温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

上北温泉郷 玉勝温泉別館(そして485系特急「白鳥」最後の冬)

2016年08月30日 | 青森県
 
前々回および前回記事で湯の川温泉のお風呂をハシゴした私は、路面電車で日の暮れた函館駅へと戻ってまいりました。私が旅をしたのは北海道新幹線の開業を目前に控えた2015年12月。北の大地を初めて走る新幹線が待ち遠しいと言わんばかりに、駅構内では多くのスタッフを動員して積極的にPRしていました。


 
 
函館から乗ったのは18:21発の「白鳥96号」青森行。国鉄時代に製造された485系が青函トンネルをかっ飛ばす特急列車ですが、北海道新幹線の開業に伴い廃止され、現在ではもう走っていません。車両自体は国鉄時代に製造されましたが、さすがにそのままで使うわけにはいかず、民営化された後の90〜00年代に上画像の姿(3000番台)に改修され、内装もリニューアルされました。まだ新幹線が盛岡までしか到達しておらず、青森盛岡間に「はつかり」が走っていた頃から、私はこの車両に何度もお世話になりましたので、この姿を目にすると懐かしさが胸にこみ上げてきます。
かつて485系は北海道から九州まで全国各地を走り回っていましたが、老朽化によって次々に廃止され、北海道新幹線が開通する直前時点で定期運行されていたのは、この「白鳥」と新潟~糸魚川間の快速だけ。北海道新幹線開業後は「白鳥」が廃止されてしまったため、後者(新潟~糸魚川の快速)の一往復だけとなってしまいました。個人的な感覚を申し上げますと、485系で「白鳥」といえば、青函間の特急よりも、大阪〜青森の日本海縦断線を走っていた特急(2001年に廃止)というイメージが強いのですが、そんな古い記憶のままでいる私も昭和の人間なのでしょうね。

 
国鉄電車の標準的な電動機として全国で活躍したMT54モーターの咆哮を聞きたかったため、あらかじめ編成表を調べてモーター車(モハ485)の指定席を予約しておきました。列車は定刻通りに出発し、漆黒の闇の中をひた走ります。海側の座席に座ったのですが、あまりに真っ暗過ぎて、海と夜空の区別がつきません。

 
サッポロクラシック(缶ビール)で喉をグビグビと鳴らしながら、函館駅で買った身欠き鰊弁当を食べ、真っ暗な車窓を眺めていると、食塩泉の2連続で体が疲れていた上、満腹感とアルコールが加わって、気づけば青函トンネル突入前にグッスリと寝ていました。在来線として青函トンネルを通るのはこれが最後なので、しっかりと思い出を胸に刻んでおこうと考えていたのですが、そんな希望も睡魔には勝てなかったのでした。



目が覚めたのは青森の一つ前である油川駅を通過した頃。何の思い出を残せることなく、ただ車内で寝ただけで青森駅に到着してしまいました。
この駅にも私は数え切れないほどお世話になってます。東北本線の北端であるこの駅はかつて様々な列車が発着していましたが、私が乗ってきた「白鳥」はおろか、「はつかり」も「いなほ」も「あけぼの」も「はまなす」もやって来ません。2016年夏現在、この駅で発着する特急列車は「つがる」だけ。実に寂しい駅になっちゃいました。駅前の再開発複合施設「アウガ」が経営破綻してしまったのもむべなるかな。


 
「白鳥」から降りた後は、跨線橋で2本隣のホームへ渡って、青い森鉄道の八戸行普通列車に乗り換え・・・


 
 
21:30頃に上北町駅で下車しました。この駅で降りたのは私だけ。


 
私が上北町駅へやってきた理由は、安くてお湯が良い温泉旅館として温泉ファンに有名な「玉勝温泉別館」で宿泊するためです。駅から歩いて3〜4分という非常に便利な立地にあります。まずはチェックインするため、以前拙ブログでも取り上げたことのある玉勝温泉の本館(公衆浴場)に出向き、番台で受付を済ませるのですが、この手続きがとってもアバウト。宿帳の記入が求められないだけでなく、「支払いは先でも後でもいいよ」とか「(部屋の)鍵は要る?」など、すべてが性善説に基づいていたのです。この田舎ならではのゆるゆるなアバウト感。とっても良いです。
なお上画像は玉勝温泉本館の夜(到着時)と翌朝(出発時)に撮ったものです。


