水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百四十回)

2011年02月21日 00時00分00秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百四十
「そうでしたか…。まあ、お元気ならそれで結構です。ところで、私の立場なんですが、また変わるんでしょうか?」
『はい…。近々、またお忙しくなると思われます。まあ、悪いお話じゃなく出世話、とだけ申しておきましょう。では、この辺で。孰(いず)れまた…』
 お告げが途絶えたのには訳があった。話をしているうちにエントランスが近づいてきたのだ。お抱え運転手つきの車は正面玄関に横づけされていたから、否応(いやおう)なく通用門ではない正面玄関へ回ることを余儀なくされていた。禿山(はげやま)さんの姿を見なくなったこともあり、通用門から出ることに抵抗はなかったが、なんとなく偉(えら)ぶっている風な自分が嫌だった。
「あのう…、今日も途中でお降りなんでしょうか?」
「えっ? ああ…いつものところで止めて下さい」
「はい! かしこまりました」
 お抱え運転手の夕闇(ゆうやみ)君は、苗字とは真逆の明るい声で云った。若々しいアグレッシブな運転手で、このまま運転手にしておくのは惜しい…と、私には思えた。車はスムースに会社を離れた。夕闇君が明るいのには別の意味でもうひとつ、理由があった。いつものところというのは、みかん近くの道で、そこで降りる前には必ず途中の麺坊(めんぼう)でラーメンを奢(おご)っていたからだった。

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