いままで、いわゆる「従軍慰安婦」問題について、その徴集や輸送を軍が主体となって行っており、内務省・警
察・地方長官がそれに便宜供与を与えていたことがわかった。
今回はそれが更に明瞭となっている文書を紹介したいと思う。それが内務省警保局「支那渡航婦女ニ関スル
件伺」(1938年11月4日)と警保局長「南支方面渡航婦女ノ取扱ニ関スル件」(1938年11月8日)である。
まず内務省警保局「支那渡航婦女ニ関スル件伺」について、前文は
「本日南支派遣軍古荘部隊参謀陸軍航空兵少佐久門有文及陸軍省徴募課長ヨリ南支派遣軍ノ慰安所設置ノ為
必要ニ付醜業ヲ目的トスル婦女約四百名ヲ渡航セシムル様配意アリタシトノ申出アリタルニ付テハ、本年二月
二十三日内務省発警第五号通牒ノ趣旨ニ依リ之ヲ取扱フコトトシ、左記ヲ各地方庁ニ通牒シ密ニ適当ナル引率
者(抱主)ヲ選定之ヲシテ婦女ヲ募集セシメ現地ニ向ハシムル様取計可相成候哉
追テ既ニ台湾総督府ノ手ヲ通ジ同地ヨリ約三百名渡航ノ手配済ノ報ニ有之」(財団法人女性のためのアジア平
和国民基金編 『政府調査 「従軍慰安婦」関係資料集成 1 警察庁関係公表資料 外務省関係公表資料』龍
渓書舎 1997年3月20日 77-79頁)
まず、南支派遣軍と陸軍省徴募課長より、南支派遣軍で「醜業」を行う慰安婦約四〇〇名を渡航させてほしい
という申し出が内務省にあり、内務省としては「内務省発警第五号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件」に基づい
て各地方庁へ連絡し、「密ニ」抱主を選定し女性の募集と渡航を行うことを取り計らう、というものである(内務省
発警第五号 支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件については拙ブログ「いわゆる「従軍慰安婦」問題について-その
また、台湾総督府により約三〇〇名の慰安婦が渡航手配済みであることがわかる。
そして内務省は、
「一,内地ニ於テ募集シ現地ニ向ハシムル醜業ヲ目的トスル婦女ハ約四百名程度トシ、大阪(一〇〇名)、京都
(五〇名)、兵庫(一〇〇名)、福岡(一〇〇名)、山口(五〇名)ヲ割当テ是ニ於テ其ノ引率者(抱主)ヲ選定シテ之ヲ
募集セシメ現地ニ向ハシムルコト
二,右引率者(抱主)ハ現地ニ於テ軍慰安所ヲ経営セシムルモノナルニ付特ニ身許確実ナル者ヲ選定スルコト
三,右渡航婦女ノ輸送ハ内地ヨリ台湾高雄マデ抱主ノ費用ヲ以テ陰ニ連行シ同地ヨリハ大体御用船ニ便乗現
地ニ向ハシムルモノトス。尚右ニ依リ難キ場合ハ台湾高雄屏東間ニ定期便船アルヲ以テ之ニ依リ引率者同行
スルコト
四,本件ニ関スル連絡ニ付テハ参謀本部第一部第二課今岡少佐、吉田大尉之ニ当 尚現地ハ軍司令部
峯木少佐之ニ当ル。
五,以上ノ外尚之等婦女ヲ必要トスル場合ハ必ズ古荘部隊本部ニ於テ南支派遣軍ニ対スルモノ全部ヲ統一
シ引率許可証ヲ交付スル様ニ取扱フコトトス(久門参謀帰軍ノ上直ニ各部隊ニ対シコノ旨示達ス)
六,本件渡航ニ付テハ内務省及地方庁ハ之ガ婦女ノ募集及出港ニ関シ便宜ニ供与スルニ止メ、契約内容及
現地ニ於ケル婦女ノ保護ハ軍ニ於テ充分注意スルコト
七,以上ニ依リ且 本年二月二十三日当局通牒ヲ考慮シ本件渡航婦女ニ対シテハ左記ニ依リ各地方庁ニ於テ
取扱ハシムルコト
(イ)引率者(抱主)、現地ニ於テハ責任アル経営者(抱主又ハ管理者)ヲ必要トスルニ付、醜業ヲ目的トシテ渡
航スル婦女ノ引率者ノ身元ハ特ニ確実且相当数ノ醜業婦女ヲ引率シ現地ニ到リ軍慰安所ヲ経営シ得ルモノヲ
選定スルコト〔欠落〕 ヲ南支派遣軍ニ対スルモノ全部ヲ統一シ引率許可証ヲ交付スル様取扱フコトトス(久
門参謀帰軍ノ上直ニ各部隊ニ対シコノ旨示達ス)
六,本件渡航ニ付テハ内務省及地方庁ハ之ガ婦女ノ募集及出港ニ関シ便宜ニ供与スルニ止メ、契約内容及
現地ニ於ケル婦女ノ保護ハ軍ニ於テ充分注意スルコト
七,以上ニ依リ且 本年二月二十三日当局通牒ヲ考慮シ本件渡航婦女ニ対シテハ左記ニ依リ各地方庁ニ於テ
取扱ハシムルコト(不取扱電話シ更ニ書面ヲ発送スルコト)」(前掲80-86頁)
とある(管理人注-「六」、「七」は二回あるがこれは間違いではなく原文のママである)。
これによれば、募集する「醜業婦」約四〇〇名の割当てを「大阪(一〇〇名)、京都(五〇名)、兵庫(一〇〇名)、
福岡(一〇〇名)、山口(五〇名)」と具体的に設定している。
そして、抱主については、現地で軍慰安所を経営することとなるので身元は確実な者を選定すること。
「醜業婦」は台湾経由で「南支」まで渡航すること。
この件に関する連絡、今後の「醜業婦」増加などについては軍が行うこと。
内務省・地方庁は渡航に関する便宜供与を行うだけであって、「契約内容及現地ニ於ケル婦女ノ保護ハ軍ニ
於テ充分注意スルコト」とある。
つまり、抱主の選定、「醜業婦」の徴集、渡航までは内務省・警察、地方庁が行うが、その後のことは軍が主体
となって行うことが明記されている。
つづく