 
番台で客室の鍵を受け取り、通りの向かいにある別館へと向かいます。こちらも夜(到着時)と翌朝(出発時)に撮ったものを並べておきます。


 
別館に入ると、玄関には帳場らしきカウンターがあり、料金表が掲示されていました。宿泊(素泊まり)はなんと2,500円!! しかも後述する掛け流しの温泉に入り放題なのですから、この上なく素晴らしいお宿です。
なおこのカウンターには「入浴料金入れ」と書かれた小箱が置かれており、そこには「大人210円」と記されていたのですが、ここは入浴のみの利用も可能なのでしょうか。


 
廊下の黒板には部屋割りが書かれており、どの部屋に誰が割り当てられているのか、一目でわかるようになっています。これを確認して自分の部屋へ。


 
私があてがわれた客室は2階の一室。まるで昭和のアパートのような部屋の広さは6畳ほどで、古い畳にはタバコの焦げ跡も残っているのですが、でも決して汚いわけではなく、テレビやポットが備え付けられ、浴衣も用意されていますので、普通のお宿のように支障なく宿泊できました(なおタオルは用意されていませんでした)。


 
長期滞在の湯治客のため、館内には共用の炊事場もあり、冷蔵庫・ガスコンロ(有料、コイン式)・電子レンジなど完備されています。私はあらかじめ夜のうちに朝食用の弁当を買っておき、冷蔵庫に入れておいて、翌朝電子レンジでチンさせてもらいました。


 
さて、温泉浴場で湯浴みさせてもらいましょう。お風呂は1階の奥の方にあり、浴室入口には入浴時間(5:00〜22:00)が掲示されているのですが、先ほどの番台のおばあちゃん曰く、時間外でも夜通し利用して構わないとのことです。要するに、他のお客さんに迷惑がかからないよう、静かに利用すれば良いわけですね。


 
脱衣室は古いながらもきちんと片付けられており、なぜかトイレが和洋一室ずつ設けられていました。このお風呂で特徴的なのが、脱衣室と浴室を結ぶ通路。単にドアやサッシで仕切られているのではなく、レンガのようなタイルで縁取られたトンネルを潜るのです。しかもこのトンネルがちょっと低いため、身長165cmの私ですら若干頭を屈めないと通れません。なぜこのような造りになっているのかわかりませんが、低いトンネルの先にお風呂があるという非日常的な構造に、思わず気分が高揚しちゃいます。


 
通りの向かいにある公衆浴場と違って、不特定多数のお客さんが利用するわけではないためか、浴室は古いながらも綺麗に維持されており、男女両浴室を仕切る上部に用いられているガラスブロックによって、実際の空間以上の広さや開放感が得られました。また室内に用いられているタイルもカラフルで、特に洗い場まわりに使われているタイルの柄は、以前に拙者ブログで取り上げたトルコのハマムを思い起こさせてくれ、ちょっぴりエキゾチックな気分が味わえました。


 
洗い場には押しバネ式のカラン(お湯と水のセット)が計8組並んでおり、カランから出てくるお湯は浴槽と同じ源泉のお湯です。洗い場に取り付けられているミラーには地元商店のネームが入っているのですが、かつてはこのお風呂も公衆浴場として使われていたのでしょうか。


 

総タイル貼りの浴槽は1.8m×3mの四角形で、槽内は水色、縁は紺色のタイルが用いられているかと思われるのですが、長年にわたる温泉成分の付着により、縁に貼られている豆タイルの表面は、薄っすら茶色っぽく染まっていました。そして、浴槽左奥には扇型の湯口があり、3つの吐出口からお湯が浴槽へ落とされていました。

