温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

羽根沢温泉 加登屋旅館

2020年04月26日 | 山形県

今回記事から山形県へと移ります。前回記事の岩手県巣郷温泉はアブラ臭の強い温泉として温泉愛好家の間では有名ですが、今回取り上げる山形県最上地方の羽根沢温泉もまた鉱油の匂いが強い温泉として夙に知られており、私もこの手の温泉が大好きであるため、拙ブログでは今まで何度か取り上げております。当地には1つの共同浴場と3つの温泉旅館がありますが、今回訪れたのは3つある旅館のうち真ん中にある「加登屋旅館」です。バス停や駐車場から最も近く、宿の名前に「湯元」という魅惑的な語句を冠しています。今回は日帰り入浴で利用させていただきました。帳場で入浴をお願いしたら女将と思しき女性の方が快く歓迎して下さいました。


建物はかなり年季が入っており全体的に草臥れている感は否めませんが、フロント右手のロビーはなかなか広く、その一角に設けられた休憩スペースでは、囲炉裏と一体化した大きな木のテーブルが置かれ、昭和の頃のスナックを彷彿とさせるベロアのソファーがその周りを囲んでいました。
浴場の入口はこの不思議な休憩スペースと帳場の間にあり、脱衣室は6~8畳ほどの広さで、古いながらもきちんとお手入れされており、どなたも問題なくお使いいただけるかと思います。


浴場は本棟に隣接する多角形状の建物で、それを男女で二分するような構造をしています。浴場外周の窓ガラスは二重になっており、二枚のガラスに挟まれた間のスペースには砂利が敷かれて石庭のような設えになっているのですが、肝心なガラスが汚れており、その坪庭も放置されているみたいで、少々残念に思いました。


浴場棟の屋根を見上げると、この建物は八角形であることがわかります。この八角堂の中心で太い柱が屋根を支えており・・・


その円柱の周りには洗い場が配置されています。水栓は4基ほど設けられ、そのうち半分にはシャワーが備え付けられていました。


男湯と女湯との仕切りにはステンドグラス調のアクリル板が採用されています。そのアクリル板の下を浴槽が貫通しているので、浴槽は男女で一体になっているのでしょう。


浴槽は窓側に沿って円弧を描いており、上述のように女湯側と一体になっているようなのですが、男湯側だけでも10人以上は余裕で入れそうなキャパシティを有していますので、全体としてみると相当の大きさなのではないかと思われます。


男女の仕切りの近くにパイプが突き出ていて、そこからお湯がトポトポ注がれています。そして浴槽を満たしたお湯は、湯口傍の縁から溢れ出ており、オーバーフローが流れる浴槽の縁は赤茶色に染まっていました。浴槽のお湯は薄らと白い笹濁りを呈しており、湯中では褐色や灰色の小さな浮遊物ちらほら舞っています。ちなみに羽根沢の共同浴場では黒くて大きな羽根状の湯の花が見られますが、こちらのお風呂でそのような大きな湯の花は確認できませんでした。

湯口のそばにコップが置かれていたので、試しにお湯を飲んでみますと、はっきりとした塩味と出汁味、ほろ苦み、卵黄味、そして羽根沢らしいアブラ臭が感じられ、お湯をゴクンと飲み込んだ瞬間に、喉から鼻へアブラの匂いが抜けていきました。大正時代に油田を掘ろうとしたらお湯が出てきちゃったのがこの温泉地の端緒ですから、お湯から鉱物油の匂いが漂ってくるのは至極当然と言えましょう。
たしかにこのアブラ臭は羽根沢温泉の特徴なのですが、この石油感以上に素晴らしいのが、ウナギ湯と称したくなる極めて滑らかな浴感です。多くの方が異口同音に仰っていますが、湯中ではまるでローションを思わせるようなニュルニュル浴感が得られ、湯浴みすると誰にもがトロトロしたお湯にウットリすることでしょう。非常に気持ちの良いお湯であり、且つ私の入浴時は若干ぬるめの湯加減でしたので、いつまでも長湯したくなりましたが、食塩泉なのでいつの間にか火照り、軽く逆上せかかってしまいました。日帰り入浴ですし、長湯は体に宜しくありませんから、適度なところでお風呂から出なければなりませんが、あまりに良いお湯であったので後ろ髪をひかれてしまい、浴室から出ることをつい躊躇ってしまいました。宿泊すれば休憩をはさんで何度も入れますから、いつか泊まって思う存分トロトロのお湯を堪能したいものです。


