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kirekoの末路

すこし気をぬくと、すぐ更新をおこたるブロガーたちにおくる

むせる

2008年02月29日 01時54分17秒 | 末路話
これはむせる@kirekoです。

>いろんなアニメOPにボトムズの炎のさだめ

http://www.nicovideo.jp/watch/sm1505487

盛大にむせた。

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へいへいへへい

2008年02月28日 21時57分48秒 | 末路話
なっなっなっ、なっななーっ@kirekoです。

>朝になるとやる気がでる男

SHIGOTO!SAGASHICHU!
というわけで最近、
食っては寝てを繰り返す駄目なニーターリングタイプBの
夜型生活が続いているんですが、夜中になると、なんとなく何をするにも、
やる気でねーつまんねーっていう不思議な感覚に陥るんですよ。

こういうのをセロトニン不足っていうんですかね?
眠くなる頃に外に出て日を浴びると、すげー元気でます。
植物の光合成的な感じか、日が昇ってからが勝負というか
日に浴びる事っていいことですよね(謎)

というわけで、やる気ダウン中。
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なんというまずい戦

2008年02月27日 21時39分32秒 | 末路話
おや・・・?いつの間にか二月が終わる!!!@kirekoです。

>落ちろーッ!(レジーナ)

というわけで連続で落ちまくってますwww
まだ就職決まってなくて一ヶ月休養中で作業進みまくりでサーセンwwww
たくさんあるとはいえ、貯金を食いつぶすのだけは嫌やーっ!
メケーモッ!メケーッェモッ!!

>うなれっ!(レジーナ)

追い込まれないと駄目な男ことkirekoですが
ここまで追い込まれるとは思わなかったので
とりあえず、フェイの最終問題クリアしたし、二つ名メーカーで遊ぶか。

http://pha22.net/name2/


馬路キレ子さんの二つ名は・・・


調教過剰(リリース)




鬼畜とまではいかないが、人を傷つけることに定評があるこの俺が
リリースだと・・?俺は捕まえたら逃がさない性質なんだがなぁ!!
キャッチ&リリースとでもいいたいのか!!寒気がするぞ!!
だ、だがなぜか当てはまるところは・・・くそっ本名で勝負だ!





(本名)さんの二つ名は・・・


傾斜迅雷(アサルトナインティーン)







・・・・いや、それはねえよ。



馬路キレ子の解析結果 - 今日すべきこと的な脳内メーカー


メケーモッ!
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四コマニア

2008年02月26日 23時00分58秒 | 末路話
これはなんだ・・・・?!@kirekoです。


>四コマニア

http://4komania.jp/index.html

なんだか知らないけど、
話題4位くらいにあったのでやってみます。
ってGOOブログwwwwwwwwwwwwwwwww
このタグいれたら、無効ですって言うならまだしも
文字列ごと消えるってどういうことwwwwwwwwwwwwww
コマ入れ作業が意味なくなった\(^o^)/


>このままじゃおさまりがつかないので

http://www.nicovideo.jp/watch/sm2062885

こういうの大好きだわwwwww
ビームライフルの音似すぎwwwwwwwwwwww
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Black Eyes Mystery Hunters 序章

2008年02月26日 01時00分53秒 | 超能力バトル物

 夜。
星空も見えない強いネオンが彩る、3千万強の人間が犇(ひしめ)きあう大都会。
世界最大クラスの経済都市、ここは東京。
闇夜に光る夜光虫、この眠らぬ街を俺達は走る。
暗がりに沈む黒い眼が仕事だと呼んでいる。あの影を追え…と。
ざわめく人間たちの合間に、虚(うつ)ろに動く影、影、影。

影を追った、従われる眼が向くほうへ。

 不夜城新宿歌舞伎町、今日の標的はどうやら此処に逃げ込んだらしい。
並ぶ白い街灯、オールナイトの映画館、青く点滅するネオンのパチスロ屋、看板が光るファーストフード、七色の照明をつけたラブホテル。走る俺達に眩しすぎる光と闇のコントラストが飛び込むと、眼が教える。この息吹く光に生まれた影の場所を。

歓楽街と言えば聞こえは良いが、静まり返った昼間と比べれば、夜のこの区域は、まさに欲望の掃溜め。

黒いスーツで女を口説き、抱き込むチンピラ。
見知らぬカタギを煽る半裸の薬漬け。
夜の主役気取りで男を誘う金髪虚言癖。
浅ましいブランド狂いの貴婦人モドキ。
保安の目を掻い潜って外貨を稼ぐ海の外の異人。

 ここに居るのは、どいつもこいつも闇に蠢く弱者の血をすする無法の商売屋達ばかり。まともな人間は誰一人として居ねえ。欲望の亡者が闊歩している中を、俺達は眼に従われるように影を追った。そして…

「眼が疼く…能力者は近い」
「ああ、間違いねえ。臭ぇ街に、一際臭ぇハイエナが一匹紛れ込んでやがる」
「…Telepathy(精神感応)ッ!!ていうかーマジあのビルじゃねー?」
「さっすがスペシャリスト!鼻がいいぜ!じゃあ捕まってな!飛ぶぜ!」

黒い目の奇妙な狩人たちは、残像を残しながら今居たその場所から忽然と消えた!
おかしな状況に誰も眼に留めやしない。皆、欲望に眼がくらんでいるから。

「キャアアアーッ!!」
「な、なんなんだね君達は!」

 高い建物の中で、夜の街を切り裂く二つの声が聞こえた。
俺達の移動した場所は、低い白い天井と狭い灰色の壁に簡素なベッドが一つ、淫らな色の照明と、壁にかかった絵画には無数のいたずら書き、部屋伝いに続く透明の浴室の窓越しには、降り注ぐ湯のシャワーを浴びながら全裸の女がこっちを見て怯え、女と抱き合っていた頭髪の薄い中年の男は、乱れたネクタイを首に下ろし、上下ほぼ半裸のYシャツ一枚姿でへたり込んでいた。

「ていうかー盛りの最中って奴ぅ?キャハハ、こんなオジンとまじありえねー」
「へへ、こりゃ失礼。お楽しみの所すまねえな。また間違えちまったぜ」
「悪趣味にも反吐が出るな。さっさと影を追うぞ」
「はいはい。…ケッ、優等生はこれだから困るぜ!」

俺達はまた、残像を残して瞬時にその場から消えた。
そして、次に移動した部屋には標的が居た。

「能力者…!見つけたぜ!」
「チッ!仲間に知らせた波長を読みやがったか!」

目の前に現れた標的の姿は、黒いサングラスに銀髪、顔には数箇所傷があり、オレンジともイエローとも思えないアロハシャツと青いジャージを着て、大事そうに銀色のトランクを抱える、中肉中背の男だった。

「トランクの中身は能力を使って稼いだ金か?アフマド・ザライエフ!」
「お、俺達には能力があるんだ!それを使って何が悪い!」
「お前を不法能力収賄罪で連行する。抵抗すれば殺す!」
「てめえらの好きにさせるかよ!国に飼われた番犬どもが!」

バッ!!

吐き捨てるようにアロハの男がそう言うと、札束がはみ出したトランクをギュッと左手に持って、俺達に向けて真っ直ぐ右手を出して、指を震わせて力強く構えた。男が唸りを上げて勢い込むと、伸びた右手には陽炎のような紫色の瘴気が浮かび、小さな壁に囲まれた小部屋には、硫黄のガスとアンモニアが混ざったような刺激臭が充満した。

「抵抗したか案の定。下品な奴だ」
「うっわっ!臭ッ!ていうかー毒使いかよ、まじありえないんですけどー!」
「こうなりゃ仕方ねえ!久々の空中戦だ!おいリョウマ!瘴気のガスが周る前に、壁を熱で溶かして外へぶち開けろ!」

皆を尻目に、いち早く匂いに気付いていた俺は、言われる前に小部屋の分厚いコンクリートの壁に開いた両手を押し当て、頭の中で力強く念じた。爆ぜろと。

ボォンッ!!

 強く念じたその瞬間、両の掌が太陽のように光り輝くと、人智を逸した驚くべき熱の渦がコンクリートを溶断し、収束する巨大な熱に集まった空気圧が、溶断された壁のヒビに入り込み、圧縮された空気圧は小さな空間に対して飽和し、物体ごと爆発する。音を立てて厚いコンクリートの壁は粉微塵になって破壊された。爆発の震動が建物を揺るがすと、俺達は即座に外へ出た。

飛び散る小さな破片と伴に、俺達は空中へ躍り出た。
眠らぬ街の光をバックに、地上からおよそ14m付近に俺達は居た。
だが、この星の重力は俺達を捉えることはない。
上下前後左右360度、四方には何もない空。
飛ぶと念じれば俺達は自由に飛べた、それがこの黒い眼の能力者たちの恩恵!

