温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

宮ノ下温泉 太閤湯

2023年03月08日 | 神奈川県

(2022年4月訪問)
拙ブログは私が行き当たりばったり的にご紹介しておりますので、有名なのにご紹介が漏れていた温泉施設も数多くあります。箱根の宮ノ下温泉にある公衆浴場「太閤湯」もその一つ。てっきり取り上げていたつもりだったのですが、記事を振り返ってみたところ「太閤湯」の「た」の字も見当たらなかったので、今回ご紹介させていただきます。

宮ノ下の「太閤湯」には私が温泉巡りをするようになってから何度か利用しているのですが、それからしばらく足が遠のいていました。特に理由はないのですが、灯台下暗しと申しましょうか、どうしても遠方の温泉を優先するばかり、箱根など近場の温泉は優先順位が下がってしまうのですね。今回はおそらく約20年ぶりの再訪ではないかと思います。

以前は箱根という観光地にもかかわらず常連さん相手の共同浴場という感が強く、他所者が利用するとつっけんどんな対応をされることがしばしばでしたが、現在は諸々の体制が変わったらしく、国道1号には観光客に浴場の存在をアピールする看板や幟が立つようになりました。なお国道からはわかりにくいのですが、奥の方に3台分ほどの駐車場もあります。

久しぶりの再訪なので浴場の様子をほぼ忘れかけていたのですが、それでも建物を目の前にして違和感というか、以前と異なる印象を受けました。外観が綺麗になっているばかりか、明らかに以前と比べて湯屋がスッキリしているのです。その場で以前の画像を検索してみたところ、かつてはいかにも増設した感が強いプレハブと思しき2階部分があったのですが、外装改修に当たり2階部分を完全に取り払ってしまったようです。これによって外観が大幅に変わったんですね。


外観は大きく変わりましたが館内は昔のまま。以前はぶっきらぼうな年輩の方が番台にいらっしゃったような記憶があるのですが、現在は東南アジア系の若い女性が店番をしており、実に愛想よく接客してくださいました。時代は変わったんだと実感します。

男湯は奥の方にあり、脱衣室の先には2つの浴室に分かれています。脱衣室の右手にあるドアを開けると小浴室、左手のドアを開けると大浴室につながります。脱衣室内に用意されている施錠可能なロッカーは5個か6個程度であり、全部の棚に鍵が掛けられるわけではないので、その辺りは運次第なのかもしれません。室内には扇風機が取り付けられている他、天井からドライヤーがぶら下がっていて無料で使えます。


大小どちらの浴場を使っても良いのですが、今回は大浴場を利用させていただきました。窓から燦燦と春の陽が射し込む明るい室内には、しっかりとお手入れされている綺麗なタイル張りのお風呂がひとつ据えられています。浴槽は台形のような歪な四角形をしており、縦2.5m×横1.5mほどでしょうか。4人は入れそうな容量がありますが、訪問時はひたすら独り占めできて幸せでした。浴槽には無色透明のさらりとしたお湯が掛け流されています。


この大浴場は早川が深く刻んだ谷に面しており、窓からは向かいの山を眺められます。訪問時は窓を開けて半露天風呂状態にし、新緑の中で咲く山桜を鑑賞しながら湯浴みを楽しませていただきました。


洗い場にはお湯と水の水栓の組み合わせが3ヶ所設けられています。石鹸類の備え付けは無いので、持参するか番台で購入するか、いずれかになります。番台にはタオルやボディーソープがセットになった「手ぶらセット」が250円で販売されていますので、入浴グッズを持参せず行き当たりばったりで太閤湯に入ることもできますね。


浴槽の温泉は専用の蛇口から投入されており、そのコックを開けると源泉がたくさん投入されますので、ご自身のお好みに合わせて湯量を調整することが可能です(とはいえ公共の場ですから、極端な熱さやぬるさは避けましょう)。なお温泉の蛇口にはパイプがはめられており、熱いお湯が底面で供給されるようになっています。これによって湯船の温度均衡を図っているのでしょう。

以前に入浴した時はすごく熱かった記憶があるのですが、今回は温泉の投入量が絞られていたためか、入りやすい温度というか、むしろ若干ぬるめでしたので、蛇口を開けて源泉を大量投入させてもらいました。これにより完全かけ流し状態。癖が無く滑らかで体を優しく包んでくれるような、実に心地良いお湯で、いつまでも浸かっていたくなりました。やっぱり宮ノ下のお湯は良いですね。