含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉
45.2℃ pH8.4 蒸発残留物3196mg/kg 溶存物質3622mg/kg
Na+:1178mg,
Cl-:930.7mg, Br-:3.6mg, I-:0.5mg, HS-:1.8mg, S2O3--:1.0mg, HCO3-:1402mg, CO3--:29.9mg,
H2SiO3:35.3mg, CO2:9.4mg,
(平成26年1月10日)

山形県最上郡鮭川村中渡1312
0233-55-2525
ホームページ

日帰り入浴8:00~20:00
400円
ロッカー、シャンプー類、ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

巣郷温泉 でめ金食堂 2019年秋再訪

2020年04月19日 | 岩手県

日本全国にいらっしゃるアブラ臭温泉マニアの皆さん、お元気でしょうか。日本にはアブラの臭いを発する温泉が各地に点在していますが、なかでも秋田との県境付近にある岩手県の巣郷温泉は、アブラ臭が強い温泉として皆様のような変態マニアの間では夙に有名であり、とりわけ「でめ金食堂」のお風呂はお湯の匂いの強さや独特の佇まいがマニアたちの間で評判です。全国からやってきたマニアたちはこのお風呂から発せられるアブラ臭を嗅ぎ、その刺激的な「芳香」に狂喜乱舞し、満足して帰っていくのですが、かくいう私もそんな変態野郎の一人。拙ブログでも2010年に一度記事にしていますが(当時の記事はこちら)、それ以来何度か利用しており、2019年秋にも訪れましたので、今回はその時のことをレポートしてまいります。


施設名からわかるように、こちらはあくまで食堂に過ぎず、入浴施設でも宿泊営業を行っているわけでもないのですが、食事をして自分から申し出れば、食堂の奥にあるお風呂で温泉に入ることができます。国道の路傍に建つ店名を記した看板には温泉マークが付けられており、わかる人にはわかる感じでアピールしているんですね。


さて私が訪ねたのは秋の連休のお昼時。観光シーズンですから格好の稼ぎ時なのかと思いきや、意外にもお客さんは私だけ。昼なのに薄暗く店内にはテレビの音声が響き、奥の座敷ではおばあちゃんがぼんやりとテレビを眺めていました。テレビが見やすい席についた私が注文したのは焼肉丼(710円)。いかにも東北らしい濃いめの味付けで、お漬物を除けば野菜類は無く、管理栄養士の方から叱られちゃいそうな中身ですが、お腹が空いていたのであっという間に平らげてしまいました。
いや、空腹だったからというより、その先の目的に早く到達したかったのかもしれません。あらかじめ注文の際、食後にお風呂へ入りたい旨を伝えておいたので、食べ終えてお金を支払った後、お店のおばちゃんはスムーズにお風呂を案内してくれました。


お風呂は厨房の右脇から狭く雑然としている勝手口のような所を抜けた先にあります。いままで何人の温泉マニアがこの通路を行き来したことでしょう。奥には浴室らしきドアが2つ並んでいて、片方には「入浴中」の札がさげられていますが、他方にはありません。とはいえ後者のドアの先は物置になっているので、ここで迷うことはないでしょう。
ドアを開けて物置っぽい空間を通過し、タイル貼りの狭いお部屋に入ります。草臥れたソファーが置かれたこの部屋は脱衣室として使われていますが、タイル張りであるところから推測するに、かつては浴室だったのではないでしょうか。つまり、かつて浴室は2室あったのでしょうけど、ひとつを潰して今の脱衣室にし、2つ浴室を仕切っていた壁に扉を設け、脱衣室に変更した旧浴室から隣の浴室へ移れるようにしたのかと思われます。この脱衣室の時点で既にアブラ臭が香っており、お湯を見る以前の段階から既に興奮状態に突入してしまいました。