こちらの浴場では本館の公衆浴場と同じ源泉を使用しており、お湯の見た目は焙じ茶を薄めたような淡い琥珀色の透明です。ほぼ無味無臭ですが、わずかにモール泉のような風味を有しており、またアルカリ性泉によくある微収斂も感じられました。アルカリ性であり且つナトリウムが多いためか、ツルツルスベスベの浴感が非常に強く、滑らかで軽やかな感覚が全身を包んでくれます。湯船のお湯は縁の切り欠けから惜しげも無く排出されており、循環されている様子もないため、間違いなく完全掛け流しの湯使いかと思われます。お湯の鮮度感も抜群です。なお浴槽内にはジェットバス装置が設置されていたような形跡が見られますが、現在は使われていません。若干熱めの湯加減なのですが、一度湯船に入ったら出たくなくなるような後をひく気持ち良さがあり、湯上がりもよく温まるにもかかわらず、イヤミな火照りや発汗がないため、実に爽快です。あまりに素晴らしいお湯だったため、宿泊中は夜・深夜・早朝と3度も入ってしまいました。

駅近なのに格安で泊まれ、しかも掛け流しで最高に気持ちの良い温泉に入り放題という素晴らしいお宿でした。


南谷地泉6号泉
アルカリ性単純温泉 47.3℃ pH未記載 溶存物質0.552g/kg 成分総計0.559g/kg
Na+:137.8mg(95.99mval%),
Cl-:141.3mg(64.46mval%), Br-:0.3mg, SO4--:21.0mg(7.11mval%), HCO3-:69.4mg(18.42mval%), CO3--:15.9mg(8.58mval%),
H2SiO3:154.7mg,
(平成20年4月28日)

青い森鉄道・上北町駅より徒歩3〜4分(約300m)
青森県上北郡東北町上北南1丁目31-1088(本館の所在地)  地図
0176-56-3007(本館の電話番号)

日帰り入浴は要相談(基本的に宿泊や休憩での利用)
備品類なし

私の好み:★★★
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湯の川温泉 大黒屋旅館

2016年08月28日 | 北海道
 
前回記事で取り上げた湯の川温泉「旅館新松」を出てから、もう1軒お風呂をハシゴしようと温泉街をウロウロしていたところ、旅館の駐車場に立つ日帰り温泉の幟が目に入ってきたので、それに導かれて「大黒屋旅館」を訪うことにしました。


 
ロビーでは坊主頭のマスコットがお出迎え。フロント前に設置されている券売機で湯銭を支払います。日帰り入浴に関しては、回数券も販売しているほど積極的に受け入れているようです。明るく対応してくださるスタッフさんに入浴券を手渡し、コの字型に曲がる感じで廊下を進んで、通路の最奥にある浴場へと向かいます。


 
4畳ほどのコンパクトな脱衣室を抜けて浴室へ。お風呂は男女別の内湯が1室ずつで露天風呂はありません。一般的な旅館の大浴場と比較するとコンパクトな部類に含まれるであろうこの浴室には浴槽がひとつ、そして壁に沿ってL字型にシャワー付きカランが計8基並んでいました。カランに関しては設置感覚がちょっと狭いように思われ、実際に私がシャワーを浴びている時も、隣客との干渉が気になってしまいました。なおカランから出てくるお湯は真湯です。


 

全面タイル張りの浴槽は上画像のような形状をしており、最も長い辺で5m×2m強といったところ。直に触れないほど激熱のお湯を注いでいるパイプの口には晒しの布が巻かれて、湯の花などの固形物を濾し取っているのですが、その湯口まわりにはアイボリー色の石灰がこんもりと付着しており、まるでサンゴ礁のような細かなトゲトゲを形成していました。また浴槽側面の湯面ライン上にも石灰のこびりつきによる庇状の突起ができていました。
お湯はこのパイプのほか、槽内の穴からも適温のお湯が投入されていましたので、アツアツの源泉を投入しつつ、温度調整済みのお湯も並行供給して、入りやすい湯加減を維持しているのでしょう。


 
浴槽の縁は元々黒い御影石だったかと推測されるのですが、上述のような石灰のこびりつきが著しいため、元の素材が判別できないほどアイボリー色に厚くコーティングされており、あまりの厚さゆえ部分的にトラバーチン化して、ミルフィーユのような層をなしている箇所もありました。
浴槽に張られたお湯は底から立ち上がっているオーバーフロー管より排湯されているのですが、その直下にも吸込口があり、同時並行で湯船のお湯を吸い込んでいました。上述のように槽内から適温湯が投入されているので、後者の吸込口は循環用と推測されます。つまり、生源泉を投入しつつ、放流式と循環式を併用している湯使いと思われます。源泉のままですと熱すぎてしまうので、入浴に適した温度にするため、そのような措置が取られているのでしょう。

