温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

登別市 旅荘いずみヴィラ

2015年05月30日 | 北海道
 
昨年夏の某日。北海道のJR登別駅から程近い住宅街の端っこにある「旅荘いずみヴィラ」へ立ち寄って、日帰り入浴して参りました。海岸から続く平たい住宅地が終わって、いよいよ奥深い山がはじまる緑豊かな崖の下に位置しており、周囲には観光客がやってくるようなものが一切ありませんので、事前に情報を仕入れていなければ、こんなところに温泉が存在しているだなんて気づかないでしょうね。登別にあるとはいえ、かの有名な登別温泉とは全くの別物です。
こちらの施設は元々住友系列の保養関係施設だったようですが、いろんな変遷を経て、現在は一般客も気軽に入浴や宿泊ができるような施設となっているみたいです(今に至る経緯はホームページ内にて細かく紹介されています)。
黄色い外壁が印象的な平屋の建物は、8~9年ほど前にリニューアルされており、館内はまずまず綺麗な方かと思います。受付にて湯銭を支払い、ロビーに置かれたマッサージチェアやソファーなどを横に見ながら、奥の浴室へと向かいます。


 
大きなガラス窓から陽光が降り注ぎ、明るく気持ちの良い環境が保たれている浴室。床や壁はタイル貼りです。男湯の場合、右手に2つの浴槽が前後に並び、左手には洗い場が配置されています。洗い場には温泉のお湯が出てくるカランが計9基設置されており、うち7基はシャワー付きです。ボディーソープなどの備え付けもありますので、タオル一枚あれば、気軽に利用できますね。


 
内湯の浴槽は大小2つが前後に並んでおり、いずれも縁は黒い御影石で、槽内はタイル貼りです。両者を仕切る塀の上に湯口が置かれて、双方に対してお湯を注いでいました。お湯はほぼ無色透明ですが、決して澄んでいるわけではなく、僅かに薄い山吹色を帯びつつ、弱い翠色を呈しているようにも見えます(翠色に関してはタイルの色の影響かと思いますが)。


 
お湯の投入量が豊富であるため、縁からは惜しみなく溢れ出ており、床に落ちた際に発生する波紋が、窓からの光をキラキラと反射させていました。後述するように温泉には加水されていますが、加温循環は行われておらず、れっきとした放流式の湯使いが実践されていました。


 
二つの浴槽を比較してみましょう。左(上)画像に写っている小さな浴槽はおおよそ1.5m×3mで、3~4人サイズ。脱衣室に掲示してある案内によれば42℃に設定されているとのことですが、実際にはそれよりやや熱く、私の体感では43~44℃はあったように思われます。湯口のお湯を手にとって口に含んでみますと、薄い塩味の他、芒硝味、そして金気を含む塩化土類泉のような味が感じられました。またアブラっぽい感覚や独特なエグミが含まれているようでした。
一方、右(下)画像の大きな浴槽は、小さな槽の2倍程と見られる容量があり、加水によって40~41℃という入りやすい温度に抑えられていました。でもその加水の影響なのかお湯の個性も弱まっており、小さな槽で得られたような特徴が全体的に薄まっているように感じられます。実際、浴槽内を見ましても、小さい浴槽では槽のタイルや御影石にうっすらと山吹色の温泉成分が付着しているのですが、大きな方ではその付着があまり確認できず、浴感としましても小さな槽の方が温泉らしい感覚がはっきりと伝わってきました。


 
露天風呂の浴槽は内湯の小さな槽とほぼ同じ容量で、縁の黒御影や槽内のタイルも共通しています。裏山に面している上、周囲を板囲いされているので、湯浴みしながら景色を眺望することはできませんが、塀の上からは、崖に広がる緑や青い空は眺めることができ、風も入ってきますので、露天らしい清々しい環境の中で入浴を楽しめました。露天浴槽を満たしたお湯は、縁の切り欠けから足湯らしき玉砂利敷きの細長い槽へと落とされ、そこから更に床へとオーバーフローしています。


