温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

世界一遅い2ヶ月遅れの台湾総統選レポート 2024年 後編

2024年03月15日 | 台湾
前回記事の続編です

●選挙当日

投票前夜、私は新北市板橋の高層ビルにあるホテルで宿泊。
明けて翌朝の選挙当日。ホテルの部屋から眺める新北市の眺望は、投票日和と申し上げましょうか、雲一つない素晴らしい天気でした。


ホテルでチェックアウトを済ませ、歩いて板橋駅へ向かいます。ちょうどホテルと駅の間に新北市役所があり、たまたま市役所から最も近い投票所の前を通り過ぎたのですが、朝から既に有権者の方が並んでいらっしゃいました。


こちらの投票所はビル1階の吹きさらし状ホールに設置されているため、中の様子が丸わかりでした。
なお、台湾の投票は朝8時から夕方4時まで。日本と比べると、投票できる時間がかなり短いですね。


この日は台湾中部へ行きたかったので、板橋駅から台鉄の自強号に乗車しました。
このブログをご覧の方で、もし今後台湾で選挙がある日に公共交通機関を利用することがあれば是非とも留意していただきたいことがあります。予約を要する高鐵・台鉄・高速バスなどあらゆる交通手段は、選挙当日の席が早々に埋まってしまうため、できるかぎり早めに予約するか、あるいは選挙当日の移動を避けておいた方が良いかもしれません。この日も朝からお昼くらいまで、台北を出る列車は台鉄・高鐵ともに悉く満席でした(私は早めにネット予約して席を確保しました)。
なぜこのような現象が起きるのか・・・。戸籍地でないと投票できないため、都市部で生活している人は投票のためわざわざ故郷へ帰省するからです。台湾の投票制度には在外投票も期日前投票もないため、有権者は選挙当日に自分の地元へ帰省して(人によっては海外から帰国して)貴重な一票を投じるのです。このため投票前日や当日の午前中は交通機関が大混雑する傾向にあります。

投票時間が短く、しかも在外投票や期日前投票が無いにもかかわらず、投票率は日本より良いのですから、日本の有権者意識って何なんだろうと途方に暮れたくなります。


ところ変わって、こちらは台湾中部南投県某所の投票所です。ドアの向こうが実際に投票する場所。投票権を持っていない私はこの先立ち入ることができないので、手前から内部の様子をチラチラ拝見・・・。


今回の選挙に際して事前に有権者へ配布された選挙公報を見てみましょう。
選挙公報には候補者の情報のほか、投票についての説明や諸注意が書かれており、上画像は投票の流れを図示したものです。まず受付で身分証明と投票通知票、ご自身の印鑑を確認されるのですが、なんとスマホの電源を切るように指示され、ちゃんとOFFになっているかチェックを受けるそうです。その後は日本と同じように投票用紙をもらって仕切りがある場所へ向かいます。


続いて、実際の投票方法を見てみます。
日本の場合は候補者や政党の名前を投票用紙に記入しますが、台湾の場合は仕切りがある投票ブースに専用のスタンプが用意されており、候補者名の上にある指定の欄にその専用スタンプを捺します。投票用紙には予め候補者名(比例代表ならば政党名)や番号などが印刷されており、各候補名の上にスタンプを捺す欄があるので、自分が推したい候補名の上にスタンプをポンと捺すだけ。日本のように記名しません。そして、押印した投票用紙を投票箱へ入れることにより投票は終了です。
なお選挙の内容によって用紙の色が異なり、総統選は赤色の紙、立法院の小選挙区選挙は黄色、同じく比例代表選挙は白色です。


こちらは民進党選対本部で配布していたチラシです。投票用紙にはこのように印刷されているので、例に倣ってそれぞれ民進党の候補者名の上にスタンプを捺してね、と訴えかけています。なお投票所に用意されているスタンプは、〇の中に鏡文字の「ト」が入っているような図案となっており、このチラシにもその印が描かれていますね。

日本の選挙ではなぜか名前の記入にこだわりますが、それが原因で無効票や不可解な票の按分が発生するなど、しばしばトラブルになっています。一方、台湾のみならず海外では、候補者に割り振られた番号を記入したり、あるいは予め投票用紙に印刷された候補者名へチェックするなど、記名を要さない合理的な方法を採用しており、私は日本もそろそろ記名式をやめたらどうかと思っています。