お湯は薄く靄が掛かったような淡い濁りを呈していますが、ほぼ無色透明と表現して差し支えない見た目をしており、お湯を口に含むと非常にしょっぱく、しかも苦汁の味も含まれていました。匂いに関してはあまり感じられませんでしたが、僅かに石膏臭と磯の香りが嗅ぎ取れたように記憶しています。湯口や浴槽まわりにこんもりと石灰をこびりつかせるようなお湯ですから、湯中ではカルシウムのしわざによって引っかかる浴感が強いのかと思いきや、実際には食塩泉らしいツルスベの方がはっきりと現れており、私の体感で表現するとツルスベ:引っかかり=7:3といった割合でツルスベの方が勝っていました。湯船は(私の体感で)42〜3℃という温度に調整されているのですが、さすが濃い食塩泉ですから温熱パワーは力強く、大して熱くないのにすぐに体が火照って長湯することができません。湯上がり後もしばらくは汗が止まらず、真冬だというのに脱衣室にあった扇風機を回して、体をクールダウンさせたのでした(私が訪れたのは2015年12月です)。でもその温熱パワーのおかげで、外へ出てもちっとも寒くなく、本来ならば身が縮こまるような風が吹いてもヘッチャラでした。湯の川温泉の熱の湯は、しばれる冬の北海道にとって強い味方ですね。



さて、湯の川温泉で2軒の湯めぐりを終えた私は、路面電車で函館駅へ戻り、再びJRに乗ってその晩のうちに本州へと渡ったのでした。以下、次回記事へ続く。


湯川3丁目1号井~4号井源泉混合
ナトリウム-塩化物温泉 64.1℃ pH6.8 溶存物質8.829g/kg 成分総計8.968g/kg
Na+:2199mg(65.73mval%), Mg++:316.2mg(17.88mval%), Ca++:401.4mg(13.76mval%),
Cl-:4073mg(79.57mval%), HS-:0.1mg, SO4--:754.6mg(10.88mval%), HCO3-:833.7mg(9.46mval%),
H2SiO3:81.4mg, HBO2:22.9mg, CO2:139.4mg, H2S:0.1mg,
(平成25年3月11日)

函館市電・湯の川駅より徒歩4~5分(約300m)
北海道函館市湯川町3-25-10  地図
0138-59-2743
ホームページ

日帰り入浴6:00~24:00
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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湯の川温泉 旅館新松

2016年08月27日 | 北海道

前回記事で長万部から特急列車に乗った私は、終点の函館で下車し、路面電車に乗り換えて湯の川温泉で軽く湯巡りをすることにしました。まず1軒目は「旅館新松」。交差点の角に位置しており、結構な大きさを有するお宿です。


 
深紅のカーペットが敷かれたロビーを訪うと、館内は何やら慌ただしい様子。どうやら団体客が宴会をしており、スタッフさんはその対応に追われていたようでした。受付のカウンターに目をやると、日帰り入浴専用の料金受け皿を発見。そこで、釣り銭が無いようにセルフで湯銭をここに置いて、入館させていただくことにしました。このようなものが用意されているということは、地元の方から銭湯のような愛され方もされているのでしょうね。


 
案内表示に従って廊下を進み、共用洗面台を通り過ぎた先に紺と紅の暖簾がかかっていました。
脱衣室ではお琴の音楽がスピーカーから流れており、日本旅館らしい和の風情を醸し出しているのですが・・・


 
浴室は実用的な造りで、旅館というより公衆浴場のような雰囲気です。でも室内空間は広いので、のびのび湯浴みできるはず。そんなお風呂には大きな浴槽がひとつ設けられ、洗い場にはカランが11基並んでいました(うち6基はシャワー付き)。
タイル張りの浴槽はおよそ6m×3m弱の四角形で、ゆとりのあるサイズですから、団体で利用しても楽に足を伸ばして悠々と入浴できるかと思います。この浴槽で目を引くのが、縁に分厚くこびりついている温泉成分。タイルの色がわからなくなるほどベージュ色にコーティングされているほか、浴槽側面の湯面ライン上にも庇のような出っ張りが形成されていたり、オーバーフローが流れる床のタイルも赤茶色に染まっていたりと、お湯の濃さがビジュアル的に伝わってきました。