お風呂上がりに小浴場も見学。
もちろん大きなお風呂と同じお湯が使われています。


お風呂上がりは、小さな冷蔵庫に入っている三ツ矢サイダーで喉を潤しました。なお代金は番台へ直接支払います。この冷蔵庫には三ツ矢サイダーのほかバヤリースなど懐かしい銘柄の瓶ジュースが売られていました。このレトロな感じもうれしいですね。

今回再訪して個人的な心理障壁が下がり、以前よりはるかに利用しやすくなったように感じました。
箱根はいつでも気軽に行ける場所なので、また気が向いたらふらっと太閤湯へ出かけてみようかと考えています。


太閤湯(温泉村第28・29号混合)
ナトリウム-塩化物温泉 63.9℃ pH7.8 溶存物質1.321g/kg 成分総計1.324g/kg
Na+:341mg, Ca++:40.5mg,
Cl-:545mg, SO4--:60.7mg, HCO3-:144mg,
H2SiO3:134mg, HBO2:19.5mg,
(平成30年3月5日)
加水あり(源泉温度が高いため)
加温循環消毒なし

神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下223
0460-82-4756

13:00~21:00(受付20:30まで)、第2・第4の火曜及び水曜定休
600円
ロッカー、ドライヤーあり。石鹸類販売あり(備え付け無し)

私の好み:★★★
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強羅温泉(大涌谷造成泉) 国民宿舎太陽山荘

2023年03月03日 | 神奈川県

(2022年4月訪問)
久しぶりに箱根の温泉を取り上げましょう。まずは強羅から。
箱根登山鉄道強羅駅の改札を出てすぐ右に曲がり、地下通路を潜って駅の裏手に出て、線路と並行する坂を登って函嶺白百合の脇を通り過ぎると、その先の右手に今回の目的地である「国民宿舎太陽山荘」があります。できれば宿泊したかったのですが、今回は日帰り入浴で利用させていただくことにしました。


お手頃なイメージがある国民宿舎ですが、建物はなんと重文指定を受けており、戦時中の昭和17年に建てられた木造2階建(一部3階建)の伝統的な木造建築なのです。重文に入れるというだけでワクワクしちゃうのは私だけでしょうか。
玄関の手前から建物を眺めると、2つの棟を連絡する渡り廊下が掛けられていたり、玄関横に掛けられている扁額が立派だったりと、外観だけでもとても風情があります。


建物自体は古いのですが、館内は綺麗にリニューアルされており、建物の躯体も耐震化改修工事が施されているんだそうです。日帰り入浴の場合、まず扁額が掛けられている本館の玄関を入り、帳場で入浴したい旨を申し出て入浴料を支払うとタオルを貸してくれます。その際、お風呂までの手順について簡単に説明してくださいます。
なお本館1階には休憩室があり、お水のサービスも用意されていますので、お風呂上がりにひと息つく際は、この休憩室を利用すると良いでしょう。帳場で借りたタオルは、利用後に帳場の真下にあるカゴへ返します。


お風呂は一旦玄関を出て、向かいの離れへ移ります。お風呂がある離れは一見するとかなり古そうに見えますが・・・


本館同様に内部は綺麗に改装されており、外観とのギャップに良い意味で面食らってしまいました。


男湯の更衣室は、右手にタイル張りの大きな流し台があり、左手に衣類や荷物を収める棚が設けられています。なお施錠できるロッカーは本棟にあるので、本館の帳場で支払いを済ませたら、こちらへ来る前に預けておきましょう。
この脱衣室も綺麗に整備されており、天井が高くて気持ち良い環境です。



浴室に入って更にびっくり。決して広くはないのですが、綺麗で明るい室内からは不思議な開放感が得られ、我々が温泉のお風呂に求めたくなる非日常的空間との邂逅をしっかりと実現しているのです。一部にステンドグラスのような色ガラスが採用されていたり、天井が高かったり、屋根は明かり取りのためガラスが使われていたりと、なかなか凝った造りなのです。しかもその高い天井も脱衣室とつながっており、余計に広さを感じさせてくれます。でもよく見ると、脱衣室側とつながっているのかと思いきや、その部分の天井にはガラスが嵌められているので、湯気が脱衣室へ流れることはなく、それでいて高天井の開放感や明るさを脱衣室と浴室の両方にもたらしているのです。岩、木材、ガラスそれぞれの素材の美しさが活かされているお風呂です。