実際の選挙広報に戻ります。
こちらは政党別総統選候補者を紹介したページです。各選挙区共通です。
総統及び副総統各候補の生年月日や出身地、学歴や経歴、そして選挙公約がフォーマットに則って紹介されています。比較的わかりやすい国民党とは対照的に、民進党の選挙公約は細かな文字で埋め尽くされており、ちょっと見難いかもしれません。
個人的には民進党副総統候補である蕭美琴の出生地に注目。そこには「日本」と書かれています。蕭美琴は神戸生まれなんですね。日本にゆかりがあるので、ちょっと親近感を抱いてしまいました。もう一つ注目したいのは、台湾生まれの候補者の出生地。台湾省〇〇市というように台湾「省」という省名が使われていることです。台湾では数年前に「台湾省」を事実上廃止しているはずですが、選挙公約ではその省名が蘇っているのです。なんでだろう・・・。


日本の国会に相当する立法院の選挙は小選挙区と比例代表の並立制で、一院制のため、全議席が改選となります。
上画像は台湾中部の某選挙区に立候補している小選挙区の立候補者。当然ながら選挙区によって候補者は異なります。小選挙区の改選数は73議席です。



こちらは比例代表(全国不分区)の各政党です。比例代表の枠は34議席で、拘束名簿式です。なお日本のように選挙区と比例代表を重複して立候補することはできないため、比例復活という不思議な現象も起こり得ません。

日本のマスコミでは民進党・国民党・民衆党の3政党しか報じられませんが、それ以外にもいろいろな政党が林立しているんですね。ただ実際に議席を獲得できるのはほんの一部であり、ほとんどは正直なところ泡沫政党扱いです。


個人的に興味深かったのは1番目の「小民参政 欧巴桑聯盟」です。欧巴桑とは、そのまま音読みするとわかりますが日本語の「オバサン」の当て字、つまりオバサン連盟というわけです。ユルいイラストとともに、オバサンという政党名からは砕けた印象を受けますが、公約として子育てしやすい社会の実現を掲げ、具体的には児童人権の法制化、環境保護、金権政治打破と公平な選挙運動の実現、metoo運動、そして国防や防災面の強化など、なかなか立派な内容となっています。またオバサンと言いながら実際の候補者は子育て中の若いお母さんが多いのも特徴的。残念ながら選挙の結果として議席の獲得には至らなかったものの、全政党で5番目に多い票数を得ており、決して侮れない存在となっています。次回の選挙でも注目すべき存在でしょう。


台湾の選挙の特徴として、原住民枠が挙げられます。こちらは大選挙区制で、平地の原住民枠3議席と、山間部の原住民枠3議席が争われます。
台湾で暮らす人々を本省人、外省人という言葉で分けることがあります。おおまかに表現すれば、1945年以降国民党の敗走によって大陸から台湾へ渡ってきた人たちやその子孫が外省人で、1945年以前から台湾で暮らす人々が本省人ですが、本省人も17世紀ころから台湾へ渡ってきた漢族と、それ以前から台湾に居着いているオーストロネシア語族の原住民族(日本語では先住民族)に分けられます。
台湾では本省人外省人問わず圧倒的多数の漢族が長年にわたって支配的であったため、少数派の原住民族は文化的のみならず社会的・経済的等色々な面で不利な環境にあり続けたのですが、台湾の民主化に伴って原住民族の諸権利を認めて社会的な地位の向上も図られ、選挙においても原住民の権利を確保するため、専用の議席枠が確保されるようになりました。


午後4時に投票が締め切られると同時に開票作業が開始され、各メディアも開票速報一色に染まります。上画像は台湾大手テレビ局の開票速報をキャプチャーしたものです。民進党・頼清徳の優勢が報じられていますね。ちょっと上画像では見にくいのですが、この映像は開票作業を中継しており、黒い服を着た女性が両手で赤い紙を掲げてながら一票一票の内容を読み上げています。赤い紙ということは総統選の投票用紙ですね。各投票所から選管指定の開票所へ集められた上で開票する日本とは異なり、台湾では各投票所で開票が行われ、その様子は有権者のみならず海外旅行者のような非有権者でも会場に入って見学することができるそうです。私はそのことを後から知ったため、開票の様子を見ることができませんでした。残念です。ちゃんと事前に調べておけばよかったと後悔しきりです。

●選挙結果を報じる新聞
選挙の翌日、コンビニに立ち寄って新聞を購入してみました。
選挙の結果分析は既に多くの論者によって語りつくされていますので、ここでは現地の新聞がどのように報じたかを簡単に見ていきましょう。