 
 
獅子の湯口も元の容貌が隠れてしまうほどの析出で覆われており、そんな口からお湯がドバドバと供給されていました。お湯は弱いベージュ色に濁っており、湯中では明るい赤茶色の湯の花が舞っています。お湯を口に含むと、塩味、弱石膏感、ほのかな磯の香り、そして石灰を思わせる粉っぽい感覚が得られました。
湯口から吐出される時点でお湯は既に適温に近く、湯船でも万人受けする湯加減が維持されていました。函館エリアの温泉浴場は熱いお風呂が多いのですが、そんな土地柄にあって、適温の大浴場は貴重な存在かもしれません。湯使いに関する表示が無いので断定的なことはわかりませんが、適温にするため加水されている可能性はあるにせよ、循環などは行われていない放流式の湯使いかと推測されます。適温ながらも食塩泉らしい力強い温まりが得られ、湯上がりにはポカポカが持続して冬の函館でも寒さを気にせず過ごせました。


温泉分析書見当たらず(ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉)

函館市電・湯の川電停より徒歩5分(約400m)
北海道函館市湯川町2-12-16  地図
0138-57-5558
ホームページ

日帰り入浴は夜8時まで
400円
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品は自己管理

私の好み:★★
コメント (2)
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長万部温泉 長万部温泉ホテル

2016年08月26日 | 北海道
 
前回記事で取り上げた昆布川温泉「幽泉閣」をチェックアウトした朝。昆布駅から函館本線(山線)の普通列車に乗り、まず長万部へ向かいました。


 
長万部では函館行の特急へ乗り換えたかったのですが、私が乗りたい列車の発車まではまだ時間があったため、乗り換えの待ち時間を利用して、駅から近い長万部温泉でひとっ風呂浴びることにしました。長万部温泉は拙ブログでも何度か取り上げていますが、今回訪れたのは大衆浴場を兼ねている「長万部温泉ホテル」です。建物には玄関が左右に2つ並んでおり、左側は宿泊客用、右側は大衆浴場(銭湯)用というように使い分けられています。


 
私のような銭湯の利用客は、右側の玄関から入って靴を下駄箱へ納めた後、一旦左側玄関の方にある帳場で湯銭を納めてから、再び銭湯側へ戻って男女別の出入口へ入ることになります。男女両出入口が面する空間は6畳あるかないかという狭さなのですが、そんな空間に下足箱やダイニングテーブルのセット、そしてセブンティーンアイスの自販機などいろんなものが詰め込まれており、やや雑然としていました。
自動ドアで開閉する脱衣室に入ると、昭和のノスタルジーが感じられる室内には、ビニル床の上に茣蓙が幾重にも重ねて敷かれており、窓の下には何度もペンキを塗り直されたであろう木製の棚が設置され、片隅には長期宿泊客向けのコイン式洗濯機が用意されていました。


 
脱衣室には番台が面しているのですが、上述のように私は湯銭を宿の帳場で支払ったので、今でもこの番台が使われているかは不明です。また脱衣室の壁には手書きの古い効能書きが掲示されているのですが、このプレートの字がなぜか旧字体。長万部温泉が発見されたのは昭和30年であり、この頃には既に常用漢字が使われていましたから、当時まだ新字体に慣れていないお爺ちゃんが書いたのかもしれません。


 
お風呂は内湯のみ。古いタイル張りの浴室も、昭和の銭湯風情たっぷりです。中央に瓢箪のような形状をした浴槽が据えられ、右側にカランが一列に並んでいます。


 

洗い場には押しバネ式水栓と固定式シャワーのセットが7基並んでおり、各水栓の付け根は補修用のパテがこんもりと盛られていました。修繕に修繕を重ねているのかもしれませんね。お湯の水栓を開けるとドバドバと大量に吐出されるのですが、後述する温泉のお湯よりはぬるく、僅かにしょっぱいと同時に、ほのかなタマゴ感を有しているようにも感じられました。あれ? 長万部温泉のお湯にタマゴ感なんかあったっけ? 温泉のお湯を水で薄めているのでしょうけど、その水って単なる水道水なのか、はたまた何かしらの特徴を有する鉱泉水なのか、そのあたりの事情はよくわかりません。