浴槽は岩風呂1つのみで、ちょっと浅めの造りです。湯船には灰色を帯びた白濁のお湯が張られ、湯口からパイプを通じて湯面下へ供給されています。このパイプを湯面から上げてお湯が出てくる様子を見たところ、投入量それほどは多くないものの、しっかりとかけ流されており、湯船のお湯はまずまずのコンディションがキープされていました。温泉を入れすぎると熱くなってしまうため投入量を絞っているのかもしれません。

こちらに引かれている源泉は強羅エリアでおなじみの大涌谷造成泉。湯船から硫黄の香りが漂い、お湯を口に含むと明瞭な酸味が口腔内を刺激し、同時に砂消しゴムを思わせる風味も広がります。タマゴ味も得られます。それでいて天然の硫黄泉のような強い刺激や主張はなく、味も匂いも、さらには浴感もマイルドなので、総じて湯浴みしやすいお湯と言えるでしょう。火山活動の噴気に水を当てて人工的に作る造成泉については賛否が分かれるところですが、天然の硫黄泉よりマイルドで優しいにも関わらず、硫黄感や酸味など酸性硫黄泉の特徴が得られて温泉気分が楽しめるので、私個人としては大好きなタイプのお湯です。

趣きたっぷりな重文の本館、綺麗で雰囲気の良い浴舎、そして白濁の温泉。
どれをとっても良いですね。
なお今回は岩風呂の浴室を紹介しましたが、もう一つのお風呂はぬくもりが伝わる木のお風呂なんだそうです。
次回こそ宿泊で利用したいものです。


大涌谷温泉 蒸気造成混合泉3号線(強羅方面)と箱根登山鉄道株式会社5号、6号井蒸気造成泉(宮城野第133,134号)の混合泉
酸性-ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 56.3℃ pH2.5 成分総計1.286g/kg
H+:3.19mg, Na+:155mg, Mg++:29.8mg, Ca++:81.1mg, Al+++:6.28mg, Fe++:19.8mg,
Cl-:402mg, HSO4-:41.3mg, SO4--:390mg,
H2SiO3:120mg, H2S:0.1mg, H2SO4:0.43mg,
(平成27年10月21日)
加水あり(冬季に湯温が足りないときはお湯を足す)、加温循環消毒なし

神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-375
0460-82-3388
ホームページ

日帰り入浴11:00~15:00終了 不定休
1100円
ロッカー、シャンプー類、ドライヤーあり

私の好み:★★★
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塔ノ沢温泉 環翠楼別館

2022年08月27日 | 神奈川県

(2021年11月訪問)
日頃の仕事に追われ、週末もろくに休息時間が確保できない日々が続いているのですが、日帰りならば何とか時間がとれそうなタイミングを見つけたので、11月の土曜日、小田急ロマンスカーに乗って箱根へ向かい、箱根湯本からてくてく散歩しながら塔ノ沢温泉「環翠楼別館」を訪ねました。今回は事前に公式サイトで日帰りランチプランを予約した上での訪問です。
見るからに立派なこの建物は大正時代に建てられた木造3階建の鉄板葺で、登録有形文化財に指定されています。文化財の指定を受けるような立派な造りの建物にお邪魔するときには気分が高揚しますね。


入浴の前にランチをいただきます。案内された席は1階ラウンジの窓側。この窓ガラスは建築当時のままなんだとか。100年近く使われ続けたガラスの窓から外を眺めると、何度も通っているはずの国道1号線の往来ですら、風情ある絵葉書のように見えてくるのが実に不思議です。


ラウンジの一角には自由に利用できるドリンクコーナーが設けられています。この「環翠楼別館」は歴史ある建物の風格を大切に残しつつ、随所を綺麗にリニューアルしており、居住性や利便性に関しては古さを感じさせないどころか、寧ろ新しさを覚えるほどです。


まずはワインで乾杯。


歴史の風格漂うこの建物でいただくお食事は、意外にもイタリアンです。
目の前に提供された前菜3種は、海鮮サラダ、パンチェッタとほうれん草のキッシュ、そして野菜とコンソメゼリーのテリーヌ。


お食事のコースは、パスタセット、魚料理セット、肉料理セットから選択でき、今回は予約時に肉料理セットを申し込みました。前菜を食した後に出されたメインの肉料理はアンガス牛ステーキ。実に美味。美味しさのあまり、あっという間に平らげてしまいました。もう少し落ち着いて食べればよいものを、ついつい焦って頬張ってしまい、あまりに品が無くて情けないのですが、出自は誤魔化せないので仕方ありません。

