「チーちゃん」
雅夫は、酔っ払って自宅へ帰って来た。
「うぃー、ヒック、よう呑んだなー、全然覚えてないわ!」
「でも、ちゃんと家には帰って来てるもんね・・・」っとごきげんな様子。
雅夫は玄関に靴を放り出し、リビングに入って来た。
よっぽど呑んでいて、電柱にでもぶつけたのか、頭から、血がにじんでいる。
リビングに居るセキセイインコのチーちゃんに雅夫は話しかけている。
チーちゃんは、インコにしては結構よくしゃべる鳥で、「おはよう」「ただいま」、「おやすみ」など挨拶はもちろん、「愛してるわ」とか日常会話までも覚えて話すのである。
雅夫は、インコが「愛してるわ」っと言っているのを聞き、「あいつ、何をアホな事を覚えさせてるねん」っと笑って、自分も「アホか・・」っと突っ込みを覚えさせようと何回もするのだが、チーちゃんはそっぽを向いたままである。
「あれ、あんなに俺に懐いてたのに・・無視かよ・・」「酒臭いからやね・・」っと雅夫。そうしたら、チーちゃんは、「ケンジ好きよー」っと妻の声マネをしている。
雅夫は、「えっ、ケンジって誰やねん!!」そして「ケンジ、はやく・・・」っとだめ押しで言っている。
「あいつ、俺に隠れて浮気してるんかぁ・・・」っとその時、妻の咲子とケンジが玄関から入る音が聞こえてきて、とっさに雅夫は、クローゼットに隠れるのであった。
扉を少し開けて覗いてみると、リビングで妻の咲子が「ケンジ好きよー」っと声をあげ、ケンジに抱きついている。
二人がいちゃついているのを見た雅夫は、頭に来て、バーンっとクローゼットの扉を開け、二人に駆け寄り、「お前ら、どういう事や、人の家で何をさらしとるんじゃー」っとまくしたてるのであった。
しかし、二人は雅夫の声が聞こえなかったかのように、ケンジは、抱きつく咲子の腕を降ろして、「うまく行ったけど、あの男を轢いて、フロントガラスがボロボロになったから、ちょっと、車、隠してくるわ!」っと部屋を出て行った。
「早くしてね、祝杯のシャンパンを買ってあるから、待ってるわ」っと咲子は、雅夫の身体を通り抜けてキッチンへ行くのであった。