温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

下諏訪温泉 高木温泉

2016年02月29日 | 長野県
※残念ながら2016年12月で閉館しました。

 
2015年夏の某日。上諏訪駅の駅レンタカー事務所でレンタサイクルを借りた私は、諏訪湖岸に並行して伸びる国道20号線を北上し、途中で諏訪市から下諏訪町へと市町境を越え、中央本線の線路を跨いで、観光客とは縁が無さそうな某住宅地へと向かいました。


 
今回の目的地は下諏訪の市街に点在する温泉共同浴場のひとつ「高木温泉」です。共同浴場めぐりを得意とする温泉ファンの方にはおなじみかと思いますが、ここは下諏訪の温泉街から離れており、しかも場所がわかりにくいため、外来者利用可能な共同浴場の中でも、比較的利用のハードルが高い施設かと思われます。
路地に面する2階建ての建物は浴場のほかに公民館も兼ねており、2階へ上がる階段には「老人集会室」と記されたプレートがぶさ下がっていました。玄関ホールには諏訪大社の宮司さんが揮毫した立派な扁額が掲げられています。こちらは常駐の係員がいない無人の浴場であり、毎晩23時になると玄関のドアは自動的に施錠される仕組みになっているそうです。


 

フローリングの脱衣室は、必要最低限の設備しかないものの、共同浴場のわりには広々しており、清掃終了直後に訪れたためか、室内にはゴミ一つ落ちておらず大変きれいな状態でした。この脱衣室の奥の掲示板に括り付けられている料金箱に湯銭を納めてから、更衣させていただきました。この脱衣室の一角には「訓練室」と称する何もない空間があったのですが、何を訓練するのかな?


 
タイル張りの室内中央に丸い浴槽が設けられ、その周囲の三方に洗い場が並んでいる浴室。下諏訪では「みなみ温泉」「菅野温泉」も同じようなスタイルですね。一見するとごく普通の共同浴場に見えますが、この「高木温泉」を利用する際に注意しなければいけないのが、桶が備え付けられていない点です。私の訪問時も、室内の片隅に腰掛けは用意されていましたが、桶はひとつもありませんでした。


 
桶が無いことは事前に知っていましたので、私は折りたたみ式の手桶を持参しました。上画像をご覧いただくとわかるように、普段は平たくつぶれているのですが、使用時には丸い部分を伸ばすことによって、お湯が汲める手桶になるのです。



まんまるい浴槽は直径2mほどで、キャパは7~8人。円周の縁には小豆色のタイルが用いられ、円の半分にはステップが設けられています。


 
浴槽の中央に円筒状の湯口が島のように突き出ており、以前はこの円筒からお湯が供給されていたようですが、現在は上からの配管が伸びており、円筒の島の上で二又に分かれてお湯を吐出していました。湯使いは循環等の無い完全放流式であり、浴槽のお湯は縁の四方から排出されていました。


 
洗い場のお湯も温泉です。上述したように、丸い浴槽を三方向から囲むようにして、お湯と水の蛇口セットが計15組並んでいました。


 

こちらでは高木南源泉というお湯が引かれており、いかにも諏訪のお湯らしく見た目は無色透明ですが、吐出口のお湯を口に含んでみますと、芒硝の味や匂いが少々感じられました。また湯船の湯面ライン上や縁の排湯口などでは赤茶色のこびりつきが見られ、桶で汲んだ湯船のお湯にも赤茶色の浮遊物がチラホラしていましたが、特に金気や土気のようなものは確認できませんでした。湯中ではツルスベとキシキシの相反する浴感が拮抗しています。私の入浴時、湯船は43~4℃という少々熱めの湯加減だったのですが、その影響と温泉自体が持つパワーが相まって、湯上がりはいつまでも温まりが持続し、汗がなかなか引きませんでした。人は見かけによらないと言いますが、温泉だって同じ理屈が通じるわけで、この「高木温泉」のお湯も見た目はごく普通のお湯ですが、実際に入ればその本物の温泉ならではの実力が体感できました。
ちなみに、館内に掲示されている湯使い表示によれば、この浴場では町から供給される源泉に、30℃の「高木第2源泉」を加えて温度調整しているとのこと。その一方、館内に掲示されている温泉分析書は「高木南源湯」のものだけですので、その「第2源泉」の正体も見てみたいものです。