さてお腹を満たした後は、塔ノ沢の温泉に入りましょう。
受付でレンタルのタオルを受け取り、屋外にあるお風呂へと向かいます。


お風呂へ出る勝手口のようなところには、かわいらしいウサギが飼われていました。


屋外履きに履き替え、一旦屋外に出てお風呂へ。
おそらく日帰り入浴のみは受け付けていないかと思いますが、ランチプランを利用することにより、お風呂の利用が可能になるようです。この別館のお風呂は男女別に分かれており、男女の浴場は固定されています。男湯は国道側の「藤の湯」、女湯は南側の山斜面に面した「楡の湯」です。ここからは「藤の湯」についてご紹介します。


別館のお風呂は「藤の湯」「楡の湯」ともに露天風呂で、更衣ゾーンから既に露天状態です。
別館で宿泊する場合は本館のお風呂で体を洗い、内湯でしっかり温まり、そうした上で別館のこれらの露天風呂へ入ることになるのでしょう。そのようなコンセプトのためか、この別館の露天風呂には洗い場がありません。桶でお湯を汲んで掛け湯するなど、工夫して体を綺麗にしてから湯船へと向かうことになります。なお今回我々は別館のお風呂のみの利用ですので、本館のお風呂については利用しておりません。


長方形の露天風呂は、周囲を塀で囲まれているため、景色を眺めることはできませんが、何しろ目と鼻の先は往来が激しい国道1号線ですから、下手に視界を開かせるわけにはいきません。秋に訪ねたので推測するほかないのですが、浴槽手前の頭上にかかっているパーゴラが藤棚のようなイメージなのでしょうか。なお訪問時は特に藤らしき植物は見られませんでした。とはいえ、立派な木立に囲まれ、山の風も入り込み、設えのセンスの良さも相俟って、意外にも静かで落ち着いた雰囲気です。


最も奥にあるこの石塔のようなものは、てっきり湯口かと思いきや、実際にはただの飾りのようで・・・


湯船のお湯は、浴槽内にある複数の吐出孔から供給されていました。お湯は無色透明無味無臭で、癖のないあっさりとした優しいお湯です。この浴舎を含め別館には温泉分析表や湯使いに関する掲示が無かったので、スタッフの方に伺ったところ、湯使いはかけ流しとのことです。分析表に関しては公式サイトに掲載されていたので、スマホでそちらを確認することにしました。
この時は他にお客さんがいらっしゃらなかったので、思いっきり手足を伸ばし、思う存分ゆったりと湯あみさせていただきました。


同行してくれたパートナーに声を掛け、他に誰もいないことを確認した上で、もう一つの露天風呂「楡の湯」をちょっと拝見させてもらいました。「藤の湯」とは趣きや設えが全く異なる開放的な岩風呂で、箱根の山の緑に抱かれつつ、正面に落ちる滝を眺めらながら湯あみすることができ、「藤の湯」も大変居心地よいお風呂なのですが、正直なところ個人的にこちらの方がはるかに環境が優れているのではないかと思った次第です。こんな素敵なお風呂に入れる女性が羨ましいなぁ。

何はともあれ、歴史ある建物で美味しいお食事に舌鼓を打ち、落ち着いた露天風呂で心身を癒して、日帰りながらすっかり寛ぐことができました。


帰路は箱根湯本からロマンスカーGSEで新宿へ。


塔之沢温泉(湯本第37・50・110号混合)
アルカリ性単純温泉 48.2℃ pH8.9 蒸発残留物0.505g/kg 成分総計0.527g/kg
Na+:144mg, Ca++:22.8mg,
Cl-:126mg, SO4--:131mg, OH-:0.14ng, HCO3-:30.5mg, CO3--:1.85mg,
H2SiO3:51.5mg,
(平成16年12月13日)

神奈川県足柄下郡箱根町塔之澤88 
0460-85-5677
ホームページ

私の好み:★★★
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横浜温泉チャレンジャー 惜別入浴

2021年12月24日 | 神奈川県
(2021年12月入浴)
私は温泉巡りを計画する際、行く機会に恵まれない遠方の温泉を優先するあまり、気軽に行ける距離の温泉はついつい後回しにしてしまうのですが、それが原因で首都圏の温泉には疎く、閉館の情報に気づかないこともしばしば。今回取り上げる「横浜温泉チャレンジャー」もその典型。十年以上前に一度行ったきり久しくご無沙汰で、いつか再訪しようと思いながらも後回しを繰り返していたら、なんと2021年12月末を以て閉館してしまうという残念なお知らせを耳にしたので、時間を作り慌てて惜別入浴へ行ってまいりました。