まずは「自由時報」。
新聞名の上に「台湾優先 自由第一」という標語が書かれていることからもわかりますが、比較的民進党寄り且つ大陸とは距離を置くスタンスの新聞で、「中国介選失敗(中国が選挙の介入に失敗)」「民進党8年打破魔咒(政権は8年までしか続かないという台湾のジンクス(呪い)を民進党が打破した)」という文言からもその論調は明らかです。
またその下には支援者に対して首を垂れて敗戦を詫びる国民党や民衆党の総統選候補者が写っており、総統選における民進党の勝利と国民党及び民衆党の敗北を対比を明確に表している一方、立法院において与党が第一党になれなかったことをはっきりと表現せず「3党不過半(3頭そろって過半数に及ばず)」という表現にとどめています。


こちらは「聯合報」。
この「聯合報」と「中国時報」は国民党寄り且つ大陸寄りのスタンスをとる傾向にあり、それゆえ一面に躍る文言も民進党に対して厳しいもの。「頼清徳小贏(辛勝)」という見出しと共に、「頼得票未過半 国会三党不過半 民進党雙少数(頼清徳の得票数は過半数に至らず、立法院でも過半数を取れず、民進党は2つの面で多数派ではない)」と民進党に対して徹底的に辛口です。そして「拝登:不支持台湾独立(バイデン曰く台湾の独立は支持しない)」という文言も、台湾独立派から支持を集める民進党の理念から離れたものであり、一方で台湾独立を嫌う中国大陸の方針に適うものでもあります。

以上、「世界一遅い2ヶ月遅れの台湾総統選レポート」と題して2024年1月に実施された台湾総統選を、日本のメディアでは取り上げられないような細かな面を中心に取り上げてまいりました。

次回記事から温泉ネタへ戻ります。


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世界一遅い2ヶ月遅れの台湾総統選レポート 2024年 中編

2024年03月12日 | 台湾
前回記事の続編です。

●18時以降の応援集会
決戦前日だというのに、どの陣営も盛り上がりに欠けており、お祭り騒ぎを期待していた私はすっかり拍子抜け。
ちょっぴりガッカリしながらネットを見ていたところ、夕方18時から各党が最後の応援集会を開くとの情報を得ましたので、早速行ってみることにしました。これまでの選挙ですと、最終夜の応援集会で数十万という支援者が一堂に会してフェスのような盛り上がりを見せていましたが、果たして今回はそのような盛り上がりが起きるのでしょうか。

(1)民衆党 応援集会 (台湾総統府前・凱達格蘭大道)

台湾総統府の東側に伸びる凱達格蘭大道では、総統選の前夜になると必ず応援集会が開催されます。総統府前という土地柄なのか、前回は与党民進党がこの場所で開催しましたので、今回も民進党の支持者が集まっているのかと思いきや・・・


最寄りの「台大醫院」駅を降りる人々はみな民衆党の支援者でした。駅に到着する電車から次々に支援者が降り、群集となって会場へ向かってゆきます。特徴的なのが、若者が多いということ。比較的多いというような曖昧な表現ではなく、おそらく半数近くは30歳代までの若者ではないかと思われるほど、圧倒的なのです。


実際に私も会場へ行ってみました。あまりの人混みでステージには近づけず、ステージを見ることすらできず、かなり手前の位置で足止めを食らってしまったのですが、それでも支援者の熱狂を間近で実感できました。民衆党の支援者は、その目印として芽吹いたばかりの双葉をイメージしたカチューシャのような飾りを頭に着けています。発芽したばかりのふたば、つまりこれから成長する新しい政党ということですね。


梨泰院の事故を思い起こさせるほど危機感を覚える群集に飲み込まれてしまい、すっかり身動きが取れなくなってしました。しばらくこの場所で支援者のシュプレヒコールを聞き、また遠くから聞こえるステージの歌声や掛け声にも耳を傾けつつ、群集の中に隙間を見つけて辛うじて脱出することができました。

それにしても民衆党の応援集会は驚くほどの支持者を集めており、新しい政党だとは思えないほどの盛り上がりでした。この日は金曜日。上述で私が訪ねた選対本部にひと気が少なかったのは、単純に平日の日中だったからかもしれず、皆さん夕方になって仕事が捌けてからは積極的な選挙モードになったものと想像します。それにしても30歳代かそれより若い世代が、これほど選挙に関心をもって集会に集まり、支持政党を応援して政策の実現を訴えるとは。友達連れ、学生同士、家族連れ、乳飲み子を抱きながら、あるいはベビーカーを押しながら、みんなで柯文哲に声援を送っているのです。立錐の地が無いほどの大群衆の中、まるでバケツリレーの如く、小旗などの応援グッズを前方から後方へ送ったり、お年寄りや身体が不自由な方がいたらサッと道を開けたりと、指示系統が無いにもかかわらず自然と秩序が出来上がっていたのも不思議です。主催者発表20万人とのことですが、決して大げさな数字ではないでしょう。あまりの熱気に押された私は、もしかしたら柯文哲が総統に選ばれるのかもという想像すらしてしまいました。

