物事が固定せず、流動的だと雑念が湧きやすい。
この男、北岡も、そんな男の一人だった。
「今日は混んでるわね。北岡さん、まだ当分、かかるわよ、この調子だと…」
社員食堂で並んでいた北岡は、同じ課のキャリア・ウーマン南尾明代に後ろから声をかけられ、ギクッ! として振り返った。
「なんだ、南尾さんか…。いつもは外で食べてるから分からないんだよ。どれくらいかかるの?」
「そうね…。これくらいの並びなら20分ってとこね」
「そんなに?」
「ええ、急いでるの?」
「ああ、まあ…」
北岡は昼食を早く済ませ、部長の東山にヨイショ! しようと雑念を湧かせていたのだ。ヨイショ! するとは、東山がするゴルフの自慢話を聞くだけだったが、これがどうしてどうして、結構な効果があり、北岡はこの春の人事異動で課長代理代行に昇格したのである。それまでは課長代理代行補佐だった北岡にとって、なんとも嬉(うれ)しい出世だった。この次は課長代理だな…というのが北岡が目論む雑念だった。どうなるとも分からぬ先々の出世の雑念なら、別に急がなくてもいいようなものなのだが北岡は急いでいた。
その後がどうなったか? をお知りになりたいだろうが、残念ながら流動的なことなので私は、よく知りません。^^
完