若葉台団地のエントランスゲートとでも称すべき、大貫谷戸水路橋を潜って現地へ向かいます。


若葉台団地からちょっと外れた、昔からの谷戸地形らしい細い坂道や雑木林、そして沢筋が残る一角に今回の目的地があります。


「横浜温泉チャレンジャー」という温泉施設名には以前から謎めいたものや違和感を覚えていました。まずチャレンジャーとは何に挑戦しているのかしら。どんなことをチャレンジしているのかしら。そして確かに当地は横浜市だけれども、いわゆる港町横浜の中心部からは相当離れた横浜市の端っこの丘陵地帯にあたるので、横浜温泉と言い切ってしまうのは若干無理がなかろうか・・・なんて余計なことを考えていたのですが、いざ閉館してしまうと聞けばそんな重箱の隅をつつくような愚問はどうでも良く、ただひたすら残念な思いと、今まで訪問を後回しにしていたことに対する後悔の念に駆られるばかりです。


駐車場に車を停めて、玄関から中へお邪魔します。


エントランスの外側には、閉館のお知らせとその理由が張り出されていました。新型コロナウイルス感染症の影響で売り上げが減少し、毎月の赤字が膨らんで事業継続が困難になってしまったそうです。


下足箱に靴を入れ、右手にある券売機で料金を支払って、反対側の受付カウンターへ券を差し出します。玄関の右手は食堂兼休憩スペースとなっており、お風呂は左側へと進みます。館内はふた昔前のクリニックや保健所みたいな雰囲気なので、温泉に来たのか、あるいは体調を診てもらうのか、私の訪問目的が一瞬わからなくなってしまいました。

(更衣室から先の画像はございませんので、以下文章のみで紹介いたします)

更衣室は明るいものの全体的に古く、壁紙や天井がくすんでいたり、エアコンの化粧パネルがガムテープで補修されていたりと、随所に経営でご苦労されている形跡が見て取れます。なお他の温浴施設とちょっと異なる点として注意を要するのが、下足箱の鍵が脱衣室のロッカーキーを兼ねていることです。一応館内には説明があるのですが、注意書きの掲示箇所が少なく且つ小さいので、そのことを知らないと初回訪問時はどのロッカーを使って良いのか当惑するでしょう。自分の靴を預けた下足箱の鍵で、下足箱と同じ番号のロッカーを開閉するのです。それゆえ更衣室のロッカーには鍵が刺さっていません。

さてお風呂へまいりましょう。
浴室のドアを開けた瞬間、この温泉独特のアブラ臭がプンと鼻孔を刺激してくれます。神奈川県東部ですので化石海水型の温泉は珍しくありませんが、まさかハッキリとしたアブラ臭がこの地で嗅げるとは思わず、とても感動してしまいました。アブラ臭に中毒的な愛好心を有する一部の温泉マニアでしたらこの「芳香」に歓喜の涙を流すこと間違いありません。 

浴室は左右に細長い造りをしており、向かって正面の壁には富士山の絵が描かれているのですが、ところどころ剥げていて、少々草臥れている感じです。横に細長い造りに合わせる形で、洗い場も左右に分かれており、シャワー付きカランは右手の壁沿いに4基、その背面の島に計6基、入口左側の壁沿いに4基の計14基設けられています。洗い場の各ブース(シャワー)の上には照明が取付られているのですが、その一部は腐食してしまったのか取り外されており、撤去跡が補修されない上、配線が剥き出しになっていました。先程の更衣室も同様でしたが、交換や修繕する費用を工面できなかったのでしょうね。ご事情お察し申し上げます。
なお出入口のすぐ右手にはぬるい掛け湯があり、蛇口から出ているのは紛れもない放流式の源泉かと思われます(味も匂いも強かったように感じられました)。