日本のマスコミは台湾海峡危機という自国の防衛に関わる大きな問題に関心を寄せるため、どうして中国大陸(共産党)との距離感を総統選の最大かつ唯一の争点として捉えたがる傾向にあったかと思います。たしかに対中関係(台湾海峡問題)が大きな争点であることは間違いないのですが、少なくとも台北の有権者は、物価高、住宅問題、所得格差、雇用問題(特に若年層)、賃金問題、既存政党の汚職など、日本でも問題になりそうな極めてドメスティックな課題の解決を政治に求めており、とりわけ既存政党に落胆した都市部の若年層は民衆党という新しい政党に希望を見出したのですね。これが農村部、特に大陸への輸出で生計を立てている台湾南部の農家ですと、大陸といかに友好な関係を気づいて輸出しやすい条件を整えるかという点が重要になってきますから、都市部とは問題意識が全く異なり、民衆党ではなく民進党や国民党など従来の政党を支持する方向性になるんだろうと思われます。

(2)民進党 応援集会 (新北市・板橋第二運動場)

続いて、民進党が最後の応援集会を開いている新北市の板橋第二運動場へ向かいました。与党なのに総統府前の広場を確保できず、近郊の板橋へ移ったのはちょっとした都落ちではないのかと穿った見方をしつつ、MRT板橋駅から歩いて会場へ向かったところ、こちらも物凄い人だかり。
若年層が多かった民衆党の集会と違って、与党民進党の集会に集まる支持者は老若男女いろいろな世代がおり、なかにはヨボヨボの爺さん婆さんが群衆の中で頼清徳への声援をあげていました。みなさん大変熱心です。


私が現地に到着した時、競技場のトラック内に設けられた特設ステージでは蔡英文が何やら演説しているらしく、スピーカーから声は聞こえてくるのですが、多くの人垣に行く手を遮られ、中の様子はさっぱりわかりません。にもかかわらず後ろから前へ前へと押そうとする力が絶え間なく続くので、群衆に押しつぶされそうに危機感を覚え・・・


何とかその場を抜け、競技場をぐるっと回っていたら、フェンスをちょっとよじ登れば内部の様子が見られる場所を発見。ステージから最も遠い位置でしたが、向かいにステージを肉眼で見ることができ、また大型スクリーンの映像もはっきり見られたので、しばらくここで候補者たちの演説を見続けていました。上画像に写っているのは頼清徳ですね。彼がひとしきり演説をした後は、副総統候補の蕭美琴が舞台に立ち、そして立法院の候補者たちが次々に紹介されていました。


さすが民進党は選挙慣れしており、会場に入りきれない多くの支持者が集まることは百も承知なので、会場周辺の道路にはいくつもの大型モニターが設置されて、わざわざ会場の中へ入らなくてもステージ上の様子を見られるようになっていました。自発的に集まる人のほか、おそらく動員されている方々も多かったのではないかと思われます。

なお、国民党の支援集会も同じく板橋で開催されたのですが、民進党の集会でお腹いっぱいになってしまった私は、これでギブアップ。国民党の集会には行けませんでした。

選挙当日やその後については後編にて。

次回記事へ続く

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世界一遅い2ヶ月遅れの台湾総統選レポート 2024年 前編

2024年03月09日 | 台湾
みなさまご存知の通り、2024年1月13日の土曜日に、世界が注目する中、台湾で総統選が実施されました。
そして総統には民進党の頼清徳氏が選出され、1996年に有権者が直接総統を選ぶ現在の制度になってから初めて、同じ政党が3期連続して政権を担うことになりました。一方、同日実施された立法院選挙(日本の国会に相当。一院制)では野党の国民党が第一党となったため、総統(政権)と立法院でネジレが発生してしまいました。とはいえ、国民党は52議席で民進党は51議席ですからその差はたった1議席。両党とも単独過半数を確保できていません。このため8議席を獲得した新興勢力である第三党の民衆党が今後国政運営のキャスティングボードを握るのではないかと言われています。

台湾の選挙で有名なのが、その盛り上がり方。まるでお祭りかフェスかといった様相で、選挙期間中は全土が選挙一色に染まって盛り上がり、常にしらけムードが横溢する日本の選挙とは極めて対照的です。投票率も71.86%という高い数値。これでも前回の総統選より3.04%低くなっているのですが、国政選挙ですら50%台に低迷する日本に比べればはるかに高く、台湾の有権者意識がいかに高いか、この数値からもよくわかります。なお日本で70%を超えた国政選挙は1990年の海部内閣に実施された衆院選挙が最後で、民主党が政権を獲った平成21年の衆院選は69.28%、2021年の衆院選では55.93%でした。