 
露天風呂の湯口には金網が張られており、網目にはベージュ色の付着が見られます。おそらくこの露天も加水されていると思われますが、湯船の温度は42℃前後であり、絶妙な湯加減でした。当然ながら内湯同様、放流式の湯使いでしょう。この浴場においては、内湯の小槽が最もお湯が良く、次点はこの露天でした。

登別温泉は北海道屈指の温泉地として、国内のみならず海外からも多くの観光客がやってきますが、皆様ご存知のように温泉地は駅からはかなり離れており、今回取り上げた駅付近の登別東町「いずみヴィラ」で入ることのできる源泉は、登別温泉とは全くの別物であります。どちらかと言えば、位置的に近いお隣白老町の虎杖浜温泉に似ているように思えるのですが、よく吟味してみますと、虎杖浜の湯に芒硝感と土類感をミックスさせたような独特のフィーリングを有しており、虎杖浜温泉とは一線を画すロンリーウルフ的な存在と言えるでしょう。日帰り入浴ウェルカムであり、備品類も整っており、しかも放流式の湯使いで露天も利用できますから、当地で登別や虎杖浜とはちょっと毛色の違ったお湯に浸かりたい方におすすめしたいお風呂です。


住友3号
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉 56.2℃ pH7.2 221L/min(動力揚湯) 溶存物質2.248g/kg 成分総計2.350g/kg
Na+:410.8mg(62.24mval%), Mg++:20.3mg(5.82mval%), Ca++:174.2mg(30.27mval%), NH4+:0.5mg, Fe++:0.1mg,
Cl-:128.4mg(12.57mval%), HS-:0.5mg, SO4--:801.2mg(57.92mval%), HCO3-:512.2mg(29.13mval%),
H2SiO3:167.9mg, HBO2:16.2mg, CO2:101.8mg, H2S:0.4mg,
加水あり(地下水を加水して温度調整を行っている)

JR室蘭本線・登別駅より徒歩12分(1.0km)
北海道登別市登別東町3丁目17-6  地図
0143-83-1331
ホームページ

日帰り入浴11:00~21:00
410円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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新安比温泉 静流閣 後編(大浴場)

2015年05月28日 | 岩手県
前回記事「新安比温泉 静流閣 前編(客室・らくらくの湯)」の続編です。

 
前回の記事で取り上げました「らくらくの湯」の次は、旅館ご自慢の「大浴場」を見てまいりましょう。
私が宿泊した日は某大学の野球部も団体利用しており、夜9時頃までは若人達の元気が館内の各所で漲っておりましたので、彼らが大人しくなってくれた深夜11時頃に大浴場へと向かいました。従いまして、全体的に画像が暗くて見難いのですが、何卒ご容赦のほどを。
日帰り入浴用の玄関を脇目に見ながら、階段を下ってB1Fへ向かうと、そこにはえらく小洒落た浴場入口が構えていました。「朱塩泉 金の湯」という書が新安比温泉の特徴を端的に表現しています。


 
モダン和風な造りの脱衣室は、落ち着いた雰囲気で清潔感にあふれており、設備関係が整っていて使い勝手良好です。おそらく最近リノベーションされたのでしょうね。対人関係は第一印象が重要と言いますが、お風呂に関しては言うならば、第一印象に相当する脱衣室が綺麗で使いやすいと、その後必ず足を踏み入れる浴室に対しても、良いイメージを抱きたくなるものです。脱衣室の良し悪しは、その温泉宿の質を計る指標の一つであると私は思っています。
洗面台に揃えられているアメニティ類も充実。一角には水のサービスが用意されているのですが、後述するようにこちらのお湯は大変パワフルであり、一般的な温泉よりも火照りや発汗作用が強いため、この飲用水の存在は大変重要なんですね。入浴後はもちろん、入浴前にも水分を補給しておきましょう。


 
 
壁や浴槽の茶色と天井の白色、この二色のコントラストがハッキリしている浴室は、(男湯の場合)右手に浴槽類が、左手に洗い場が配置されており、洗い場にはカランが10基(うち9基はシャワー付き)が並んでいました。
浴槽類は、温泉が張られている二つの槽の他、水風呂と打たせ湯が設けられているのですが、私の訪問日は打たせ湯が使用中止となっていました。


