「Jerry's Mash」のアナログ人で悪いか! ~夕刊 ハード・パンチBLUES~

「Jerry'sギター」代表&編集長「MASH & ハードパンチ編集部」が贈る毎日更新の「痛快!WEB誌」

明石のブルースマン「ハウリン・メガネ」が贈る…「どこまでヴァイナル中毒!(第5回)」ポリス

2018-04-24 14:27:26 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

読者諸賢、ご無沙汰であった。
ハウリン・メガネである。
風邪と花粉症にやられていた。皆様もご注意を。

さて、世間は春である。
今回は私もいつもと気分を変えて
毛色の違う盤のご紹介でいく!

基本的に60~70年代の大御所たちの盤
をバチンバチンと攻めている私だが、
好きな音楽の範疇としては
もちろんそれだけではない。

ブルースを始めとしたブラックミュージックも、
90年代のグランジ・オルタナティブも、
何ならハウス・テクノも好みの範疇である。

今回はそんな中から80'sニューウェイブもので
私の中の一二を争うバンド、The Police(ザ・ポリス)の話である。
読者諸賢には今更説明する必要もないかも知れないが、一応簡単に説明を。

ポリスは当時イギリスで興っていた
「パンクバンドムーブメント」の一つとしてデビューしたバンドだ。

だが、そのメンバーは「パンク?なにそれ?」
といわんばかりのつわものが揃っていた。

スティング(bass, vocal)
はチャールス・ミンガスをはじめとするジャズに強く影響を受けていたし、
スチュワート・コープランド(drums)
はプログレ・バンドで一度デビュー済み。
アンディ・サマーズ(guitar)
に至っては他の二人がまだ20歳そこそこだった中、独り30歳を過ぎており、アニマルズを始めとした数々のバンド・セッションに参加していた
言わばベテランだ!
(なお、彼だけビートルズやストーンズの面子と同世代。また、キング・クリムゾンのロバート・フリップとは同郷の古馴染み(フリップが年下)で後々二人でアルバムも出している)

残念ながら大変個性の強いパワートリオ
に「ありがちな法則」にしたがって
5枚のアルバムを残し、約5年で解散。
(その後、三名とも形は違えど音楽業界で活躍を続け、2007年には再結成、ワールドツアーも行われた)

そんなポリスの3rdアルバムが今回の盤
「Zenyatta Mondatta(ゼニヤッタ・モンダッタ)」である。

タイトルで「?マーク」が頭に浮かんだ方も居ろう(私もその一人だ)。
どう聞いても
「銭やった、揉んだった」
という下世話な親父の顔が浮かぶ…
そんな卑猥ギャグにしか聞こえないこのタイトル!

ところがこれは彼らの造語で
「禅(Zen)」という言葉から着想されたという...
失礼しました。

さて、そんな「ゼニヤッタ~」だが、
実は私、ポリスのアルバムをヴァイナルでは一枚も持っていなかった。
(いつものパターンである。CDで一度買っているので、興味が出て初めて盤でやり直すシリーズだ。)

Mash氏に「あります?」と問うたところ、
こう返された。
「USもUKもあるよ!」

...ではやるしかあるまい。
そう、今回はZenyatta Mondatta、US、UK聴き比べ一本勝負である!
さあいってみよう!
(なお今回の比較対象物はUS、UKともにオリジナル。
ちなみにUK盤はフランスプレスの逆輸入盤だ!