あぁ、台湾が羨ましい…。
有権者の関心が低いあまりに政治が腐敗し経済的な長期停滞を招いている日本があまりに惨めだ…。

拙ブログでは蔡英文が初めて総統選で勝った2016年の総統選の様子をレポートしておりますが(当時の記事はこちら)、その時に台湾の選挙の面白さにハマってしまったため、今回2024年の総統選でも私は現地に向かい、どのような選挙戦が繰り広げられたのか、台湾への羨望を抱きつつ実体験することにしました。

●投票前日
本当は投票の数日前には台湾に着いていたかったのですが、「貧乏暇なし」という言葉通りの生活を送っている私は、なかなか休暇を取得できず、現地へ到着できたのは投票前日というギリギリのタイミングでした。まだ夜が明けていない早朝5時に羽田を出るLCCに乗り、朝8時頃に桃園空港へ到着。MRTで台北の市街へ出た私は、いつもの選挙シーズンとは異なる、ちょっとした違和感を覚えたのでした。

以前に拙ブログで取り上げた2016年の選挙や、蔡英文が再選を果たした2020年の選挙では、街中が選挙ムード一色で、至る所に候補者の大きな広告が掲出され、路線バスもラッピング広告を纏い、辻々に運動員が立って自候補の応援を往来の人々に呼び掛けていたものでした。また飲食店で食事していると、突如運動員が店内へ闖入して食事中のお客さんに候補者の名前や番号が印刷されたグッズ(ボールペンやティッシュなどの小物類)を配って嵐のように去っていったり、街宣車がキャラバンを組んで街中を走り回ったりと、とにかくあらゆる手段で選挙運動が繰り広げられ、否応なく選挙が行われることを実感したものでした。


しかし今回台北の街に立ってみると、たしかに候補者の大きな広告は掲出されているものの、以前より数を減らしているようであり、またサンドイッチマンになって辻立ちしたり、飲食店の客へゲリラ的に景品を配布するような運動員の姿も見られませんでした。上画像のような広告ラッピングの路線バスも走っていますが、以前ほど多いようには見えません。端的に申し上げれば、以前よりかなり大人しくなっていたのです。これを社会の成熟と捉えるのか、あるいは世間の関心低下とみるべきか、何とも言えないところですが、従来見られた選挙の盛り上がりが今回は明らかに欠けていたのです、投票率が低くなってしまうのか・・・


たまたま私が出くわさなかっただけなのかもしれませんが、街宣車もいつもより少なめだったような気がします。こちらは台北の紹興北街を歩いていた時に遭遇した民進党の立法院候補。ブレブレな画像でごめんなさい。


上画像は、行義路温泉へ行くためMRT石牌駅付近で路線バスを待っていた時、目の前を通り過ぎた街宣車のキャラバン隊です。今回の台湾滞在で出くわした街宣車列はこの2組だけでした。なんだか寂しいなぁ。
とにかく以前と比べて盛り上がりに欠けている気がしました。

●民衆党選対本部

では、各候補の選対本部はどうなっているのか。選挙を翌日に控え、臨戦態勢に入っているのか・・・。
まず私が向かったのは、新北産業園区の近くにある民衆党・柯文哲候補の選対本部です。周囲は新築のタワマンが建ち並ぶ典型的な新興住宅地といったエリアです。


最寄りのMRT駅から徒歩10分程度で民衆党の選対本部にたどり着きました。台湾では各政党を色で分かりやすく表現しますが、民衆党は「白」(実際には水色)です。画像に写っているKPとは柯文哲のこと。前台北市長である柯文哲は台大病院の教授という経歴を持ち、台大時代から「柯」とProfessorの「P」をとって「柯P(KP)」という愛称で呼ばれていました。綽名のKPを上手くもじって"Keep Promise"という標語にしているんですね。
民衆党は2019年に結成された新しい政党で、翌年の立法院選挙では早くも5議席を獲得しており、新政党にもかかわらず台湾第三党の地位を確立しています。なお総統選にチャレンジするのは今回が初めて。


本部前ではテレビ局の中継車が準備をしているものの・・・


本部の中には数人の関係者しかおらず、盛り上がりも無く、とても明日が決戦だとは思えないほど長閑な時間が流れていました。街中はおろか、選対本部までこんなに静かだとは。