 
天井と床の色合いを統一させるのはインテリアコーディネートの定石であり、実はこの浴場においても、床タイルに用いられている色は天井と同じ系統のオフホワイト(あるいはベージュ)なのですが、温泉のオーバーフローが流れてゆく一帯は成分付着によって赤銅色に濃く染まっており、特に源泉風呂付近では石灰華の固着により千枚田状態となっていました。右(下)画像は、オーバーフローが流れる床とそうでないところを写したものですが、ここまではっきりと色の違いが現れているんです。それだけ濃い温泉なんですね。


 
2つの温泉槽には、木製投入口から伸びる樋を伝って、お湯がそれぞれに対して分配されています。樋の長さによって温度が調整されるのか、樋を流れる距離が短い小さな浴槽の方が熱く、樋の終端からお湯が落とされる大きな浴槽は万人受けする湯加減となっていました。他の施設のような配管丸出しですと風情はありませんし、岩の湯口だとありきたりですが、このような木の樋ですと、それを通じて湯守さんの顔が見えてくるような感じがし、ちゃんとした温泉に入れているんだという実感が湧いてきます。


 
 
2つある温泉槽のうち、窓側の小さな方は「金の湯」と称されており、説明札によれば「薬効抜群の"源泉風呂"」とのこと。なるほど相当濃いお湯であり、湯船に入る前段階の、ビジュアルとして湯船に対峙した時点からその濃厚さが伝わってきます。具体的には、浴槽は元の色や材質が全くわからないほど赤銅色の成分付着で覆われており、石灰華によって浴槽縁と湯面が接するライン上には庇状の瘤が出来上がり、縁の上にも分厚くこびりついています。そして湯口付近を中心として鱗状のデコボコ模様も形成されていました。こりゃすごい! 湯船はモスグリーンを帯びた赤茶色に強く濁り、とにかく非常に塩辛い! 湯面からはヨウ素や臭素などハロゲンがもたらしていると思しき刺激臭や、石膏や金気がミックスされたような独特な匂いが感じられます。

実際に湯船に入ってみますと、塩分の強さゆえ、入りしなは脛にピリピリとした刺激が走り、肩まで浸かってしばらくすると、一般的な温泉よりも早いペースで体が火照りはじめ、心臓が激しく拍動してきます。湯船がちょっと熱めに設定されていることも要因の一つでしょうけど、何よりもこの塩分の強さが火照りや激しい心拍をもたらしているわけであり、非常に攻撃的であり凶暴なお湯です。地図をご覧になればわかるように、この場所は海から遠く離れた八幡平東部の山間部であるにもかかわらず、海水顔負けの強塩泉であることはただただ驚くしかありません。湯中ではギシギシとした浴感を得、湯上がりはかなりのベタつきとザラつきが残ります。強烈な熱をもたらす湯ですから、水分補給は欠かせません。上述で脱衣室における飲用水のサービスについて触れましたが、こちらの温泉では水がとにかく必須なのであります。

こればかりでなく、1kg中の温泉に含まれているメタホウ酸6320mgという数値にもびっくり。これって本当ですか!? 分析表を目にして夢か現かわからなくなり、何度も自分の目を擦ってしまいました。どんなにメタホウ酸が多い温泉でも4桁を超えることなんて滅多に無いというのに、6000オーバーという数値は尋常じゃありません。メタホウ酸を多く含むことで知られてる全国の温泉を具体的に挙げますと、新潟県の松之山温泉は大体300mg前後、兵庫県有馬温泉の金泉は300~500mg、そして和歌山市街の「ふくろうの湯」は1813mgですから、それらと比べても圧倒的に多いことがわかります。新安比温泉は塩気の強さばかりが語られがちですが、私としてはこのメタホウ酸の驚異的な数値に注目したいものです。温泉医学関係の方は、是非この新安比温泉の薬効に関して研究していただきたい。何らかの興味深い結果が出るに違いありません。 