 
瓢箪のようなスタイルの浴槽は大小2つに分かれており、両者の中間には以前使われていたであろう湯口跡が残っているのですが、現在は使われておらず、床から立ち上がっている塩ビ管から小さな浴槽へ注がれていました。この小さな浴槽は1〜2人サイズのコンパクトなもので、湯口のお湯が直接注がれていることからも容易に想像できますが、熱めの湯加減となっています。なお私の体感では44℃前後だったように思われます。


 

小さな浴槽から流れてくるお湯を受けているのが真ん丸い大浴槽で、直径約2m、7〜8人は入れそうなキャパがあります。大浴槽には専用の湯口が無いため、湯船に張られているお湯の全量が小浴槽からの流れ込みなのですが、湯面の表面積が広い上、小浴槽から落ちる過程で若干温度が下がるため、大きな浴槽のお湯は42〜3℃という入りやすい湯加減になっていました。大小両浴槽とも加水加温循環消毒が行われていない完全放流式の湯使いであり、大浴槽の縁から洗い場へ向かってオーバーフローするお湯によって、流路まわりのタイルは茶色く染まっていました。

お湯は淡いカナリア色を帯びた透明で、しょっぱさと弱出汁味が感じられ、湯面からはアブラ臭を漂わせています。湯中では薄い茶色の浮遊物が舞っており、上画像のように桶で掬うこともできました。ケロリン桶の画像で、ケロリンと中外製薬の間に写っている茶色い物体がその湯の花です。食塩泉であることに加え、炭酸イオンが多く含まれているためか、ツルツルスベスベのとっても滑らかな浴感が大変気持ち良く、湯中で何度も自分の肌をさすってしまいました。また濃度の濃い食塩泉ですからパワフルに火照る熱の湯でもあり、真冬だというのに湯上がりには汗が引かず、しばらくはコートを着ずに屋外を歩けるほど、体の芯からホコホコと温まりました。長万部温泉には何度もお世話になっていますが、何度入っても良い湯ですね。そのことを再認識致しました。


 

熱の湯に満足した私は長万部駅へと戻ってまいりました。まだ北海道新幹線の開通前ですから、駅の正面には開業を告知する大きな看板が掲示されていました。
また、跨線橋など駅構内には随所に英語や繁体字中国語表記が見られたのですが、以前にはこのような外国語案内はありませんでしたから、近年のインバウンド増加に伴って追加されたのでしょう。実際にこの日も駅で列車を待つ客の多くが台湾や香港など中華系の旅行者でした。長万部も変わったもんだ。由利徹が見たらびっくりするんじゃねぇか。


 
「スーパー北斗」函館行が入線です。私がホームで列車を待っている間、長万部の駅弁「かにめし」をつくっている「かなや」のおじさんと昔日の鉄道談義に華を咲かせていたのですが、この時、おじさんはこの列車に「かにめし」を50個も積み込んでいました。50個という数に私が驚いていると、おじさん曰く、このくらいの数はいつものことで、多い時は1本の列車に70〜80個積むこともあるよ、とのこと。アテンダントさんが車内で事前にオーダーを取り、それを受けて積み込むわけですが、ホームで立ち売りするよりはるかに売れるので商売としてありがたいと笑顔を浮かべていました。


 
 
かく言う私も、駅前の「かなや」店頭で駅弁「かにめし」を購入し、車内でいただきました。フレーク状のかにがたくさん載せられたこのお弁当。拙ブログに登場するのは2回目ですが(前回記事はこちら)、噴火湾が広がる車窓を眺めながら頬張ると、とっても美味しいんですよ。


長温R2号
ナトリウム-塩化物温泉 47.9℃ pH8.0 湧出量測定不能(動力揚湯) 溶存物質10.01g/kg 成分総計10.02g/kg
Na+:3393mg(92.08mval%), NH4+:21.1mg, Mg++:13.5mg, Ca++:137.4mg,
Cl-:5637mg(94.81mval%), HCO3-:442.4mg(4.32mval%), CO3--:30.6mg, I-:3.6mg, Br-:22.2mg,
H2SiO3:142.0mg, HBO2:29.4mg,
(平成27年5月13日)

