あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百四十回
「そうでしたか…。まあ、お元気ならそれで結構です。ところで、私の立場なんですが、また変わるんでしょうか?」
『はい…。近々、またお忙しくなると思われます。まあ、悪いお話じゃなく出世話、とだけ申しておきましょう。では、この辺で。孰(いず)れまた…』
お告げが途絶えたのには訳があった。話をしているうちにエントランスが近づいてきたのだ。お抱え運転手つきの車は正面玄関に横づけされていたから、否応(いやおう)なく通用門ではない正面玄関へ回ることを余儀なくされていた。禿山(はげやま)さんの姿を見なくなったこともあり、通用門から出ることに抵抗はなかったが、なんとなく偉(えら)ぶっている風な自分が嫌だった。
「あのう…、今日も途中でお降りなんでしょうか?」
「えっ? ああ…いつものところで止めて下さい」
「はい! かしこまりました」
お抱え運転手の夕闇(ゆうやみ)君は、苗字とは真逆の明るい声で云った。若々しいアグレッシブな運転手で、このまま運転手にしておくのは惜しい…と、私には思えた。車はスムースに会社を離れた。夕闇君が明るいのには別の意味でもうひとつ、理由があった。いつものところというのは、みかん近くの道で、そこで降りる前には必ず途中の麺坊(めんぼう)でラーメンを奢(おご)っていたからだった。
第ニ百四十回
「そうでしたか…。まあ、お元気ならそれで結構です。ところで、私の立場なんですが、また変わるんでしょうか?」
『はい…。近々、またお忙しくなると思われます。まあ、悪いお話じゃなく出世話、とだけ申しておきましょう。では、この辺で。孰(いず)れまた…』
お告げが途絶えたのには訳があった。話をしているうちにエントランスが近づいてきたのだ。お抱え運転手つきの車は正面玄関に横づけされていたから、否応(いやおう)なく通用門ではない正面玄関へ回ることを余儀なくされていた。禿山(はげやま)さんの姿を見なくなったこともあり、通用門から出ることに抵抗はなかったが、なんとなく偉(えら)ぶっている風な自分が嫌だった。
「あのう…、今日も途中でお降りなんでしょうか?」
「えっ? ああ…いつものところで止めて下さい」
「はい! かしこまりました」
お抱え運転手の夕闇(ゆうやみ)君は、苗字とは真逆の明るい声で云った。若々しいアグレッシブな運転手で、このまま運転手にしておくのは惜しい…と、私には思えた。車はスムースに会社を離れた。夕闇君が明るいのには別の意味でもうひとつ、理由があった。いつものところというのは、みかん近くの道で、そこで降りる前には必ず途中の麺坊(めんぼう)でラーメンを奢(おご)っていたからだった。