水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

短編小説集(13) 解毒<2>

2013年11月02日 00時00分00秒 | #小説

  篠口が冷蔵庫の水をコップ一杯飲んだとき、携帯がバイブした。着信は工藤からだった。
「篠口さん、今、どこですか?」
「俺か? …ああ、家だ。お前は?」
「私は駅前にいます。よかったら出てきて下さい。いつもの店で待ってます」
 篠口は腕を見た。すでに九時半ばになっていた。フリーズへは十分内外で行けた。
「よし! じゃあ十時でどうだ」
「いいですよ。先に入って待ってます」
 話はすぐに纏(まと)まった。
 背広を脱いだ姿での出会いはラフで疲れがとれるから、篠口はいつもそうしていた。工藤は決まりの背広姿だった。一張羅(いっちょうら)と見え、数年これ以外の姿を篠口は目にしたことがなかった。
「待たせたな」
「いや、私も今入ったばかりですから…」
 二人が話してるところへ若い女の店員が近づいて来た。
「そうか…。俺、腹減ったから、海鮮ピラフとミックスジュース。お前は?」
「私はアメリカン…」
「以上ですか?」
 常連だから深くは訊(き)かず、女店員は水コップを二つ置くとそのまま楚々と去った。
「昨日は、きつかったな」
「昨日は、じゃなくって、昨日も、ですよね」
「ああ、そうだな。…ここ最近、当たり前だ。どう思う?」
「どう思うって、やるしかないんじゃ」
「ノルマ制ができてから、半端なく疲れる」
「取らないと・・という気疲れもありますよね」
「そう…。お前とコンビだから、なんとかもってるが、一人なら、とっくに部外者だ」


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