 
「金の湯」(源泉風呂)の右隣りにある大きな方の湯船は、どなたでも入りやすい湯加減に調整されており、お湯の凶暴さもいくらか抑えられていました。右(下)の画像は左右両浴槽の仕切りを写したもので、この暗い画像では判別しにくいのですが、少なくとも肉眼では両者のお湯の濁り方がハッキリ異なっており、大きな浴槽の方が濁りがやや弱く、浴槽縁の成分付着も薄くて、実際に浸かった際のフィーリングも幾分マイルドでした。一般論として、温泉に入るならばなるべく源泉に近い状態の浴槽が好まれるのですが、あまり刺激が強すぎると体に合わない場合もありますから、このような優しい設定の温泉槽が用意されていると、温泉に負けてしまいがちな体質の方でも温泉を楽しめるのではないかと思います。なおこの大きな浴槽ではお湯の投入量が絞られており、お湯の動きも緩慢なのですが、その影響なのか、湯面にはホウ酸(あるいはカルシウム)と思しき白い結晶がたくさん浮かんでいました。


 
 
露天風呂ゾーンには、浅い造りのもの、深い造りのもの、足湯など、数種類の浴槽が設けられており、いずれも循環の真湯が用いられています。浴槽には全面的に十和田石が採用されており、とってもここちの良い肌触りです。他の旅館でしたら「せっかくの露天なのにどうして真湯なのか」と不満をもらすところですが、こちらの温泉に限っては、むしろ真湯であることにホッと安堵してしまいました。だって内湯の強烈な温泉だったら、すぐに体が音を上げてしまって、のんびり湯浴みできませんもん…。浴槽の一部は緩い傾斜になっており、森の風を感じながら、そこで寝そべったりうつ伏せになったりと、思い思いの姿勢で湯浴みさせていただきました。真湯のお風呂もなかなか良いものですね。

立地も宿泊のコストパフォーマンスも良く、お湯の強烈さも実に面白い、利用価値の高いお宿でした。


保戸沢の湯
ナトリウム-塩化物強塩泉 32.4℃ pH6.9 溶存物質32.368g/kg 成分総計33.100g/kg
Na+:8530mg(88.59mval%), Mg++:251mg(4.93mval%), Ca++:312mg(3.72mval%), Fe++&Fe+++:2.6mg,
Cl-:11900mg(81.45mval%), SO4--:210mg, HCO3-:4370mg(17.38mval%), Br-:18mg, I-:9.3mg,
H2SiO3:131mg, HBO2:6320mg, CO2:732mg,
衛生管理のため塩素系薬剤を使用。
温度調整のため10%位の加湯をした上で放流。
間欠泉で自噴しており、二酸化炭素を抜くため源泉をタンクに溜めてから浴槽に入れている。

JR花輪線・荒屋新町駅より徒歩25分(1.8km)
岩手県八幡平市叺田43-1  地図
0195-72-2110
ホームページ

日帰り入浴10:00~19:00
700円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (2)
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新安比温泉 静流閣 前編(客室・らくらくの湯)

2015年05月26日 | 岩手県
 
昨年(2014年)秋の某日に秋田方面から岩手方面へ移動していた際、岩手県屈指のしょっぱい温泉として有名な新安比温泉「静流閣」で一晩お世話になりました。強い食塩泉であることはもちろんのこと、東北道と八戸道が分岐する安比ジャンクション付近に立地しており、高速道路を走行しているとその大きな姿を目にするので、以前からどんな旅館なのか気になっていたんです。安比インターから至近であり、北東北3県のいずれにもアクセスしやすい場所にあるため、今回その利便性の高いロケーションに惹かれて宿泊予約致しました。まずはラグジュアリ感のあるロビーでチェックイン。


