3月22日の日曜の深夜、NHK・BS2で音楽ドキュメンタリー「父の音楽~指揮者スウィトナーの人生~」が放送されました。2007年ドイツで製作されたドキュメンタリーである。
オトマール・スウィトナーの名前を聞いて懐かしさを憶えるのは私以上の世代であろう。NHK交響楽団の名誉指揮者として頻繁に来日していたが(旧)東ドイツを拠点にしていた為か東ドイツ消滅後、指揮活動の話を聞く事がなくなった。また番組でも紹介されたが病気(パーキンソン病)もあり引退同然になったようである。
スウィトナーは現在も私の好きな指揮者の一人です。彼の名前を知ったのは高校生の時、テレビでのスウィトナーの演奏会の放送であった。曲目はベートーヴェンの序曲「レオノーレ」第3番と交響曲第1番だった。クラッシック音楽の経験の浅かった私でもその音楽の素晴らしさは伝わってきました。そして東京での大学生時代、彼の指揮するNHK交響楽団の演奏会によく脚を運んだものである。
また、私はスウィトナーにたいへん感謝しなくてはいけないことがあります。私は大学3年までモーツァルトが全くダメでした。何とモーツァルトが苦手でした。そのような状態の頃、大学3年の時、スウィトナー指揮のベルリン国立歌劇場管弦楽団の演奏会を聴きにいきましたが、メインのブルックナーの交響曲第7番の演奏のあと、アンコールでモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」序曲が演奏され、短い曲ですが、たいへん感激しました。早いテンポの中での表情豊かなオケの演奏、そしてじっとしておれなくなるような迫力のあるコーダ。軽く見ていたこの序曲がこんなに凄い曲だったとは!まさに私のモーツァルト開眼の瞬間でした。
スウィトナーは1922年生まれですから現在87歳である。番組では往年の指揮姿の映像のオンパレードかと想像していましたが、見事に予想はずれでした。2007年当時のスウィトナーへのインタビューが中心でした。年齢の為、杖をつき、足元はぎこちない状態ですが言葉はたいへんしっかりとしており、あの眼光も昔のままだったのが本当にうれしかった。そして元気だった頃、指揮台に立ったベルリン国立歌劇場やバイロイト祝祭劇場を訪ねるシーンもありました。またバイロイトのオケのピットからステージを眺める映像もありオペラファンとしても興味深いものがありました。
一番好きな作品を聞かれモーツァルトの交響曲39番とヨゼフ・シュトラウスのポルカ「トンボ」の2作品を挙げたのは以外でした。この2作品を実際にベルリン国立歌劇場を訪ねた際、同オケを指揮した映像は胸を打つものがありました。病とはいえ、しっかりとした指揮振り、そして元気な声でオケに指示している姿をみていると本当に引退はもったいないと強く思いました。NHK交響楽団の名誉指揮者としての名前は現在も残っているので何とかならないものかと思いましたが、どうにもならないのでしょう。引退しているとはいえスウィトナーには、いつまでも元気でいて欲しいと念ずるのみである。
なお、この番組のスウィトナーへの聴き手は彼の一人息子がつとめていますが息子さんはスウィトナー姓ではありません。スウィトナーと彼の正式な奥さん以外の女性との子供である。バイロイトで指揮していた頃、知り合った女子大生との事で、奥さんと別れることなく、その関係は今も続いている。私が大学生時代、スウィトナーにサインをもらいに行った時、彼の傍らに女性が付き添っていましたが、間違いなく奥さんのほうでした。ベルリン国立歌劇場を訪ねた際の映像では何と奥さんと息子さんと、その母親の3人が同行していて、驚くばかり・・・
最後の私のお気に入りのスウィトナーのCDを3点
①ドヴォルザーク 交響曲第8番、交響曲第9番「新世界より」(ドヴォルザーク交響曲全集より) ベルリン国立歌劇場管弦楽団 (1982年、1983年録音)
②ウィンナ・ワルツ集(「美しき青きドナウ」など10曲) ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 (1979年録音)
③モーツァルト 歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」(全曲) ベルリン国立歌劇場管弦楽団 (1970年録音)
特に①のドヴォルザークの録音が大好きです。スウィトナーの表現力の豊かさ、スケールの大きさ、そして当時のベルリン国立歌劇場管弦楽団の底力が見事に合致した名演奏といってよいでしょう。