[A-1 Don't Stand So Close to Me]
「高校教師」の邦題でお馴染みの一曲。
(若い頃、「何で高校教師なの?元タイトル全然関係ないやんけ」と思ったが、歌詞を読んで納得。先生に憧れる女生徒と先生の話なのね~)

さて、ここはUSを推す。
USの方が、バンドらしい音でまとまっているのだ。

このアルバム全体に言ええることだけど、
USの方がバンドサウンドとしてはまとまっている。
UKは細かいディテールが聴き取りやすく、
ギターのディレイの感じなんか、ギタリストには大変勉強になるのだけど、
音の細部が聴き取りやすい分、パンチに若干欠けるきらいがある。

[A-2 Driven to Tears]
[A-3 When the World Is Running Down, You Make the Best of What's Still Around]
A-2とA-3は2曲で1セット。曲がシームレスにつながる構成になっている。
(なお、面白いことに、US盤は曲間の溝が区切られているのに、UK盤は切られていない。
US、UKどちらがポリスの意図通りなのかは不明だが、こんな発見もヴァイナルならではだなぁ)

この2曲を聴くとスティングの後の方向性が見えて面白い(明らかに黒い方向へ進もうとしている)。

結果、ギターの広がりが気持ちいいUK盤がお勧め。
(ポリスのアンサンブルの面白さは手数が多いわりに隙間の多いドラムと、つぼを押さえたベース、
そこに、その二者の隙間を埋めず、逆に間を生かすギターという、ロックの定型フォーマットから外れた所にあると思う)

[A-4 Canary in a Coalmine]
スカなリズムにのせてコミカルなフレーズが転がる2分程度の小品。
UK盤の方が明るさがあっていいかな。
こういう曲はUS盤のパンチが逆に平坦に聴こえてちょっと面白みに欠ける。

[A-5 Voices Inside My Head]
スティングのソロライブではアレンジを変えたこの曲とA3を続けて演奏することも多い一曲。
(2007年のポリス復活ライブもそうだった。個人的にはそっちのアレンジの方が好きなんだよなあ...)
正直にいうと、ちょっとたるく感じる曲なのだが、この時期の彼らが何をやろうとしていたのか、という視点で見ると面白い。

おそらく、彼らなりのディスコサウンドを目指していたと思うのだが、
そう考えると途中のスティングの「Yo!Yo!」というコールが何とも「時代だなあ...」と感慨深いのである。
ペースとドラムで押し切る感がイカすUS盤をチョイス。

[A-6 Bombs Away]
アンディお得意のメジャーともマイナーともつかないギターのバッキングが軽やかな良曲。
途中、中東風のギターソロがおっ!とリスナーの耳を引っ掛け、彼らの音楽センスの面白さを伝えている。

UK盤の方がコーラスの入りがいい感じなのでUK盤を推そう。

[B-1 De Do Do Do, De Da Da Da]
おそらく、本アルバム中一番有名と思われる一曲。
正直この曲はUSでもUKでもそんなに差がない。

強いて言えば前述の通り、USの方がバンド感が強いのだけど、
UK盤でもなぜかこの曲はパンチが強いミックスになっている。

シングルカットされた曲だから元々そういう仕上がりにしてたのか?
謎は深まるが、今回は引き分け...とはいかないのがヴァイナルの恐ろしさ。

さて諸君!
この曲、日本語でスティングが歌っている来日公演記念シングル盤があるのはご存知だろうか?

なんと、湯川れい子先生作詞で、スティング自身が「つたない日本語」で歌っているのだ!

...お前は持ってるのかって?今回の写真をよーく見て欲しい。
そう、これがそのシングル盤である!
実はこの盤、音が非常によく、US盤、UK盤を軽くのしてしまうハードパンチャーなのだ!

昔からMash氏と「45回転(シングル盤)を超えるLPというのはめったにない」という話は散々しているが、
正直、日本盤のシングルにはこの法則がなかなか当てはまらない...ところがこの盤は違う!

