残月剣 -秘抄- 水本爽涼
《残月剣①》第九回
更には、乗せたまま、左右の腕を広げていく。その姿を前方より見れば、恰(あたか)も両手を高々と上げ、万歳した姿で剣を頭上高くに両手で掲げ持った様(さま)となる。それが新たに完成を見た構えで、暫し動きは止まった。次の一瞬、手指と手指の間に乗せられた刃は左手より離れ、柄(つか)を持つ右手のものとなった。そして、その右手は虚空で小さく一回転し、気合いの声もろとも、袈裟懸けに打ち下ろされていた。
「で、出来た…」
荒い息とともに、左馬介は思わずそう呟いていた。半年以上は必要となろう…と踏んでいた新しい剣技だが、案に相違して早く完成した。左馬介の心中は、信じられぬ喜びでうち震えていた。漸く西山へと姿を消そうとする残月が、名残りの月明りを放って幾本も乱立する竹の姿を鮮明に浮き立たせている。
「残月剣…」
ふたたび左馬介はそう漏らした。息遣いは先程とは違い、かなり落ち着きつつあった。左馬介は新しい技が完成したことを、一刻も早く師に伝えねば…と、思った。だが、道場へ戻れば鴨下や長谷川がいるのだ。このことを師へ最初に伝えるならば、二人には話せない。