JR長万部駅より徒歩10分ほど
(駅の東側に掛かっている人用跨線橋で駅裏へ出ればすぐ)
北海道山越郡長万部町温泉町402  地図
01377-2-207
ホームページ

6:00〜21:00 第2・4火曜定休
440円
貴重品帳場預かり、ドライヤーあり(10円有料)、石鹸など販売

私の好み:★★+0.5
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昆布川温泉 蘭越町交流促進センター 幽泉閣

2016年08月25日 | 北海道
 
JR函館本線の小樽〜長万部間は通称「山線」と呼ばれており、本線と称しているものの、普通列車が1日数往復しか走っていない典型的な閑散ローカル路線です。ニセコの麓にある昆布駅はこの山線の駅の一つであり、1本のホームに小さな待合室が設けられている小さな無人駅です。


 
今回訪れる昆布川温泉「蘭越町交流促進センター 幽泉閣」は、この昆布駅のすぐ真裏にあり、ホームの目の前で線路と平行に建てられています。小樽から列車に乗ってやってきた私は、まず昆布駅のホームにある跨線橋で線路を越え、駅の裏側へと向かいました。
(※この記事では便宜上、翌朝撮影した画像を用いております)


 
跨線橋を渡りきってから100mほど歩いて正面玄関に到着しました。線路側からはわかりませんでしたが、正面のファサードは妙に仰々しく、結婚式場か新興宗教などではないかと勘違いしてしまう佇まいです。駅からすぐという好立地、そして朝食付きで一泊5,450円という安さに惹かれ、今回私は宿泊目的でこちらを訪れたのでした。


 
宿からはニセコ連峰はもちろんのこと、羊蹄山も眺望することができました。


 
私が案内された客室は上画像の和室で、広さは6畳+α。テレビや冷蔵庫、トイレや洗面台などひと通りの設備が揃っているほか、Wifiも飛んでいるのでネット環境も問題ありません。また冷蔵庫にはあらかじめ冷水が入れられていたため、湯上がりの水分補給には大いに役立ちました。


 
朝食は食堂でバッフェをいただきます。品数豊富でよりどりみどり。



ご当地蘭越町は近年美味しいお米の産地として注目されるようになりましたが、そんな町の新しい特産物をアピールすべく、ご飯はご当地産のゆめぴりかとななつぼしを選べようになっていました。近年頓に人気を博すようになった道産米の2トップを食べ比べすることができるんですね。


 
さてお風呂へと向かいましょう。日帰り入浴の場合は利用時間が限られていますが、宿泊客は夜通し入浴できます。お風呂は男女別の大浴場と、別途料金(1,000円)を要する貸切風呂があるのですが、今回貸切風呂は利用しておりません。また大浴場に関しては、脱衣室内に小さいながら"NO PHOTO"と表示されておりましたので、申し訳ございませんが今回記事に限り、文章のみで紹介させていただきます。もし浴場の画像をご覧になりたい方は公式サイトをご覧ください。

仰々しい外観から想像できるように、浴場スペースもかなり大きく確保されており、イベントホールを連想させるほど空間が広がっていました。深夜や早朝は私一人でひたすら独占させてもらったのですが、自分一人で使うのが申し訳なくなるほどです。

男湯の場合、入って左手に乾式と湿式のサウナが並び、その隣に洗い場が配置されています。洗い場に設けられているカランは計14基(これに加えて立って使うシャワーが1基)あり、全てシャワー付きです。洗い場と隣り合うようにして浴室中央に据えられているのは、直径1.8mほどの円形の水風呂、そして加水されていない源泉そのままの熱いお風呂の2浴槽です。後者の熱い浴槽の湯口からは直に触れないほど熱いお湯が注がれており、湯船も私の体感で45〜6℃はあるため、熱い湯船に慣れていない一般のお客さんは入れないかと思いますが、グッと堪えて湯船に肩まで浸かると意外にも浴感が気持ち良く、後述する主浴槽よりもはるかに温泉の持つ特徴がはっきりと現れているため、私はマゾヒストになったような感じで何度も入ってしまいました。

