羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

ヤロカ火 11

2016-06-22 18:17:44 | 日記
 扇子を手に岳は一つの塊に集まりつつある光る目を持つ流動物に歩み寄った。扇子に自分の御守りの青白い火が燃え移る。扇子の柄は表が紅葉、裏は薄だった。出来る感触はあった。
「ううっ、うっ、真(ま)、淵(ぶち)の、火ぃ、い、嫌な火ぃいいっ」
 流動物は恐れていた。
「お前達に『何のつもり』何て無いんだろうな。だから俺も同情しない、じゃあな」
「やっ、ヤロカぁあッ!!!」
 光る目を持つ流動物達は伸び上がって岳に襲い掛かった。
 岳は動じず、青白く燃える扇子を横一文字に払った。逆巻く浄火に流動物達は一瞬で焼き祓われた。
「岳ちゃん!」
 寧々が駆け寄ると消耗した岳はよろめき、その大柄な体を華奢な寧々は必死で支えた。
「・・・いいカップルだわぁ、主人公とヒロイン感ある。早坂さんのポジション、憧れるな。自分でゴリゴリ戦うのは何かコレじゃない感があるわ」
 近くの古びた5階建てマンションの屋上から制服に面だけ被った結衣が来ていて、呟いた。近くに霧の姿のオンボノヤスと夜雀(よすずめ)を従えていた。結衣は面を取った。
「霞ヶ丘に戻ってすぐ慌てて来ちゅうが、自力で問題無いぜよ」
 夜雀がやれやれ、といった顔で言うと、
「送ったの、俺」
 オンボノヤスが即、訂正した。
「おんし、細かいのぉ」
「そこはもういいわっ。それよりあの化け物、『ヤロカ火(び)』だっけ? 本体を早く探さないと」
 結衣はポケットから紙の人形
(ひとがた)を十数枚は取り出した。

ヤロカ火 10

2016-06-22 18:17:35 | 日記
 燃え上がらせて体をねじ曲げて飛び掛かってきた子供を叩き払った。
「大丈夫かっ?」
「うん」
 駆け寄った岳が確認すると寧々が持っていたのは扇子だった。岳同様、青い火はもう寧々の手も、寧々が持っていた扇子も焼いてはいなかった。
「何で扇子?」
「ダンスの授業で日舞を選んだ。ストリートダンスは練習が激しくて疲れるから」
「ああ、寧々がストリートダンス踊ってるのは想像つかないな」
「・・・どういう意味?」
「いやっ、いい意味で」
 等と二人が話していると、撃退されて倒れている燃える手を持つ物達の口、鼻、目、耳等からボトボトと様々な淡水の水棲生物の群体のようにも見えないではない流動物を垂れ流し始め、それらが抜けるに従い手の燃えていた手の火は小さくなっていった。
「う、ううう、ヤロカ、ヤロカ、ヤロカァアアっ、ううっ」
 それぞれが光る目を持つ流動物は蠢きながら弱々しく呟いていた。
「出てきたのが本体、か?」
「あの人達、まだ生きてるっ!」
 完全に流動物が抜けると手の火は消えた。その手は酷く焼け爛れて意識を失っていたが、全員呼吸はしているようだった。しかし抜けた流動物もまだ近くで蠢いていた。
「寧々、あのネバネバしてるのに止めを刺す。扇子を貸してくれ」
「御守りは?」
「自分のは自分で持っててくれ」
 岳は少し笑って扇子だけ受け取った。
「大丈夫」
 不安げな寧々の頬に一度触れて、

ヤロカ火 9

2016-06-22 18:17:27 | 日記
 燃える手を持つ三体の接近に岳が右手に持った御守りが青白く燃え上がり出したが、以前のように火傷する事はもうなかった。
「使えるっ!」
 岳が御守りの火に気を取られていると、後ろの寧々が背を叩いてきた。
「岳ちゃん! 来てる来てるっ」
「おっ?」
 燃える手を持つ者達は岳の眼前に迫っていた。
「火ぃやろかぁッ!!」
 先頭の老婆が体をねじ曲げて叫びながら襲い掛かってきたが、岳は冷静に燃える手を避けて反撃に出た。老婆は顔面がガラ空きだったが、どう見ても人間が変質したモノであった為に岳は半歩回り込んで老婆の脇腹に御守りの火を纏った右の拳を打ち込んだ。

 ドォンッ!

 爆音と共に青白い炎が脇腹に炸裂し、老婆は後方へ吹っ飛んだ。
「やろかッ!」
 続けて会社員が躍り掛かってきた。老婆よりリーチがあり力もありそうだったが、以前相手した怪魚と比べれば余程相手にし易かった。岳は燃える手が『ただ燃えている訳ではない』と判断し、その手に触れず左手で肘を払い背後に回って背に右手の御守りの火を叩き込み、前方に吹っ飛ばした。
 動きについてゆけず、寧々が岳から離されると、最後の燃える手を持つ子供が襲い掛かった。
「やろかッ! 殺ろかぁッ!」
「寧々っ!」
 岳のフォローは間に合わない。燃える手の子供は寧々の体を掴もうとした。
「嫌だっ!」
 寧々は御守りと一緒に持った短い棒のような物を青白く