●客室
 
予め到着が夕食の時間帯に間に合わないことがわかっていたので、一人利用・朝食のみの割安プランを利用しました。今回通されたのは6畳の和室ですが、お部屋まで女性スタッフの方が丁寧に案内してくださり、いつも同等の価格帯でビジネスホテルに泊まっている私としては恐縮しきり。入室時には既に布団が敷かれており、いつでも横になれる状態になっていました。清掃が行き届いており、アメニティも一通り揃っています。壁がちょっと薄めなのか、夜中には隣の部屋からテレビの音がいくらか漏れてきたのですが、その点さえ目を瞑れば、綺麗で快適なお部屋でした。なおこの部屋の場合は、トイレや洗面台の備え付けが無いので、共用のものを利用します。
こちらの旅館は規模が大きく、私が利用した小さな部屋もあれば、ゆとりのある大きな部屋もあり、ニーズやグレードに応じて設備面などが異なってくるかと思いますので、お部屋に関して詳しく知りたい方は、是非お宿のホームページをご覧になってください。
料金的にはビジネスホテルと同等ですし(時期によって上下はあるかと思いますが)、美味しい朝食がいただけて、濃厚な温泉にも入れるんですから、同じ金額を支払うのでしたら、こちらのお宿の方がコストパフォーマンスに優れていますね。

こちらのお宿には2つの大浴場があり、両方共利用することができました。まずは私が利用した客室の近くに位置していた「らくらくの湯」から見てまいりましょう。


●「らくらくの湯」
 
この浴場名は瀬戸内寂聴師が命名したんだとか。浴場名も扁額も師の揮毫によるもの。どんなところが「らくらく」なのか、実際に利用して体感してみましょう。通路の突き当たりの左右に出入口があり、この日は右側に男湯の暖簾が掛かっていたのですが、男女は固定制なのでしょうか、はたまた入れ替え制?


 
和の趣きの脱衣室。奥に休憩スペースが用意されていました。


 
ゆとりのある脱衣室に反して、浴室はこぢんまり。室内には温泉由来の、石膏と金気を混ぜたような独特の匂いが漂っています。床はスノコ敷きで、出入口の前にはシュロ編みのマットが敷かれていました。スノコの隙間を覗いてみますと、その下の床表面にはトゲトゲで覆われているようですが、この正体については後ほど。なお洗い場は壁に沿ってL字形にシャワー付きカランが5基並んでいます。


 
 
浴槽はおおよそ4m×3mサイズ。青緑色した丸いタイル貼りなのですが、メンテナンスによってこびりつきを削ぎ落としているステップ部分を除き、槽内には赤茶色で鱗状の模様をなしている石灰華の温泉成分が分厚く付着しており、元々のタイルの様子がほとんどわからなくなっていました。先程、床下にもトゲトゲが…と述べましたが、もちろんその正体は石灰華なのでしょう。この石灰華のこびりつきにより、湯口にも小さな段々が発生していました。湯船のお湯はやや暗め緑色を帯びた灰色に弱く濁っていました。「銀の湯」とネーミングされているので、その名前を見たときには、兵庫県有馬温泉の「金の湯」に対する「銀の湯」を連想し、透明でサラッとしたお湯なのかと予測していたのですが、実際には上述のような濁り湯であり、若干グレーに見えることが「銀」の由来なのでしょうね。

次回記事で取り上げる「大浴場」のお湯は非常に塩辛いのですが、この「らくらくの湯」に引かれている源泉は、確かにしょっぱいものの、劇的に塩辛いわけではなく、どちらかと言えばホウ酸や石膏感、そして金気など、諸々の感覚が渾然一体となって伝わってくるような印象を受けます。湧出温度は38℃であり、一旦貯湯槽でストックされてから浴槽へと供給されているため、温度調整のためにお湯を加えているそうです。室内に篭っている独特の匂いは、この時間の経過によって塩化土類泉の鮮度が落ちかける際に発生するものかもしれませんし、あるいは臭素イオン17mgやヨウ素イオン8.8mgという数値も、そうした匂いの要因になっているのかもしれません。更にはメタホウ酸が非常に多く、6160mgも含まれているんですね。こんな数値は滅多にお目にかかれません。なにげに、炭酸ガス948mgというのもなかなかの数値。石灰華をもたらす要因なのでしょう。

湯中ではギッシギシに引っかかる浴感があり、湯上がりは強烈に火照って、浴衣が汗でビショビショになってしまいました。ものすごくパワフルなお湯です。とは言え、繰り返しになりますが、真湯が加わっているためか、大浴場の源泉よりはマイルドですし(相対的な感覚として)、事前に申し込めば貸切利用もできるそうですから、そういう意味でもたしかに「らくらく」に湯浴みできるのかもしれませんね。個人的にはこの「らくらくの湯」の方が、体への負担が少ない分、安らいで湯浴みでき、「らくらく」という表現を実感することができました。