脱衣室から浴室のドアを開けた瞬間、巣郷温泉らしい濃厚且つ刺激的なアブラ臭に全身が包まれました。まさに恍惚のひと時。脳天からクラクラきちゃいます。堪りません。
でもしばらく来ない間にこのお風呂も相当お疲れが進んでしまったようです。たとえば窓枠。歪んで斜めになっているため、窓を閉めても完全に閉まりません。この日の外気温は7℃で虫は皆無でしたが、夏になれば虫が相当入り込んでくるのではないかと心配になります。そもそも窓枠どころか浴室全体が傾いでいるような気もします。果たしてこのお風呂はいつまで使えるのかしら…。そんな不安を抱きながら、一つしかないシャワーからお湯を出したら、あまりに熱いボイラーの沸かし湯が出てきてビックリ。浴室の心配などしている場合じゃなかったのでした。


壁には色褪せた出目金の絵。この絵は前回の拙ブログの記事でも紹介しましたね。こちらもすっかり色が薄くなってしまった…と申しあげようとしたのですが、10年前の画像と比較したら、今も以前もちっとも変っていませんでした。


浴槽も以前と全く変わっていません。カラフルなタイルで描いた勾玉を向い合せたようなユニークな意匠をしており、1~2人サイズの小さいもの。源泉から引かれてきたお湯は、黒く変色した蛇口からパイプを通って、特徴的な浴槽の中で投入されています。そのお湯は全く加水されておらず、100%純粋な温泉だけ。当然循環なども行われていない完全かけながしの湯使いです。見た目はほぼ無色透明ですが、若干白く靄がかかっているような微濁を呈しており、白い湯の花のようなものがちょっとだけ浮遊していました(もしかしたら異物かも)。私の訪問時は投入量を絞っていたためか、若干ぬるめの湯加減でしたが、おかげでじっくり長湯でき、思う存分アブラ臭を嗅ぎまくってしまいました。お湯からはうす塩味と苦味、そして灯油を思わせる強いアブラ臭が感じられます。とても強い匂いであるため、あたかも温かい鉱油の中に入っているような感覚になるのですが、長湯しているうちに匂いに慣れてしまい、入った瞬間に得られた刺激が徐々に減ってしまったのも事実。もっとも、この匂いを嗅ぎ続けたとしても、何らかの中毒にかかるわけではないので、問題ないのですけどね。湯中では比較的ツルツルする滑らかな浴感が得られ、同時に少々の引っかかりも感じられました。食塩泉であると同時に、硫酸塩が含まれていることが、このような複雑な浴感をもたらす要因でしょう。

巣郷温泉では循環や加水などを行っている施設が多いので、こちらのように手が加えられていない状態のお湯に入れるお風呂は大変貴重です。でも食堂がいつまで営業を続けてくれるか、お風呂をいつまで利用できるか、今回の訪問で少々不安を覚えてしまったのですが、私の杞憂を吹き飛ばしてくれるよう、これからも頑張って営業を続けていただきたいものです。

分析表の掲示なし (おそらくナトリウム-塩化物・硫酸塩泉)

岩手県和賀郡西和賀町巣郷159-14
0197-82-2830

食事をすれば無料
石鹸あり(その他は無し)

私の好み:★★★
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

志賀来温泉 およねの湯 沢内バーデン

2020年04月14日 | 岩手県

今回も岩手県西和賀町の温泉を巡ります。
前回記事の槻沢温泉から更に北上し、志賀来山という山の麓にやってまいりました。お椀をさかさまにしたような形をしているこの山にはスキー場が広がっているのですが、麓では温泉が湧いており、そのお湯に入れる宿泊施設「沢内バーデン」を利用するためこちらへと足を運んだのでした。
こちらは2棟がつながった構造をしており、左側が温泉、右側がレストランになっています。そして同じ敷地内の手前には老人福祉施設も設けられています


錐形の屋根が印象的なロビーは天井が高くて広いのですが、どことなく田舎臭いような、平成初期の中小規模レジャー施設に見られたような少々古い感じが否めません。館内の印象のみならず、そこで働くスタッフの方の姿もやっぱりアナクロ的と申しましょうか、フロントで対応して下さる女性スタッフは、昭和の事務職員みたいな制服を纏っていらっしゃいました。この方に日帰り入浴したい旨と県外から来たことを伝え、料金を直接支払います。ロビー内の物販コーナーを抜けた先がお風呂です。なお浴場入口の手前には螺旋階段がありますが、そこを登った先にあるのは有料の休憩スペースです。


