これが最強台風の猛威なのか…。史上まれにみる大きさを持つ台風19号が12日夜、伊豆半島に上陸し、関東を縦断して、猛威を振るった。千葉県市原市での竜巻とみられる突風と群馬県富岡市の土砂崩れや神奈川県のマンション浸水などで計8人が死亡、負傷者は27都府県の93人となった。土砂崩れや川に流されたことなどによる行方不明者は計14人に上った。多くの河川が氾濫し、周辺住民は避難を強いられた。大混乱となった首都圏の1日をドキュメントする。(被害状況は13日朝時点)

 混乱の序章は台風接近前から始まっていた。10日に投稿された「まだ上陸前なのに小笠原諸島ヤバすぎる…」とのツイートには、激しい嵐の到来を予期させる空模様が写った海辺の添付写真が…。これはデマだったが、13万以上の「いいね」が押されるなど一気に拡散し、これからやってくる巨大台風の脅威をあおった。

 事前に首都圏のJR・私鉄各社が計画運休を発表し、気象庁も数十年に一度の警戒レベルで最高の5になる「大雨特別警報」を午後3時30分に東京、群馬、埼玉、神奈川、山梨、長野、静岡の7都県に発令。同エリアに特別警報が発表されるのは初で、一気に緊迫した状況になっていく。

 さらに聞き慣れない“緊急放流”のワードが住民を襲った。未明から降り続く雨によって首都圏を流れる多摩川、荒川、相模川、入間川などで氾濫危険水位に到達する中、神奈川県が相模川上流に位置する城山ダムで、これ以上、水をためることができないため、下流に流す緊急放流を行うと発表したのだ。

 緊急放流を巡っては、昨年の西日本豪雨で愛媛県のダムで実施され、約3000棟が浸水し、8人が死亡した。緊急放流を伝えるNHKのアナウンサーの声がひと際大きくなり、相模川流域の住民たちは「死刑宣告」にも近い通告で、恐怖に陥った。結局、午後5時の放流は直前で回避されたものの午後9時半に実施。役所には「ウチのエリアは大丈夫なのか」と問い合わせが殺到した。

 その後も塩原ダム(栃木)など関東各所のダムで次々に緊急放流が実施された。気象庁のホームページで公開している洪水警報の危険度分布でも、首都圏の河川は危険度が高い赤や紫の毒々しい色に染まっていった。

 氾濫危険水位を超えていた多摩川は日も暮れた時間になって、その時が訪れた。SNSで「二子玉川付近で多摩川が氾濫した」「楽天本社は大丈夫か?」との情報が拡散され、間もなくして川沿いの道路が冠水し、窓付近まで水に漬かった車の映像がテレビで映し出されたのだ。

二子玉川から遠くない野毛(東京都世田谷区)にある新日本プロレス道場も床上浸水や停電に見舞われた。獣神サンダー・ライガーはツイッターで「荷物を2階に移動はさせましたが水は止まりません。どうなる道場!」とSOS。小池百合子都知事は多摩川周辺での人命救助のため、陸上自衛隊に災害派遣を要請した。

 二子玉川から多摩川を南へ5キロほど下った川崎市小杉町の武蔵小杉でも街中の一部が冠水した。二子玉川と武蔵小杉は近年、再開発やタワマン建設ラッシュで、“住みたい街”の上位につけ、セレブタウンと化していた。

 SNSでは「地形的に疑念があるのに大人の事情で作られた街」「これで楽天は(二子玉川から)移転するのでは」とやゆする声が上がるなど、今後の地価にも影響を及ぼしそうな悪夢を住民たちにもたらした格好だ

「日本が終わった」とヒヤリとさせる一幕もあった。台風の注意情報が錯綜する中、午後6時22分に千葉県南東部の鴨川市で震度4の地震が発生した。震源は千葉県南東沖で、先月の台風15号の爪痕が深く残る千葉県各地で震度3、東京23区でも震度3の大きな揺れで、ネット上は「こんな時に南海トラフ地震が来たら日本が終わる」「津波が押し寄せたら想像できない…」とざわついた。

 結局、大雨特別警報は過去最多となる13都県に及び、首都圏は史上まれにみる巨大台風の直撃を経験した。地球温暖化により、巨大台風の発生と上陸数は増えると予想されているだけに、今回の経験を今後の教訓にしたいところだ。