勝とうが負けようが、選挙当日は民衆党選対本部前の道路で交通規制を実施するみたいですね。

●国民党選対本部

あまりに閑散とした民衆党選対本部を目の当たりにして拍子抜けした私は、続いて国民党の選対本部にも行ってみることにしました。国民党のイメージカラーは「青(藍)」です。今回国民党が選対本部を置いたのは、新北市の板橋駅から・・・


歩いてすぐのところにある、いかにも仮設っぽいこのプレハブの建物です。この土地は以前から空き地でしたが、駅前広場が目の前にあるという好立地なので、選挙の期間だけ国民党が土地を借りたものと思われます。お金にはえげつない台湾のことですから、相当ボッタくられたのではないかと邪推しちゃいます。


あれ、やっぱりここも人が少ないぞ。建物の中にいるのは明らかに関係者だけで、その数も多くなく、内部ではいろんな映像が流されていましたが、誰一人としてその映像を見ていません。本当に明日決戦なのかしら。どうしてこんなに静かでいられるのかしら。

●民進党選対本部

最後は民進党の選対本部です。民進党の色は「緑」です。こちらは8年前の選挙から変わらず、MRT善導寺駅付近の北平東路に面したビルの1階に本部を構えており、目の前には中央芸文公園が広がっています。民進党の選対本部は私のような選挙と無関係の人間でも入りやすい雰囲気なので、8年前のブログ記事で取り上げた時と同様に、今回も入ってみましょう。


蔡英文の時と違い、やはりこちらの陣営も人は少なめでした。やっぱり盛り上がってないのなぁ・・・。
とはいえ、他2党の選対本部と異なり、明らかに私のような部外者と思われる人の姿が散見され、日本語の喋り声もちらほら。


奥の方には頼清徳グッズの販売コーナーが設けられていました。売り上げはカンパとして使われるのですが、さすがに選挙前日だからか、多くの商品は売り切れていたようです。


ご本人が野球ファンということもあって、頼清徳グッズの多くは野球チームをイメージしており、カレンダーやエコバッグ、Tシャツといった汎用性の高い商品の他、ユニフォームなども販売され、販売コーナーをはじめ選対本部は全体的に野球場のダッグアウトをイメージしたような内装になっていました。今回の民進党のスローガンも「挺台湾(チーム台湾)」です。


本部前の中央芸文公園では、翌日開かれる開票速報の集会に備え、会場設営の準備中でした。

それにしても、リベラル色が強かったはずの民進党で野球イメージを前面に出すとはちょっと意外です。野球、スポ根、団体戦・・・なんだかオッサン臭くないかしら。いわゆる保守的な国民党と対照的に、民進党はリベラル路線で政策を進め、特に蔡英文政権はアジア初の同性婚合法化や脱原発など、かなりリベラル色を強めてきましたが、しかし台湾がリベラル政策をとってきたのはここ最近のことであり、元々は典型的な東アジアの儒教的社会ですから、リベラルに対する反発も根強いわけで、今回の選挙ではウイングを広げてそんな反動勢力の票も取り込もうとする意図があったように思えてなりません。つまり今後はこれまでのリベラル政策にブレーキをかけるような動きが起きる可能性も否定できません。

さて、ここまで見てきた街中の様子では、思いっきり冷め切ったような感じを受けたのですが、この後、様相は一変して大盛り上がりを呈するのです。
続きは次回の記事にて。

次回に続く。

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東埔温泉 勝華大飯店

2024年03月05日 | 台湾

前回記事の北投温泉からかなり離れてしまいますが、今回取り上げるのは台湾・南投県の南部に位置する東埔温泉です。台湾屈指の観光地である日月潭と阿里山の中間にあり、また台湾最高峰である玉山(標高3,952m)の麓に位置しているこの温泉地は、日本統治時代に「トンボ温泉」と称されており、長い歴史を有する山間のいで湯ですが、観光の周遊ルートに組み込まれるような立地ではなく、また公共交通機関の便が悪くて車が無いと周辺の有名観光地へアクセスしにいためく、今ではかなり鄙びて寂しい温泉街となってしまっています。


温泉街から東の山へ伸びる急な坂道をひたすら登ってゆくと東埔温泉の源泉があり、そこに設けられた露天風呂では湧出したばかりの新鮮なお湯に入ることができます。この露天風呂については拙ブログでも以前に取り上げたことがあり(当時の記事はこちら)、当時入浴した際にはその素晴らしいコンディションに惚れ惚れしたものでした。
今回もその極上な温泉に入ろうと思ったのですが、あいにく管理なさっている方がご不在で、案内板に書かれていた携帯電話もつながらなかったため、今回は入浴を断念。登ってきた急坂を下り、温泉街へ戻りました。