「リョウマ!破片も粉砕するとは上出来だぜッ!」
「ひーっ!て、てゆうかーここ高すぎぃ~!こりゃ怖いよぉぉ~」
「ふん、じゃあ能力者の始末は私がやろう」

空中に躍り出た俺達は、下にざわめき始めた人間たちの声を耳にしながら、同じくトランクを持ちながら空中に出てきたアロハの男を見た。

「ケェッヘッへェ、お前達は馬鹿か?空中で俺が毒の瘴気を使えば、無関係の人間が、もぉっと死ぬぞぉ!いいのかぁ?いいのかぁ?お前等国家の犬は、一般人の被害を一番怖がるよなぁ?それでもぉーいいのかなぁー?」

トランクを持ちながら、下卑(げび)た笑いを浮かべるアロハの男。
手にたまっていく紫色の瘴気、次第にどす黒くなっていく紫色に比例して辺りにはあの刺激臭が立ち込め始めた。普通の人間であれば五秒と持たない猛毒のガスを、アロハの男は笑顔で、この欲望渦巻く眠らない街に広げようとしていた。

「さ・て・と。帰りは久々に何か飲むかなぁ」
「てゆーか、ネイル剥れちゃったしーあたし帰って休みたいんですけどー」
「…」

しかし俺達は皆、慌てることなく平然としていた。
それを見て、慌て始めたアロハの男は笑うのを止め、紫色の瘴気の宿った手を下に向けて何度も振るように俺達を見て挑発する。

「お、俺は本気だぞ!俺を逃がさないとお前等!下の人間達を殺すぞ!街の人間を!殺すんだぞ!俺は!いいのか!?」

「あーはいはい。どうぞ勝手にやってくれよ」
「てゆーか、お前もう終わってるしー。焦りすぎて心が聞こえてまじうけんだけど」

 俺達は男の挑発の意味の無さに呆れるように余裕をもって私語を交わし、逆にアロハの男を挑発した。いつの間にか、絶対優位であると思っていたアロハの男からは笑顔が消え去って、心のたがが外れ、能力者に心を読み取られるほど狼狽した。アロハの男は焦った。何故だ?何故なんだ?手に持った毒の瘴気が放たれれば、ここにいる数千人が一瞬にして物言わぬ死体に成り代わるというのに、何故こいつらはこんなに余裕でいられる…?と。

「終わりなんだよ、お前は」
「えっ…?」

その答えは簡単だった。
俺達は、始末を買って出た仲間の力を知っていたからだ。

「闇夜の黒眼(ノワール・ド・フィナーレ)!!」

黙っていた仲間の一人が高らかに呪文を唱えた瞬間、たなびく銀髪と黒ぶちの眼鏡の奥から黒い眼の紋章が浮き上がる。紋章は仲間が指で男を指すと、黒い一閃となって真っ直ぐに飛んだ。狙い済まされたような一閃は、アロハの男の服に焼印を押すように紋章を浮き上げさせた。

「な、なんだ。へっ、ただ服に黒い染みが出来ただけで、なんともねえじゃねえか、ご大層に技の名前なんぞ叫びやがって、そんなんで俺がビビるかよ!」

「いや、お前はもう終わった」

「ち、ちくしょう!なめやがって!て、てめえら、こうなりゃ!俺の本気を見せてやるぜ!この紫の瘴気の力!たっぷりと下の人間に味合わせてやるぜー!」

バッ!!

アロハの男が右手を振り上げて、淀みに淀んだ禍々(まがまが)しい紫色に光る毒の瘴気を下界の人間達に放とうとした、その瞬間!

「あ…な…ん…だ…か…らだ…う、ごか…」

空中に紫の毒気を染み込ませていたアロハの男の周囲が一瞬歪むと、アロハの男は硬い金属のように固まり、いつの間にか身動きがとれなくなっていた。そして、アロハに滲んだ黒い眼の紋章がギラッと光りを上げたかと思うと、男を囲っていた周囲の闇が、まるでその眼の紋章に急激に吸い込まれていくように凝縮していった。

「な、んだこれ…て、てめえ何をしやがっ…う、うう、苦しい…」

あたりの闇が渦を巻いて紋章に凝縮される中、闇に引っ張られるようにアロハの男の体も紋章の中へと引き込まれた。そして、右手に作られた毒の瘴気もまた、その中へと吸い込まれていった。

「オゴォォォ、オボォ、オゴボボ!!」

能力者といえども、中身は並の人間。
自分で作った猛毒のガスを吸い込めばすぐに死ぬ、呼吸をしなければ窒息で死ぬ。
どちらにせよ黒い紋章が闇を吸い取り、身動きのとれないアロハの男に確実な死が待っている事は否定しようのない事実だった。

「ウガボボボォッ!!」

汚らしい断末魔の声を聞きながら、アロハの男は紋章の闇に消えていった。

「自らの毒に死ぬ。自業自得だ」
「最後まできたねえ匂いのする奴だったぜ」
「つーか一件落着だけどさ、マジサイテーな終わり方だよねー」
「…帰るか」

空中に浮かぶ俺達は、騒がしくなり始めた下界の様相を見て移動した。
不夜城に生きる人々は、消えた俺達の残像を指さし、どいつもこいつもおかしな事だと口々に言ったが、それも眠らぬ街の欲望に駆り立てられた人間の好奇心を満たすには程遠かった。今夜の事件と俺達の事は、次第に時間と伴に忘れられていった。

「…ピースフル。実に平和な街だ」

黒い眼の狩人たちは、欲望渦巻く歓楽街を背に感じながら家路へと急いだ。
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超能力バトル物

2008年02月24日 18時26分56秒 | 超能力バトル物
しっかりとした基盤もなく考え無しにやるのが@kirekoです。


>超能力バトル物
自分の弱点は、キャラクター要素と読みやすさだと、ふと思ったので
今までのくらーくて、じめじめーした感じを脱ぎ捨てて、
幾分かライトな文章に挑戦しようと思います。
てか英雄百傑の時に一番苦労したのは横文字なんすよね
スピードとかパワーとか横文字が出せないのが、かなり困りました。
というわけで、ちょいちょいコメディタッチに色を出しつつ書きます。
ジャンルは超能力バトル物。
やりつくされた感じがしますが頑張ってみます。
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英雄百傑外伝キレイ編-3

2008年02月23日 23時31分29秒 | 『英雄百傑』設定
英雄百傑外伝 ―英傑達の休息―
第一夜『野望の恐将、龍となり天下を望む』


 キレイは秋の残り香の風が吹く中、城中を真っ直ぐに駆けた。
自分を待つ母の下へ。暖かく、優しく、自分を理解をしてくれる母の待つ場所へ。
庵での苦行の二年間、幼心の心中はもっと言葉を交わすべき友人を、くつわを並べて夢を語る仲間を作りたかった。だがキレイは出来なかった。その余りある才能と、若さゆえの傲慢さが彼に孤独を味わせた。余りに辛い苦行に逃げたい時もあった。誰も居ない星空の夜に声を殺して泣く事もあった。兵書を読みながら灯火に揺らぐ影を見て、何度母の顔を思い出したことだろう。歩みを速め、石の廊下に音を立てて歩く彼の心は、孤独に耐え達観し強く生きてきた二年間の強い縛めを解き、いつの間にか泣き虫と言われたあの日の夜のように、童心に返っていた。

「母上!母上っ!キレイ、ただいまこのように無事に戻りました!母上!」

 キレイは笑っていた、整った顔が崩れるような満面の笑みで。…庵での苦行の間、目一つ、眉一つ動かさず、決して感情的に物を言うことのなかった少年が、母の部屋で母の姿を必死に追いながら、周囲に聞こえる恥ずかしさなどとうに忘れ、声を大きくした。若干十二歳の小さな、小さな少年の心は、郷愁と安堵に沸き立つその心の迸(ほとばし)りを抑えきれなかったのだ。

「ふうむ、これだけ城を探しても母上がおられぬとは。…それに母上の部屋のこの雑然とした様はどういうことだ?」
「兄上ぇ……」
「うっ、そのように暗い顔を浮かべてどうしたのだキイ?」
「母上は……」

いつの間にかキイは兄の後ろに下を向いて立っていた。目を泳がせ落ち着かず、体を震わせながら、キイは何度も唇に強く指を這わせて喋ろうとした。キレイは、何か喋ろうと必死になる弟の姿を見ると、察したように弟に向けてこう言った。

「はっはっは、そうか思い出したぞ、お前の癖を。そのように指を唇に這わせて震える癖。そういう時は決まって何か隠し事をしているのをな。長い間が経っているとはいえ、この兄がその癖を忘れるとでも思っていたか?」
「い、いえ…違うのです兄上!母上は…」
「ははん、さては母上め。この私を驚かせようと城の何処かに隠れているのだな。私が帰ってくるのを知って、このように慌てて部屋を片付けさせて、我が子の喜び勇む顔をどこかで見て笑っていらっしゃるのだな。母上も素直でないお方だ。それならば私も本気になって探すしかあるまい!」
「兄上!違うのです兄上ぇ…!」

キイの叫ぶ声は、勇み足で城の探索を始める兄には届かなかった。

――――――

 辺りはすっかり夜になっていた。夜空には反り返った三日月や、輝く星たちが煌く光を放ち、静まり返った夜の街には少し吹き始めた寒い風と、蟋蟀(こおろぎ)の鳴く声が聞こえていた。

「月夜の晩に虫の声と寒い風…このように伸び伸びと聞けるのは何年ぶりだろうな。おっと、いかんいかん。情緒に浸っている場合ではなかった。しかし、いったい母上は何処へ行ってしまったのだ。私がこれほど探しても見つからないとは、なかなか隠れる才能が御ありだ。もしかしたら城に帰っているのかもしれん。一度戻るか!」

呟きながら、キレイは再び勇み足で城へと帰っていった。
衛兵に城の門を開かせ、官庁である御殿をかけると、自分の部屋へと向かった。そして、いそいそと夕食(ゆうげ)を済ませると、また母の姿を探しに母の部屋へ行った。しかし、そこへ待っていたのはいつものように酒を飲む父キレツと、泣きはらしたように目を赤くして下をうつむく弟のキイであった。

「おうキレイ。…やはりここへ来たか。何も言わずこっちへ来い」
「兄上ぇ、兄上…グスッ…」

父キレツの顔は驚くほど紅潮しており、自棄(やけ)酒を食らうように、何度も杯を口に運び、その目はうな垂れ、とても機嫌が悪そうだった。まさか帰ってきて早々、母を捜して城や街中を彷徨っていたことを咎められるのかと思ったキレイは、怒られては母に慰められていた昔の自分を思い出し、強く緊張した面持ちでキレツの前へと歩いた。

「父上、何でございましょうか?」
「すまぬキレイ…お前に謝らなければならないことがある」
「えっ!?」

緊張は一瞬にして解かれた。過去、何度も逆鱗に触れて味わったあの怒涛の癇癪の嵐、一度怒れば誰もが手をつけられない程になる父キレツが、紅潮した顔で自分に謝ったのだ。キレツは手元にある空の杯に酒を注いでこう言った。

「お前の母は…母は死んだのだ。お前が庵へ旅立って間もなくして重病の発作が起こり、どんな大病も治せるという希代の名医が隣郡におってな。馬車を走らせて向かったが…。その途中…その辺を根城にする賊に馬車を襲われて、無残に死んだのだ」