リズムのパンチは出しつつ、ドラムのリバーブ感やベースのニュアンスがしっかり残り、
ギターの明るさは出しながら、やかましさはない。そして、スティングの日本語ヴォーカルがいい(笑)!
ちょっと引用しよう。曲でいうとAメロのところだ。

言葉だと 嘘になる
口に乗せたらすぐに
言葉は俺を縛る

...「原曲の歌詞関係ないやん!」
と言いたくなってしまうが、これをスティング本人が歌うと「ええやん!」と言いたくなってしまう不思議なバランス。
(ちなみに「関係ないやん!」とは言ったが、スティングお得意の比喩が入った原曲のシニカルな歌詞をニュアンスが破綻しないギリギリのラインで日本語に置き換えた湯川先生、さすがです)

というわけで場外乱闘となったが、この曲はJPシングル盤の一本勝ち!

[B-2 Behind My Camel]
ちょっとクリムゾンチックな感じもする、シンセがダークに響くインストナンバー。

この頃のアンディはギターシンセを試していた時期らしく、前2作のアルバムと比べると、ところどころでシンセの音が使われている。

この曲、先に述べた日本語版De Do Do Do~のB面に入っており、このシングル盤でのサウンドが先ほど同様、US盤もUK盤も凌駕しているから嫌になる。

リズム隊のパンチは出しつつ恐怖感を煽るシンセの音も飛びぬけており、
これはもう「シングル盤以外は認めねぇ!」
と思わず凄んでしまうくらい突出しているのだ。

よってB-1同様、JPシングル盤の一本勝ち!
(しかしなぜこの曲をB面にしたのだろう。もっとポップな曲もあるのに...と思ったが、ポップなA面にちょっと難解なB面、多分これがポリスのバランスなのだ。)

[B-3 Man in a Suitcase]
軽快なリズムとスティングの歌う節回しが気持ちいい、個人的にA2,3と並んでお気に入りの良曲。

US盤でもいいんだが、なぜかUK盤が好きだなあ。UK盤でこれを聴いているとなんだか旅に出たくなるんだ。

[B-4 Shadows in the Rain]
エコーの効いたボーカルとヘヴィなベースがダブライクなサウンドを鳴らし、後半に進むにつれてプログレチックな展開を始める一曲。

アンディのギターはオフミックスで、サイケなフレーズが後ろで混沌をかもしだす。
この曲ではいかにポリスのリズム隊が上手かったのかがよく分かる。

ギターがオフミックスでもリズム隊が上手ければちゃんとロックになるお手本。
よりドープな質感の強いあるUS盤でいこう。

[B-5 The Other Way of Stopping]
ドラムにエコーをかけることで生では完結できないことをしようというスチュの試みが面白い。

複雑に絡み合うリズムの掛け合いがパワートリオであることを感じさせる、本アルバム最後を飾るインストナンバー。

UK盤で聴くと、ドラムがかなり細かいことをやっているのがよく分かるのでお勧め。

以上、足早に全11曲。いかがだっただろうか?

今回レビューするに当たって、ポリスのオリジナルアルバム5作を全て聴きなおしたのだが、
どうもこの「ゼニヤッタ」というアルバム、ポリスにとっての重要なターニングポイントとなった感がある。

前2作(Outlandos d'AmourとReggatta de Blanc)では「まだパンクバンドのふり」を続けていたポリスが、本アルバムでそれを止めたように思うのだ。

もっと単純に言えば、メンバーのパーソナルが剥き出しになり始めたのがこの「ゼニヤッタ」のように思う。

事実、次作の「Ghost in the machine」や次々作の「Synchronicity」ではさらに各々のエゴ(やりたい事)が剥き出しになっていく。

スティング、アンディ、スチュの三人がまだポリスというバンドを共有できていた最後の、それ故に美しい盤、それが「ゼニヤッタ」なのかもしれない。

...うーむ、やっぱりこのバンドは書くべきことが多い。ちょっとハウり足りないくらいである。
次回のお題もポリスかな!いや、ニューウェーブ
つながりでトーキングヘッズも...

草木芽吹く春。
せっかくならあなたもヴァイナルを始めてみないか?
楽しいぞ!泥沼だぞ!

以上、花粉に悩むハウリン・メガネでした。

〈ハウリン・メガネ〉