水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

サスペンス・ユーモア短編集-99- カラスの足は黒くない

2016年09月21日 00時00分00秒 | #小説

 ここ尾亀(おかめ)署が建つ一角はカラスの大繁殖で至る所が糞(ふん)だらけになっていた。駐車場は申すに及ばず、ベランダ、最上部の屋上・・と、悪臭が漂い、捜査会議などが開ける状態ではなかった。会議に臨む刑事課の全員が背広姿にマスクでは、なんとも様(さま)にならない。そんなことで、でもないが、署内に換気装置が新たに設置されフル稼動する事態に立ち至っていた。
「おい、室畑(むろはた)! 今日はお前の番だったなっ。よろしく頼むぜぇ~~」
 ニタリと笑い、同僚(どうりょう)の麦川(むぎかわ)が室畑の肩をポン! と一つ叩(たた)き、課を出ていった。というのは、学校のようにカラスの糞掃除が当番制になっていて、各課が二(ふた)月づつ回り持ちで掃除をする決まりになっていた。そしてまた、その二月の約60日を各係の四係が15日づつ割り持っていた。さらにまた、その15日を各係員が分担する・・という日々の繰り返しだった。むろん、掃除担当の清掃業者は合い見積[アイミツ]を取る形で随意契約を結んでいたが、カラスの糞掃除は、さすがに契約に盛り込まれていなかった。当然、今日の掃除当番の室畑は捜査を離れることができたから、考えようによれば、まあある意味で骨休みにもなった。
 室畑はバケツの水をコンクリート地面に撒(ま)きながら、ゴシゴシ! と、柄の付いた束子(たわし)ブラシでカラスの糞を洗い流していた。
 ひと息入れ、動作を止めた室畑は、ふと、署の屋上に止まる一羽のカラスを見上げた。カラスは束子ブラシを持つ室畑の方を向き、カァカァ~と美声で挨拶した。
『いやぁ~旦那(だんな)、ご苦労さんです。いつも、ご迷惑をおかけし、すみませんねぇ~』
 カラスがそう鳴いているように、室畑には聞こえた。
「そういや、カラスの足は黒くねえな…。ヤツはシロかも知れん…」
 室畑は初めて気づいたように独(ひと)りごちた。

               完

  ※ カラスの足は黒くないのですが、外に吊るしたお正月用の神仏膳の干し柿は食べられますから注意しましょう! ^^


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