高木南源泉
単純温泉 53.0℃ PH8.31 溶存物質530.7mg/kg 成分総計530.7mg/kg 
Na+:128.0mg(82.32nval%), Ca++:17.9mg(13.23mval%),
Cl-:136.5mg(57.33mval%), SO4--78.6mg(24.36mval%), HCO3-:64.1mg(15.63mval%),
H2SiO3:76.6mg, HBO2:13.3mg,
(平成21年2月3日)

長野県諏訪郡下諏訪町高木(以下省略)
(地図による場所の特定も控えさせていただきます)

5:00~10:00、12:00~23:00(10:00~12:00は清掃のため利用不可)
250円
備品類なし(桶も無いので、必ず持参のこと)

私の好み:★★+0.5
コメント (5)
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童謡のふる里おおとね温泉 100(とね)の湯

2016年02月27日 | 東京都・埼玉県・千葉県
 

ちょっとした野暮用のついでに、東武伊勢崎線に乗って加須駅へやってきました。いつも小田急沿線の自宅と都内の会社を往復する私にとって、東北道で通り過ぎる以外に、埼玉県北部へ足を運ぶご縁はあまりなく、もし用事があったとしても車で出かけますので、この加須駅で降りるのはこの時が初めてです。駅ビルがある北口は街の玄関口らしく、そこそこ開けているのですが・・・


 
南口は元々駅裏で何もなかったらしく寒々としています。再開発で新たに設けられたと思しきバスロータリーで待っていると、他の路線バスと一緒にコミュニティーバス「かぞ絆号」シャトルバスの新古河駅行がやってきました。バスとは言え、車両は10人乗りのハイエース。乗客も私の他にはおばあちゃんが2人乗っているだけでした。東京の通勤圏内とはいえ、この辺りまで来ると、かなり長閑になるんですね。


 
どこまでも平地が続く水郷の田園地帯を走ること約30分で、「大利根総合支所」バス停に到着しました。その名の通りバス停は支所の前に立っているのですが、2010年に大利根町が加須市へ合併されるまで、ここには大利根町役場があったんだそうです。この支所の敷地内にそびえ立つ火の見櫓の直下に、今回の目的地である「100の湯」の案内看板が立っていましたので、これに従い歩みを進めます。


 
役場から歩いて10分弱で緑あふれる「大利根運動公園」に入り、さらに園内を歩いてゆくと、やがて黄色く大きな建物が目に入ってきました。これは「保健センター」のようですが…


 
その向かいにある青い建物「加須市大利根総合福祉会館」の1階に設けられた温泉浴場が「100の湯」なのであります。100と書いて「とね」と読むんだとか。当地がまだ大利根町だった時代に開業した施設であり、それゆえ「とね」の名前にこだわりたい気持ちは理解できますが、それにしても些か無理矢理な感じがします。でもこの温泉浴場は料金を支払えば誰でも利用できるのですから、下手に文句は言えませんね。


 
開業から少なくとも30年以上は経過していそうな、やや古い保健所や老人福祉施設を思わせる館内ロビー。淡水魚の水槽があったり、風呂上がりにソファーで休憩している人がいたりと、実にのんびりしています。この玄関前ロビーには係員がいないので…


 
玄関から左へ伸びる廊下を歩き、「これより有料」のプレートを通過した先に設置された券売機で料金を支払って、受付窓口に券を差し出します。この受付では各種食品類が販売されており、また窓口の向かい側にある座敷の大広間では休憩することもでき、私の訪問時には爺さん婆さんが次々にステージへ上がって、マイク片手に大音量でカラオケを熱唱していました。先ほどのコミュニティーバスも然りですが、東京から60kmしか離れていない埼玉県内で、こんな長閑な農村風景を目にするとは思ってもみませんでした。