キレイは言葉を疑った。

「は、はっは…。父上!いくら父上とはいえ冗談にも程がありますぞ!!」
「…キレイ…信じたくないのは分かるが本当なのだ、本当のことなのだ」
「父上ッ!!」
「わしも最初は信じられなかった。領外とはいえ…賊に襲われるなど…!」
「う、嘘だ!信じぬ!信じぬぞ!父上は嘘をもうしているのだ!」
「気をしっかり持てキレイ!お前の母、我が妻の死を認めるのだ…!」
「いやだ、いやだ…いやだ…ッ!母上ッ!何処におられるのですか!母上ぇ!」
「キレイ!聞き分けの無い子だ!いつまでもそのように女々しくして…」
「いやだ!いやだーーーーーーーーーーーッ!!!」

 キレイは父の言葉が聞こえなかった。いや、聞こえないようにしたかったのだ。声を荒げ泣き叫び、壷や屏風に手や足を伸ばし乱暴に当り散らす。そうする事で耳に入る父の非情な声を…音を…ただ塞ぎたかった。内心勘付き始めた、その事実を認めたくなかった。庵に入り才能を伸ばしながら孤独に耐え抜き、まだ未発達なキレイの幼心には余りにも辛い現実であった。

 キレイは泣いた。悲しみにうち震える本物の涙を流して。強く生きねばならぬと父に諭されながらも、余りにも身近すぎる人の命の儚さに泣いた。父キレツは目を瞑り酒を煽り、弟キイは再び泣きはらした顔に浮かぶ涙を浮かべながら、ただ黙って感情を荒げるキレイのその姿を眺めることしか出来なかった。

「死しても業の深い女よ…このように我が子らを泣きぬらすとは…」

キレツは目を瞑り、酒を煽りながら月夜に向けて呟いた。

――――――

 泣き疲れてキレイは、キイに負ぶさる様にとぼとぼと寝所へ向かっていた。
悲しみに暮れる兄を見てキイは、ふと肩にかかる兄の体の重みを感じていた。数年来会っていなかった兄のあのスラリとした肢体は、ゴワゴワと硬い筋肉で覆われ、張るような胸、骨太な腕や足、見違えるほど逞(たくま)しくなったその兄の体は、キイの思い出の中の彼と、まったく違っていた。

「兄上がこれほど強くなるためには…さぞ辛い苦行を耐えたのでしょうな…」
「母…上…ぇ…母…上ぇ…」
「ささ兄上、寝所に付きました。今日はどうかゆっくりお休みください」

ドサッと重い音で倒れ、ただただ泣き崩れていくキレイの背中を見て、気を使ってキイは戸をゆっくり閉めると寝所を後にしようとした。しかし戸を閉める音を聞いて、キレイはとっさに静かな泣き声をあげた。

「…ま…待て…キイ!待ってくれ…キイ!」
「どうしました兄上…?」
「寂しい…一人は寂しい…。頼む…今日一晩でいい…!一緒に居てくれ…なっ?」
「…」
「キイ…私に残された家族は父上とお前だけ…孤独は恐い。恐いのだキイ」
「兄上…」

 キイは閉めた戸を開けると、黙ってキレイの寝所の近くにいった。暗い寝所にある四つの燈台に灯火をつけるとキイは、少年キレイの傍に椅子を置きスッと座った。キレイは左腕で泣き顔を隠しながら、キイにボソボソと二年間の庵での話しを話し始めた。キイはそれを黙って聞いた。キレイの右手を握り、まるで亡き母のように話のそれぞれに頷きながら、兄を優しく慰めた。キレイは弟に打ち明ける度に、心の曇りがだんだんと晴れていくような思いがした。

 長い時間がたった。暗闇の帳(とばり)の降りた夜も、その深みを増した頃。
キレイとキイは、兄弟水入らずの会話を続けていた。しかしキレイの顔を隠していた腕は解け、表情や口調はすっかり平静を取り戻していた。

「なあキイ。母上は賊に討たれたというが、それは本当なのか?」
「はい。兄上が出てすぐの事でした」
「その賊は、もう捕らえられたのか?」
「いいえ…それがまだ…隣郡の小高い丘を根城にしているとか…」
「そうか、ならば討たねばならんな…!」

キレイは起き上がると、スッと前へ手を伸ばした。

「兄上何を…!?」
「キイよ。賊が憎いか」
「はっ…?」
「母上を討った賊が憎いかと聞いておる」
「そ、それは勿論憎うございます!」
「そうか…」
「?」
「…キイよ。私は今、とんでもない事を考えたぞ!」

少年キレイはキイの顔を見ると、手を握り、その黒く沈んだ眼で夜空を見上げた。

「私はこの大陸に…信帝国に変わって新しい帝国を築く!天下をとるのだ!」
「えっ!」
「そのために協力しろキイ!お前が我が配下第一人目だ!」
「あ、兄上!まだ錯乱しておられるのですか!?」

キイは仰天した。元々傲慢で、突拍子もないことを言ったりする兄であったが、今や天下を七代に渡って統べる信帝国の代わりに、高々十二歳を数えた少年が自分の帝国を築きたいなどと宣言する、まさに狂ったとしか思えない言動であった。しかし、キレイは親兄弟の前で嘘などつく卑怯な男では無かった。それはたとえ何年離れていても、キイの脳裏に焼きついていた物だった。

「錯乱などしておらん!私は天下をとる!天下をとって帝国を作り、この世に賊の居ない真の秩序の国を造るのだ!誰一人として親兄弟を失って悲しむことない世にするためには優れた国家が必要だ!優れた国家にするためには、優れた王が必要だ!だから私がなるのだ!世が乱れぬことのない覇を唱える王に!」

 御歳十二歳の少年、キレイが野心を抱いたその瞬間であった。
キイは、灯火に揺らぎ映る兄の影と、その黒く沈む眼の輝きの強さに、兄キレイの心の中に天を駆ける龍を見た。大河に潜んだ龍が羽ばたいたのだ。傲慢な天才が孤独を知り、絶望の淵に気付いた夢。それは乱れ始めた世の流れに大望を抱き、この世を統べらんとする小さな、小さな英雄の影であった。

信帝国暦192年、冬。
ここから、弟キイと伴に始まった若きキレイの天下取りの野望が、純白の白紙に黒墨を撒くように天を滲ませ、野心が地を走らせ、彼は信帝国の中で確実に出世していった。人は悪に対して厳しすぎる彼の裁きを見て、畏怖と蔑視を込めて『天下の恐将』と呼んだ。天下を動かす恐将と、その余りに余る才気は、今まさに天下に放たれていくのであった。
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英雄百傑外伝キレイ編-2

2008年02月22日 20時27分46秒 | 『英雄百傑』設定
英雄百傑外伝―英雄達の休息―
第一夜『野望の恐将、龍となり天下を望む』


 穏やかな雪の降る中、新年と伴に十歳を迎えた少年キレイは、相変わらず無謀な事ばかりやって両親を困らせていた。岩壁に馬を駆けて滑り落ちてみたり、雨が降って水量の増した河川に飛び込んで溺れかかったり、城の天守閣の屋根の上に登って余りの高さに降りられなくなったり、時には賊の根城に出かけて日が落ちるまで狩りをしたり…唯一の理解者である弟のキイでさえ、兄の突拍子もないその行動に幼心ながら不安を覚えていた。

 大小の怪我、悪戯、その天然自然の破天荒さは父キレツだけでなく、城の重臣たちをも唖然とさせる根っからの悪餓鬼であった。ほとほと困り果てたキレツは重臣たちと話し合い、キレイの外出を禁じるために京東郡一の武術と学問の老師リョウボウの庵にいれた。リョウボウの庵で開かれている塾は大変厳しい事で有名で、一度入塾させれば、たとえ親や子どもがその厳しさに泣き喚こうと、向う三年間は脱出する事の出来ない寄宿制の庵であった。

「それでは行ってまいります父上。しばしの別れになりますが、母上にもよろしくとお伝えください」
「おう、キレイ。少しはその鼻っ柱を鍛えなおされてこい」
「兄上、お気をつけて…」

 父や弟に見守られながらキレイは城を出て庵へと出立した。
その見送りに母の姿は無かった。キレイは少し寂しく感じた心を見送る二人に見透かされまいと、音をたてる勇み足で庵へと向かった。持っているのは旅立ちのための少々の路銀と、少々の食料だけであった。

「母上、どうかご無事で…」

遠くなっていく城を見守りながら、遠くに落ちていく夕日を見てキレイは呟いた。あの日、馬を駆けて弟キイと見た地平線に映る夕焼けには遠く及ばないほど、その夕日は何処か寂しげに暗く沈んでいた。

――――――

 こうしてキレイの庵での生活は始まった。
リョウボウの塾門を叩くと、寄宿舎で年齢の違う何人もの見知らぬ学徒と一緒に共同生活を始めた。嫌々入れられた者。脛に傷を持つ者。頭を剃った坊主志願の者。学問を志し学者になりたい者。政治や法律を知り官吏になりたい者。武術を極めて将軍になりたい者。大小様々な人間と伴にキレイは、リョウボウの厳しい庵に入塾した。

 異常なほどの学問方法は、まず朝から始まる。
鶏の鳴く朝よりも早く起き、身の回りの整理をしながら机を並べ、夜が白み始めた明かりで兵法、政治、法律書の暗唱を始める。暗唱に一度失敗すれば足を叩かれ、二度失敗すれば手を叩かれ、三度失敗すれば背中を叩かれ、四度失敗すれば頬を叩かれる。数えて幾許も無い幼い子ども達は、叩かれる痛みに怯え必死に勉学をした。毎朝が体の痛みと予習復習の連続であった。

 暗唱が終わると朝の食事の時間である。しかし食事の時間も気が抜けない。
終始にわたる食事の礼儀、作法の学習。私語は基本的に許されていたが、一度でも言葉遣いを誤ると食事を抜かれる。次第に私語をする者も少なくなっていった。

 食事が終わる頃には武術の鍛錬が始まる。
学徒たちは庵の外に出ると、大小さまざまな木製の棒に数枚の布をつけ、手足には甲冑の代わりに砂の入った重り袋をくくりつける。そしてリョウボウの指揮の下、打ち筋、間合い、打ち込み方、多勢に囲まれた時の対処法など、ありとあらゆる技術を休み無くみっちりと教えられる。

