・ギャリティ』をセンターにバックを取り囲む4人の寝巻姿の男達。『ドリーマーズ』とは文字通り『夢見人』なので、その名の通りの何とも強烈なジャケットです。
さて、このジャケットでピンと来た方、そう!1963年に本国イギリスにて『コロンビア(EMI系列で米コロンビアとは別レーベル)』からリリースされたデビューアルバムと同じものです。じゃあ、それをそのまま『カナダ・キャピトル』(アメリカでのEMI系列と言えば大手レコード会社である『キャピトル』である)から出したのかと思いきや、大幅に収録曲が変更されて出されており、驚かされます。
まあ、これに関しては、あのビートルズやストーンズですら、アメリカで独自に曲を変更して発売されていたので、当時のイギリス勢ミュージシャンが、いかにアメリカで切り売りされていたのか・・・を表すエピソードでしょう。しかもこの時期のアメリカではLPは『基本的に12曲入り』とされていたので、12曲で1枚を作り、アルバム数が増える傾向にあり、このカナダ盤もそこを踏襲しているのです。
しかし『フレディ&ザ・ドリーマーズ』はさらに不遇な扱いでして、1965年に『カナダ・キャピトル』からこのアルバムが出た同年、今度はアメリカで『マーキュリー』という『キャピトル』とは全く違う非EMI系列のレコード会社からリリースされており(前回紹介した盤です↓)
https://blog.goo.ne.jp/12mash/c/aee0236baf9a20ec664e0757ca4e4a07
曲もこのカナダ盤と3曲ほど重複しています。逆に本作収録の大ヒット曲「I'm telling you now」はアメリカでは『タワーレコード』というキャピトルの子会社的レーベルから同じ65年に出されており、見事に全米1位に輝いております。ちなみにカナダでもこの曲は1位を獲得しているんです!(本国イギリスは2位)
曲の権利とか云々は一体どうなってるんだという感じですが(この辺りは本紙「編集長」と会議したいところですが・・・)、今となっては当時の明確な情報が無いので筆者にはよくわかりません。ただ、彼らはの音楽は『一時(いっとき)の流行り』であり、「短い間にさっさと売り切ってしまおう!」というレコード会社の意図は透けて見えます。
では、そんな彼らの音楽はどうだったのでしょうか?それは盤に針を落とせば良くわかります。当たり前ですが1965年当時のオリジナル盤で聴いてこそ!しかも本家UK EMI直のマスターを使用しているので『カナダ・キャピトル』からの本作は圧倒的に音が良い!
この『フレディ&ザ・ドリーマーズ』はビートルズの少し後でデビューした「ほぼ同時期のバンド」であるにも拘らず、リーダーの『フレディ』は1936年生まれと『ジョン・レノン』より、4つも年上という事実!そう考えるとこの時点で「実は中々のベテラン」と言って良いでしょう。
当時のブリティッシュ・ビート勢と同様にブラックミュージックの影響を多分に受けており、そこまでビートを強調してもおらず、ドラム、ベース、2本のギターと時折加わるアコーディオンは、ボーカルやコーラスを引き立てる為の非常にシンプルな物です。どちらかと言えば「50年代のアメリカン・ポップスやドゥワップ的なアレンジ」が目立ちます。
彼らはこの後、ビートルズやストーンズも出演した、アメリカにおいて成功のカギとなるTV番組「エド・サリヴァン・ショー」にも出演し、アメリカで一定の人気を得るのですが、それは彼らの「アメリカン・ポップスをバンドでやってみました」的なサウンドと、22歳で急死した伝説のロックン・ローラー「バディ・ホリー」を意識したフレディのルックス、そして動き回るダンスがアメリカで受け入れられた要因だと筆者は結論付けております!
このアルバムに収録されている「Do the freddie」と並ぶ彼らの代表曲「I'm telling you now」は彼らの魅力を凝縮した素晴らしい曲で、たった2分間ですが、クリーントーンのごまかしのないギターサウンドはシンプルで美しく「当時のエレキギターってこんな美しい音なんだ・・・」と純粋に溜息が出るほどです。ここぞのタイミングで味のあるフィルを入れるドラムも、なんともツボを押さえていイカシております。ドラムに合わせてギターのストロークの強さを変える『ライブ1発録音』も実に良く、バンド全体で演奏の抑揚を付けている点が、アナログ・オリジナル盤だとより一層ダイレクトに伝わるのは当然でしょう。これがデジタルになった途端「すべてが平坦に聞こえ、ただの耳障りの良いポップスにしか聴こえない・・・」そうなると?そうです。残念ながら聴かれずに、消えていく音楽となってしまうのです。特に60年代のロックミュージックというものは、アナログ・レコードで聴かないと「その本来の音が埋もれてしまう」ものなのです。
「I'm telling you now」のほかにもB面1曲目「I love you baby」ではチェット・アトキンスばりのカントリー奏法が聴かれ、ビートルズのカバーでもおなじみ「Money」や「Some other guy」も、これまた全く違う解釈で演奏しており興味深い仕上がりで、彼ら独自のポップ感覚が感じられます。聴けば聴くほど、彼らの音楽的な素養の深さや、バンドとしての演奏の巧みさを印象付けられますが、そんな実力があっても、後々「Do the freddie」に代表されるコミックバンド的な要素を取り入れなけば行けなかったのが、彼らのセールス的な苦境を映し出した部分でしょう。
ただ、このアルバムに関して言えば、純粋に音楽で勝負をしており、演奏にもその緊張感が伝わります。そういったバックグラウンドを知ると、「I'm telling you now」にも明るさの中にもどこか「切なく甘酸っぱい・・・」そんな当時にタイムスリップしたような感覚に包み込まれます。
ブリティッシュ・ビートの入り口に、まずは「フレディ&ザ・ドリーマーズ」をアナログ盤でぜひ聴いてみて欲しいです!次回もお楽しみに。
《Starman★アルチ筆》
ご意見・ご感想・記事投稿・編集長の執筆、演奏、講演依頼『スターマンへの演奏依頼』などは『コメント欄』か『ハードパンチ編集部』までどうぞ!
https://hardp.crayonsite.com
編集長『MASH』が経営するギター専門店『Jerry's Guitar』公式サイトはコチラ