 
お年寄りが下手くそに情熱的に歌っていたお座敷の先に、男女別の浴室があります。館内案内図によれば、女湯は「大浴場」で男湯は「小浴場」なんだそうですが、大と小ではどのくらいの違いがあるのでしょうか。
壁一面緑色に塗装された男湯の脱衣室には、左手前にコインロッカー、右側に洗面台が配置されており、ドライヤーも備え付けられています。またロッカーの他にカゴも用意されており、一部の常連さんは施錠が面倒なロッカーではなく、カゴに荷物を納めて床へ直置きしていました。



なるほど「小浴場」と言うだけあって、浴室は決して広くなく、6畳ほどの室内いっぱいに浴槽が据えられ、僅かに残った隙間に洗い場が設けられているような造りです。出入口から見て右側の窓下にシャワー付きカランが3基並んでおり、シャワー同士の間隔はそこそこ広くとられているのですが、その後ろ側にある浴槽との幅が狭いため、シャワーの前に利用客が腰掛けると、室内の奥から出入口まで移動困難になってしまう感じです。実際に私が入室した数分後には、次々に入浴客がやってきて大混雑し、みなさん歩いて移動するのに難儀していました。福祉会館の建設当時は白湯のお風呂だったそうですが、その後温泉を掘り当ててこのお風呂に供給するようになったそうですから、お風呂を作った当時はまさか混雑するだなんて想定していなかったのでしょうね。


 
洗い場とは別のスペースには休憩用の白い椅子がひとつ置かれ、その傍らにはなぜか肥溜めで使うような長い柄の柄杓が置かれていました。肥え柄杓なんて何に使うのかな?
浴槽のお湯は洗い場へ向かって勢いよく溢れ出ており、温泉成分の付着によって室内の床は、元々の素材の色がわからなくなるほど赤銅色に濃く染まって、まるで鍍金を施したかのように金属的な光沢を放っていました。


 
浴槽はおおよそ2m四方で4~5人サイズ。隅っこの湯口から温泉がドバドバ大量に注がれており、その周りでは泡立ちが発生していました。室内にはヨードのような少々の刺激を伴う刺激臭が充満しており、湯口や湯面ではアンモニア的な匂いやモール泉に似た匂いも嗅ぎ取れます(塩素消毒の臭いも混在しているのか)。上述のように床を赤銅色に染めるお湯は、湯船では薄っすらと緑色を帯びつつも琥珀色に弱く濁っており、茶系の湯の花もチラホラと舞っています。口に含んでみますと、甘じょっぱくてホロ苦味もあり、ほんのりと金気(非鉄系?)味も確認できました。湯使いは加温と塩素消毒を行った上での放流式であり、加水や循環は行われておらず、お湯の鮮度は良好です。分析表によれば、温泉の主成分は食塩であり、溶存物質8217.6mg/kgとのことですから、その数値を信じるならば甘じょっぱいどころか、もっとしょっぱくても良いはずですが、もしかしたらデータ分析時より薄くなっていたのかもしれません。でも食塩泉らしい(弱いグリップ感を伴う)ツルスベ浴感がはっきりと肌に伝わり、湯中では薄っすらと気泡の付着も見られ、湯上がりにはパワフルに火照って、いつまでも汗が引きませんでした。かなり力強いお湯です。この界隈には、埼玉県北部屈指の名湯である東鷲宮駅近くの「百観音温泉」がありますが、当温泉もそれに似たタイプのお湯であり、もっと巨視的に捉えれば、東京湾から埼玉県東部を通過して栃木県へと伸びる鬼怒川地溝帯に点在する、化石海水型温泉の典型例といって良いでしょう。

ちなみに源泉名は「童謡のふる里おおとね温泉」という長い名前なのですが、少なくとも温泉浴場内に童謡の要素は全く見当たりません。帰宅後に調べたところ、「♪ささのはサ~ラサラ」の「たなばたさま」など数多くの童謡を生み出した作曲家・下総皖一(1898年~1962年)が大利根町エリアの出身であったことに因んで、旧大利根町では「童謡のふる里おおとね」というフレーズを町おこしに使っていたことがあり、源泉名もそのキャンペーンの一環で命名されたようです。当地では他に図書館や道の駅などが同じく「童謡のふる里」を名乗っています。

内湯のみの小さなお風呂ですから、私のような好事家以外の皆様にとっては、わざわざ出かけて行くほどでないかと思いますが、東京から余裕で日帰りできる距離にもかかわらず、たっぷりと旅情が味わえる長閑な農村風情の中で、掛け流しの食塩泉に浸ることができる、渋い佇まいの実力派温泉浴場でした。


ナトリウム-塩化物温泉 41.3℃ pH7.3 溶存物質8217.6mg/kg 成分総計8229.6mg/kg
Na+:2783.0mg(89.57mval%), NH4+:8.6mg, Mg++:28.9mg, Ca++:209.2mg(7.72mval%), Fe++&Fe+++:0.4mg,
Cl-:4841.0mg(98.11mval%), Br-:19.1mg, I-:5.7mg, HCO3-:139.8mg,
H2SiO3:82.4mg, HBO2:67.7mg, CO2:11.8mg,
(平成26年12月10日)
加水・循環なし
加温あり(入浴適温にするため)
消毒あり(衛生管理のため。塩素系消毒剤を注入)

加須市コミュニティーバス「かぞ絆号」の騎西総合支所~加須駅~柳生駅~新古河駅を結ぶ路線(シャトルバス)で「大利根総合支所」下車、徒歩
埼玉県加須市琴寄903  地図
0480-72-5069
加須市公式サイト内の案内ページ

10:00~20:00 火曜定休(祝日の場合は翌日。年末年始は無休)
市外500円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (6)
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鶴丸温泉

2016年02月25日 | 鹿児島県
 
上画像は吉都線の鶴丸駅です。単線の線路に1本のホームがあるだけの、至って質素な無人駅ですが・・・


 
この駅のすぐ目の前には、九州でも屈指の濃いモール泉として誉れ高い「鶴丸温泉」がありますので、今回の九州温泉巡りの締めとして、こちらへ立ち寄ることにしました。昭和の香りを強く放つ古く鄙びた外観の建物で、本業は旅館なのですが、老人福祉施設を併設しており、地域住民の皆さんにとっては銭湯代わりとしても愛されているようです。


 
玄関を上がってすぐ左に帳場の窓口があり、そちらで湯銭を納めてから、奥にある浴室へと向かいます。途中で左へ曲がる廊下が分岐しており、その先には座敷や客室らしき空間が広がっていたのですが、おそらくそこが旅館ゾーンなのでしょう。


 
上述で地元の方から銭湯代わりとして親しまれていると申し上げましたが、浴室のつくりは旅館というより公衆浴場そのもので、広い脱衣室と浴室との間はガラスサッシで仕切られており、浴室内部の様子がよく見通せます。幸いなことに私が脱衣室へ入ったとき、ガラス越しに見える浴室内には誰もいなかったのですが、さすが人気のお風呂らしく、わずかこの数分後に浴室は10人近い利用客で一気に賑やかになりました。

浴室は天井が高くて窓が多く、湯気篭りも少ないので、日中はとても明るく開放的です。女湯との仕切りには鳥が描かれた大きな壁絵が施されているのですが、鶴丸だからてっきり鶴なのかと思いきや、そこに描かれていたのは意外にも鷺なのでした。この鷺たちの下には洗い場のカランが8基並んでおり、うち4基はシャワー付きなのですが、いずれも吐出圧力が弱く、しかもぬるいので、常連さんはそれを知っているのかどなたもカランを使わず、桶で浴槽から直接お湯を汲んでいらっしゃいました。なおカランから出てくるお湯は温泉です。



内湯の浴槽は俵を二つズラして並べたような形状をしており、一見すると同じ寸法に見えるのですが、実際には脱衣室側の方がやや小さい6人サイズで、もう一方はそれより若干大きい7人サイズです。なお小さな方は槽内の袖板で二分割されており、一部分は浅い造りになっていました。
両浴槽とも乳鉢のような形をした湯口から熱くて美しい琥珀色の温泉が供給されており、湯口の上部には水道蛇口が設けられていて、お客さんが自由に加水できるようになっていました。実際に、私の訪問時には常連さんが水道蛇口を思いっきり開いてどんどん加水しており、おかげで小さな浴槽はかなりぬるくなっていたのですが、いつもはどんな感じなのでしょうか。ちなみに加水前の浴槽は44℃近い熱めの湯加減で、浴槽縁からしっかりオーバーフローしており、紛うことなき完全放流式の湯使いでした。


 
このお風呂は一見すると内湯だけのように思われるのですが、内湯の壁にはコンパネでできた小さな出入口が取り付けられており、コンパネの表面には意味深な矢印が記されていましたので、忍者になった気分で腰を屈めながらこの秘密の出入口を開けてみますと、外側には庭園のような空間に露天風呂が設けられていました。露天風呂には2つの浴槽があり、いずれもコンクリ造で縁には木材が用いられているのですが、一方には屋根が設置されており、ちょっとした差別化が図られています。
庭木や垣根の向こうには踏切や鶴丸駅があり、私がここで入浴していると、カンカンと踏切の鐘の音が響いて、ディーゼルの普通列車がやってきました。それらの音はかなりの至近距離から聞こえ、しかも庭木の上からは、駅に停車している列車の屋根も見えるのですが、うまい具合に目隠しされているため、列車からこちらが見られてしまうようなことはありません。


 
2つともほとんど同じような大きさですが、屋根付きの槽には温泉が張られ、屋根なしは水風呂です。今回水風呂は利用しなかったので、温泉槽に限定して言及させていただきますと、大きさとしては3~4人サイズで、一般的なお風呂より若干深く、それゆえ肩までしっかり湯に浸かれる入り応えのある造りになっていました。


 
 
内湯と異なりこちらは加水されていないため、私の体感で44~5℃近い熱めの湯加減となっており、(勝手な思い込みかもしれませんが)内湯よりも琥珀色の色合いが濃いように見えました。露天風呂では塩ビの配管からお湯が直接注がれており、その直下にはタオルが被せられた笊が置かれ、これによって湯の花などの固形物を濾しているようですが、タオルの目が粗いためか、湯中には細かな固形物がたくさん浮遊しており、桶でお湯を掬うと容易にそれらをキャッチすることができました。

前回記事ではコーヒー湯と称されている「原口温泉」を取り上げましたが、さすが九州屈指の濃さを誇るモール泉だけあって、この「鶴丸温泉」は「原口温泉」に負けず劣らずの濃い琥珀色を呈しており、芳醇なモール臭を放っています。特に露天風呂ではそのモール泉的な特徴がしっかりと感じられ、入浴中に鼻孔が湯面に近づくと、その芳香が絶え間なく香ってきて、モール臭が大好きな私にとっては興奮が止まりませんでした。湯口に鼻を近づけますと、単なるモール臭のみならず、何かを燻したかのような匂いも嗅ぎとれます。この湯口から出てくるお湯は直に触れないほど熱く、備え付けのコップで汲んでも、フーフー吹いて冷ましてからでないと飲泉できないのですが、熱さを堪えつつ口にしてみたところ、清涼感を伴う重曹的なほろ苦味が感じられました。
玄関に掲示されている昭和40年の分析表によれば、1kgの温泉に腐植質が6.40mg含まれているそうです。拙ブログで取り上げている温泉のうち、千葉県「御宿の湯 クアハイム」の腐植質は156mgと突出していますが、モール泉で名高い北海道・十勝川温泉の「富士ホテル源泉」は2.1mg、帯広駅前の「ふく井ホテル」は4.2mgですから、それらと十分に比肩できる立派なモール泉なのであります。ちなみにその手書きの分析表において、腐植質を「腐蝕」と誤記しているのはご愛嬌。けっして人体が溶けて侵されるようなことはなく、むしろ、この手の温泉に特有の非常に滑らかなツルツルスベスベ浴感がはっきりと得られました。入浴中はもちろんのこと、湯上りに非常に気持ち良く、老若男女の誰しもがウットリしてしまう、極上の美肌湯でした。


ナトリウム-炭酸水素塩温泉 65.8℃ pH8.3 成分総計1176mg/kg
Na+:184.8mg(73.66mval%),
HCO3-:63.6mg(90.70mval%), CO3--:1.465mg,
H2SiO3:232.2mg, CO2:3.736mg, 腐植質:6.40mg,
(昭和40年3月8日)

JR吉都線・鶴丸駅からすぐ
鹿児島県姶良郡湧水町鶴丸622-5  地図
0995-75-2828

6:00~21:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
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原口温泉

2016年02月23日 | 鹿児島県
 
前回に引き続き加久藤盆地のモール泉をめぐります。以前拙ブログでは吉都線の築堤と国道が交差するところに位置する「前田温泉」を取り上げたことがありますが、今回訪れるのはその線路の反対側にある「原口温泉」です。この辺りは本当に犬も歩けば温泉に当たると言っても過言ではないほど温泉浴場密集地帯であり、その密度は日本屈指ではないかと思われますが、多くが古くから共倒れすることなく営業を続けていますから、地元の方々の生活と温泉浴場が切っても切り離せない関係にあることが窺えます。この「原口温泉」も昔から愛され続けている温泉のひとつであり、創業はなんと大正時代なんだとか。国道の旧道と思しき路地に鄙びながらもどこかキャッチーな雰囲気を醸し出している3棟が並んでおり、中央に位置するのが番台と大衆浴場を擁する本棟で、「昔も今も良く効く!!」と書かれている棟には家族風呂の個室が並んでいます。


 
一方、ベンチが並ぶ田舎の駄菓子屋のような玄関の真上には、ちょっと離れた国道の現道からでも良く目立つよう、「原♨口」と書かれており、国道を往来する人々に大きな印象を与えています。出入口のそばに掲示されている説明文には、この温泉の沿革と効能が記されているのですが、効能に関してはとりわけ「傷と皮膚病一切には特に効果抜群!」なんだそうでして、文末には具体的に「殊にアトピー性皮膚炎・アセモ・草まけ・ハゼマケ(※)・水虫等に良いとされています」と適応症が列挙されていました。皮膚疾患に自信を持っているようです。
(※)ウルシやハゼの木に触ってかぶれちゃうこと。


 
私が玄関へ足を踏み入れると、屋内に「ピンポン」というチャイム音が鳴り響きました。リンゴやカップラーメンなど各種食料品が両側に並ぶ薄暗い番台で料金を支払い、奥にある浴室へと向かいます。番台には古くなって黄ばんだ渋い料金書きが掲示されているのですが、そこに書かれた「A級湯」という3文字が誇らしげです。でも和牛じゃあるまいし、温泉界でそんな等級は聞いたことがないので、何を以てAやBをランク付けしているのか、いまいちわかりません。


 
広い板の間の脱衣室では、信楽焼のタヌキがお出迎え。ロッカーなどはありませんが、棚には青いプラ籠が整然と並んでおり、古い建物ですが綺麗に維持されていました。


 
浴室と扉を開けた瞬間モール泉の香りに包まれ、その芳香につい鼻をくんくんと鳴らしてしまいました。この匂いだけで私が大好きなタイプのお湯に間違いないとの確証が得られ、一刻も早くお湯に浸かたい衝動に駆られます。浴室自体は鄙びた渋い佇まいで、昔日の公衆浴場らしい趣きに満たされています。
壁には部分的に細かく剥離している古い「入浴者心得」が掲示されているのですが、その文言を読みますと現行の公衆浴場法とは若干内容を異にする箇所もあり、そのギャップからこの浴場が経てきた時代の変遷を何となく読み取ることができました。


 
窓下の壁にお湯と水のカランが3組並んでおり、お湯のカランからは温泉が吐出されます。洗い場に備え付けられた備品類がちょっとユニーク。壁にかかっている赤ちゃん用と思しき大きな樹脂製の桶は、相当古いのか変質して表面がガッサガサ。どの温泉浴場にも言えることですが、お客さんは年寄りばかりで赤ちゃんが使う機会は滅多にないのかもしれませんね。また手桶はなぜか1号、 2号といったような番号がマジックで手書きされていました。味わい深いその手書きの字からは、田舎らしいほのぼのとした雰囲気が伝わってきます。


 
コーヒー湯と呼ばれているほど濃い琥珀色のお湯を湛える浴槽は、槽内で大小に二分割されており、絶え間なく供給され続ける湯口のお湯は、まず小さな槽へ注がれてから大きな槽へ流れ、そして洗い場の床へと溢れ出ていました。お湯の匂いや色合いからして間違いなくモール泉であり、その色の帯び方が強いために底はあまり目視できません。


 
湯使いは100%完全放流式。お湯の投入量が多いためか、槽から溢れるお湯も途切れることがありません。浴室の床タイルをすすぎ続けるお湯は、最終的に床の目皿へと吸い込まれてゆくのですが、この目皿は昔ながらの鋳物であり、よく見ると「中」の字が意匠化されていました。


 
左(上)画像は湯口のお湯が直接注がれる小さな浴槽で、大体3~4人サイズ。一方、右(下)画像はそこからお湯を受ける大きな浴槽で、キャパは5~6人でしょうか。お湯の流れから考えると、小さな浴槽の方が熱くなってしかるべきであり、実際に私が入室した当初はその通りだったのですが、湯船へ浸かるに際して両浴槽をしっかりかき混ぜたところ、大小両浴槽の温度差はほとんどなくなってしまいました。つまり両浴槽のお湯に大差ないようです。湯船に浸かりますと、まるで石鹸水の中にいるかのようなツルツルスベスベ感が全身を滑らかにし、非常に気持ち良く、その滑らかさに楽しさを覚えてしまって何度も自分の肌をさすってしまいました。皮膚疾患に効能があるそうですが、美人の湯としてのパワーも存分に発揮できるお湯だと思います。


 
上述しましたように、カランのお湯は温泉であり、勢いよく吐出されるそのお湯を手桶で受けたところ、こんな小さな桶ですら上画像のようにしっかりと琥珀色を呈していました。そしてカランのお湯も浴槽内のお湯も、湯中では茶色の細かい浮遊物がたくさん確認できます。モール泉の特徴をもたらす腐植質なのかもしれませんね。カランのお湯を口に含むと清涼感を伴う苦味が感じられます。重曹メインの泉質なのでしょう。また匂いに関しても、単なるモール臭のみならず、ツーンとくる若干の刺激臭(油性の版画インクみたいな臭い)も伴っていましたので、おそらく臭素等ハロゲン系の成分も含まれているのでしょう。



湯上がりに気づいたのですが、番台ではペットボトルに詰め込まれた鉱泉水が販売されていました。皮膚のお悩みに効果があるとのことですから、バスタイム以外でもこのお湯で肌を潤して疾患を癒すことを目的にしているのでしょう。
鄙びた風情はもちろんのこと、芳醇で強いモール臭、琥珀色のビジュアル、そして強いツルスベの滑らか浴感…。全てにおいてブリリアントな温泉でした。


温泉分析表確認できず

JR吉都線・吉松駅より徒歩15分(約1.2km)、もしくは吉松駅より徒歩25分(約2km)
鹿児島県姶良郡湧水町鶴丸1172  地図
0995-75-2045

7:00~20:00(家族風呂は別料金) 無休
250円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (3)
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吉松温泉郷 安楽温泉整骨院

2016年02月21日 | 鹿児島県

温泉浴場の宝庫、加久藤盆地の吉松地区へやってまいりました。このエリアにはたくさんの温泉があるのですが、今回訪れたのは「安楽温泉整骨院」です。整骨院と言っても、旅行中に骨折したわけじゃありません。九州の温泉ファンはご存知かと思いますが、この整骨院には温泉公衆浴場が併設されているのです。