暖簾を潜った先の脱衣室も広い空間が確保されています。室内には畳が敷かれた休憩用小上がりが用意されています。私の利用時はどなたもいらっしゃいませんでしたが、普段でしたらおそらくここで常連のおじいさんが横になって、皺々の股間にタオル一枚かけて歯ぎしりをしながら風呂上がりの体を休めているのでしょう。なおこちらに設置されているロッカーは大きなタイプのものですから大きな荷物を持ちながらの利用も支障ありません。その一方、洗面台に備え付けられているドライヤーは1台のみでした。


脱衣室の大きさから容易に想像できるように、浴室もまた大変広く、大きな連続窓のおかげで明るく開放的な入浴環境が生み出されています。私のように初めて訪問する客は、その広さ故に戸惑い、どこからどう利用したらよいのか、ちょっと迷ってしまうでしょう。


大きな窓と反対側の壁に沿って洗い場が配置されています。入口を挟んで左右に分かれており、5+8の計13個のシャワー付きカランが並んでいます。なおシャワーから出てくるお湯はおそらくボイラーの沸かし湯です。


浴室内には後述する主浴槽と、上画像に写っている副浴槽の2つがあり、最も奥にあるこの副浴槽は幅1.8m×奥行4mほどの大きさで、深めの造りで入り応えあり。なお湯加減はぬるめにセッティングされていましたので、長湯したい人にはもってこいでしょう。


一方、場内の中央に据えられた主浴槽は大小2つに区分されており、小さな方は1.8m×3mほどの大きさでちょっと熱めの湯加減。他方、大きな槽はおおよそ6m×3mの大きさで万人受けする湯温に調整されていました。両方とも若干深めの造りで肩までしっかり湯に浸かることができ、副浴槽同様に入り応えがあります。


このお風呂で面白いのが、場内の片隅に設けられている上画像の源泉サウナ。温泉を霧状に噴霧させることにより、狭い室内に温泉の湯気を充満させているのです。いわゆるミストサウナですね。特段温泉の匂いが漂っているわけではないので、温泉だと言われないと単なるミストサウナとしか認識できないかもしれません。また一般的なミストサウナに比べると温度がやや低いような気もします。でもその分、体への負担は軽いので、誰でも気軽に使えますね。自分の全身や呼吸器内に温泉を思う存分浸透させることができるので、温泉マニアとしては嬉しい設備です。


浴室右奥のドアを開けた先には、露天風呂が設けられていました。この露天風呂はベランダみたいな場所に作られており、屋根もしっかりかかっています。当地は豪雪地帯ですから、冬に雪で埋もれないようにするための設計なのでしょう。とはいえ、訪問時(外気温8℃)は非常にぬるく、正直湯浴みできるような状態ではありませんでした。湯口から出るお湯は熱いのですが、投入量が多くないので、湯船で冷めちゃうのでしょう。でも目の前には山肌の樹林が広がっているので、夏には森林浴を兼ねながら気持ち良く入浴を楽しむことができそうです。




上2枚の画像はそれぞれ浴室内の大小各浴槽に温泉を注いでいる湯口です。いずれも同じ源泉のお湯を吐出しています。お湯は無色透明で綺麗に澄んでおり、湯の花などの浮遊物は見当たりません。分析表によれば石膏を多く含んでおり、無色透明の硫酸塩泉にしては溶存物質量もそこそこ多いのですが、特段石膏感が強いわけではなく、神経を研ぎ澄ますと石膏らしい匂いと味が感じられます。なお館内表示によれば塩素消毒しているとのことですが、私の感覚では特に気になりませんでした(私の感覚は鈍感なので、あまりアテにしないでくださいね)。湯船に入ると、硫酸塩泉らしい引っかかるような浴感が得られるのですが、そればかりではなく、サラっとアッサリしているような感覚も同時に肌へ伝わってきました。
各浴槽とも循環は行われておらず、全量をかけ流しています。お湯は常時浴槽縁付近のグレーチングへ静々とオーバーフローしているのですが、私が湯船に入ると勢いを増して溢れ、グレーチングだけでは排水処理が間に合わず、洗い場までお湯が流れていきました。

建物もお風呂もひと昔前の公共施設然とした造りで、温泉風情のようなものは薄いのですが、大きく開放的でお湯の質も良く、しかも人里から離れている立地ゆえに空いていることも多いようなので、宿泊の地としても日帰り入浴利用の場合も、穴場としておすすめできるかと思います。


カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉 60℃ pH8.4 溶存物質1.906g/kg 成分総計1.907g/kg
Na+:221.3mg(36.63mval%), Ca++:331.9mg(62.99,mval%),
Cl-:37.1mg(3.82mval%), HS-:0.3mg, SO4--:1244mg(94.32mval%), CO3--:4.5mg,
H2SiO3:47.4mg,
(平成25年8月1日)
加水加温循環ろ過なし
消毒あり(衛生管理のため塩素剤を使用)

岩手県和賀郡西和賀町大野17-140
0197-85-2601
ホームページ

日帰り入浴10:00~21:30 第3水曜定休
440円
ロッカーあり(有料100円。ただし大きなロッカーのみ。貴重品はフロント預かり)、シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

槻沢温泉 砂ゆっこ

2020年04月09日 | 岩手県

前回に引き続き岩手県西和賀町の温泉を巡ります。今回訪ねる槻沢温泉は湯田湯本温泉から川をちょっと遡った左岸に位置しており、他の温泉街から離れているものの、一応湯田温泉峡のひとつとして扱われているようです。私が訪ねたのは集落の中央にある入浴施設「砂ゆっこ」です。その名の通り砂蒸し風呂が売りの施設であり、平成2年に開業した当時の東北では初めての砂風呂だったそうです。町内で産出される天然珪砂を用い、80℃以上で湧出する温泉の熱を使って加熱しています。地元の自然の恵みを生かした施設なんですね。

まずは受付で直接料金を支払うのですが、その際に入浴だけか、あるいは砂風呂にも入るのかを申し出ます。今回私は時間の都合で、砂風呂を利用せず温泉入浴のみでお願いしました。すると受付の方は一旦動きが止まり、不思議そうな目でこちらの様子を窺いながら「入浴だけで宜しいんですね」と確認してきました。どうやら、このお風呂を利用する非地元客の多くは温泉入浴と砂風呂をセットで申し込むようです。せっかくの売りを体験しないでごめんなさい。
なお受付の隣には休憩用の広いお座敷があり、お水が無料で提供されています。風呂上がりのお休みにつかえますね。

脱衣室は一般的な公衆浴場そのもので、比較的コンパクトな造りです。なお温泉入浴客はもちろんのこと、砂風呂利用のお客さんもこの脱衣室で浴衣に着替え、浴室を通過して砂風呂へ向かうことになります。ロッカーは脱衣室内ではなく、その手前の入口横に設置されています。


タイル貼りの浴室は綺麗にお手入れされており、気持ち良く使えます。入室した瞬間にちょっと塩素臭がしたのですが、おそらく清掃時の消毒処理によるものでしょう。この浴室の奥に砂風呂があり、利用客は浴衣姿でこの浴室を通過することになります。


男湯の場合、入って右側に洗い場があり、シャワー付きカランが5基並んでいるのですが、それぞれの間隔が広いので隣客と干渉せずとても使いやすい造りになっていました。またシャワー下の物を置く棚には長いまな板のような厚い一枚板が用いられており、無機質になりがちなタイル張りの浴室にビジュアル的なぬくもりをもたらしていました。林業が盛んな土地らしい工夫と言えましょう。


洗い場と反対側には浴槽が設けられています。シャワーの下と同様、こちらの縁にも木の一枚板が載せられており、見た目が温かく、また実際に触れた感じも優しく、寛ぎの空間に相応しい役割を果たしています。
この浴槽は大小に分かれており、小さな方は奥行き2メートル少々で幅1.2mくらいの2人サイズ。湯加減は熱めです。一方、大きな方は奥行き2メートルで幅2.5mくらいの4人サイズ。一般的な適温のお湯が張られています。


小さな岩が組まれている湯口から無色透明のお湯が大小それぞれの浴槽に向けて注がれていました。その岩には白い析出がこびりついており、透明なお湯を見ただけではわからない温泉成分の濃さが伝わってきます。なお源泉温度は80℃以上あるため、温度調整のため加水されているそうですが、それでも湯口から出るお湯は結構熱いので、直にお湯を触らない方がいいかもしれません。
湯使いは放流式で循環されていないものの、上述のように加水されており、もしかしたら消毒剤が投入されているかもしれません(あくまで私の推測ですので誤っていたらごめんなさい)。湯口の岩についた白い析出からもわかるように、お湯からは芒硝の味や匂いがしっかり感じられ、湯船に浸かるとピリっとした感触が肌に伝わるほか、肌を擦ると少々引っかかるも浴感も得られます。とてもよく温まる力強いお湯です。