武術鍛錬の時間の最後の締めくくりには、学徒たちの息抜きと称して、学徒同士の木刀、木槍による対戦があった。だが、息抜きと格好つけてはいるが、学徒たちの誰もが暗い表情でこの時間を迎える。なぜなら、これが武術鍛錬で一番恐ろしい課目であったからだ。この対戦試合、学徒の数にもよるのだが、疲れ果てた体で、年齢も体格も違う最低40人程度の学徒と休み無く打ち合わねばならない。しかも、この中で最も負け越した数の多い十名は居残り、庵の周囲を百周しなければならない決まりであった。そのため学徒たちは皆本気で打ち合いをする。対戦の時には必ず防具をつけて参加が義務付けられていたが、これは本気の打ち合いで怪我をする学徒が多くなるからだ。

 日が沈み鴉の泣く声が遠くに聞こえる頃、武術の鍛錬は終わり夜の食事の時間である。学徒たちは私語をするのもやめて、疲れと空腹から黙々と食べる。そして食事が終わると皆黒布で目隠しをする。最後の訓練、度胸の時間である。リョウボウの庵の庭には池があり、そこには手すりの無い数本の細長い丸太橋が架けられており、学徒たちは目隠しをしながらそれを渡るというものであった。

真っ暗な夜に足元の微妙な平衡感覚と、音だけで進む。運悪く池に落ちればもう一度やり直し。水の温かくなる夏は良かったが、冷たくなる冬の時期に池に落ちると悲惨であった。学徒たちは手に足に汗を滲ませながら、一歩一歩丸太の上を歩いた。

 夜、就寝前の一時だけが学徒たちの安心の出来る時間である。
厳しい学問と修行に泣く者。横暴な習得方法に怒る者。隠し持っていた食料を分け合う者。宿舎を抜け出す相談をする者。自殺を図ろうとする者を止める者。そんな、さまざまな声が寄宿舎に細々と聞こえる中、キレイはただ一人蝋に火を灯し史書、兵法書を読み漁っていた。城に残してきた弟と母の事を思い、ジッと耐える生活を送ったのだ。だがキレイは、その真面目さと裏腹に学徒の中で友と呼べる者が居なかった。度胸や才覚はあったが、少々狭量で傲慢な所があり、他人を見下す態度をチラホラと見せるところなどは悪い評判の最たるところであった。

 庵での毎日の荒行がニ年ほど続いた頃。
十二歳になったキレイは塾内でめきめきとその頭角を表していた。学問においては史書兵法書を軽々とそらんじ、武術においても一等級。なにより他の者と比べ物にならなかったのは度胸であった。二年間に及ぶ庵の荒行に耐え、まだその才を伸ばそうとする奇才は、塾長である老師リョウボウを始め、その門下の年上の学徒たちまで一目置く存在となっていた。しかしキレイは内心、学問漬けの生活に嫌気がさしていた。才能の余りに特別視する周りの人間の言葉を鵜呑みにし、頭の良さを鼻にかけて、人を見下すようになった。

――――――

 そんなある日、キレイは老師リュウボウに呼び止められる。
老師リュウボウはキレイに言った。

「わしは、お主を本当の神童だと思っている。それゆえにこのように目をかけている。だが最近、お主は学問も武術も怠けているように見える。それはどうしてなのじゃ?」

キレイは答えた。

「老師。いくら読んでも政治書や兵法書などは所詮、実戦の結果を踏まえて誰かが書いた死んだ書です。体験の前においてはまさに机上の空論。他の能無しの学徒ならまだしも、全ての兵書をそらんじられる私が、なぜこのような生活を続けなければならないのですか?それを頑なに守る老師の教えはすでに白骨。私は死んだものを学ぶほど愚かではありません。時が…時が惜しい…惜しいのです。私には、この無駄な時間が惜しいのです。老師が懸命に教えていると思っている、この無駄な時間に、実戦や政治を体験出来ないことが惜しいのです」

少年キレイの言葉の数々に老師は唖然とし内なる怒りに身を震わせた。若さゆえの傲慢とはいえ、このような少年が自分の師に向かって、その学問の学び方を否定する。学問を教える立場として、この言葉の数々は老体の心に深く響き、それは堰を切った様な怒りとなってキレイにぶつけられた。

「うぬぬ、この青二才めが!少々おだてられたからといって自惚れおって!師に向かってなんという言葉の聞き方をするのじゃ!わしの教える学問が白骨じゃと!死んでいるじゃと!おのれキレイ…!」
「はははっ。老体がそのようにお怒りになるところを見ると図星ですかな」
「なにっ!?」
「薄々死んでいる学問だということをご自分で認めていたという事でしょう?」
「お、おのれ…無礼な!出てゆけ!貴様など破門じゃ!破門!二度とわしの下へ現れるな!」
「そうですか。それではお暇を頂きます。ご老体に鞭打ち、二年もの間ありがとうございました。せいぜいその老体がご無事であるよう、このキレイ心から願っておりまする。では!」

こうしてキレイは神童と謳われながらも、半ば破門という形で老師リュウボウの庵を去り、キレツの城へと戻った。帰ってきたキレイの姿を見て弟のキイは嬉顔で涙を流して出迎えたが、父キレツや城の重臣たちは事情を聞くなり口をあんぐりとあけて、ただ呆然としていた。

「母上、母上…!キレイが帰りましたぞ!」

キレイは父親や重臣たちへの挨拶も程ほどに城を駆けると、母の影を追った。
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OK、いい曲だ

2008年02月21日 22時27分50秒 | 末路話
ナイススティークッ!@kirekoです。


>さて、始まりました外伝

というわけで本編の構成の傍らでやりたかった物(主人公達の内面)を
ちょいちょい小ネタにして綴っていたのを今回文章にしてみました。
書いてて思ったんですが、やっぱり長文になると、
自分自身文章力にスタミナがないことを知っているので、
2000文字くらいの三部構成の短文にしようかなと思ってます。
(そのほうが読むほうもライトな気分で読めますし)

まあ適度に文章力を落とさないための実験なので、
ちょいちょい本編手直しもかねてやっていこうかなと思ってます。

>曲を…

http://www.nicovideo.jp/watch/sm1590568

戦闘シーンを書かなくていい時はこういうBGMかけてます。
凄く癒されるなあ…
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英雄百傑外伝キレイ編-1

2008年02月21日 22時19分33秒 | 『英雄百傑』設定
英雄百傑外伝―英傑達の休息―
第一夜『野望の恐将、龍となり天下を望む』


 その日、大陸全土を覆うような長い黒雲を浮かべた夜空は、天が破けたような悪天候であった。幾度と無く続く稲光と雷鳴は大地に向かって恐々と鳴り響き、貫くような大きな雨粒が、家に野に強く降り注いでいた。

「………」

信帝国東国、関州京東郡太守のキレツは居城の門の上に立つ天守閣から、酒を飲み瓦屋根の雨樋から流れる水の流れを眺めて、ふと物思いに耽っていた。雷鳴と雨音の絶えない夜空、そこへ一人の急使が駆け込む。キレツの臣の一人エスディである。

「御太守!太守は何れにあるか!吉報にございます!キレツ様!」
「夜更けに何事か。うん?エスディではないか。ずぶ濡れでどうした」
「お喜びくだされ!ご子息が…キレツ様のご子息がお生まれなされましたぞ」
「まっ、まことかエスディ!お、おおお…ついに、わしにも息子が!」

その夜、一人の赤ん坊が産声を上げた。

「我が子…本当に我が子なのか…?これが赤子か…ほほっ…小さい…小さいのう…だがなんと神々しいことだろう…うぅ…うぅ…神々しい…実に神々しい…のう!」
「…はい…私も…お役目が果たせて喜ばしい限り…」

小さな、そのあまりにも小さな…生まれたばかりの小さな命、我が子との対面を果たしたキレツは、胸にこみ上げる感動の余り重臣達の目もはばからず思わず泣いた。泣き震え、妻の手を強く握り、満面の歓喜に笑うキレツの顔は、すでに父親のそれであった。キレツとの間に三度の流産を経験した妻は、気の遠くなるような出産の痛みが残っていたが、目の前で喜び崩れるキレツを優しくなだめた。

 赤ん坊の名はキレイ。
産湯につかり、両親がその命の誕生の喜びを一晩中かみ締めていたその間もずっと、大きく泣き叫んでいた赤子が疲れて泣き止む頃には、夜空の雲はすっかり晴れ、外から聞こえる激しい雷鳴は止んでいた。

―――――――――

「あっ、兄上ー!あにうえー!すこしは手綱を緩めてくだされー!」
「はっはっはっ!遅いぞキイ!もっとしっかり馬の手綱を握らねば振り落とされるぞ!それに私の秘密の場所を見たいと言ったのは、お主ではないか!」
「まっ、まさか城の外に出るとは聞いてませんでしたからー!そっ、それに、わっ、私は馬に乗るのは、にっニ度目…とっ、とても兄上のようにはいきません!」
「ふっふっふっ!俺の弟なら泣き言を言うな!それに、そのような馬の走らせ方では、いざ戦に出るときに何かと困るぞ!それっ!置いていくぞ!」
「ま、ままっ、まってくだされあにうえー!置いていかないでー!」

 あの破天の夜から八年後。
小さな赤ん坊は成長し、少年となった。たなびく赤い肩掛けに包んだ身は、赤子の頃の貧弱さとは見違えるほど強く、しなやかな肢体に恵まれ、太く力強く跳ねキリッと整った切れ長の眉の下に映る眼は、まだ穢(けが)れを知らぬ澄んだ黒に染まっていた。黒い眼で草原の先を見ながら手綱を握るキレイは、弟キイと供に黙って城を抜け出して馬を走らせ、広い草原を駆け抜けた。少しするとキレイ達は大草原の中にある小高い丘にたどり着く。

「はぁ…はぁ…やっと追いついた…」
「フッ、我が弟ながらそのように馬によたってバテるとは情けないぞ…。それ、ここだ。草原の先を…あの地平線に落ちる陽に燃えるように輝く夕焼けの草原を見よ。どうだ、ここが私の気に入りの場所だ」
「はぁはぁ…ここが…あ、兄上の!」

