人の行動は、なかなか予定通りにはいかないものである。だがそこで、挫(くじ)けることなく、それでも…とアグレッシブに動くのが気力である。気力が削(そ)がれれば、最初に動こうとした行動自体が無意味となる。
とある駅前の駐車場である。一人の男が予定が狂ったのか、自分の車の前で氷結したように呆然(ぼうぜん)と立っている。いや、立ち尽くしている・・と表現した方がいい落ち込み方だ。
「… どうされました?」
隣りの駐車スペースに車を止めていた男が車に乗ろうとしたとき気づき、声をかけた。
「い、いや、なんでもありません…」
「ああ、そうですか。それならよかった。じゃあ!」
男は車の前ドアを開け、乗り込もうとした。そのときである。
「あっ! あの、もし…」
「はあ? …はい、なんでしょ?」
「つかぬ事をお訊(き)きしますが、この左横で屋台を出されていた焼き芋屋さん、ご存知(ぞんじ)ないですか?」
「ああ、焼き芋屋さんですか。焼き芋屋さんならこの場所に樅(もみ)の木が植えられるそうで、裏地へ引っ越されましたよ」
「ああ、なるほど…。そういう変化でしたか。ははは…小さい変化でよかった!」
「えっ!?」
「いや、なんでもありません…」
男は、行動を変化させず、それでも立ち続けていてよかった…と、心の底で得心した。
変化が起こっても、それでもと、冷静に対処するのが、行動を上手(うま)くいかせる秘訣(ひけつ)のようだ。^^
完