富士山の壁絵の真下に、これまた横長の浴槽が設けられています。私の目測で幅約6~7メートル、奥行2メートル程でしょうか。それを4:3程度に分けていて、窓側の槽ではジェットバスが稼働している一方、片方は特にこれといった仕掛けが無い普通の浴槽なので静かに入浴できます。この両浴槽の間に両者の間の壁面に木枠の湯口があり、間歇的にお湯がボコボコと出てくるのですが、お湯が源泉そのままなのか、あるいは循環された湯なのか、その辺りはよくわかりませんでした(鈍感ですいません)。なお、この横長浴槽の他、右奥には4人サイズの寝湯もあり、こちらにも温泉が張られています。
また、屋外へ出る扉を開けると、露天風呂があるのかと思いきや、浴槽らしきものはどこにも無く、あるのは所謂バルコニーで、椅子が6脚ほど置かれてクールダウンスペースになっています。

さてこちらの温泉のお湯は、上述のようなアブラ臭が特徴的で、版画インクを思わせる独特の匂いが湯口から放たれて室内を漂っています。湯口から出てくるお湯は無色透明のように見えますが、浴槽では淡い鼈甲色を帯びている気がします。口に含むと塩味が強く、またほのかに苦みもあり、いかにも化石海水らしい特徴を有していますが、千葉県東葛や埼玉県東部などのような著しい塩辛さは無く、金気もほとんど感じられません。湯口のお湯は塩味もアブラ臭もしっかりしているのですが、浴槽では味も匂いも弱まっているので、湯口で源泉を投入した後、循環の過程で加水されるのかもしれませんね。とはいえ溶存物質8543mgという濃さを誇る食塩泉だけあり、湯船に浸かるとツルスベの滑らかな感じと引っ掛かる浴感が拮抗し、力強く火照って、湯上り後も長い時間にわたって温浴効果が続きます。加水加温循環ろ過消毒という掛け流しとは程遠い湯使いですが、丘陵地の中で湧く温泉とは思えないほどとても面白い個性を持つ曲者の温泉ですので、閉館によってもう入れなくなるのかと思うと、残念でなりません。




こちらは駐車場に隣接している源泉施設です。閉館後はどうなってしまうのでしょうか。

閉館まで1週間ほどありますので、お近くの方は惜別入浴してはいかがでしょうか。

横浜温泉
ナトリウム-塩化物温泉 44.0℃ pH7.6 57L/min(動力揚湯) 溶存物質8543mg/kg 成分総計8857mg/kg
Na+:3110mg(91.59mval%), Ca++:140mg(4.65mval%),
Cl-:4780mg(95.51mval%), Br-:18mg, HCO3-:373mg(4.33mval%),
H2SiO3:102mg, HBO2:196mg,
(2019年10月25日)
加水あり(入浴に適した温度に保つため)
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
循環ろ過あり(衛生管理のため)
消毒あり(衛生管理のため。次亜塩素酸ナトリウム溶液自動注入)

神奈川県横浜市旭区上川井町2287
045-922-5590
ホームページ

9:00~20:00
800円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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箱根湯本温泉 吉池旅館(日帰り入浴)

2021年07月16日 | 神奈川県
(2020年9月訪問)

「名物に旨い物なし」という言葉に反し、有名温泉地には名湯が多いのですが、必ずしも全部が名湯というわけではなく、そもそも施設数が多く、お湯を大切にしていない施設も存在するため、きちんと狙いを定めて訪問しないとハズレに遭遇してしまいます。このため温泉についても「名物に旨い物なし」的な印象が生まれてしまいがちです。

関東屈指の温泉観光地である箱根の箱根湯本には、皆様ご存じの通り、老舗旅館や大規模ホテルまで、多種多様の温泉施設が営業していますが、この箱根湯本も施設数の多さ故、素晴らしいお湯に出会えるか否かは、事前の下調べがモノを言う典型的な有名温泉地と言えましょう。私がまだ温泉に対する造詣が深くなかった学生時代、箱根湯本で何回か宿泊したことがあるのですが、その時の悪い印象が強かったため、温泉巡りをするようになってからも、箱根にはあまり興味を示しませんでした。しかし温泉マニアの先達の情報を見ているうちに箱根でも素晴らしいお湯に出会えることがわかり、その後は足繫く数え切れないほど箱根へ通っております。