新安比温泉(平成の湯)
ナトリウム-塩化物強塩泉 38.0℃ pH6.9 掘削自噴(間欠泉) 溶存物質32.101g/kg 成分総計33.049g/kg
Na+:8500mg(88.19mval%), Mg++:262mg(5.14mval%), Ca++:334mg(3.98mval%), Fe++&Fe+++:1.8mg,
Cl-:11700mg(80.79mval%), HS-:0.5mg未満, SO4--:215mg(1.10mval%), HCO3-:4490mg(18.02mval%), Br-:17mg, I-:8.8mg,
H2SiO3:109mg, HBO2:6160mg, CO2:948mg,
加湯あり(間欠泉で自噴しており、二酸化炭素を抜くため源泉をタンクに溜めてから浴槽に入れているので、温度調整のため10%くらい加湯をし、掛け流しにしている)
塩素系薬剤使用(衛生管理のため)


後編に続く…。

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湯田湯本温泉 旅館一城

2015年05月24日 | 岩手県
 
昨秋の某日、釣瓶落としと喩えられるほど早く落ちてしまう夕陽が暮れ、辺りが真っ暗になった夕方5時半頃に、その日の汗を流すべく岩手県の湯田湯本温泉へ立ち寄りました。今回お邪魔したのは温泉街の中ほど、足湯が併設された公共駐車場からも近い「旅館一城」です。玄関にて入浴をお願いしますと、お宿の方が浴室の様子を確認した後に、入浴OKとなりました。玄関ホールには立派な鎧甲冑が飾られているのですが、城という宿名に因んでいるのかな。かつては「城」という名前の民宿だったそうですが、旅館へ格上げした際、頭に「一」を付けたんだとか。


 
ロビー右手に伸びる廊下を進んでゆくと、鈎状にクランクした先に浴室の暖簾が掛かっていました。訪問時は廊下・浴室とも真っ暗で、後述する浴室の床も乾燥していましたから、おそらくこの日はまだ宿泊客がお風呂に入っていなかったようです。お泊まりの方に先んじて、日帰り入浴の私が入らせていただいたわけですが、なんだかちょっと申し訳ない気もします。

脱衣室の内部は標準的。2台並ぶ洗面台の間には、ドライヤーや宿泊客用のアメニティが用意されています。なおロッカーは見当たりませんでした。室内には2つの分析表が掲示されており、ひとつは昭和55年の3号泉、もうひとつは平成11年の5号泉。いずれもものすごく熱い源泉ですね。両者がどのような関係にあるのか、たとえば3号泉と5号泉を混合させているのか、はたまた3号泉は過去のもので、現在は5号泉オンリーなのか、よくわかりません


 
お風呂は男女別の内湯のみで、露天風呂はありません。男湯はグリーン一色のタイル貼り。
石膏の裸婦像からお湯がドバドバと勢い良く流れでています。裸婦像はこのお風呂の象徴的存在。造り物だとわかっていながら、つい胸の方に目が行ってしまうのは、男の哀しい性であります…。