浴室最奥部には部分的に円形となっている気泡湯槽が設置され、加水によって適温に調整された温泉が張られていました。またガラス窓を挟んだ屋外側には露天風呂が設けられており、岩風呂の浴槽には部分的に屋根がかけられていました。周囲は人家や駅が集まる地区であるため、目隠しの高い塀が四方に立ちはだかっているのですが、それでも羊蹄山の方角だけは塀をくりぬいて透明のアクリルボードを嵌めこんでおり、これによって入浴中でも山のてっぺんだけ辛うじてながめられような配慮がなされていました。なお露天風呂のお湯は新鮮源泉と循環を併行して使用している半循環の湯使いかと思われます。また、内湯は(宿泊客に限って)夜通し利用可能ですが、露天風呂は22:00から翌6:00までクローズされます。

再び浴室に戻りますと、脱衣室側から見て右側に設けられた大きな浴槽が主浴槽です。全体的に緩やかな曲線を描く形容のしがたい形状をしているのですが、強いて言えば巨大なアメーバみたいに全体をくねらせており、最も長いところで15メートルはあったかと記憶しています。湯口からドバドバと豪快にお湯が注がれており、浴槽縁に設けられた3つの切り欠けから溢湯していました。加水によって長湯したくなるような、ちょっとぬるめの湯加減に設定されており、実際に私は真夜中に湯浴みをした際、ウトウトと微睡んでしまいました。そして脱衣室側の端には打たせ湯(真湯使用)も設けられていました。

お湯は薄い山吹色を帯びつつもほぼ透明で、薄い塩味と清涼感やほろ苦みを伴う重曹感を有し、ほんのりとアブラ臭が漂っていました。付近に湧く温泉から類推するにギシギシ引っかかる塩化土類泉系のお湯ではないかと予測していたのですが、豈図らんや食塩泉と重曹泉が仲良く混在している滑らかなタイプのお湯であり、特に重曹泉らしいヌルヌルを伴うツルスベ浴感がよく現れていました。分析書によれば炭酸イオンも多いので、これもツルスベの浴感に一役買っているものと思われます。特に浴室中央にある加水されていない小さな熱い浴槽のお湯は、この温泉の特徴が最も強く感じられ、熱さを我慢して入ると、まるで化粧水の中に浸かっているかのようなツルツルスベスベ感を得ることができます。また、湯上がりの爽快感も重曹泉そのものであり、食塩泉的要素でしっかり温まると同時に、粗熱の抜けも良いため、温まりと爽快感が共存するという実に理想的な温泉入浴を楽しむことができました。
なお湯使いに関する館内表示によれば、各浴槽において塩素系薬剤による消毒が行われているそうですが、必要最小限にとどめているのか、特に消毒臭が気になることはありませんでした。また中央の熱い浴槽は源泉100%かと思われますが、それ以外は加水によって温度調節が行われており、露天風呂においては循環装置が用いられていますが、それ以外の温泉使用槽は放流式かと推測されます。

駅のすぐ裏というとっても便利な立地である上、綺麗なのにリーズナブル、しかも大きなお風呂で美人の湯に入れるという、とても利用価値の高い施設でした。


幽泉閣4号泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 53.4℃ pH8.2 湧出量未記載(動力揚湯) 溶存物質1.496g/kg 成分総計1.496g/kg
Na+:470.4mg(97.47mval%),
Cl-:453.0mg(61.53mval%), HS-:0.8mg, S2O3--:0.4mg, HCO3-:366.4mg(28.89mval%), CO3--:24.0mg,
H2SiO3:99.9mg, HBO2:11.0mg,
(平成26年1月20日)
全浴槽において塩素系薬剤による消毒あり
あつ湯槽:加水加温循環なし
主浴槽・気泡湯:加水あり・加温循環なし
露天風呂:加水循環ろ過あり・加温なし
水風呂および打たせ湯は真水(もしくは真湯)、その他は温泉使用

JR函館本線・昆布駅からすぐ
北海道磯谷郡蘭越町昆布町114-5  地図
0136-58-2131
ホームページ(蘭越町公式サイト内)

日帰り入浴10:00〜21:30(月曜は12:00〜21:30)
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5

コメント
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