さて、今回取り上げるのは箱根湯本の有名旅館「吉池旅館」です。東京の下町にお住まいの方ならば、吉池と言えば御徒町を連想するかと思いますが、あの吉池が箱根で旅館を経営しているのです。昭和の東京で生まれた私にとって、吉池と言えば御徒町駅前のゴチャっとした食料品店を思い浮かべますし、また同じく御徒町には同系列の古いビジネスホテルもあって、思いっきり昭和な商いをする古いイメージがあるのですが、後述するように箱根の「吉池旅館」は御徒町に漂う雑多な昭和臭が全くしない、ラグジュアリー感のある旅館であり、且つ温泉を大切に扱う素晴らしい温泉施設なのです。上野(御徒町)エリアに拠点を置きながら関東の外縁部で温泉旅館を経営するという意味で、吉池と聚楽は似た者同士ですね。ついでに言及すると、吉池も聚楽も創業者が越後出身という共通点も有しています。


箱根湯本の土産物商店街から「湯本橋」で早川を渡って温泉場の方へ入り、しばらく歩くとすぐにたどり着きます。
威風堂々とした構えのこの旅館は昭和16年創業の大きな老舗旅館で、元々は三菱財閥岩崎家の別荘だった土地を旅館にしたもの。1万坪の敷地には回遊式の庭園が設えられ、園内には須雲川から水を引いてせせらぎが作られ、また大きな池ではたくさんの鯉が泳いでいます。


立派なエントランスの前には、御徒町の本店と同じ字体で「吉池」と書かれた看板が立っています。余計な知識が無けりゃこの看板に引っかかることは無いのでしょうけど、私にとってこの字体は御徒町の雑然とした街並みと直結しているため、この文字が箱根の温泉旅館を示しているという事実に対して違和感を覚えずにはいられません。ま、どうでも良いことなのですが…。


ラグジュアリ感溢れるロビーからは、岩崎家の別荘だった庭園を眺められます。このロビーにいるだけでも実に雅やかな気分です。大抵この手の立派な旅館は日帰り入浴を受け付けないのですが、「吉池旅館」はありがたいことに、日帰り入浴を積極的に受け入れています。フロントで日帰り入浴したい旨を告げ、日帰り入浴にしては少々高めの料金を支払いますと、スタッフの方から小さい紙に名前や連絡先を記入するよう求められました。コロナ対策なのでしょうか。あるいは宿帳のように日帰り入浴利用者をしっかり記録しているのでしょうか。

ロビーから奥へ伸びる廊下を歩き、2階から1フロア上がって3階へ進み、更に廊下で奥へ奥へとどんどん進んでゆくと、やがて浴場ゾーンに到達します。この廊下の長さだけでも、いかに吉池旅館の敷地が広いかを実感できるでしょう。


男女暖簾の手前には休憩兼待合の空間があり、ドリンクサービスを提供するスタンドが設けられています。またこの空間が男女別の浴場や貸切風呂、露天風呂、そして屋外プールなど各施設へつながるハブにもなっています。さらにはこの空間には温泉掘削のボーリングピットが展示されていたり・・・


当旅館の湯使いに関する説明プレートが掲示されています。この説明によれば「お風呂は全て自然流下方式かけ流し温泉」であり「新鮮な温泉を適温でお楽しみ頂く為に工夫を」施したんだそうです。またこの図によればサイフォンの原理によりお湯を屋外へ排出しているようです。循環しないかけ流しの温泉に入れるのですね。実に楽しみです。


空調が完備された脱衣室は、綺麗でよく整備されており、とても気持ちよく使えます。また意図的に薄暗くすることで落ち着いた雰囲気を演出しているようです。確かにシックで良い感じなのですが、本当に暗めなので視力弱い人にはちょっとツラいかもしれません。なお室内のロッカーは鍵付きです。


浴場内の写真は公式サイトから拝借しました。私個人の感想を老婆心ながら申し上げますと、公式サイトで紹介されているこの写真は浴場内の開放感や明るさなどが伝わりにくいので、できれば別の写真に差し替えた方が良いのではないかと思っております。
それはさておき、男湯の内湯は元々植物園だったらしく、天井が高くて観葉植物も植わっており、とっても開放感且つボタニカルな雰囲気です。洗い場は2ヶ所に分かれており、また右手には小さな洞窟風呂があります。中央に位置する主浴槽は非常に大きく、パッと見た感じですと40~50人は余裕で入れるかと思います。開放感のある空間に大きいお風呂という組み合わせは非日常を楽しむ上でとても効果的に働く要素ですね。この浴槽内には伊豆青石のような色合いのタイルが張られており、浴槽内のステップには実際に伊豆青石が採用されています。また縁には木材が用いられています。

