朝から 街の一角の細いT字路で見も知らない同士が揉(も)めに揉めていた。ことの発端(ほったん)は、どちらが悪いとも言えぬ双方のうっかりした道路横断にあった。ちょうどその場の近くを巡回していたのが巡査の番頭(ばんず)だった。
「どうされました?」
番頭は口論している手代(てしろ)と丁稚(でち)の二人を窺(うかが)った。
「あっ! ええところに来てくれはったわ。ちょっと聞いとくんなはれ~」
コテコテの関西弁で丁稚が番頭に訴(うった)えた。
「それは、わての台詞(せりふ)やっ!」
手代は興奮気味に言い返した。
「まあまあ、お二人とも落ちついて…」
番頭は二人からコトの次第を聞いた。
「なるほど…。法律的にはオタクが悪いですが、街のルールで考えますとアナタが悪くなる。…まあ、ここは商店が並ぶアーケード街ですからなぁ」
二人の申し分には、双方とも一理(いちり)あった。番頭は困ってしまいワンワンと犬のおまわりさんのように吠(ほ)える訳にもいかず、首筋をボリボリと片手で掻(か)いた。
「わては、ええんですけどね。この人が、とやこう言(ゆ)うもんやさかい…」
「それは、こっちでっしゃろがっ! おまわりさん、わてのほうこそ、ええんですわ。この人が偉そうに言うさかい、つい…」
「まあまあ、お二人とも…。要するにお二人とも、ええ訳ですわな。ほな、それでよろしいですがな?」
「それは、そうですけどな。一応、この街のルールでっさかい」
「誰のもんでもない公道は公道でっしゃろがっ!」
「まあまあ、お二人とも…。私の顔に免じて、なかったことにしてもらえませんかね。もうじき本署へ帰れそうなんでね。荒げとうないんですわ、ぶっちゃけたとこ…」
巡査の番頭は帽子を脱いで二人に一礼した。
「そないな訳でしたら…なぁ~」
手代は丁稚の顔を見ながら同意を求めた。
「はあ、そうですわなあ…」
「お二人とも、有難うございます。ぅぅぅ…」
番頭は泣き出した。
「まあまあ、おまわりさん…」
どちらからともなく手代と丁稚は番頭を慰(なぐさ)め、立った角(かど)が丸まった。
完