「五首選会参加(見本を兼ねて)」
自選
《水》五首
008:ジャム
あかねさすジャムの大瓶
倒れても漏れることなく
上澄みのみが
034:前
重心が前へと沈む
コンデンスミルクのような
沼地の靄に
035:液
液漏れの電池を腹に
ひきがえる這いずり出れば
濡れてゆく土
086:珠
カフェラテの渋みを前に
珠として凝る笑顔の
深さをおもう
(凝る=こごる)
095:申
さるすべり細かな花に
気怠さを申し立てれば
帰路に夕立
今年度の縛りは「三行歌」。
五七/五七/七 のリズムを、一度追求してみたかった。
読み返してみると、意外に水や液体に関する歌が多かったので、その中から五首。
なんか、どろりとした情景が多いですが、これは三行歌の特色などではなく、中村の心象風景によるものなのでしょうね。
自選
《水》五首
008:ジャム
あかねさすジャムの大瓶
倒れても漏れることなく
上澄みのみが
034:前
重心が前へと沈む
コンデンスミルクのような
沼地の靄に
035:液
液漏れの電池を腹に
ひきがえる這いずり出れば
濡れてゆく土
086:珠
カフェラテの渋みを前に
珠として凝る笑顔の
深さをおもう
(凝る=こごる)
095:申
さるすべり細かな花に
気怠さを申し立てれば
帰路に夕立
今年度の縛りは「三行歌」。
五七/五七/七 のリズムを、一度追求してみたかった。
読み返してみると、意外に水や液体に関する歌が多かったので、その中から五首。
なんか、どろりとした情景が多いですが、これは三行歌の特色などではなく、中村の心象風景によるものなのでしょうね。
001:呼
まどろみの尻尾を掴む
呼び水としての呼吸の
リズムの浅さ
「呼び水」というよりは「呼吸」の水分を感じます。
013:刊
浮き沈み毎度のあがき
棚に差す隔月刊の
まだ硬い角
「浮き沈み」
029:尺
戦前の長尺物の
雨の降るフィルムのなかに
河を見つけた
「雨」「河」
記録映画の中の「河」でしょうか。
100首の中で一番好きな歌です。
073:会場
会場は不意にしずまり
演台の縁を掴んだ
雄指の太さ
演台にある「水差しの水」が波立つのが見えるようです。
095:申
さるすべり細かな花に
気怠さを申し立てれば
帰路に夕立
「夕立」に夏が匂い立つような気がします。
あまり目にする事の機会のない分かち書きの短歌でしたが、
一行書き以上に、
韻律や音の強弱が感じられるような気がしました。
033:逸
夕光が炎に逸れて
湾岸の煙突群の
にじむ焦点
038:読
日だまりに読みさしを置く
くしゃみさえなければ多分
幸せだろう
048:負
頻繁に鼓動が狂う
ひさかたの負債整理の
光の中に
049:尼
中年の尼僧の窓辺
するすると刺繍の針の
描く光は
094:腹
本当に会えるだろうか
脇腹の部分を削いで
炙れば月夜
鋭さであったり柔らかさであったり、多様な形をとりつつどの光も瞬間を射止めるような静謐さをたたえているのがとても美しいなと思いました。
長歌のリズムを意識されたとのことで、31音を意識する際に新しい視点を得られ、面白く読ませていただきました。
湖に中心ふたつ
岸辺より産まれる靄に
波紋は届く
029:尺
戦前の長尺物の
雨の降るフィルムのなかに
河を見つけた
073:会場
会場は不意にしずまり
演台の縁を掴んだ
雄指の太さ
095:申
さるすべり細かな花に
気怠さを申し立てれば
帰路に夕立
099:聴
冷房を切れば窓から
隣室の歌が聴こえて
雨二三滴
昨年同様、一読して情景が浮かんだ歌を選びました。
意図してそういう歌を選んだというより、いいなと思う歌を取捨選択しているうちに、結果としてそうなりました。
さらにいえば、これらの歌からは音も聞こえてきますね。「073:会場」だけは静まり返った情景ですが、「演台の縁を掴んだ雄指の太さ」という下の句から、演者の熱を帯びた声が浮かんできます。
「005:中心」も、音はもう聞こえていない状態でしょうか。波紋をつくった音はすでになく、湖面に静かに波紋が広がっていく。そのさまが美しく描かれた一首だと思いました。
明らかに音が聞こえているのは「099:聴」ですね。冷房の音(これももう聞こえていない状態ですが…)、隣室の歌(鼻歌か、ラジオか、CDか。最初はCDとして読みましたが、鼻歌もいいな)、そして雨粒の落ちる音。複数の音が効果的に詠み込まれ、情景を際立たせていると思いました。
まどろみの尻尾を掴む
呼び水としての呼吸の
リズムの浅さ
きさらぎの一日。
題詠blog2015スタート。
詠眠状態に至るにはいま少しエンジンがかかるまでには暫し。はじめの一歩。しるす勇気の。
038:読
日だまりに読みさしを置く
くしゃみさえなければ多分
幸せだろう
ぼっこ。
ひなたに遊んでいればわたしの。わたしのための時が流れる。雨が降ってきたなら干している洗濯物を取りこまなくちゃ。
087:当
当てるため射るのではない
射るときは中るのだから
凪は無くとも
投壺。媚女ささげ持つ壺に矢を。狙い放たれる一矢。射た瞬間に定まる軌道。ヒットザターゲット。心の有り様。
098:独
年老いた独角獣の
秋口のふるえのように
蔦の影絵は
加速度の秋に至る前の初期微動。老,独,秋,ふるえ…とやがての冬を連想させる語の列なりを反転させる「蔦の影絵は」。そういう風に見えるマジック。多年に渡って若者たちを見守ってきた蔦の光陰。
099:聴
冷房を切れば窓から
隣室の歌が聴こえて
雨二三滴
中村さんの百首一見、風を感じました。風にのってメロディ。「呼び水」となり歌いだす。
「聴く」ではなく「聴こえて」くる歌に耳をすませば。
誰が歌っているんだろう?