急な登り坂のトレイルが始まる箇所に建っているのが、今回取り上げる「勝華大飯店」です。上記の露天風呂を除けば、源泉に最も近い温泉旅館の一つではないかと思われます。源泉での入浴を断念した私は、ここで入浴できないものかと考え・・・


フロントで入浴したい旨を伝えると、笑顔で歓迎してくださいました。
入浴料を支払い・・・


フロント右奥の専用出入口からホテル裏庭のような空間に出ると・・・


このような露天温泉プールに行き着きました。頭上は屋根で覆われており、四方も建物などで囲まれているので、正直なところ露天風呂に期待したくなるような開放感はあまりありません。
プールサイドの更衣室で水着に着替え、シャワーを浴びます。


シャワールームの一角にはこのような小さなバスタブも設けられていました。ドアを閉めきったら個室風呂みたいになるのかな。でも個室風呂にしては小さすぎますね。


プールには若干ぬるめながら綺麗に澄み切った無色透明のお湯が張られています。
閑散とした温泉地の、更に奥まった立地であるためか、日中にもかかわらずお客さんは私の他に一人もおらず、この大きな温泉プールをひたすら独り占めすることができました。


台湾のSPAではおなじみの、首がもげてしまいそうになるほど強烈な水圧の打たせ湯(沖撃湯)もありますよ。


こちらがプールに温泉を注ぐ湯口です。吐出口には緑色のネットが被せられており、その中にはたくさんの白い湯の花が溜まっていました。また湯口直下には網の目からこぼれ落ちた細かな湯の花が沈殿していました。その白い湯の花が物語っているように、湯口ではチオ硫酸イオンの存在を思わせるタマゴ味がしっかり感じられ、またタマゴ臭もほのかに香っていました。湯口から離れるとこうしたタマゴ感は消えてしまいますが、それでも浴感は良く、いつまでも浸かっていたくなるほど気持ち良いお湯でした。


メインプールの脇には足湯槽が設けられています。個人的にはこの足湯槽が気に入りました。ただし、足湯として使うのではなく、全身浴する浴槽としてです。というのも、この槽は足湯用にしては深いために全身浴で入っても肩までしっかり浸かれ、しかも源泉投入量が多いためにお湯の鮮度感も良く、日本人好みの42~3℃の湯加減が保たれていたからです。湯の花もメインプールよりはるかに多かったので、湯の花まみれになって入浴できました。楽しかった!


南投県信義郷東埔村開高巷60号
電話(049)2701511
ホームページ

露天温泉プール開放時間8:00~12:00、14:00~17:00、19:30~22:00
(しかしながら私は12時過ぎに訪問しましたが問題なく利用できました)
200元

私の好み:★★+0.5
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北投青礦名泉(旧北投温泉公共浴室) 2024年1月再訪

2024年02月29日 | 台湾

(2024年1月訪問)
このブログでもほぼ定期的に記事にしているように、毎年私は台湾へ出かけておりますが、最近は台北を観光する機会が減っており、行き帰りの飛行機に乗るために台北を経由する程度です。しかしながら、先日行われた台湾総統選ではやはり大都市の台北市や新北市で選挙運動が盛り上がっていましたので、総統選を見学することが主目的だった今年(2024年)1月の台湾訪問時では台北近郊の新北市板橋で1泊しました。そして、せっかく台北にいるのだから温泉に入らないのはもったいないと考え、MRTに乗って久しぶりに台北の温泉に入ってまいりました。台北は地下鉄に乗れば温泉に入れるのでとっても便利ですね。今回訪ねた台北の温泉は全てこれまで拙ブログで取り上げている施設ですので、改めて拙ブログで取り上げることは避けますが、その中でも例外的に「北投青礦名泉」だけは今回記事に致します。
北投の温泉街から外れた市街地の中にある「北投青礦名泉」は、かつて「北投温泉公共浴室」という名称で営業しており、2010年には拙ブログでも記事にしております(当時の記事はこちら)。
その後、詳しい時期は忘れてしまいましたが、数年前だったか10年ほど前だったかにリニューアルされ、「北投青礦名泉」という名称で再スタートしております。リニューアル後の当施設については、以前から立ち寄ってみようと思っていたのですが、上述のように空港以外で台北を周遊する機会が無かったため、なかなか訪ねられずにいたのです。