冒頭で述べたのように、こちらを訪ねるお客さんの多くは砂風呂が目当てらしく、私は日曜日の朝9時前に入館したのですが、そんな早い時間なのに砂風呂利用者が複数人いらっしゃって、湯船に浸かる私の目の前を、浴衣姿のお客さんが次々に砂風呂ルームへと向かっていきました。私は鹿児島県指宿で何度か体験しているので、ここでは利用しませんでしたが、たしかに珍しい施設なのでわざわざここまで来る方もいらっしゃるのでしょうね。


熱めの湯船に入りながら砂風呂へ行くお客さんの様子を見ていたら、体がちょっと逆上せてしまいましたので、お風呂上がりに休憩室を利用させていただきました。


受付でご当地の湯田牛乳(85円)が販売されていましたので、これを一気飲み。うまい!


「砂ゆっこ」から出て車に乗ろうとしたとき、さほど離れていないところから白い湯気が朦々と立ち上っていることに気付いたので、もしかしたら・・・と思ってその場所へ行ってみることにしました。
案の定、その場所は槻沢温泉の源泉施設でした。



汲み上げられた温泉がタンクに注がれ、そこから施設へと配湯されているのですが、施設内では熱々のお湯が垂れ流されていました。先述のように源泉温度は80℃以上あるので、もしこの源泉施設を見つけても、危険ですから決して垂れ流しのお湯に直接触れないでくださいね。

槻沢温泉(1号泉)
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 87.8℃ pH8.1 150L/min(掘削動力揚湯) 溶存物質1.914g/kg 成分総計1.914g/kg 
Na+:443mg(70.59mval%), Ca++:147mg(26.89mval%),
Cl-:248mg(26.32mval%), HS-:0.4mg, SO4--:906mg(70.90mval%), HCO3-:28mg, CO3--:0.4mg,
H2SiO3:108mg,
(平成28年7月5日)

岩手県和賀郡西和賀町槻沢25-16-8
0197-82-2500
株式会社西和賀産業公社ホームページ
砂風呂については本記事で紹介できなかったため、詳しく知りたい方は上記サイトでご確認ください。

4月~11月:8:00~21:30、12月~3月:8:00~21:00、砂風呂9:00~19:00(受付終了18:30)
第2火曜定休(祝日の場合は翌日)
440円(2019年10月より300円から440円に値上げ)、砂風呂1200円(値上げ前は1000円)
ロッカー有料(100円)、シャンプー類・ドライヤーあり。

私の好み:★★+0.5
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

湯田湯本温泉 大正館

2020年04月02日 | 岩手県

前回に引き続き、岩手県西和賀町の湯田温泉峡をめぐります。前回記事で取り上げた湯田温泉を出た頃には、既に日が暮れていたので、寄り道せずにその日の晩の宿へ向かうことにしました。この日お世話になったのは、当温泉峡の中心である湯田温泉の老舗宿「大正館」です。かの有名な正岡子規も投宿したことで知られているこの老舗宿は、温泉街のちょうど真ん中に位置しており、目の前には温泉街を見守る薬泉観音が鎮座しています。

私は自分の車で伺ったのですが、女将さんは私が車を停めてから玄関の戸を開けるまで、ずっと玄関で待っていてくださいました。


この晩私が通されたのは2階の一室。6畳に広縁が付いた和室で、室内にはテレビと冷蔵庫、そしてエアコンが備え付けられています。また長期滞在客のため広縁には立派な物干し竿も用意されています。その一方、洗面台やトイレなどの水回りは廊下にある共用のものを使用します。昔ながらのお宿だからかWifiは使えず、それどころか私の携帯(au)の電波が弱くてちょっと難儀しました。総じて備品は簡素ですし、建物自体も相当古いのですが、しっかり清掃が行き届いていますから、通信環境に目を瞑れば問題なく過ごすことができるかと思います。


お食事は1階の大広間でいただきます。お膳には出来立て熱々のお料理が次々と並べられました。ネギたっぷりの肉豆腐、刺身、つぶ貝の和え物、茶碗蒸しなどなど、家庭的ながら品数が多く美味しいので大満足です。


