「Jerry's Mash」のアナログ人で悪いか! ~夕刊 ハード・パンチBLUES~

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《特別連載》 「これぞボブ!」 Bob Dylan『Japan Tour 2023』 Vol,1 「大阪公演最終日」を「ハウリンメガネ」による渾身のライブリポート!

2023-04-09 17:07:43 | BOB DYLAN

「嗚呼…ボブは堪らなくボブであったよ。」

読者諸賢ごきげんよう。
昨日の興奮覚めやらぬハウリンメガネである。

今回は熱の冷めぬうちに是非ともこの話をすべきであろう、大阪はフェスティバルホールで行われた『ボブ・ディラン大阪公演最終日』(4/8)の話をさせて頂きたい。

大阪最終日の昨日は休日ということもあり、開場16時、開演17時と、さすが、ご高齢の客層に合わせたか、早い時間帯でのスケジュール。
少し早めに出て楽器屋でも物色しようかとも思ったのだが、家で今回のツアーのタイトルでもある『ラフ&ロウディ・ウェイズ』を聴きなおしたりしているうちに、わりといい時間となってしまい慌てて家を出る。

JR大阪駅から会場のフェスティバルホールへは歩いて10〜15分。21年のキング・クリムゾン来日公演でも行った場所であり、もはや慣れた道である。

もう開場済みの時間に現地に到着。
わかってはいたが、やはり年齢層は高め。
グッズコーナーも中々に盛況で、こりゃ後回しにしたほうがよいと考え、早速入場口へ。

(今回の日本公演ではスマートフォンの使用を徹底的に禁止する為、入場時にロックできるポーチを会場で配布。これにスマホを入れないと入場できないようになっていたのだが、これ、いいアイデアだと思う。観てる最中に真横でスマホいじられたくないもの)

今回の席は3階席。いそいそとエスカレータで3階へ向かうと何故かここでも入口前に列。
何かと思えば
「本日の公演、3階席のお客様を2階席に振り替えさせて頂いております」
とのアナウンス。
『おお、ラッキー』という思いと、
『こりゃチケットはけてねぇな……』という思いが瞬時に交差する。

(今回の公演、値段が値段かつ公演数も多いのでチケットがソールドアウトしていないという情報があったのである)

とはいえチケットの売れゆきとボブの価値は別問題。高揚する気分を抑えつつ、開演5分前に着席。

ステージには装飾も素っ気もなく、機材が並んでいるだけ。それでも格好良く見えるのはやはりボブのライブに装飾など不要であることがもう分かっているからであろうか。

ステージ左手にギターアンプが2台とドラムセット。真ん中にピアノ、右手にベース、ギターアンプ、そしてドニーの弾くペダルスティールと各種楽器のスペース。

そう、今回のツアー、メンバーが大きく入れ替わっており、前回の来日から続投しているのはベースのトニーとペダルスティール&etc.のドニーのみ。
とはいえギターのダグ・ランシオ、ボブ・ブリットの両名もかなりの経歴を積んだベテランであり、ドラムのジェリー・ペンテコストもカントリー・オブ・フェイムにノミネートされるツワモノの模様。

(元のアナウンスだと以前ボブ・ディラン・バンドに参加していたマルチプレイヤーのチャーリー・ドレイトンがドラムだったのだが急遽変更になった模様)

チャーリー・セクストンが抜けたのは寂しいが、新たなボブ・ディラン・バンドがどんな仕上がりになっているのか……わくわくする。

そうこうしている間に会場は薄暗く消灯。
拍手が巻き起こるなか、ついにボブ・ディラン&ディラン・バンドがステージに!
「Watching The River Flow」が始まった!

ボブがセンターのピアノを奏で、バンドがそこに合わせて調子を整えていく。

そしてボブが歌い出す。
……いい!今回のボブは喉の調子がいい!
以前の来日公演で聴けた嗄れ声とは違う、滑らかな声なのである。
嗄れ声でのボブもいいが、今回の歌声も堪らなくいい。

ピアノの前から動かず、それでいてバシッとした佇まいのボブは心底痺れる佇まいだ。

バンドもほぼ全員自分のスペースから動かず、ボブから目を逸らさず、ボブのグルーヴをブーストさせるよう集中している様は職人の集まりのようで観ていて心地よい。

その中の唯一の例外が、ダグ・ランシオのおっちゃん。
……動く動く(笑)!
なにせダグさんの周りだけスペースが広く取られているのである。

(真面目に考察すると、ダグさんは2台のアンプにギターを直結しているように見えたので、その音質コントロールの為に広いスペースを取っているのだと想像する)