小高い丘を見下ろす二人の前には、たどり着けないほど遠くに続く、空と地を隔てる地平線、沈む夕日に照らされて彩られた草原が風に揺らめき、見事な夕焼けの様相を表していた。純真な眼はその美しい風景に奪われ、しばらくの間、互いに言葉をかわさず、ただ目の前に広がる自然の雄大さを体に感じていた。

「あ、兄上…す、すごい…これは…本当に…凄い!」
「ふふふ、父上には内緒だぞ?キイ。お前と私との絶対の秘密だぞ」
「は、はい!兄上!ぜっ、ぜったいに!ぜ、絶対に言いません!」
「はっはっはっ、そんなに喜んでもらうと、なんだか私も鼻が高いな。お前には特に見せたかったのだ。たった一人、天の下に生まれた同じ兄弟として…この雄大な大陸に見える自然の奇跡を…」

 キレイは微笑みながら恥ずかしそうに弟にそう言うと、暗くなり始めたあたりを見て、再び城へと戻っていった。父であり、城の主でもあるキレツは帰ってきた二人を見て猛烈に怒った。城を無断で護衛もつけずに出た我が子の無謀さに、怒りに怒り、声を荒げてついには癇癪の発作を起こした。キレイは庇うように弟キイを下がらせると、父親の怒りの弁舌に何も答えることなく耐え、ただ黙って下を向きながら震え、怖くて流れる涙を父親に見せまいとした。

「兄上ぇ…」

庇われたキイは、涙を流しながらも耐える兄の姿と、怒り狂う父親の姿を扉の後ろに息を潜んで隠れて、ただ眺める事しか出来なかった。自分の願いから城外に出た事を言えば、兄は救われるが自分が怒られる…。少年キイには、その恐怖を打ち消す兄のような勇気がなかった。


―――――――


「えっ…えぐっ…母上ぇ…母上ぇっ…父上がぁ…父上がぁ…」
「よしよし…。キレイ、弟を庇って父上のあの癇癪に耐えて涙を堪えて…そう…よく頑張りましたね」
「キレイは…キレイはッ…頑張りました…キイを…キイを助けたくて…でも父上は…わかってくれなくて…うっ…うぐ…うわあああん!」
「よしよし…いい子。でも、いつまでも泣き虫ではいけませんよ。お前ももう八歳。泣くのは止めなさい」
「えぐっ…わっ、わかっています…わかっています…ですが…うう」

何度も鼻をすすり、涙を拭い、黒く眼を赤く腫れさせたキレイは、母親の寝所へと逃げるように駆け込んだ。キレイの母は父親キレツとは違い、非常に温厚な女性であった。悔しさを吐き出すキレイは不条理に泣かされる度、キイや衛兵に人知れず寝所を抜け出し、夜な夜な母の下へと向かった。普段は強気で、平気な顔をして大小さまざまな悪戯をし、何にでも動じないと立ち振る舞っていたキレイ。だが泣きじゃくる顔には、まだあどけない少年の心が住んでいた。こういった風に母親に全てを告白し、優しく頭をなでられながら慰められると、キレイは赤子のように泣き疲れて、寝所へ帰り良く眠る。そして翌朝から再び好奇心の渦中へと飛び込んでいく。

「…コホッ…あの子が成人する時まで…私は生きていられるでしょうか…」

母は戸を閉じるキレイの後姿を見ながら、小さく咳をして呟いた。
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少し気になったので

2008年02月19日 20時06分06秒 | 末路話
なあに男は度胸、なんでもやってみるもんさ@kirekoです。

>PIXIV・・?

http://www.pixiv.net/

よくわからんが藜さんとスワットりんがやってるらしいので、ふと気になって検索してもちろんそのままの勢いで登録した。ふふっやったぜ!

つかみんなうめーうめー言ってたけど、やっぱりウメー。
キャラが眩しすぎてモニターの前で鼻血だすかとおもったぜ…
というわけで、渋ぅぅいキャラ絵を求めて流離う事にします。
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\(^o^)/オワタ

2008年02月18日 22時14分50秒 | 末路話
戦闘シーンに飽きた\(^o^)/@kirekoです。

>というわけで…

英雄百傑を「勝った!第一部完!」みたいな流れで
終わらせたわけですが、途中、40話くらいで文字を打ってて
「あれ…4クール話数を意識してたのに、このペースじゃ、終わらなくね?」
って思って、40話以降はスゲー急いで書き上げてました。
正直22話以降は構成力不足というか…アドリブが多すぎてダレました。
く、くやしい!今やりたいのは群雄割拠なのに一騎打ちで感じちゃう!
みたいな、感じで、思いついてやりたい描写が一杯ありすぎて最後52話完結構成が1話はみでるという体たらくぶりが発生してしまったので、申し訳ないんですが、ラスト付近は追っかけ風に終わらせてます。

とりあえず、これからは普通の男の子に戻ります。
言い訳みたいになるんですけど、ブログだと制限が多いので、
これからはワードに移して加筆、推敲しながら
完全版英雄百傑を書き上げておきます\(^o^)/
というわけで一回英雄百傑のターンは終わるぜ!
ヤバイ疲れた!あばよ!
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最終回『天上飛燕 天下英雄 英傑足りて天運導き、龍将勝鬨をあげる』

2008年02月18日 21時59分10秒 | 架空大河小説『英雄百傑』
英雄百傑
最終回『天上飛燕 天下英雄 英傑足りて天運導き、龍将勝鬨をあげる』


キュウジュウの陣屋にまんまと潜入したミレム達は、空になった兵士の幕舎の一つを貸し与えられ、机には兵士達の兵糧であろう質素な食事が並べられた。給仕の兵に運ばれてきたのは一つの皮袋に入れられた水と、見た目からしてパサパサとした古米に粟(あわ)や麦などの雑穀入れて握った飯が十個ほど器に盛られてきた。ミレムはそれを見て酒は無いのかと給仕の兵にごねたが、ポウロが慌ててその口を塞いだ。そして、見張りの兵も居なくなったところでミレム達は密談を重ねようとしていた。

しかし…

「ミレム様、それがしは情けのうございます!なぜあのような事をなされたのですか!それがしの手にかかればキュウジュウの細首など、この腕一本、手のひら一つで砕き殺せますのに、何故あえて恥をかきなされた!明確な返答をお聞かせ頂きたい!」

「まあまあ、そうカッカするなよスワト。たかが俺の裸躍り一つで死傷者も出ず、陣へと潜入できた。それで策がなせるなら良いではないか」

「しかし…しかしッ…それがしにはッ…敵を前にして主君たるものが…あのような屈辱を味わされて…黙っておられず…余りにも…余りにもあの舞いは耐え難く…悲しゅう事実でございますれば…ッ!」

スワトは主君ミレムの前に跪き、手を地につき悔しそうに土を握りながら震えると、顔を下に向けてミレムの顔を見ないようにした。すると、滅多に泣く事の無い豪傑は、思わず目に涙を浮かべ、轟々と音を立てて泣いた。
羞恥を知らず不甲斐ない主君への憤りもあったが、忠節を重んじる士たる自分が、主君の恥を許してしまった思慮の無さに、その心を痛めたのだった。
その余りにも強い忠義心は、何度か言葉を投げかけようとするミレムをほとほと困らせた。

「ふうむ。スワトの忠義ぶりにも困ったのう…ポウロ、お前から何か言うてくれんか。このままではスワト抜きで火をつけねばならん」

「ははっ、お任せを」

ポウロは軽く頷くと、スワトの前へと駆け寄り耳元でスゥッと息を大きく吸い込み、全ての息を解き放つように語気を荒げてこう言った。

「この泣き虫の!愚か者の!能足りんの!ウスラトンカチめが!まだ戦が終わるその前に主君を困らす馬鹿がどこにおる!今は女々しく涙など流している時ではないだろう!忠義の士なら今すぐ立って話を聞け!」

「な、なんだと!このお!いくらそれがしと気の知れたポウロ殿とて無礼だぞッ!」

スワトは荒々しく叱咤されたことに怒り、すっくと立ち上がると、勢い良くガッとポウロの胸倉を掴んで詰め寄った。
幕舎の中、怪力に持ち上げられるポウロだったが、それに大して驚く事もなく、衣擦れが痛むにも関わらず、落ち着き払った冷たい視線をスワトに投げかけ、怪訝そうな顔を浮かべると、スワトの顔にニ、三度か人差し指を出すと豪傑の目の辺りを指した。

「…はっ!!」

不思議に思ったスワトは目の下に目線をずらすと、何かに気付いてガッチリと掴んでいたポウロの胸倉の拘束を解いた。何かを悟ったようにスワトは跪くと、深く深く礼をして今まで頬へ絶え間なく流れていた涙の線は、いつの間にか乾いて止んでいた。

「すまん…それがしが狼狽しすぎたようでござる…」

「まったく。手のかかる御仁だ」

「流石ポウロ。一言でスワトを黙らせるとは見事じゃ」

ポウロは乱れた衣服を整えると、再びミレムとの話を始めた。

「ミレム様。荷車の油は、先ほどから兵に命じて乾いた藁に良く染み込ませて、この幕舎の四隅に仕掛けておりまする。あとはオウセイ将軍の兵の喚声が聞こえたら、私と兵が謀反だと叫びながら火を放ちますので、ミレム様はスワトと供に北の門から逃げ帰ってください。判っているとは思いますが、よくよく手順のご確認をお願いいたしまする」

「はいはい、自分が立てた策に確認をするというのも不思議な話だのう」

ミレムは、うんざりと言った様子でポウロの話を聞いていた。
そしてその時、幕舎の外から荒野を吹く東方の寒風がヒューッと吹き抜けると、ミレムはガタガタと震えながら、手を脇の下に入れ、口をガチガチと震わせた。

「うーぅ…酔いが冷める寒さじゃのう!ブルブル…少し体が寒くなってきおったわい」

「ははは、それはそうでございましょう。この風は、この地方の秋の終わりを告げる寒い季節風。それにミレム様は、寒さの増す秋の夜空に蒙恥の舞いを踊ったのですから…。スワトの言を蒸し返すわけではございませぬが…敵陣の中でよくもまあ…恥らう気持ちを抑え、あのように立派に踊られましたな」

