「Jerry's Mash」のアナログ人で悪いか! ~夕刊 ハード・パンチBLUES~

「Jerry'sギター」代表&編集長「MASH & ハードパンチ編集部」が贈る毎日更新の「痛快!WEB誌」

<超短編>【通勤ひと駅】小説「夏服を着た少女」と「その笑顔」

2014-08-02 23:37:40 | 編集長「MASH」の短編小説集

彼女と僕は

一週間に一度

決まった場所で逢うだけだ。

 

そこは彼女がウエイトレスとして

働いているレストラント。

 

僕はお客として

そこで彼女との接点を

ほんの少しだけ持つ。

 

そんな些細な関係でも

何度目かには

お互いに、ちょっとは笑顔にもなり

コミュニケーションも深くなる。

 

僕にとって

彼女の印象は「笑顔」だ。

笑顔そのもの

と言ってもいい。

 

その「笑顔」は僕をも「笑顔」にし

もちろん他のお客さんたちをも「笑顔」にしてしまう。

そう。

その「笑顔」は無敵なのだ。

 

しかし僕は断じて

彼女を見に来ているわけではない。

 

仕事の打ち合わせで

このレストラントを使うことが

ほとんどだから

彼女との接点はオーダーの時くらいなものなのだ。

 

しかし今夜

僕は特別なものを目にしてしまった。

 

彼女が仕事を早く切り上げ

帰り際、私服姿で見せた

あどけない「笑顔

 

ユニフォーム姿から

白いブラウスに

濃い目の青いハーフ・ジーンズ

そして上げ底のメッシュ・サンダル・・・

に着替えていた。

 

そんな

夏服を着た少女

が見せた

これ以上無い、と思える最高の笑顔

 

その

はにかんだ表情は

まだまだ幼く、あどけないものではあったけれど

キリッとしたユニフォーム姿とは一線を画す

実に魅力的なものであった。

 

そんな仕草に

僕は恋に落ちてしまった。

 

そして出口を出て行く

彼女の後ろ姿を見送りながら

ふと彼女があの夏服で

憂いでいる姿

を想像してみた。

 

鮮やかなブルーのパンツ

そして

純白のブラウス

海を見ながら

ぼんやりと憂いでいて欲しい。

 

季節は夏の終わりがイイ

人も少なくなった平日の片瀬海岸で

日差しはまだ暑い。

そんな日の夕方

ひとりで座りながら

憂いでいて欲しい。

 

サンダルには少しだけ砂が付いていて

駅で貰った江ノ島観光のパンフレットを敷き

アスファルトに座っていて欲しい。

 

きっとこの夏に

何か物語があったように

人には見えるだろう。

その物語を想像することは

とても楽しい。

 

ウエイトレスとして働き始めて3ヶ月

仕事も覚え、楽しくなってきた頃

彼女はひとりのコックを好きになった。

 

同じアルバイト同士意気投合し

無理矢理、彼に休みを合わせ江ノ島

そう、この片瀬海岸へやって来たのだ。

 

そこで、彼の口から

「付き合っている女性がいる」

ということを聞かされる。

 

「え~!どんな人?」

彼女は聞いてみる。

聞きたくもないのに・・・・。

もちろん、表情は「笑顔」で。

でも僕の知っている「笑顔」ではないんだ・・・。

 

ここまで想像し

僕は、ふと思った。

 

憂いだ姿

それはそれで美しい。

だけれど、やっぱり僕が見たいものは

彼女の「あの笑顔」なんだろう。

 

夏服を着た彼女」の「あの笑顔

を、僕は一番近くで見てみたい。

 

そんなことを思いながら

消えていく彼女の後ろ姿だけを

ただただ、目で追っていくことしか

今夜の僕には出来そうになかった。

 

そして

「コーヒーをもう一杯」

僕は別のウエイトレスに注文をした。

 

< Mash

2014年8月2日 筆