なんていう曲だろう?
耳に届いた旋律に身をかたむける。
妹が嫁ぐ前に家族で行った温泉旅行。カーラジオからleyonaの歌う『500マイル』。アーティスト名も曲名も聞きそこなったホンダ・シビック。歌をもとめる旅路の果てのひとしずく。雨上がりの夜空に風韻。
ふかぶかと打たれた要
狂い無くそろう扇骨
ゆるやかに薙げ
015:衛
半眼の衛士は若く
槍の噴く錆じりじりと
篝を弾く
051:緯
陽とともに高まる鼓動
歳月の運ぶ経緯を
見たくはないか
087:当
当てるため射るのではない
射るときは中るのだから
凪は無くとも
094:腹
本当に会えるだろうか
脇腹の部分を削いで
炙れば月夜
中村さんのお歌は読めない漢字(単純に勉強不足)が多くて、ググりながらの鑑賞となりました。いやぁぁぁ。漢字が難しいければ内容も深い。
ということで、私なりに「武士」をテーマに選んでみました。
特に「要」という一首が好きで、「織田信長」を想像して読みました。どれもこれも力強いものを感じて最後には腹をくくるという形でしめくくってみました。
もっと漢字を勉強します・・・。
看板に偽りよあれ
騙されるため扉をひらく
心療内科
043:旧
たゆたいは行きつ戻りつ
旧かなのゐの字ゑの字の
うずを巻くさま
062:万年
鉢植えの鉢が割れれば
鉢植えの形どおりの
万年青の根群
077:等
平野部に降りしきる陽よ
等しさは不公平さの
象徴として
099:聴
冷房を切れば窓から
隣室の歌が聴こえて
雨二三滴
中村さんの歌は、量りにかけられるもの・ことへの抵抗や、微かなもの・弱いものの出す声を聴く……そんな歌が多い気がしました。043は子どもの昼寝の毛布を思い浮かべました。
まどろみの尻尾を掴む
呼び水としての呼吸の
リズムの浅さ
007:度
波のまま凍りゆく海
北天の星の深さで
緯度を測ろう
043:旧
たゆたいは行きつ戻りつ
旧かなのゐの字ゑの字の
うずを巻くさま
073:会場
会場は不意にしずまり
演台の縁を掴んだ
雄指の太さ
097:騙
一瞬に鼻は騙され
六歳の角の空き地に
いた雨上がり
中村さんのお歌は五感がフル活動!
第六感も必要かも(笑)
う~ん、「六歳の角の空き地」で中村少年はどんな匂いに鼻をぴくぴくしていたのだろう。
興味津々~
わんこ六歳の空き地は、おとなりの鉄工所の鉄粉の匂い、建具屋さんの木くずの匂い……
今ではあまり嗅げないなぁ(/ω\)
今年も五首選会開催、ありがとうございました。
このイベントがなければ、自分の100首も詠みっぱなし、みなさんの力作とも出会わずにいてしまうなんてもったいないことになってしまいますものね。
また、来年も参加できますようがんばります(^^)/
001:呼
まどろみの尻尾を掴む
呼び水としての呼吸の
リズムの浅さ
070:本
この生を本と変えれば
誤字脱字ときおり逆字
まあ読めはする
082:佳
佳歌はそうガードレールに
月光の映るがごとく
冷めるがごとく
095:申
さるすべり細かな花に
気怠さを申し立てれば
帰路に夕立
099:聴
冷房を切れば窓から
隣室の歌が聴こえて
雨二三滴
好きな歌を五首選んでみました。
三行歌に馴染みがなく、読むのに苦労しました。
三行に分かれているだけでこんなに感覚が違うものなのだなと驚きました。
それでも好きな歌はやはり目に留まるもので、中でも上記五首が特に好きでした。
中村さんのお歌は淡々とした印象の中にも、ずきりとしたりひやりとしたり、様々な手触りが隠されていて、油断ならない感じです。
今年も楽しい企画をありがとうございました!
魔女メディアおろかな雌獅子
愛ゆえに屠りつづけて
腕に抱くは
016:荒
鮭の身を荒くほぐして
和えまわすパスタとサルサ
無言のうちに
022:砕
山の端は星に斬られて
ぐずぐずと木だったものが
燠火を砕く
027:ダウン
ヘイ ウエィト ミスター・ダウン
濃密な靄の吸い取る
暖明色を
089:マーク
濁り眼のマーク・スペース
バドワイザーは瓶でなくちゃあ
口呑みにして
永田和宏さんは、「できるだけ滞空時間の長い歌を作りたい」と『作歌のヒント』の中で述べられていました。
滞空時間の長い歌とは何か。
漢字をかなに開いたり、固い漢語ではなく和語のやわらかい響きを用いたり等の例が挙げられていましたが、要するに「文字数の多い歌」の事なのではないかと思い至り、ここに選ぶ事にいたしました。
(一行の文字数で選んだので、分かち書きではなかったら結果は異なるかもしれません。)
こうしてみると、一首を長くするポイントはひらがなや和語ではなく和製英語ですね。
それにしても、分かち書きにされていると、同じ短歌であるはずなのに読む際に違う筋肉を使っている感じがします。
それ自体でかなりの滞空時間を生じさせているのではないでしょうか。
みなさんの100首にも出会え、自分の歌も見つめなおすことができるイベントなので、毎年参加させてもらえて本当にうれしいです。
来年は少し形が変わってくるかもしれませんが、また参加させてくださいね(´▽`*)