本当にこんなところに温泉浴場があるのかしら、と思ってしまうほど温泉地らしくないごくごく普通な台北の市街地にあるのがこの浴場。上画像が正面玄関とその内部にある受付(番台)の様子です。ビルの1階と2階が温泉浴場となっており、1階が裸で入る大衆浴場で2階は個室風呂という基本的な構造はリニューアル前と同様なのですが、料金は大幅にアップしており、以前は1階大衆浴場が80元で2階個室風呂は250元だったものの、現在大衆浴場は150元で個室風呂は400元となってしまいました。倍近い上昇率には驚いてしまいますが、台北は何でもかんでも物価が高騰していますから、仕方ないのかもしれません。
リニューアル後の大衆浴場の様子を見てみても良かったのですが、この時は誰にも邪魔されずに一人で湯浴みしたかった気分だったので、番台でその旨を伝えて400元を支払い、個室風呂がある2階へと上がります。


階段を上がってすぐのところに上画像のカウンターがあり、カウンターを囲むように個室風呂が並んでいます。ここで改めて個室風呂を利用したい旨を伝えると、利用可能な個室を案内してくれます。なお画像は写していませんが、このカウンターの左手にはドクターフィッシュの足湯があります(有料ですよ)。


今回私が案内された浴室がこちら。狭くて飾り気が無く圧迫感しかなかった以前の個室風呂とは違い、以前の約1.2~3倍ほどの広さが確保されたり、部位によって用いる建材を変えたりと、リニューアル後の個室風呂は大幅な仕様変更がなされており、これなら快適に入浴できそうだと期待に胸を膨らませながら・・・


温泉のコックを開けて空っぽの浴槽にお湯を張り始めました。コックのところに書かれた文字のうち、「自来水」は普通の水道水で「熱青礦」は源泉から引いている熱い温泉です。なお「冷青礦」のコックは全開にしても何も出てきませんでした。この浴場に引かれているお湯は北投温泉の青礦と呼ばれているタイプのもので、秋田県の玉川温泉並みに強烈な酸性です。そのためかリニューアルして10年前後なのに、既に湯口周りは強酸にやられてボロボロになっていますね。源泉のままでは熱くては入れないので、相当な量の水道水で薄める必要があります。


お湯を注ぎ始めてから5分強で浴槽にお湯が溜まりました。温泉だけではなく水道水も大量投入していたので、早くお湯が溜まったのでしょう。
湯船のお湯は一見すると無色透明に見えますが、よく見るとほんのり黄色や緑色を帯びているようでもあります。上の画像を見る限りではその名の通り青っぽい色にも見えますね。この青礦は、いわゆる白濁硫黄泉のようにお湯から硫黄の香りが漂ってくるわけではないのですが、湯面からは酸っぱい匂いがほんのり香ってきます。そしてちょっとでもお湯を口に含むと強烈な酸っぱさが口腔内を刺激してきます。下手に口に含むと歯にダメージを与えてしまうかと思いますので、もし口に入れてしまったらすぐに真水で漱ぐことをおすすめします。

この浴室内で服を脱いで実際に湯船へ入ってみますと、大量加水しているにもかかわらず強酸の猛烈な刺激性は弱まっておらず、カラッカラに乾燥した東京の冬で荒れ放題の私の肌にこの強酸性のお湯がたちどころにしみ込んで、ヒリヒリとして痛いのなんの。湯加減はちょうどよいのですが、とにかく荒れた私の肌には酸の刺激が強すぎてしまい、あまり長湯できませんでした。これはお湯が悪いのではなく、私の弱い肌が悪いのです。もっと言えば、数年前までは強酸性の温泉でも問題なく入れた私の体が、ここ数年で急激に老化し、乾燥や刺激に弱くなってしまったことが原因なのです。あぁ悲しい。以前は強酸性だろうがアルカリ性だろうか強食塩泉だろうが不衛生そうな野湯だろうが、どんなお湯でもヘッチャラで入れたのに、最近は体が刺激を受け付けなくなってしまったようです。かく言う私も肌荒れしていない冬以外に入浴すれば大丈夫だったのかもしれません。
強い酸のお湯ですから、それこそ一部の皮膚疾患などには効果覿面でしょうし、草津温泉や玉川温泉で期待されるような効能もここで十分に得られるかと思います。

なお、北投から稜線を挟んだ東側に広がる行義路温泉では、強酸性ではなく、比較的刺激がマイルドな白濁した酸性の硫黄泉に入れます。もちろん行義路温泉についても拙ブログで過去に何度か取り上げていますので、宜しければご覧ください(台湾の目次から当該ページへ飛んでください)。


台北市北投区中央北路一段12号
電話(02)2895-3030

24時間営業 無休(ただし春節の大晦日のみ18:00~翌朝まで休業)
大衆浴場150元
個室風呂400元

私の好み:★★+0.5
コメント
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