代役アンドロイド 水本爽涼
(第111回)
狂わせたといっても、それはごく微細で、沙耶の異常感知機能もそのトラブルを捕捉することは出来なかった。結果、東京23区の人口数値の集積データを抽出したり、必要もないスクランブル交差点付近の人口を黒ギャルに訊(き)いたりしたのだ。とはいえ、壊れた訳ではないから、補助システムは作動していなかった。
スカイツリーを下りた沙耶が次に向かった先は国会議事堂である。いったい、どういった情報を得ようというのか、その意図は皆目、分からない。正直なところ、微細な異常事態が起こる以前の沙耶なら、そんな発想にはならなかったのではないかという行動だった。ここの見学コースは当然、予約が必要なのだが、そこはそれ、上手い具合に団体ツアーがいて、その中へ紛(まぎ)れ込んだのである。実は、それも偶然なのではなく、沙耶の集積データ解析によるものだった。前もって予約のデータを入手していたのである。これは保が入力したものではなく、最終プログラムのチップを入れ替えたその日以降、すなわち、後天的な沙耶独自の集積データであった。国会議事堂への一般見学者数及び団体数の過去一年間の月別数、日別数が全てデータとして集積されていた。
「あら? あなた、どなたでした? バスに乗っておられたかしら…」
突然、横を並走して歩く団体ツアー客の一人が沙耶に声をかけた。見るからに、いいところの奥様風である。
『えっ! あっ、はい。後部座席の方に…』
「そうでしたの。失礼しました、よろしくね、ホホホ…」
その老齢の奥様風は手に持ったハンカチで品を作り、小さく笑った。