水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

涙のユーモア短編集 (7)埃(ほこり)

2023年08月21日 00時00分00秒 | #小説

 埃(ほこり)が目に入って涙が止まらなくなる・・ということが、たまにある。何も悲しくないのに止まらないのだから、これはもう、どうしようもない。^^
 とある町役場の総務課である。
「か、課長! ど、どうされたんですっ!!」
 突然、涙を流し始めた総務課長の堀田(ほった)を見て、課長補佐の山芋(やまいも)が驚いて声をかけた。
「い、いや、なんでもないんだ。ははは…ちょいと埃が目に入ってね」
 堀田は山芋に取り繕(つくろ)った。というのも、実は堀田が埃で涙したタイミングが悪かったのである。堀田は春の人事異動で次長の呼び声が高かったのだが、生憎(あいにく)、人事異動はなく、そのまま据(す)え置かれた翌日だったという経緯(けいい)がある。
 その数日前、二人の間にはこんな遣り取りがあった。
「ははは…もう二年ですから、必ず次長ですよ、課長!」
「そうかな、ははは…」
 堀田は、満更(まんざら)でもない照れた顔をしながら、よくぞ、言ってくれた…と、内心で山芋を褒(ほ)めた。ところが三日後は、まあ、そんな結果だった訳である。山芋としても、どう慰めていいものか…と思案していた矢先だった訳である。
「夜桜が眺(なが)められるいい店がありますから、今夜辺りどうです、課長っ!?」
 山芋は擂(す)り粉(こ)木で下ろしたような声で堀田を元気づけた。 
「ああ、有難う…」
 いいねっ! という気分で直(ちょく)に返した堀田だったが、涙を流しながら言ったものだから、他の課員達からすれば、落ち込んだ課長の言葉・・と、見て取れなくもなかった。
 埃の涙は、時として誤解を招くのです。^^

                   完


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