ポウロはスワトにああは言ったものの、少なからず同じような感情を抱いていた事実をミレムに告げた。ミレムは顔中の皺を伸ばし口元を緩めると、笑顔を浮かべて、こう言った。

「ふふふ、あのような躍り一つ…俺は恥らってなどはおらぬ。ポウロにスワト、よく聞け。兵の居ない今だから言うが、俺はお主らとは違い、元々しがない盗人の身。この世を渡るために何度もこのような事をやってきた。だが誤解しないでくれ、恥知らずと思うかもしれないが、俺はやってきた事に後悔は無い。気運気運と皆がいうが、俺には豪傑スワトのような力も、ポウロのような知能も持っていない。俺が出来るのは恥をかく事だけ。もしお前達が恥に苦しむ事があるなら、俺が代わりにその恥を受けよう。もし俺がそれで恥知らずと罵られても、お主らは決して感情を荒げるな。むしろ笑え、笑うのだ」

「ミレム様…なんという事を仰るのですか…我ら主君たるミレム様に、そのような事を出来るはずがございません。ミレム様。私達はあなたを殿と崇めておりますればこそ、その主君の恥を家臣が受けるならまだしも、家臣の恥を主君が肩代わりするなど忠節の心に反し…ハ…ッ!」

ミレムの顔を見て、ポウロは途中で話すのをやめ、その場に深々と跪いた。
主君の顔は、先ほどまでの酒気に当たって赤らんでいた色がすっかり抜けて白んでおり、ニコリと笑う口元の上にある深みを増した黒い瞳からは、自身が放つ言葉に対する真っ直ぐな真剣さがあった。
ミレムは目の前で跪くポウロの手をとり、こう言った。

「なあポウロ。俺は義勇軍を立ち上げたあの日から、いつも心の底に思うのだ。恥などという感情は、生きるのに煩わしい『人生の一部』だと。人はそんな煩わしさに振り回されて悩んだり、憎んだり、嫉妬したり、怒ったり、悲しんだり、あげく他人を殺したりする…。こんな事を戦をする人間が言うのは、おかしい事かも知れないが、人として生を受けた者が、ただ首を斬ったり斬られたりして人生を終えるのは、実に愚かなことだと俺は思うのだ。だから俺は偉くなる。偉くなって人々が互いの恥を笑いあえるような…そんな幸せな世の中を作りたいのだ」

静かに。ただ静かに。
屈託のない笑顔を浮かべながら、幕舎に響くミレムの言葉は、場に居るポウロとスワトの心に、人物としてのミレムのその大きさを思い出させた。

「…うおおおぉッ!ミレム様!それがしはッ!その大望のために、この命尽きるまで力を貸しますぞ!もう二度とミレム様の恥を恥とは思いませぬッ!」

「ふっははは。そう泣くなスワト。希代の豪傑が少々女々しいぞ」

再び泣いたスワトは大粒の涙を流しながらミレムに駆け寄った。
湧き上がる熱い感情を抑えていたポウロは、立ち上がるとミレムに呟くように言った。

「…恥は人生の煩い…ミレム様も立派に成長なされましたな」

「ふふふ、おかげであの四天王のキュウジュウとやらも、血の気の引いたような色白の顔を更に真っ青にして逃げていったわ。…さあポウロ、それにスワト。さっさと陣に火をつけて、皆で帰って美味い酒をしこたま飲むぞ!今日という日を人生最高の酒の肴にするのだ!」

「「ははっ!」」

ミレム達は意気揚々と幕舎で待機した。
勇士達の頬を伝って流れる涙は美しく、皆熱い物を心の内側に感じ、どの者も誇らしげに胸を張り、腕はグッと力強く、足はザッと勇壮に大地に立った。
真剣な眼差しに宿る勇士達の思いは皆同じく、全員無事帰還する事、ただそれだけを心に決めたのだった。

ジャーン!!ジャーン!!

「「「ワァァァァーーッ!!!」」」

そして少しの時間を経て、西の大地から沸き上がる喚声が聞こえた。
オウセイ、ガンリョ、ドルア、リョスウ率いる官軍隊総勢5千の兵が、寒い秋風の吹く荒野に旗を悠々とたなびかせ、激しく叩きつける馬蹄と人の足音を鳴らし、手に持ったドラをけたたましく鳴らしながら突っ込んできたのだ!

「フッ!やはり予想通り夜襲を仕掛けてきましたか…」

キュウジュウは外から聞こえる、けたたましい程に沸き上がった喚声と鳴り響くドラの音に気付くと、甲冑をつけ、幕舎から護衛の兵と供に剣を持って飛び出し、官軍隊の出す音の方向を冷静に見定め、それを聞き突然嘲るように下卑た笑みを浮かべた。そうしている内に守備をしていたトウロウの報告を受けた。

「キュウジュウ様のお見通し当たりましたな!案の定、敵はこの暗闇に紛れて夜襲をかけてまいりましたぞ!しかしこの陣の明かりと敵軍の喚声から大体の場所は把握できまする!およそ敵は陣から平野西6百歩の場所!かがり火の影の動きから、その総勢はおよそ5千程かと!!」

「フッ、多勢を率いて、あのように士気も高く喚声をあげ、煌々と松明を照らし突っ込んでくるところを見ると被害を覚悟の上ですかねぇ。なんという匹夫の勇でしょう…とてもソンプトの策を破った者があそこにいるとは思えませんね。例えこれが策だとしても…一方向から総勢で敵陣に突っ込むとは無策にも程があるというもの…。さあ我が兵達よ!勇ましく十梗を漕ぎ、矢を放ち敵軍を壊滅させるのです!」

陣の木柵の近くに配置された十梗が、数人の兵士に引っ張られてガラガラと車輪を右へ左へと動かすと、十梗は列をなして西の門に集結し、官軍隊の居るであろう場所を狙った!

ギリギリ…ギリギリ…

「全ての十梗が西門に集結いたしました!」

「そうですか。フフッ、ではまずは敵の気勢を削ぐ第一射を…」

キュウジュウの近くにトウロウが現れると、陣は奇怪な音に包まれた。
それは漕ぎ手の兵士数人が、矢を放つ前の段階で十梗の歯車を止めた音であった。木工の兵器の内部で円状の歯車が軋み、幾重にも重ねられた強靭な弦が震え、威力を受け止めながら抑える、もう一つの歯車が磨耗していく音がキュウジュウに聞こえると、キュウジュウは腰に帯びた剣をサッと抜きトウロウを見た。
キュウジュウの部下、トウロウの両手には、丸太のような柄に、風にたなびく大きな長い赤旗が握られ、それが降ろされるのを合図に各隊一斉に十梗が放たれる仕組みであった。

「「「ワァーーーッ!!」」」

意気盛んに鳴り止まぬ喚声を上げ、差し迫る官軍隊の影の方向へ剣を傾けると、キュウジュウは平素の穏やかな表情を一変させ、含んだ若干の笑みと供にこう言った。

「十梗隊ッ!!放てェェェー!!」

タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!
ビュンッビュンッビュンビュンッ!

瞬間、驚くべき数の矢が秋の夜空を突き破り、陣から放たれる。
闇夜に映える一瞬の光、それはまるで流星のようであった。

ザクッザクザクッ!!

「ギャアァァ!!」
「う、うぐぐ…!」

無数の凶撃にかかって、官軍兵士達の悲鳴があたりに木魂する。
オウセイ達が率いる兵達は、自分達の目の前に瞬く間に出来上がる死体の山に驚きながらも、オウセイの指揮に従ってそのまま突撃を敢行した!

「敵がまだ近づいてきております!」

「フッ…愚かな…この鉄壁の四天王キュウジュウの守る陣を、あのような力攻めで突破できると思う根性が浅ましいのですよ!さあ十梗隊!第二射を放つのです!」

タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!
ビュンッビュンッビュンビュンッ!

再び襲い掛かる矢の雨、死の流星!
深い闇の中で、まるで狙いをつけたかのように降り注ぐ矢に、官軍は為す術が無かった。オウセイを始め、副将のガンリョ、リョスウ、ドルアも頑張ったが、あまりに際限なく、あまりに休みなく放たれる矢の応酬は、将兵達をどよめかせ、その動揺の広がりを隠し切れなかった。

「先鋒の騎馬隊が殆どやられました!」
「オウセイ将軍!うおっ!もうここまで飛んできたわ!このままでは全滅してしまいます…退却しましょう!」
「ドルア!リョスウ!ここで退いてはならぬ!ミレム将軍達がまだ敵陣におるのだ!左右へ散開して直撃を避けて時間を稼ぐのだ!」

槍を振り回し、兵を指揮しながら迫る矢を必死に叩き落すオウセイやドルアだったが、死の流星は無常にも兵士達に苦悶の悲鳴を上げさせ、官軍隊は甚大な被害を出しながら後退を始めた。

「フフッ!みたか!四天王キュウジュウの鉄壁の守りを!十梗の凄さを!フフッ…フヒャッ…フヒャヒャ!フヒャハハハハハッ!!!」

キュウジュウが冷静さを欠く笑いを
秋の夜空に浮かべた、その時であった。

「火事だーッ!官軍の別働隊だーッ!!」
「敵が後方から周ったぞーッ!幕舎に火がついたーッ!」


陣の後ろ側、ミレム達が居た幕舎から轟々と燃え盛る火の手が上がり、ポウロや兵士達が味方の兵士を装って大きく声をはり嘘の悲鳴を何度もあげた。
ポウロ達は走り回りながら、見張りの居なくなった陣屋に配置された松明や、燃料の入った灯台を幕舎のあるほうに倒し、吹き抜ける風と相まって、いつの間にか陣の後方は火炎の渦に引き込まれていった。

「お、おお!?陣の後ろから火の手が!一体、どうしたのですか!?」

「どうやら後ろに敵兵が回りこんで火を仕掛けた物と!」

「おのれ…これも官軍の策ですか!ええい!消すのです!絶対に十梗に燃えうつらせてはなりませんよ!」

慌ててキュウジュウが部下に言うと、少ない守備兵と半死半生の負傷兵達は陣の後ろに向かって甕の飲み水や寝巻きの毛布で燃え広がる陣の火を消し周った。真ん中にある指揮官キュウジュウの幕舎でさえ、燃え移れば破壊して他への引火を防ぐほどだった。流石に、四天王軍団キュウジュウの兵はよく統率されており、消火活動は迅速に行われ、火を消すのに時間はかかったが、陣は半焼する程度の被害で収まった。

「な、なんとか消えましたね。ふう。それにしても官軍め、このように姑息な火攻めを行うとは、なんと破廉恥なことでしょう。トウロウ!十梗に被害は無かったでしょうね!」

「ははっ、お喜びくだされ。十梗も兵も、ほぼ無傷にございます」

スッと横へ手をだすトウロウの先には、無傷の十梗が雑然と並んでいた。
それを見てキュウジュウは、狼狽した自分を恥じるように急に冷静なそぶりを見せ始めた。

「フッ、フフッ。僕としたことがちょっと慌てちゃったよ。僕の軍団が敗れるはずないよね?四天王軍団鉄壁のキュウジュウの軍がさ…」

「は。ははっ…」

引きつった表情を浮かべるキュウジュウの声は、冷静さを失い震えていた。
トウロウは初めて見るキュウジュウの狼狽ぶりに、少々の不安を感じた。
焼け落ちた後陣の姿を眺めていたトウロウは、ふと、後ろにそびえる英明山の二つの砦の方へ目をやる。

…ェィ…ォー

「むっ…?山塞から小さく聞こえる何の音だ」

不思議に思って耳を澄ますトウロウ。
声はだんだん大きく聞こえてくる。

…エィ…エィ…オッ…

「ま、まさか…」

トウロウは兵士数人を連れて、血相を変えてダッと勢い良く山のほうへ走り出すと、大きく聞こえてくる山間を木魂する声に耳を疑った。

「エイエイオーッ!エイエイオーッ!!」


「ば、馬鹿な…山が…英明の山が…落ちたのかッ!!!」

大きく響く兵達の勝鬨は、山の二つの関から大きく聞こえた。
トウロウは叫ぶ声をあげると、その目を疑った、山の砦に立つ何本もの煙と、槍を持った兵士達が腕をあげて喚声をあげ、その周りにはうっすらと官軍の旗が吹く風になびくのが見えたからだ。

武青関にキレイとタクエンの旗。
武赤関にはキイとゲユマの旗。
響く勝鬨の声は、お互いの勝利を確かめ合うようなものであった。

トウロウは沸き上がる官軍の勝利の声に、ガクッとその場に力なく倒れると、護衛する兵達に背負われながら、トボトボと歩き始め、圧倒的な敗北という事の次第を最後の四天王キュウジュウに伝えるのだった。





―――こうして名瀞平野と英名山を挟んでの激戦は終わった。



キュウジュウ以下四天王軍団は、多くの兵を失い、そびえる山の要害二つを失い、運ばれる兵糧と物資を補給する重要な兵站を失うと、翌日に官軍に白旗をもった兵士を伝令に立て、自らを縄目に縛り潔く降伏した。

これにより、別働隊を率いて西の都へ向かっていたホウゲキの部隊は、退路を断たれることを怖れて引き返し、無敵であるはずの高家四天王軍団を失ったホウゲキは、信帝国へ無条件降伏を打診し、翌月、それは受諾されると、ホウゲキの治める東海と、大陸十二州の一つ北清奥羽州はメルビ、チョウデンなどの官軍隊に占拠されつつ無条件で帝国に返領される事となった。

南国で10万の兵と供に蜂起を起こしたホウギョウも、これと時を同じくして戦線を張っていたジャデリンの軍に降伏し、こうして今回の反乱に加わった王族と東南合わせて総計25万の将兵達は、立ち消える水泡の如く瓦解した。

人々は、この勝利の連鎖に嬉しい悲鳴をあげ、未だ健在な信帝国の威信を喜んだ。
しかし、ここに軍を統べる官軍の英傑達の活躍があったのは言うまでもない。

天上の気運ミレム、豪傑スワト、智者ポウロ、識者ヒゴウ、将軍リョスウ、
天下の恐将キレイ、謀士タクエン、猛将オウセイ、ゲユマ、ガンリョ、ドルア。

時代を掴むために戦った英雄達は、それぞれの思い描く『野心』『希望』『功名』『時代』『夢』を胸に抱き、少しずつ動く天下の動静を探りながら、束の間の平和に休息を覚えるのだった。

剣を掲げ、槍を伸ばし、声をあげ、合戦を駆けぬけた英雄達は、その度重なる戦に散っていった兵、散っていった将軍の顔を振り返りながら、これから始まる本当の乱世の影を、それぞれの眼でゆっくりと見据えていくのだった。



―英雄百傑 第一部 完―
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第五十二回『潜入作戦 天運至言 気運、敵陣にて蒙恥の舞いを踊る』

2008年02月17日 23時55分07秒 | 架空大河小説『英雄百傑』
英雄百傑
第五十二回『潜入作戦 天運至言 気運、敵陣にて蒙恥の舞いを踊る』


地平に吸い込まれるように日が落ちていく。
だんだんと訪れる薄暗い闇の帳は今日という日の終わりを伝えていた。
荒野の風は止み、大地は人を映す影も無く、星も月も浮かばない闇の中で
ミレムはスワト、ポウロと供に十人という少ない手勢をひき連れ
キュウジュウの陣屋に一番近い東の中央の荒野を走っていた。

しかし、敵陣に向かうのにも関わらずミレム達は身を守る甲冑も剣も槍も持たず、みすぼらしい百姓のような身なりをし、同じく丸腰で百姓に化けた兵士数人は、工作隊が自陣火計のために持っていた、油の入った壷や甕を積んだ小さな荷車を引いていた。

「うーい。スワト遅いぞぉ!何をもたもたしておるぅ…もっと早く走れぇ、早くしないとキレイ将軍の軍が動けんではないかぁ!」

「ミレム様!そのように暴れられては落ちてしまいますぞ!それに…その…余り文句は言いたくないでござるが…何故それがしが背にミレム様を乗せて敵の下へ走らねばならぬのでございますか!」

「うーん?なぁんだとぉ?ヒーック!ウェェェイッ…そりゃ俺が酒を飲んで酔って足がおぼつかないからに決まっておるだろうが…主君が馬に乗ることも出来ないなら!家臣のお主が足となるのは仕方ないことであろうぅいーッ!それになぁスワト、これも策の内よぉ、成功したら褒めてやるから今は耐えて前へ進むのじゃぁ」

「そ、それはそうでござるが…むむむ」

大きなスワトの背に負ぶさってミレムが酒気の抜けきらない声で強く言い放つ。
丸腰の豪傑は言う通りに敵陣に走りながらも、キュウジュウの陣屋から、もしかしたらまた先ほどの強靭な無数の矢が撃たれるかもしれないと思うと、ブルルッと背筋が冷える思いがした。しかも酒に酔うと途端に性格が変わるこの主君が、自分から先陣を買って出たということを考えると、なおさら背筋は冷やりと冷たい物を感じざるをえなかった。

「ミレム様。このポウロ、疑っているわけではございませぬが、この苦肉の妙案。余りにも博打が過ぎるのでは?自信が無いとはいいませぬが、これでは敵に首を取られに行くようなもの…」

「ハッハァンッ?ポウロ。お主、いつも自分の考えた策ばかりが通っているので、我が妙策に思わず嫉妬したかぁのぉ?この気運の男ミレムが考えた策、成功するにきまっておろうぉ!お前も知っているはずじゃ、天はいつも我が味方だということぉなぁ!ウーイ!」

「はははっ…。そうでありましたな…。目を瞑って思い起こせば、我が家に来られてから戦い続けた今まで、我らが運というものに見放された事はありませんでした。ミレム様は気運の人。必ずや策は成功し、生きて帰ることが出来ましょうぞ」

ポウロは目の前で酒気に煽られて火照った赤みを顔に見せ、屈託無く笑うミレムという男の精神の図太さに感心しながら、今まで、この男が起こした奇跡のような快進撃を思い出して、その気運の高さを確信した。

ガラガラと音のする荷車を引きながら、ミレム達はその歩みを進めていった。

英明山 麓 キュウジュウの守陣

一方その頃キュウジュウの陣は、敵の夜襲に備えて辺りの警戒を行っていた。
薪を並べて火をくべた燈台や、燃料の入った燈籠が陣のあらゆる場所に設置され、陣は暗い夜空を浮かべる名瀞平野にあって一際輝いていた。
流石は四天王の中でも鉄壁のキュウジュウと言うべきところか、夜襲への備えは万全であった。矢を放つ木工の兵器『十梗』は四方に配置され、その矢の補充も万全。厳重警戒の命令を受けた兵士達は決められた四人一組で行動し、その手や足は緊張に震わせ、目は光り、耳はすまされ、互いに時間を置いては異常の無いことを確認しあっていた。

そんな厳重警戒の中にあって、陣へと進むミレム達が見つからないはずは無い。

「トウロウ将軍!陣の前に明かりと人影が!」

「なにっ、官軍隊か!」

「…いえ…見るところ数は十人程度、どの者も剣も甲冑も着ておりませぬ。それに遠くから聞こえるガラガラという音は荷車…。おそらくこの周辺の百姓かと…」

「ふうむ。しかし戦場に百姓とはおかしな話だ。よしお主ら、その怪しい百姓を捕らえてまいれ!」

こうしてミレム達はキュウジュウの部下トウロウの兵によって、あっさり捕らえられると、厳重警戒を続けるキュウジュウの陣中へと連れて行かれた。

「どの者も百姓の身なりをしているが、そなたら目的はなんだ」

目の前で跪き、百姓の身なりをするミレム達にトウロウは尋ねた。
スッとポウロが前に出ると、その質問に答えた。

「はい、私らは関州の楽花郡へ出稼ぎに来ていたしがない油売りの商隊でございます。ですが恐ろしい軍隊に稼いだ財産を没収され、残った商売道具を持って仕方なく東の親戚を頼ろうと山越えをしようと思いましたが、兵隊に囲まれて身動きできず困り果て、こうなれば覚悟を決めて将軍に直々お許しを得ようと思いまして…」