 
右手には7台のシャワー付きカランが一列に並んでおり、ここからちょっと離れた出入口付近にも立って使うシャワーが1台設けられています。


 
浴槽は7.5m×3mで、ゆったりと入れる大きさです。奥の方は洗い場側へちょっと食い込んでおり、その分ステップが広く確保されていました。
エロい意味ではなく、あくまで興味本位で裸婦像下の湯口内部を覗いてみますと、2方向からお湯が注がれていました。壁から水平方向に突き出ているパイプのお湯はややぬるめなのですが、下から上がってくるお湯が激熱です。この2つをミックスさせることにより、温度調整をしているのでしょうね。なお湯船のお湯は私の体感で42℃前後なのですが、大きな浴槽なのに湯口がひとつしかないため、裸婦像から最も離れている脱衣室側では若干ぬるくなっていました。
なお、浴槽からのオーバーフローは見られないのですが、その代わり裸婦像の右下側面底部に穴があいており、ここから結構な力でお湯が吸い込まれていました。単なる排湯なのか、あるいは循環吸引口なのかはよくわかりませんが、上述のように湯口の内部では2つの異なる温度のお湯がミックスされており、一方は適温だったわけですから、もう一方は加水されているか、あるいは循環のお湯なのかもしれません。
お湯は無色透明。当地のお湯は芒硝感が際立っているはずですが、なぜかこのお風呂に限っては、これといった知覚的特徴が弱く、微かに塩味があったかもしれないなぁと言った程度です。湯使いの影響で、源泉が持つ本来の個性が喪失しちゃっているのかもしれません。基本的には芒硝泉ですが、比較的マイルドで癖は弱め。熱いお湯が多い湯田湯本温泉にあって、こちらのお風呂は適温がキープされているので、アッサリとしたお湯が好みの方には良いかと思います。退館時にはスタッフの方が丁寧にお辞儀してくださいました。


第5号泉
ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉 97.0℃ pH8.1 410L/min(掘削動力揚湯) 溶存物質1.7980g/kg 成分総計1.7988g/kg
Na+:437.6mg(79.82mval%), Ca++:85.1mg(17.83mval%),
F-:6.5mg, Cl-:330.8mg(39.14mval%), SO4--:632.2mg(55.20mval%), HCO3-:60.9mg,
H2SiO3:219.0mg,
(平成11年9月2日)

岩手県和賀郡西和賀町湯本30-82-3
0197-82-3791
ホームページ

日帰り入浴時間不明
300円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカーなし

私の好み:★★
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巣郷温泉 静山荘

2015年05月22日 | 岩手県
 
東北にはいわゆるアブラ臭を強く放つ温泉が各県に点在しており、いずれのお湯もコアな温泉ファンの鼻腔をくすぐっていますが、そんなアブラ臭温泉のひとつ、秋田県との県境に位置する岩手県巣郷温泉へ立ち寄って入浴してまいりました。今回選んだのは露天風呂にも入れる旅館「静山荘」です。所在地としては岩手県ですが、国道を100~200m西へ進めば秋田県横手市になってしまうようなロケーションであり、その地理関係を象徴するかのように、宿の看板には秋田の銘酒「高清水」のロゴが躍っています。


 
こちらでは入浴回数券を発行しているほど日帰り入浴にも積極的。私が訪れたのは夕方の5時頃でしたが、玄関で2人、浴室までの廊下で3人の日帰り入浴客とすれ違いました。風情から察するに、みなさんいずれも常連さんのようですから、お宿としてはガッチリした固定客を掴んでいるわけですね。
帳場で湯銭を支払って、ロビーを左に進み、階段を上がって2階の浴室へと向かいます。ロビーではお婆さん向けの衣類が販売されていました。東北の温泉旅館ではしばしばこのように年配女性向けの衣料販売が見られますが、東北のお年寄りの間では、温泉に行ったらお洋服を買わなきゃという発想が確立されているのでしょうか。かつて農閑期の東北で盛んに行われていた湯治の習慣が、このような形で残っているのかもしれません。


 
2階に上がって、更に廊下を左方向へと進み、右奥に掛かっている暖簾へと向かいます。男女別浴場の入口前にはロッカーが設置されていますから、入浴中の貴重品対策も万全です。脱衣室はこぢんまりしていますが、和の趣きが施されており、さすが旅館だけあってきれいに清掃されていました。ルームエアコンも取り付けられているので、季節を問わず快適に使えそうです。


 

露天風呂に面したガラス窓が明るさと開放感をもたらしているタイル貼り浴室。左右に配置された洗い場には、計5基のシャワー付きカランが取り付けられています。浴槽も壁と同じ色調のタイル貼りですが、縁には黒御影石が用いられ、室内デザインにメリハリを利かせていました。大きさとしては約2.5m×3.5mの5~6人サイズ。黒光りする縁からは常時お湯が溢れ出ていましたが、槽内での吸引も見られますので、放流式と循環を併用しているのかもしれません。