緑(青?)のレスポールを抱え(終始この一本で通していた)、足で小気味良いリズムを刻みながらにこやかにステージを歩くダグさんはバンドの中でもきっとムードメーカーなのだろう。

(逆にもう一人のギタリストであるボブ・ブリット氏は終始自分のポジションから微動だにせず。というかずっとボブの方を向いてプレイ。この二人のギタリストの対比、結構面白い)

曲が進んでいく。
「I Contain Multitudes」や「Black Rider」など、ラフ&ロウディ・ウェイズの曲がちゃんとプレイされている。
(というか、ラフ&ロウディ・ウェイズの曲はMurder Most Foul以外全てやっていたはず)

そしてそれに合わせて、過去の曲もラフ&ロウディ・ウェイズでみせたアメリカン・ルーツ・ミュージックスタイルでの演奏にリアレンジされている。
過去の曲をリアレンジするのはボブの場合当然のことだが、『ラフ〜のスタイルに徹底的に合わせているのがミソ』。全ての曲に統一感があり、ひたすらあのグルーヴが続いていくのがとかく気持ちいいのである。

ジェリーのドラムもいい!
(さすが急遽とはいえボブがコールしただけのことはある)
激しいドラミングは一切せず、それでいてダイナミクスに満ちたプレイは現ボブ・ディラン・バンドのコアの部分を担っているといってよかろう。
(特にトニーのボトムエンドとバスドラムのコンビネーションの圧が素晴らしい。一気にリズムが引き締まる)

ダグとブリットのコンビネーションもいい!
一方がリズム、一方がリードという切り分けではなく、互いに絡み合うようにギターの音がコンビネーションされていく様は美しいスリルに満ちている。
(ダグの方がフィルイン的なプレイが多く、ブリットの方は曲の骨格となるフレーズが多かったように思う)

その4人のプレイの上でドニーのプレイするペダルスティール、フィドルの美しさもいい。ドニーがいなければ今のボブの音は成立しない。
そして、そこに絡むボブのピアノ。
これが今回とても、とてもイイ!

前回までは「ギターを弾くボブが見たい!」と喚いていた私だが、今回の公演でその気持ちが吹っ飛んだ。
何故か。それはボブのピアノがバンドの音として聴こえたからだ。
(正直以前のボブのピアノはバンドの音から浮いて聴こえた)

今回のボブのピアノは彼のハープと同じレベルで説得力に満ちた音に仕上がっている。
二人のギターとドニーの音に絡むように鳴り響くピアノがきちんとボブのものになっているのである。

王道の有名曲、一切なし。
「ライク・ア・ローリング・ストーン」も、「見張り塔」も、「激しい雨」も、「戦争の親玉」もなし。
ひたすらにアメリカン・ルーツ・スタイルでのグルーヴに終始。
ボブはピアノに陣取り、立つこともなく、最後の「Every Grain of Sand」までハープもなく、アンコールもなし。

それでもただただ「ボブ・ディラン」という音に圧倒された約2時間。
素晴らしい時間であった。
ロック・コンサートでもアメリカン・ミュージック・ライブでもない、これぞ『ボブ・ディラン・ショウ』をたっぷり喰らった約2時間であった。

でも多分だけど今日はアベレージの出来だった気がするんだよなぁ…。
「すげえいいライブだったけど、もっと上の表現を魅せてくれる気がする」んだよな。
東京と名古屋の公演、きっと凄いものになる気がする。

もし値段や時間の都合で迷ってる人がこれを読んでいるなら言っておく。
『観ないで死ねるか!』ってね。

以上、ハウリンメガネでした。
……観ないとホントに損するよ 

ちなみに次回の東京公演は編集長が動きます!

お楽しみに!

《セットリスト》
1 Watching the River Flow
『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット 第2集』
2 Most Likely You Go Your Way and I'll Go Mine
『ブロンド・オン・ブロンド』
3 I Contain Multitudes
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』
4 False Prophet
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』
5 When I Paint My Masterpiece 
『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット 第2集』
6 Black Rider
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』
7 My Own Version of You
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』
8 I'll Be Your Baby Tonight
『ジョン・ウェズリー・ハーディング』
9 Crossing the Rubicon
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』
10 To Be Alone With You 
『ナッシュヴィル・スカイライン』
11 Key West (Philosopher Pirate)
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』
12 Gotta Serve Somebody
『スロー・トレイン・カミング』
13 I've Made Up My Mind to Give Myself to You 
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』
14 That Old Black Magic
『フォールン・エンジェルズ』
15 Mother of Muses 
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』
16 Goodbye Jimmy Reed 
『ラフ&ロウディ・ウェイズ』
17 Every Grain of Sand
『ショット・オブ・ラヴ』