第八芸術鑑賞日記

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神童(4/21公開)

2007-05-15 01:45:00 | 07年4月公開作品
 5/6、シネマライズにて鑑賞。6.0点。
 さそうあきらの原作漫画は99年度の文化庁メディア芸術祭優秀賞および手塚治虫文化賞を受けており、最近の『のだめカンタービレ』が大ヒットする以前にすでに音楽漫画の金字塔として高い評価を受けていた作品。であるが、個人的には過大評価のように思えてならない。漫画という視覚のみに頼ったメディアにおいて、いかにして「音」を表現するかという試みが高く評価されているのだが、必ずしも優れた成果をあげているとは思えず、純粋な作劇上の要請による画作りが多いように感じる。とはいえ、作者自身が「エピソードによって音楽を表現する」ことを目指したと話しているので、ストーリーテリングの素朴な魅力をこそ讃えるべきかもしれない。
 以上は原作の話だが、この映画版はどうなのか。原作がエピソードで音楽を表現していたのに対し、映画では実際に音がでる。この当然の相違が、あまりにも決定的である。実際に音が出る以上、「奏者の精神状態によって奏でられる音が変わる」とか、単純に「上手い人と下手な人」とか、そういった違いも実際の音によって説得力を持たせなければならない。だが、この作品は一般人向けの商業映画だ。クラシックの素養を持った人ばかりを観客として想定するわけにはいかない。だから当然、素人でもわかるレベルで演奏の巧拙を変えてしまわなければならない。しかし素人というのは厄介な存在で、自分にもわかる範囲でレベルが変わったらそれはデフォルメされすぎだ、ということは頭で理解しているのである。だから、松山ケンイチ演じる青年の、音大入試での演奏と授業での演奏とのあまりにも明白なレベルの違いは、うそ臭く見えてしまう。
 そして、「神童」という言葉をタイトルに持ってきたにもかかわらず、成海璃子演じる天才少女の演奏が「神業」であることを実際の音によって説得力をもって表現することなど不可能だ、という根本的な問題が立ち塞がる。だから、彼女の演奏が神童によるものであることを表現するのは、「彼女の演奏を耳にした人々が周りに群がってくる」といった映像による記号的な演出でしかありえない。実際に音を出せない漫画というメディアを使った原作も困難な挑戦だったろうが、実際に音が出せてしまう映画というメディアでそのストーリーを再現しようとした本作もまた困難な挑戦だったに違いないのである。
 その意味で本作は、根本的、本質的に原作とは別物でしかありえない。そして、単体の作品として観るならば、どうしても高い評価は与えにくい。前述のように記号的な演出が多く、また全四巻の原作を丁寧になぞるでもなく大幅に変えるでもない脚本からは未整理な印象を受ける。一昔前の邦画に多かった(ような気がする)妙な間をおいた編集(台詞が終わったあと意味深げにカットをしばらく割らないというような)が多発するのも個人的にあまり好きでない。
 ただし、陰影を濃くした画面作りのシックな佇まいは非常に良い。また、終盤の展開において、言葉で解釈できるストーリーの枠をはみ出し、秘密の聖域を探す一種のファンタジーのように趣を変えるあたりも(一種の「逃げ」ではないかという反省は必要だろうが)映画版ならではの世界観を提示していて良い。

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