 
浴槽の隅に設けられた湯口からは、適温のお湯がドバドバ吐出されています。加水されているのか、はたまた循環によって温度均衡を図っているかはよくわかりません。この他、壁に直付けされている蛇口からもお湯がチョロチョロと落とされているのですが、これが篦棒に熱い。しかも蛇口の先には成分の析出も見られます。おそらくこのお湯こそ混じりっけのない生の源泉なのではないでしょうか。


 

岩風呂の露天はおおよそ4人サイズで、床や底は鉄平石敷き。竹垣や庭石などが和の雰囲気を演出しています。全体的に屋根掛けされており、目の前には裏山の斜面が迫っているので、眺望や開放感を楽しめるような造りではありませんが、ゆっくりと流れる田舎の空気や周囲の木々の緑を目にしながら湯浴みしていると、のびのびと寛ぐことができました。

露天の左側(山側)に積み上げられている岩の奥には、塩ビ管が潜望鏡のように立ち上がっており、周りの岩の表面は赤茶色に染まっていますので、かつてはこの岩からお湯が落とされていたのでしょうけど、今では使われておらずカラカラに乾いています。現在ではその岩に代わって、浴室側から耐熱塩ビ管が伸びており、槽内にてお湯が投入されていました。どんな感じで吐出されているのかと、配管の口に手を近づけたら、火傷しそうなほど熱いお湯が出ていてびっくり。内湯のチョロチョロ蛇口と同じく、こちらも手の加えられていない100%の温泉なのでしょうね。なお湯尻(手前側)の底にオーバーフロー管の小さな穴があけられていて、そこからしっかり排湯されているので、浴槽上部からの溢れ出しは見られません。槽内で投入と排湯が行われているため、誰も入っていない時の湯面は、まるで鏡面のように静かで全く波立っていませんでした。

こちらに引かれているお湯は巣郷温泉の他宿と同じく3号泉と秀衡の湯の混合泉で、見た目はほぼ無色透明ですが、僅かに翠色を帯びた貝汁濁りを呈しているようにも見えます。湯面からは揮発油のような臭いと磯の香、そっして焦げシブ臭をミックスされたような巣郷温泉らしいアブラが漂っており、内湯室内にはこの匂いが充満していたので、入室した瞬間、私は思わず麻薬探知犬のように鼻をクンクン鳴らして、アブラ臭に酔いしれました。お湯を口に含むと、ほんのり塩味と焦げシブ味の他、ミントのようにスーッとする清涼感を伴う苦味も感じられます。
アブラ臭や鮮度感などといったお湯の質感は、内湯よりも露天の方が断然優っていたので、私はほとんどの時間を露天で過ごしました。露天は間違いなく掛け流しの湯使いでしょう。尤も、内湯だって決して悪いお湯ではなく、消毒臭も特に気にならなかったので(強いアブラ臭で掻き消されているか?)、程よい湯加減でゆったりと湯浴みすることができるかと思います。
さすが巣郷の湯だけあり、湯上がりはパワフルに火照り、汗がなかなか止まりません。しかも服を着た後もしばらくは、体(特に髪)からはアブラ臭が漂い続けました。何度嗅いでもマニア心くすぐる良い匂いです。いつもだったら加齢臭が発生しはじめた自分の髪の臭いなんてちっとも嗅ぎたくありませんが、この時ばかりは、まるでカワイイ女の子の髪を想うかのように、鬢から香るアブラ臭をしきりに嗅いで、巣郷との名残を惜しみました。


巣郷温泉混合泉(3号泉と秀衡の湯)
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 76.4℃ pH8.6 溶存物質1.616g/kg 成分総計1.616g/kg 
Na+:464.5mg(86.92mval%), Ca++:54.4mg(11.70mval%), NH4+:2.7mg,
F-:10.0mg, Cl-:425.9mg(49.73mval%), Br-:1.1mg, HS-:0.2mg, S2O3--:1.1mg, SO4--:507.5mg(43.77mval%), HCO3-:36.9mg, CO3--:12.1mg,
H2SiO3:75.2mg, HBO2:18.4mg,

JR北上線・黒沢駅より徒歩25分(2.0km)
岩手県和賀郡西和賀町巣郷63地割159-13  地図
0197-82-3120
ホームページ

日帰り入浴時間9:00~21:00
300円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (4)
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