この浴槽は途中で深くなっており、手前側は一般的な深さですが、奥は立ち湯に丁度良い深さになっています。そして最奥の岩積みから熱めの温泉が滝のように落とされ、浴槽のお湯を満たしています(このお湯は熱いので打たせ湯は厳しいかも)。この熱い湯の滝が落ちている影響か、深い立ち湯ゾーンの方が僅かに熱いように感じられたのですが、でも全体的には湯加減が均等に調整されていますので、滝以外にも浴槽内に供給口があるのでしょう。
上述で述べたように、浴槽のお湯はオーバーフローせず、槽内の穴からサイフォンの原理によって排出されています。
加温加水循環消毒の無い完全かけ流しの素晴らしいお湯です。


男湯の露天風呂は一旦着衣してホールへ戻り、別のドアから屋外へ出ることになります。綺麗で使い勝手が良かった内湯の脱衣室とは対照的に、露天の脱衣所は至ってシンプル。棚に籠が置いてあるだけです。またロッカーやドライヤーなどの備品も無いため、私は貴重日や荷物などは内湯のロッカーへ収めたままにし、露天では着替えるだけにしました。
更には、露天風呂の入浴ゾーンには洗い場も設けられていないので、あらかじめ内湯で体を綺麗に洗っておく必要があります。つまりこの露天風呂は内湯の利用を前提としているのでしょう。
旧岩崎家庭園に融合している露天の岩風呂は、一部に屋根が掛かっているものの大変開放的であり、すぐ目の前を庭園のせせらぎが流れていて、実に良い雰囲気です。時間を忘れてじっくり浸かっていたくなります。湯加減もちょうど良く、しかも完全かけながしの湯使いなんですから、文句の付けようがありません。

ちなみに、今回利用できなかった女湯は、内湯・露天とも浴槽が2つずつあり、しかも内湯は御影石と総檜の浴槽が設けられているんだとか。

さて、お湯に関するインプレッションですが、こちらの施設では6つの源泉をミックスして各浴槽へ供給しており、そのうち1つは庭園内で湧出する自家源泉(湯本第12号)なんだそうです。6源泉をあわせた合計湯量は毎分720L。その豊富な湯量を活かして全てのお風呂で完全かけ流しの湯使いを実現しています。また源泉温度が高いため、加水せずに温度調整しているそうです。お湯の見た目は無色透明ですが、含む塩化土類・食塩泉という泉質名とは裏腹に石膏感と芒硝感を有し、少々トロミや引っかかる浴感が得られます。源泉にも依りますけど、箱根湯本のお湯は循環させたり加水しちゃうと水道の沸かし湯と区別がつかなくなりますが、本来は無色透明の硫酸塩泉的な特徴を示すことが多く、こちらのお湯もそうした特徴を有する典型例といって良いでしょう。お湯の個性がはっきり表れている上、湯使いも鮮度感も良く、大変素晴らしいお風呂です。おすすめ。


ちなみに上述の休憩兼待合の空間には2室の貸切風呂が面しており、日帰り入浴でも予約なしで利用することが可能です。訪問時は1室が空いていたので、ちょっと拝見させていただきました。家族やカップル等で利用するにはちょうど良いか寧ろゆとりがある規模感で、且つとても綺麗に維持されており、当然ながらお風呂はかけ流しの温泉が供給されていま。こんな立派なお風呂も利用できるのですから有難いですね。


お風呂上りに旧岩崎家別荘の庭園を散策させていただきました。


須雲川から引水した川が庭園寧を流れ、錦鯉が悠然と泳ぐ大きな池へと流れ込んでいます。


せせらぎの音を聞きながら奥の方へ進んでゆくと、一軒の立派な木造建築があり・・・


説明によれば国の登録有形文化財「旧岩崎弥之助邸別邸和館」で、1904年(明治37年)に建築されたんだそうです。


実に素晴らしい庭園ですので、こちらへ訪問の際は是非散策してみてください。


湯本第12・72・84・89・99・112号混合泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物泉 63.4℃ pH8.1 成分総計3212mg/kg
Na+:750mg, Ca++:339mg,
Cl-:1570mg, SO4--:347mg, HCO3-:48.8mg, CO3--:6.0mg,
H2SiO3:77.8mg, HBO2:40.4mg,
(平成25年1月9日)
加水加温循環消毒なし

神奈川県足柄下郡箱根町湯本597
0460-85-5711
ホームページ

日帰り入浴13:00~22:00(最終受付20:00)
2,250円(入湯税込み)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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