こちらは朝食です。煮魚・卵料理・茄子など朝から充実したラインナップ。しっかり食べてその日の鋭気を養いました。
品数豊富で美味しい2食がついたこちらのお宿、なんと1泊2食付で5980円(2019年秋の時点)という驚きのコストパフォーマンス!! あまりにお安いので、何だか申し訳なくなっちゃいます。しかも後述する掛け流しの温泉付きなのですから恐れ入ります。


さて、肝心のお風呂へ向かいましょう。お風呂は1階の玄関奥、階段の手前に位置しています。
脱衣室の照明は自分で点灯させます。室内には棚や籠の他、洗濯機が2台置かれており、また壁際ではポンプがむき出しの状態で設置されていました。なおロッカーはありません。


お風呂は男女別の内湯のみです。客室同様に相当年季が入っていますが、お手入れはしっかりされており、明るくて気持ち良く入れます。


右手前には洗い場があり、シャワー付き混合水栓が1つと、水と湯の蛇口がひとつずつ設けられています。カランから出るお湯はボイラーのお湯かな。


その反対側(左側)は物置空間と使われていない空の小浴槽が並んでいます。小浴槽にお湯を注いでいたと思われる蛇口には白い析出がコンモリと付着していました。マニアとしては温泉成分がビジュアル的にわかるこのような析出を見るとつい興奮してしまうのですが、このお風呂において、この程度で喜んでいてはいけないのです。


その場で見上げると、貯湯槽と思しき巨大なコンクリの矩形タンクや、そこから伸びる配管の表面が、白くてザラザラトゲトゲした夥しい析出によって分厚く覆われていたのです。白い析出のオバケを目にして私はびっくり仰天し、目を輝かせてしまいました。事情を知らない人がその時の私を見たら、さぞ不気味に思うでしょうね。


タイル貼りの浴槽は(目測で)1.5m×1.8m。おおよそ3人サイズでしょうか。基本的に外来入浴を受け付けておらず、宿泊者のみで利用するお風呂ですから、この程度の大きさでも十分と言えましょう。


小さい湯船ながらも温泉の投入口は2本設けられています。手前側には長い柄でコックを開閉するタイプの湯口があるのですが、私の利用時、こちらのお湯は止まっていました。


一方、窓側の壁から出ている湯口からは熱々の温泉が注がれていました。こちらでは塩ビ管の先に小さな穴を開けたPETボトルが括りつけられており、ジョウロの蓮口みたいな形でお湯をシャワー状に撒布することにより、加水することなくお湯の温度を適温へ下げているようでした。そういえばお風呂の窓も開けられていましたが、これも加水しないでお湯の温度を下げるための工夫だったのかもしれません。
このような措置のおかげで浴槽の温泉は絶妙な湯加減に維持されており、しかも薄まっていないので、実にすばらしい状態で湯浴みすることができました。湯守りの方のご配慮には心から感謝です。

お湯は無色澄明で清らかに澄み切っています。上述のように外来入浴は無いため、お湯の状態は極めて良く、大変フレッシュです。お湯からは芒硝臭が少々感じられ、無色透明の硫酸塩泉らしいピリっとした感覚と力強い温まりがしっかり得られました。そしてサラスベの軽やかな感覚と少々引っかかりが混在する浴感が肌に伝わってきました。なお分析表に記載されていた硫化水素臭は、入浴時には全く感じられませんでした。とても良いお湯だったため、1泊だけにもかかわらず、滞在中は何度もお風呂に入ってしまいました。

古風な造りのお宿ですが、お湯の質は良く、その上コストパフォーマンスが抜群ですので、みちのくを旅する人にとっては心強い味方と言えるでしょう。おすすめです。


第6号泉
Na-硫酸塩・塩化物温泉 95.0℃ pH7.6 500L/min(動力揚湯) 溶存物質1.566g/kg 成分総計1.571g/kg 
Na+:390.4mg(80.40mval%), Ca++:71.4mg(16.86mval%),
F-:6.5mg, Cl-:303.1mg(39.49mval%), SO4--:563.5mg(54.18mval%), HCO3-:62.0mg,
H2SiO3:145.2mg, CO2:5.3mg,
(平成27年2月4日)
加温加水循環消毒なし
(ただし気温の高い期間のみ加水あり)

岩手県和賀郡西和賀町湯本30地割24
0197-84-2624
西和賀町観光協会公式サイト内紹介ページ

日帰り入浴なし(宿泊のみ)

私の好み:★★★
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする