水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<34>

2015年03月28日 00時00分00秒 | #小説

 山岳映画を世に出した木邑(きむら)監督が久々にメガホンを握る文芸大作である。すでに話す猫が主演という前評判が立ち、キャスト発表前からマスコミ界がもて囃(はや)し、報道合戦を演じていた。なんといっても世界で最初の動物が話すブッチギリ映画作品なのだ。そればかりか、学術関係者も興味 津々(しんしん)で、今世紀最大の研究対象として現場へ足を運んでいた。里山と小次郎が現れる会場やスタジオ、現場は、いつも押すな押すな! の盛況で、検問のガードマンが立つ事態となっていた。
「あの…里山さん、小次郎君は日本語の文字を読めますかね?」
 木邑監督が台本を持って一堂が会する顔合わせを兼ねた現場に現れた。監督が出番がないキャストも含め、全キャストを現場へ招集したのである。
「小次郎、どうだい?」
 里山は小次郎を腕に抱きかかえながら覗(のぞ)き込むように訊(たず)ねた。
『監督、申し訳ないんですが、僕は聞いて受け答え出来るだけの無能な猫でして…』
 小次郎は、木邑監督に人間語でそう返すと、末尾でニャ~とだけ愛想いい声で鳴いた。
「い、いや、そんなことは…。私も生涯で猫さんと話が出来るとは思っていなかったですよ! ははは…。里山さん、すまんですが、台詞(せりふ)は口移しでお願いします。小次郎君、暗記は?」
『ええ、それは大丈夫ですが…』
 木邑監督は、少し驚きながら微笑(ほほえ)んで頷(うなず)いた。その後、キャストが紹介され、各キャストの短い挨拶が行われた。


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