あれはひと月程前の事でした。
その日、私は夜更かしをしていたんです。
ほんの少し、普段より暖かい夜でした。風も多少強いようで、カタカタと窓が揺れています。
不意に、ごとん、と音がしました。
けれど、何せわりあい古い家なので、風が吹けば家鳴りもするだろうと、私はさほど気にも留めませんでした。
風を受け、カタカタと窓が鳴ります。いつにない暖かさに屋根の雪がぼとりと落ち、融けかけた氷が砕ける音が聞こえます。
ふと見た時計は二時半を指していました。深夜です。私はすっかり夜更かしをしてしまったなと思い、いい加減寝なくては、と布団に入った時でした。
……音が、聞こえたんですよ。
風に揺れる窓の音でも、雪が落ちる音でも、家鳴りの音でもないんです。明らかに何かが歩いている音なんです。這っていると言った方が正しいかもしれません。
おかしいでしょう?その時はもう二時半だったんですよ?多くの人は寝ている時間帯です。一緒に住んでいる家族もすでに寝ていましたし、私だって、普段ならとっくに眠っている時間帯です。
そんな時間なのに、何かが部屋を動いているんですよ。私がいる部屋ではありません。別の……家族が寝ている部屋なんです。音が鳴ると言うことは、フローリングの部屋でしょう。仏壇がある……。
板張りの床を、何かが動く音が聞こえます。
ごとり……ごとり……。
ごとり……ごとり……ごとり……。
……そして、音に目覚めたのであろう家族の驚く声が聞こえ……そこで私の記憶は途切れました。
……。
「夜遊びしましたよ」
キャンってば……。
……イヤまあ、「あー、キャン脱出してる」と思いながらも睡魔に勝てなかった私も私だとは思うけど。
でも丑三つ時に水槽脱出して、真っ暗な部屋の中を歩き回って(発見時、甲羅がすっかり乾いていたらしい)、気が済んだから仏間で寝てる父を起こしに行くとか……。
って言うか、一体どこから脱出したんだろう?(謎)。
「ゆるゆる~」
気温が暖かくなってくると、カメも活動的になってきますね。