水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑える短編集 -18- 何もしない

2022年04月03日 00時00分00秒 | #小説

 日曜の朝、アレコレと一週間分の家の雑事を片づけていた峰岡は、ふと、何もしないとどうなるか? …と思った。恐らく、家の中は汚れた洗濯物で溢(あふ)れる。する、しないは別にして、腹は当然、空(す)くから、食べない訳にはいかない。何もしないのだから、買い溜(だ)めた食べ物も減ってくる。そうこうするうちに、食べ物は底をつくことになる。戦国時代で例(たと)えるなら、大軍勢に囲まれ籠城(ろうじょう)する武将に等しい。
「申し上げますっ! 二の丸が敵の手にっ!」
「なにっ! 本丸は死守するぞっ!」
 というような事態が想定される訳だ。峰岡がそんなことを思いながらシナモン・ティーを飲んでいると、『ピンポ~~ン!』と玄関戸のチャイムが響いた。
「はい! 今、開けますっ!」
 ドタバタと峰岡が玄関へ急ぐと、半透明サッシの玄関戸に人影が映っていた。
『宅急便で~す!』
 峰岡が施錠を外(はず)して玄関戸を開けると、宅配員らしき若者が荷物を手に持ち、立っていた。三日ほど前にデパートで買った特売品のお掃除ロボだった。自分はなにもしないで、機械ロボットに掃除をさせよう…というのが峰岡の目論見(もくろみ)だった。峰岡は梱包(こんぽう)からお掃除ロボを出し、ニヤリ! と北叟笑(ほくそえ)んだ。
 ロボに掃除をさせ始めると、峰岡はゴロンとフロアに寝転び、その動き回る姿を片肘(かたひじ)ついて楽しんだ。ところが、である。しばらくすると、お掃除ロボはピタッ! と止まり、その後は動かなくなった。峰岡は手にしてアレコレ弄(いじく)ったが動く気配はなかった。買ってすぐ、故障かっ! と峰岡は怒れたが、怒っていても仕方がない。峰岡は梱包し直すと、送り返すべくデパートに電話をかけた。デパートも信用に関わる問題だから、すぐ取り換える旨(むね)の返答をし、送るか直接、持ってきてくれるよう峰岡に告げた。峰岡は宅配で送り返したあとの帰り道、何もしない訳にはいかないのか…と思った。帰宅した峰岡は、溜息(ためいき)を吐(つ)きながら箒(ほうき)でせっせとフロアを掃(は)き始めた。

                    完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする