温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

東根温泉 ホテル来山荘

2015年07月31日 | 山形県
※残念ながら閉業したようです。

 
今年の1月下旬に東根温泉の「ホテル来山荘」で日帰り入浴していまいりました。温泉街の中心部にある足湯から程近い大きな十字路の角に位置しており、当地を訪れると必ず目にしていたお宿なので、以前からどんなお風呂なのか気になっていたのでした。


 
帳場で日帰り入浴をお願いしますと、帳場の奥から杖をついた老嫗が現れ、体を引き摺るようにしながらお風呂へと案内してくださったのですが、帳場から浴室まで意外と距離があり、わずか数百円しか払っていないのに、大きな負担をお願いするのが心苦しくなったので、途中で「もうここで大丈夫ですよ」と申し上げ、館内掲示に従いながら自分で浴室へと向かいました。ちょうど小正月に近い時季だったためか、帳場の前は村山地方ならではの団子木飾りで彩られ、廊下の途中にしつらえられていた透かし窓も美しく、館内を綾なす和の趣きに心が和みます。


 
廊下に飾られたこけしにみちのく風情を感じつつ、館内の奥へ歩いて浴室へ。浴室の暖簾には山形名産のベニバナが描かれていました。そういえば、表の看板には「紅花大浴場」って書かれていましたっけ。



浴室は暖色系のタイルと大きな一枚窓のおかげで、照明が無くとも十分明るい環境です。タイルの色がベニバナをイメージしているのかな。室内には東根温泉独特の湯の香が湯気とともに充満していました。


 

洗い場は壁に沿って2手に分かれて配置されており、一方にはシャワー付きカランが4基、他方にはスパウトのみのカランが5基並んでいました。室内に漂う温泉のミストの影響を受け、水栓金具は黒く硫化しています。メンテナンスなさっているお宿にとっては喜ばしくないことかと思いますが、温泉に硫黄が含まれている明確な証ですので、硫黄のお湯が好きな一人の客としては、ビジュアル的に興奮させてくれる見逃せない現象であります。


 
洗い場の奥にはあるドアから屋外に出てみますと、期待を抱かせる日本庭園風のレイアウトとなっているのですが、飛び石を伝っていった先で待っていたのは、空っぽの露天風呂でした。ありゃ、残念。露天風呂は冬季には使われないのかな? あるいは通年で使用停止しているのかな? 仕方がないので内湯へ戻ります。


 
四角い浴槽はおおよそ4m×2.5mで、10人サイズといったところ。槽内のステップはタイル貼りですが、底面は大きさの異なる多様な化粧石が敷き詰められています。また縁に用いられている白い御影石には、黄土色の温泉成分が部分的に付着しており、湯船のお湯はその縁の上を絶え間なく溢れ出ていました。
シャワーを浴びて体を洗った後に、いざ湯船に入ろうとしたところ、えらく熱くて落ち着いて湯浴みできません。温度を測ってみますと、46.1℃という高温だったのでした。源泉温度が60℃以上もあって、そのお湯を加水することなく完全放流式で提供しており、また私が入室するまでは他客の利用も無かったために、入るのを躊躇うほど熱い状態となっていたのでしょう。


 
ついでに吐出口の温度を測ってみましたら59.4℃もありました。道理で熱いはずです。もちろん湯加減に対して無策であるはずもなく、供給されるお湯の全量を湯船に注ぐと熱すぎてしまうためか、樋でお湯の一部を逃していました。
ヘタに加水するとお湯は薄まっちゃうし、何もしなければ熱くて入れない。熱い温泉をいかに質を落とさないでお客さんに提供するか…。お宿ではいろいろと苦心なさっているのでしょうね。


 
このままでは入れないので、桶などで湯もみを試みたのですが、温度はなかなか下がりません。そこで加水をすべく窓の下に取り付けられていた蛇口を全開にしたのですが、それでも湯船の温度は一向に下がりません。どうしたものかと、ホースから出ているはずの水を触ったら、火傷しそうなほどの激アツで腰を抜かしそうになりました。水道じゃなくて温泉だったんですね。慌ててこの蛇口を閉め、別の蛇口から加水をしつつ、改めてしっかり掻き混ぜたところ、ようやく入浴できる程度にまで落ち着いてくれました。

湯船のお湯は暗い翠色掛かった山吹色を呈し、僅かに懸濁しているように見えます。湯中にはベージュや褐色を帯びた様々な大きさの湯の華が浮遊しており、上述のお湯を逃がす樋の内側でもこの湯の華が付着してユラユラ揺れていました。アツアツのお湯をふぅふぅ冷ましながらテイスティングしますと、ほのかな塩味と清涼感を伴うほろ苦みがあり、おおまかに表現するとアブラ臭にカテゴライズされるような匂い、具体的には樹脂的な臭いとモール臭を足して2で割ったような香りが漂ってきます。特に匂いはかなり明瞭に感じられ、東根温泉でも屈指の強さを放っているように思われます。ツルツルスベスベのとても滑らかな浴感は、後を引くほど気持ち良く、当初の熱さはむしろシャキッとした爽快感をもたらし、肌にもよく馴染んでくれます。しかも湯上がりの後は程よく粗熱が抜けて、温浴効果と爽快感が共存し、おかげで沖融とした時間とフィーリングを楽しむことができました。東根温泉の良さを十分に体感できる素敵なお風呂でした。


東根温泉協同組合13号泉源泉
含硫黄-ナトリウム-塩化物温泉 66.2℃ pH8.0 溶存物質1280mg/kg 成分総計1284mg/kg
Na+:369.8mg(86.97mval%), Ca++:42.1mg(11.35mval%),
Cl-:412.8mg(63.23mval%), Br-:1.0mg, I-:0.2mg, HS-:1.6mg, S2O3--:1.0mg, SO4--:144.4mg(16.35mval%), HCO3-:204.4mg(18.20mval%),
H2SiO3:66.8mg, HBO2:20.5mg, H2S:0.2mg,
(平成17年3月14日)
館内では平成5年1月21日付の分析書が掲示されていましたが、それより新しいものを別の施設で見つけましたので、この記事では新しいデータを紹介させていただきます。

参考:平成5年1月21日付の分析書
東根温泉協同組合13号泉源泉
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 69.7℃ pH8.1 蒸発残留物1277mg/kg
Na+:390.8mg, Ca++:48.8mg,
Cl-:469.5mg, Br-:1.1mg, I-:0.3mg, HS-:1.5mg, SO4--:172.0mg,
H2SiO3:78.6mg, HBO2:29.0mg, H2S:0.1mg,


JR奥羽本線・東根駅より徒歩18分(1.5km)
山形県東根市温泉町1-16-2  地図
0237-42-0018

※残念ながら閉業したようです。
日帰り入浴時間不明
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカー見当たらず

私の好み:★★+0.5
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銀山温泉 古勢起屋別館

2015年07月29日 | 山形県
 
 
銀山温泉湯めぐりの3軒目は、木造四階建の立派なお宿「古勢起屋別館」を訪いました。重厚感のあるファサードはもちろん、川に面した唐破風の玄関が威風堂々で、実にフォトジェニックです。
玄関の左側は「すわろーネ」という和洋折衷でレトロ風情たっぷりレストラン。老舗だからといって肩肘張らず、どんなお客さんでも気軽に立ち寄ってもらおうとする観光客ウェルカムな温かい心が伝わってきます。こちらのお店では山形牛を使ったカレーやハンバーグが売りなんだとか。日帰り入浴の場合は、このレストランから入り、入口すぐ右手前にある食券券売機で入浴料金を支払います。


  
 
レストランのスタッフさんに入浴券を手渡して、旅館側の廊下へと移ります。こちらのお宿には地下にある「ほっこりのちか湯」と、奥の方に位置している「ぬっくりの金太郎湯」の2つがあり、時間によって男女を切り替えているらしく、訪問時は前者に男湯の暖簾が掛かっていました。帳場前から階段を下りて脱衣室へと向かいます。脱衣室の入口まわりはステンドグラスで彩られており、その手前側に洗面台が設置されていました。
ウナギの寝床のような細長い脱衣室は綺麗にお手入れされており、足元は畳敷きでとっても快適です。貴重品用のロッカーが設置されている他、カゴはナンバリングされており、お客さん同士の衣服の取り違いを防いでいました。たしかに宿泊時はみなさん同じ浴衣を着ますから、たまに間違えて他の人のものを着ちゃう粗忽なお爺さんがいるんですよね。番号が振ってあれば、こうしたトラブルも多少は減るのかも。


 
脱衣室に沿う形で平行に設えられている浴室も、同様に細長い造りなのですが、半地下とはいえ、ほぼ2フロア分の高さが確保されており、1階にあたる部分には窓があるため、地下であることを忘れちゃうほど明るく、閉塞感はありません。換気も良好で湯気篭りもなく、快適に過ごせました。


 
川側の窓下には洗い場が配置されており、シャワー付きカランが2基取り付けられていました。脱衣室と浴室を仕切るサッシに嵌めこまれているステンドグラスが印象的です。


 
ステンドガラスと並んでこの浴室を特徴付けているのが、山側の壁面に描かれたタイル絵です。風車がまわる水辺の集落が描写されていますが、オランダの水郷地帯をイメージしているのでしょうか。もうひとつの浴室「ぬっくりの金太郎湯」が日本の温泉旅館らしい和の趣きであるならば、この「ほっこりのちか湯」は洋のコンセプトで造られており、レトロな和洋折衷のランドスケープを特徴とする銀山温泉の、要となる2つのファクターを因数分解して、それぞれの浴室で別箇に表現しているかのようです。


 
湯口からは焦げたタマゴのような香りを放ちながら、60.4℃の熱いお湯がトポトポと注がれていました。石樋の流路には綿毛のような茶色い湯の華がユラユラ揺れており、そのまわりには白い析出がこびりついています。浴槽の大きさの割には投入量が少なかったのですが、水を加えずに湯量調整だけで温度調整を行うためなのかもしれません。


 
細長い湯船には湯口がもう一つあるのですが、そちらはほとんど止まっていました。とはいえ全体的に赤茶けており、細かなトゲトゲも付着していますので、長年にわたって温泉成分が付着しつづけたのでしょう。
2つある湯口の背後の壁は、凸の字を逆さにしたような形状の凹みがあり、そこには桶や腰掛けなどが置かれていました。


 
小判を思いっきり引き伸ばしたような形状をしている浴槽は、目測で幅1.5m、長さ6.5mといったところでしょうか。槽内には淡いエメラルドグリーンのタイルが用いられており、ベージュ系の室内タイルとのコンビネーションにより、全体的に柔和で優しいイメージが生み出されていました。
上述のようにお湯の投入量は少なめなのですが、その甲斐あってか、湯船は40.8℃という入りやすい温度に抑えられており、しかも湯使いは完全放流式。湯船のお湯は縁の切り欠けから排湯されているのですが、私が湯船に入りますと、縁のあらゆるところからしっかりとオーバーフローしてゆきました。ツルスベ浴感がとても気持ち良く、穏やかな湯加減でしたから、じっくり浸からせていただきました。


 
浴槽の底には大小様々なサイズの茶色い湯の華が沈殿しており、その量も結構多かったので、湯の華が好きな私は、つい桶で掬って指先で触れたりしながら、じっくり観察してしまいました。そういえば、前回記事の「大湯」や前々回記事の「旅館松本」と同じく、こちらのお宿でも集中管理されている協組2・3・6号源泉の混合泉を引いており、甘塩味に焦げたようなタマゴ味、お煎餅のような風味に焦げタマゴ臭、そして弱い芒硝臭といった知覚面は共通しているのですが、白い湯の華が目立っていた「大湯」や「旅館松本」と異なり、こちらの湯の華は茶色系で統一されています。同じ源泉でも湯の華の現れ方は違うんですね。

今回は2つある浴室の片方しか入れませんでしたが、次回はもう一方にも入って、是非両方を制覇してみたいものです。日帰り入浴時間は短いものの、銀山温泉らしい風情を存分に味わえるお宿ですから、お昼ごろに当地を観光するならば、ここのレストランでお食事をしつつお風呂も浴びてしまうという利用方法も良いかもしれませんね。


協組2号・3号・6号源泉
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 63.8℃ pH6.6 蒸発残留物2021mg/kg 溶存物質215mg/kg
Na+:581.6mg, Ca++:76.8mg,
Cl-:786.3mg, Br-:2.2mg, I-:0.6mg, HS-:0.3mg, SO4--:327.9mg, HCO3-:120.6mg,
H2SiO3:97.7mg, HBO2:100.9mg, CO2:55.6mg, H2S:0.9mg,

山形県尾花沢市銀山温泉417
0237-28-2322
ホームページ

日帰り入浴11:00~14:00(受付13:30まで)
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★

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銀山温泉 大湯 2015年冬 再訪

2015年07月27日 | 山形県
 
フォトジェニックな旅館建築が川沿いに並ぶ銀山温泉のちょうど真ん中辺りに、なまこ壁と格子窓、左右両側に伸びるうだつ等が印象的な建物「大湯共同浴場」が、続いての入湯地です。拙ブログでは6年前に一度取り上げておりますが(当時の記事はこちら)、半年前の冬に再訪したので、改めてレポートさせていただきます。いつの間にか「かじか湯」なんていう通称が与えられていたんですね。


 
なまこ壁および格子窓の内側は通り抜けられる通路になっていて、男女別浴室の扉が面しています。無人施設ですから、入室に際しては所定のポストへセルフで湯銭を納めさせていただきました。


 
ドアを開けるとすぐに脱衣室となり、細長くて狭いために3人以上の同時利用は厳しそうな感じなのですが、場所柄観光客の利用も多いのか、扉付きの棚には風呂屋錠が取り付けられていました。窮屈な空間ですので、さっさと脱いで浴室へ向かいたいところですが、ここで焦ってはいけなんですね。ドアには「まってけらっしゃい」と大きく記された注意喚起が貼り出されており、特に一番上に箇条書きされている「水を入れて温度調整しましたか?」という項目が重要。いきなり風呂に入ろうとすると、えらい目に遭うのであります。


 
浴室には濃い湯気とともに、焦げたようなタマゴ臭とお煎餅のような芳ばしい香りが充満していました。大湯とは名ばかりの、6畳に満たないほどコンパクトな室内には、2×3m程度の浴槽がひとつ据えられ、シャワー付きカランが1基設置されています。床は石板敷きで、側壁の下部は人研石、上部はモルタル塗りという、ふた昔前のお風呂らしい質実剛健な造りです。


 

山側の壁から耐熱の塩ビ管が突き出ており、そこから70℃の激熱湯が垂直に落とされていました。迂闊に触るとヤケドしちゃいそう。このお湯は浴槽に注がれること無く、そのまま棄てられているのですが、余り湯なのでしょうか。


 
さて、脱衣室の注意書きには「水を入れて温度調整しましたか?」と書かれていましたが、その注意喚起が言い表している通り、私の訪問時の湯船は48.3℃もあり、とてもじゃないけど、このまま入浴したり、あるいは掛け湯するには熱すぎました。なんでこんなに熱いのかと言えば…


 
 
浴槽にお湯を注いでいる湯枡の蓋を開けて中の温度を測ってみますと、63.4℃という高温であり、これがそのまま湯船へと注がれているからアツアツなんですね。枡の中は芥子色の湯の華が溜まっており、湯口の流路には白い湯の華が流れに身を任せてユラユラ揺れていました。お湯からは甘塩味と焦げたようなタマゴ味、芒硝味、そしてメイラード反応にも似た芳ばしい風味が感じられます。


 
熱いお風呂に入り慣れているとはいえ、さすがに48℃以上もある湯船には入りづらいので、注意書きに従ってガッツリ加水しながら、備え付けの湯もみ棒でしっかり掻き混ぜ、緊張感なく入れる程度にまで湯温を下げさせていただきました。加水の代償として湯船から香る匂い等は弱まってしまいましたが、それでも鮮度感は損なわれることなく、且つシャキッとする浴感も気持ち良く、銀山温泉の湯を存分に楽しむことができました。銀山温泉では集中管理されたお湯を各施設に配湯しており、どのお宿や施設も同じお湯であるはずですが、湯使いによってフィーリングが異なるところが実に興味深いところです。

そういえば、以前の銀山温泉のお湯って白濁していましたよね。以前拙ブログで大湯を取り上げた当時(6~7年前)では、既に白濁は失われて透明に近い状態となっていましたが(当時の記事はこちら)、それでも泉質名は含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉であり、「含硫黄」の文字が燦然と輝いていました。ところが現在では総硫黄の量が減ってしまい、硫黄泉を名乗れなくなっています。私の風呂上がりとすれ違いに入ってきた地元のお客さん曰く、湯量が減ってボーリングをやり直したら、湯量が戻ったけど透明になっちゃったんだよね、とのこと。銀山温泉は硫黄の量が漸減してゆく運命にあるのかしら。


協組2号・3号・6号源泉
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 63.8℃ pH6.6 蒸発残留物2021mg/kg 溶存物質215mg/kg
Na+:581.6mg, Ca++:76.8mg,
Cl-:786.3mg, Br-:2.2mg, I-:0.6mg, HS-:0.3mg, SO4--:327.9mg, HCO3-:120.6mg,
H2SiO3:97.7mg, HBO2:100.9mg, CO2:55.6mg, H2S:0.9mg,

山形県尾花沢市銀山新畑 地図

8:00~19:00
300円
ロッカーあり、他備品類なし

私の好み:★★
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銀山温泉 旅館松本

2015年07月25日 | 山形県
 
半年前の冬の某日。日帰りで雪の銀山温泉をサクッと軽く巡ってまいりました。


 
この日はじめに立ち寄ったのは「旅館松本」です。風情あるノスタルジックな旅館建築が多い銀山温泉にあって、こちらのお宿はALC造と思しき目立たぬ佇まいですが、表に「御入浴出来ます」の札が掛かっているのを目にしたので、その文言に期待して入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。


 
お風呂は玄関から真っすぐ伸びる廊下を進んだ突き当たりにあり、男女別の内湯のみです。茣蓙敷きの脱衣室から浴室の戸を開けると、焦げたようなタマゴ臭がプンと香り、温泉情緒を高揚させてくれました。
室内には雪が反射した白い外光が差し込んでおり、湯面から立ち上る湯気に乱反射して、夢想的な光彩空間が生み出されていました。この光をもたらす雪は窓のすぐ裏手に積もっているのですが、そこには急な斜面が迫っており、時折崖の上から雪がドサっと大きな音を立てて落ちてくるので、その度にビックリして「雪崩てこないものか」と怯えてしまいました。深く切れ込んだ谷の底にいることを実感します。


 
このお風呂で印象的なのが、総檜造りの浴槽と、その浴槽を中心にして扇を広げるかのように放射状に敷き詰められている桧の床板です。その幾何学的な美しさは、今は亡き青森県「温川山荘」の内湯を思い出させてくれます。洗い場のシャワーは2基で、浴槽はひとつだけという、小規模旅館らしいコンパクトなお風呂なのですが、主役の温泉を引き立てる部分には贅沢な施工が採用されており、入浴のひと時を大切にしようとするお宿の心意気が伝わってくるようです。なお浴槽はおおよそ4人サイズ。見た目の美しさのみならず、実際に入った時の優しく滑らかな肌触りも実に心地よく、小さいながらも品の良さを醸しだしていました。


 

こちらに引かれているお湯は協組2号・3号・6号源泉のブレンドもの。配管を流れてきたお湯は一旦木の枡に注がれ、舌のように短く突き出た板を伝って、浴槽へ落とされていました。館内表示によれば温度調整のため加水しているとのことでしたが、分析書に記されている温度が63.8℃であるのに対し、湯口から落とされるお湯の温度は61.3℃であり、他の箇所で加水しているような形跡も見られなかったので、訪問日のような冬季はほとんど(あるいは全く)加水されていないのではないかと思われます。もちろん放流式の湯使いであり、縁からは静かにお湯が溢れ出て、放射状の床板の上に滴っていました。

60℃以上もあるアツアツなお湯ですから、湯船もはじめのうちは熱かったのですが、投入量がやや絞られていた上、冬という時節柄もあってか、しっかり掻き混ぜたら43℃まで落ち着いてくれ、加水することなく湯浴みすることができました。この撹拌の際、底に沈殿していたたくさんの湯の華が舞い上がり、備え付けのケロリン桶で湯の華を掬ってみたら、上画像のように簡単にキャッチできちゃいました。お湯を口にしてみますと、薄いながらも明瞭な塩味と焦げたようなタマゴ味が感じられ、上述のような焦げタマゴ臭が鼻孔から抜けてゆきました。何度も肌を擦りたくなるほどのツルスベ浴感が気持ち良く、また温浴効果も強くて、湯上がりはしばらく外套を着たくなくなるほど、力強い温まりが持続しました。
美しい総檜のお風呂で掛け流しの銀山の湯に入れる、いぶし銀のような存在のお宿でした。


協組2号・3号・6号源泉
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 63.8℃ pH6.6 蒸発残留物2021mg/kg 溶存物質215mg/kg
Na+:581.6mg, Ca++:76.8mg,
Cl-:786.3mg, Br-:2.2mg, I-:0.6mg, HS-:0.3mg, SO4--:327.9mg, HCO3-:120.6mg,
H2SiO3:97.7mg, HBO2:100.9mg, CO2:55.6mg, H2S:0.9mg,
加水あり(源泉温度が高いため)、加温循環消毒なし

山形県尾花沢市銀山新畑421  地図
0237-28-2021
ホームページ

日帰り入浴10:00~15:00
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品帳場預かり、

私の好み:★★+0.5
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寒河江温泉 ホテルシンフォニー 後編(温泉)

2015年07月23日 | 山形県
前回記事(前編)の続きです。

 
前回記事では寒河江駅のすぐ傍に立地する「ホテルシンフォニー」客室などの様子を紹介しましたが、今回こちらのホテルを宿泊利用した理由は、料金面もさることながら、大浴場で掛け流しの温泉に入れることも大きな魅力でした。しかも夜通し利用可能なんですよ。調子に乗って宿泊中は晩に2回、朝に1回、計3回も利用しちゃいました。雪を被った中庭を眺めながら1階浴室へ。


 
浴室へ向かう廊下には、昭和30年代に撮られた寒河江温泉の写真が展示されていました。入浴の最中だったり、御膳を前に胡座をかいたりと、いずれの写真にも力士が写っていますので、地方巡業の際に撮られたのかもしれません。


 
奥に長い造りの脱衣室には、カゴがたくさん用意されており、洗面台の数も多く、広くて綺麗で使い勝手良好です。一方で、今時珍しい紫外線のブラシ消毒器やオジサン向けのヘアトニックなど、備え付けのアメニティは前世紀的。


 
浴室内にはモール臭が強く漂っており、戸を開けた瞬間にその芳香が香ってきました。緩やかな曲線を描く窓ガラスに面してタイル張りの浴槽が据えられており、窓からの外光と室内照明によって十分に明るい環境が生み出されています。床タイルの表面には波状の茶色い模様が付着しているのですが、これはオーバーフローしてタイルの上を流れ去ってゆく温泉の成分がこびりついたのでしょう。
なお3階の一部客室からは浴室が丸見えとなる位置関係にあるため、窓ガラスには反射フィルムが貼られています。


 
洗い場は2ヶ所に分かれており、計7基のシャワー付きカランが並んでいます。またこれらとは別に、パーテーションで仕切られているブースには、立って使うシャワーが1基設置されていました。室内にはサウナと水風呂(ポリバス)も併設されているのですが、この日はいずれも使用停止中でした。


 
浴槽は下底の短い台形のような形状をしており、槽内の仕切りで左右対称に2分されているものの、仕切りが低いために、左右双方の湯船にはほとんど同じコンディションのお湯が張られていました。浴槽の造りがシンメトリならば、それらへお湯を注ぐ湯口もシンメトリであり、丸い柱の下には2つの湯口が90度の角度をなして配置され、それぞれから46~7℃のお湯が落とされていました。湯口の流路をよく見ますと、硫黄に起因すると思しき白く細かな湯の華が薄くこびりついていました。


 
 
左右の両浴槽はいずれも6~7人サイズで左右対称なのですが、右側浴槽の槽内にはステップがあって、その部分だけは左右で異なります。館内表示によれば湯使いは加水加温循環消毒の無い完全掛け流しとのこと。柱の湯口から浴槽へ注がれたお湯は、縁の切り欠けから排湯されています。浴槽の底にステンレスの格子が嵌めこまれていたのですが、これって気泡発生装置なのか、はたまた吸引口なのか・・・。湯口では46~7℃というやや熱めの温度で吐出されるのですが、湯船では43~4℃という入浴できる湯加減に落ち着いていました。人によってははちょっと熱く感じるかもしれませんが、手が加えられていないお湯だけあって、鮮度感は良好です。完全掛け流しのお湯ですから、多少熱くてもぐっと堪えて掛け流しのお湯の気持ちよさを味わっていただきたいものです。


 
露天風呂は浴室の窓際に無理やり設けたような、猫の額ほどの小さなもので、庭園との間に塀が立ちはだかっているため、閉塞感が否めずちょっと残念なのですが、実用的なタイル張りの内湯に対して、露天の槽内は石板が、そして縁には木材が用いられており、限られた範囲内でも何とか温泉風情を醸し出そうとする懸命な努力が垣間見えます。浴槽の大きさは、おおよそ4人サイズでしょうか。


 
露天の湯口にも白い湯の華が薄っすらと付着していますね。吐出される時点では内湯と同じく46~7℃なのですが、さすがに雪国の外気に晒されているためか、湯船では41℃前後という緊張感不要な湯加減まで下がっていましたので、おかげさまでじっくり長湯させていただきました。内湯同様に掛け流しかと思われますが、だらしなくオーバーフローさせちゃうと庭園に悪影響が出てしまうためか、排湯は溢れ出しにさせず、槽内の目皿から行われているようでした。

この露天で個人的に印象に残ったのが、深夜の湯面に浮かんでいた大量のアワアワです(画像右(下))。時間帯によって現れ方は異なるかと想像しますが、温泉で気泡を目にすると反射的に興奮してしまうのが温泉ファンの性であり、湯面を覆い尽くす大量の泡にまみれたくなった私は、睡眠時間が短くなるのを承知で、丑三つ時の露天に浸かってこの状態のお湯を楽しみました。尤も、浮かんでいる泡こそ多かったものの、湯中での気泡付着はあまり見られなかったのですが、都合3回の入浴で、知覚的特徴が最も強かったのは、このアワアワが絶好調だった深夜帯でした。

お湯は淡い山吹色でほぼ透明。夜間に見ると薄い琥珀色にも見えます。ほのかな塩味と非鉄系の金気味、弱いタマゴ味、そしてほろ苦みが感じられます。苦味に関しては、他の味覚よりも若干遅れて伝わってくるのですが、その後は喉の奥の粘膜に残り、存在感を誇示し続けていました。匂いに関しては、モール臭と焦げたようなタマゴ臭、そして弱い金気臭が香ってきます。前々回取り上げた「割烹旅館吉本」と同じ組合第2号源泉を引いているのですが、こちらのお風呂においては、金気が若干強く感じられました。
分析書で確認する限りでは、硫黄感をもたらすような数値を確認できないのですが、湯口で見られた白い湯の華とお湯を口にした時に得られたタマゴ感は間違いなく関連性のあるものと推測されますので、分析書には現れていない硫化水素等も若干含んでいるのではないかと思われます。
「美人の湯」というコピーに相応しく重曹泉らしいヌルヌル感を伴うツルスベ浴感がとても滑らかで、湯上がりはさっぱり爽快です。内湯は鮮度感も素晴らしく、心身がシャキっと引き締まる熱めの湯加減が相俟って、とても気持ちの良い湯浴みが楽しめました。駅前という好立地なのに、経済的に泊まれる上、掛け流しの温泉に好きなだけ入れるという、実にコストパフォーマンスに優れたホテルでした。


寒河江温泉協同組合第2号源泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 49.3℃ pH7.3 蒸発残留物1346mg/kg 溶存物質1524mg/kg
Na+:419.7mg, Mg++:14.4mg, Ca++:36.3mg,
Cl-:550.4mg, Br-:1.3mg, I-:0.2mg, HCO3-:371.4mg,
H2SiO3:100.7mg, CO2:31.2mg,

JR左沢線・寒河江駅より徒歩1~2分
山形県寒河江市元町1-3-13  地図
0237-86-2131
ホームページ

日帰り入浴時間12:00~16:00
800円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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