 
整骨院の受付や施術室がある本棟の左側に、まるで納屋のような可愛らしい湯小屋が建っています。外観から想像するに、そんなに古い建物には見えず、おそらく建てられてから10年前後ではないのかな。浴場自体は無人。出入口は男女に分かれており、女湯入口の横に取り付けられているポストへ湯銭を納めます。


 
外観からも容易に想像できるように、浴場内はかなりコンパクトであり、脱衣室も3畳あるかないかで、棚と扇風機が備え付けられているばかりですが、お手入れが行き届き綺麗に維持されていました。室内のコルクボードにはいくつかの人生訓が貼り出されていたのですが、ここに限らず、民間公衆浴場の脱衣室には、なぜかこうした教訓めいた言葉が並べられる傾向にありますよね。



浴室も脱衣室とさほど変わらないほどのスペースしかなく、タイルと防滴建材で構成された実用的な造りなのですが、大きな窓があり、しかもサンルーフ状に外側へ出っ張っているため、陽光が燦々と降り注ぎ室内はとても明るく、狭さもかなり払拭されていました。


 
サンルーフ状の出窓には桶や腰掛けが並んでおり、公衆浴場らしい光景を生み出しています。天井に埋め込まれたスピーカーからは有線放送と思しき演歌が途切れることなく流れ続けていました。青森県では演歌の流れる温泉銭湯がよく見られますが、鹿児島県では珍しいかもしれません。


 
コンパクトなお風呂ですが、洗い場はちゃんと用意されており、混合水栓が2基取り付けられていました。うち1基はシャワー付きであり、カランから出てくるお湯は温泉です。なおボディーソープの類は備え付けられていおらず、販売もされていないので、あらかじめ持参する必要があります。


 
タイル張りの浴槽は1.5m×2mで、大体3人サイズ。バルブ付きの湯口から源泉のお湯が吐出されており、私が入室した時にバルブは半分程度開いたのですが、全開にしても湯加減に大して影響は無さそうだったので、数分間だけ全開にさせてもらったところ・・・


 
私が湯船に入ったら、浴室内が洪水状態になり、上の小さな画像でもわかるほど床タイルの上がオーバーフローで波立ちました。お湯がもったいないので、すぐにバルブを元通りにしておきましたが、新鮮なお湯で豪快な湯浴みを楽しめ、とっても満足です。無論、完全放流式。文句なしにフレッシュなお湯です。

加久藤盆地に湧くお湯はモール泉が多いのですが、こちらの源泉もやはり同様であり、見た目は無色透明に近いのですが、ほんのり琥珀色を帯びており、湯中には半透明の細かな浮遊物がチラホラしています。浴槽内はブラウンのタイルが用いられているのですが、お湯も薄い琥珀色ですから、湯船では琥珀色が余計に強調されているようにも見えました。また薄いながらもモール泉らしい知覚的特徴が得られ、具体的には木を燻したような香ばしい匂いや鉱物油のような匂い、ほろ苦味、重曹味、そしてちょっと焦げたような味が感じられました。匂いや味のみならず、浴感もモール泉そのものであり、ツルツルスベスベの滑らかな浴感がとても気持ち良く、湯上がりは粗熱の抜けが良いので爽快感も極上。大量掛け流しゆえの新鮮さも相俟って、実に清々しく心地の良い湯浴みが堪能できました。


吉松川東19号泉
アルカリ性単純温泉 55.9℃ pH8.9 溶存物質254.7mg/kg 成分総計254.9mg/kg
Na+:46.4mg(97.12mval%),
HCO3-:105.0mg(69.64mval%), CO3--:18.0mg(24.29mval%),
H2SiO3:78.5mg, CO2:0.2mg,
(平成19年4月6日)

JR肥薩線および吉都線・吉松駅より徒歩15分(約1.2km)
鹿児島県姶良郡湧水町中津川1086-1  地図
0995-75-2266

利用可能時間不明
200円
備品類なし

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