「ほほう、それは難儀な事であるな。しかし今は合戦の最中。この合戦が終わるまで山越えは諦めよ」

「お、お侍様!そんな殺生な!私達の路銀はもう底をつき、明日食べる物も無い有様。このまま道中を行けば野垂れ死にしてしまいます!なにとぞ!なにとぞ将軍にかけあって下され!なにとぞ!なにとぞお願い致しまする!」

「そう言われてものう…」

「お侍様ァ!我ら油売りは百姓が作る油の菜種が不作で苦しい時も、道中を賊に襲われて命を落としても、歯を食いしばってなけなしの油を捻出し、命懸けでお侍様方へ燃料を運んでおりまする。このように煌々と陣を光らせられるのも、我ら油売りの血の一滴から全てが始まっているのをお忘れではございますまい!」

「むむむ…」

「将軍!お願いでございます!お慈悲を…お慈悲を…!」

何度もトウロウの袖を掴み、瞳に涙を浮かべ、土の茶色に少し汚れた衣服で、必死に頼み込む演技をするポウロに、トウロウは苦い顔を浮かべ困り果てた。
トウロウは今でこそ四天王軍の将軍の一人だが、元は関州の百姓の出。
凶作、不作にあえぎながら農作物を作る民百姓や、物を売って生計を立てる商人達の辛さを身にしみて良くわかる男であった。

「わかった。わかった。私も作物を作り運び、汗を流す日々を忘れることはない。民百姓に生かされる将軍の一人として、お主らの事、悪いようにはせぬ。主将キュウジュウ様に話をつけるので、しばしここで待たれよ」

考えたトウロウは、ついに湧き上がる故郷への郷愁と良心の呵責に耐え切れず、上司であるキュウジュウの幕舎に駆け込むと、事の次第をつらつらと伝えた。

「キュウジュウ様。平民の民百姓とは申せ、我らを支えてくれる者達です。せめて一夜限りの兵糧と兵士達の寝所を貸してやってはもらえませぬか」

「フフッ、トウロウ。君らしいと言えば君らしい願いだが、今は戦の最中で、僕は冷徹な四天王キュウジュウだ。そうすれば聡明な君の事、僕の口からでる答えはわかっているだろう?」

「ははっ、しかしそれを組しても百姓の悲壮な訴えは忍びなく思い…」

「ふうん。君がそこまで言うなら、その百姓達には僕が会って話をしよう。もしかしたら敵の間者かもしれないしね。君は引き続き警戒を頼むよ」

「ははっ…慈悲深きキュウジュウ様にお願いを聞いていただき、このトウロウ恐悦至極にございまする」

そう言うとトウロウは深々とお辞儀をし、言われた通りに守備兵の統率へとキュウジュウの幕舎を後にした。キュウジュウは去るトウロウの背中を見送りながら、目を瞑り、口元を緩ませ不適に「フフッ」と笑い幕舎を悠々と出て行った。

キュウジュウはヒソヒソと護衛の兵士数人に耳打ちすると、その兵達を引き連れ、百姓のなりをしたミレム達の前へと現れた。

「高家四天王キュウジュウと申します。フフッ、百姓の皆さん。トウロウ将軍から話は聞きました。遠路お疲れでしょうが、軍というものは軍律というものがあります。信用のならないものを僕の陣屋にいれて軍律を破るような事をしては、僕が軍法にかけられてしまいます。そこで、どうでしょう皆さん。僕と賭けをしませんか?」

「賭け…でございますか?」

キュウジュウの不気味な物腰の低さと笑顔の耐えない表情と口調に、言いがたい面妖さを感じながら、不思議そうに顔を傾げるポウロ。

「そうです。賭けです。簡単な質問をさせていただくので、それに答えられれば今日一日幕舎の一つを貸し出し我が陣へ泊まり、人数分の食料を与えましょう」

「おお…それはありがたい…一宿だけならず食料まで…その賭け是が非でも乗らせてくだされ!お願いします!」

ニッコリと爽やかな笑顔を絶やさないキュウジュウは、ポウロの返答を聞いて、さらに穏やかな表情を浮かべ、その笑い皺を顔全体に生やした。
そしてキュウジュウは、手をスッと前へ伸ばすとピンと人差し指をポウロに向けて、緩く優しい穏やかな口調でこう質問した。

「では質問しますよ。官軍のあなた達が、百姓に成りすましてまで我が陣に何をしにきたのですか?」

「えっ!?」

キュウジュウがそう言うと、護衛する屈強な兵がバッと驚く不意をつくようにポウロ達を取り囲み、鋭い槍を構えて跪いたポウロ達の首や胸に皮一枚の距離を開けて刃をあてがった!

「…フフッ、愚かですねえ。わざわざ合戦場を通り抜けて山に向かい、今さら出歩く命知らずの百姓がいるはずがないんですよ…。この四天王キュウジュウの慧眼を甘く見ましたね。それっ!その官軍兵達の首をはねるのです!」

「…ッッッ!」

キュウジュウの部下が焦るポウロ達の首を跳ねようとした瞬間!

「各々方ァ!待たれいッッ!!!!」

抵抗しようとしたスワトより早く、酒気が未だ覚めやらぬミレムが刃の柄を払って叫び、その余りにも度胸に満ち溢れた響く大きな声に、兵達は慄いた。ミレムはそれを無視するかのように、つかつかとおぼつかない足で歩き、キュウジュウの前へ出て行く。

「キュウジュウ将軍!なぜ我ら罪も無い百姓に濡れ衣を着せ、その命を無碍にとられようとなさるのでしょうか!百姓の首は軽く、間違って殺しても構わぬということですか!そのような事、納得できませぬ!たとえ、ここで我らが斬られても、この大陸数億の百姓達が黙っていませぬぞ!」

その恫喝とも思える言葉に反するようにキュウジュウは冷静に言い返した。

「フフッ、そんな脅しや挑発に僕が乗るとでも?四天王を甘く見てもらっては困るよ。もし本当に油売りの百姓なら、なぜ暗い夜道を明かりもつけずに進んでいたのかな?」

怖気ず、顔を赤くしてミレムが答えた。

「油は我らの大事な商売道具。命より大事な商売道具を自分のために使うなど商人の名折れ!そのぐらいの事は商人ならずとも、そこらの子どもでも知っておりまする!何故と聞かれるまでもございません!」

「フフッ、じゃあなぜ山道をわざわざ進もうとするんだい?合戦場を横切る勇気があるなら、南側から遠回りして平地伝いに行けば目的地に着くはずじゃない?」

「商人はいつも安全な道を選びます。南の平地を越えていくには大小の様々な河川があり、そこには河を根城にする賊も多く、命ばかりか、もし賊に商品が奪われでもしたら私どもは信頼を失ってしまいます。物を売る商人として信頼の喪失は死を意味します。売る品物があり、安全な道があるのなら、例え山道でも進むのが道理にございましょう!」

「フン…」

キュウジュウは思わず次に言う言葉に詰まった。
前に立つミレムのその畳み掛けるような熱弁と度胸も凄かったが、何よりも語る瞳が真っ直ぐで、どこにも曇りが無かったことにキュウジュウは余裕を忘れ「本当に百姓なのでは?」と一抹の不安を覚えた。

しかし時を置き、キュウジュウは冷静に妙案を考えた。
そして閃いた、信帝国に仕える官軍の兵士ならば誰もが断るであろうその罰を。
荒野の大地に勇壮に立つミレムに対して、今度はニヤリと下卑た笑い顔でキュウジュウは言った。

「フッ、わかったよ…。たしかに君の言う商売の心意気は一理ある。そこまで言うなら仕方ないね…僕も四天王の一人だ。君たちの事を信じよう。でも、タダで泊まらすわけにはいかないよ。官軍でない証拠として、ここで『蒙恥の舞い』でも見せてくれるかな?官軍じゃない百姓ならそのくらいできるよね?フフフッ」

「なっ!!」

キュウジュウの下卑た笑いと言葉に思わずスワトが声をあげる。
信帝国の法に死と同等といわれる法律が一つある。
それは『蒙恥(モウチ)の舞い』と言われ、救いようの無い重罪を犯したり、帝国に大きな過失を与えたり、救いようの無い無様な失態を犯しても、見ず知らずの公衆の面前で裸になれば命だけは許されるというものであった。
しかしこれをやって死を逃れたとしても、その将軍は後世まで人間では無い者、つまりは世に隠れる人として扱われ、他人に蔑まれても文句は言えず、平民未満の扱いを一生受ける生き地獄を味わう恐ろしい刑法であった。

「いけません!それをやっては!」

スワトの声が空しく響いたが、キュウジュウは部下に命じてスワトの口を塞がせると、優しくミレムに「どうだ?」ともう一度問いた。下卑た笑いを浮かべるキュウジュウに対して、ミレムは堂々とこう言った。

「濡れ衣を晴らし、今日一日、我が命助かるならやりましょう!さあ!さあ!ごらん下され!我が見事な舞を!その目で髄とご覧下され!」

「な…なんとぉっ!?」

キュウジュウは表情を一変させ、ぶれの無いミレムの言葉に驚いた。
ミレムは迷いの無い眼で羽織と肌着を脱ぎ始め、秋の夜空に自らの裸体をさらけ出し、見事に兵士達の目の前で隠すことなく赤く火照る体でスッと手足を伸ばし、舞を踊った。

「も、も、もういい!このぉ!恥じらいも無く四天王キュウジュウの前で汚らわしいものを見せおって!この恥知らずの人の商人め!早く服を着て荷車と部下を連れて兵の陣屋に行け!」

「ははっ。それでは、ありがとうござる…」

流石にこれには、キュウジュウも驚きを隠せなかった。
見守る敵味方の兵士達も驚く中で、まるで汚いものでも触ったかのように、ニ、三度と手を払って顔を横に向けると、キュウジュウは急いで立ち上がり、逃げるようにして自分の幕舎に駆け込んだ。

「ふふふ…うまくいったのう。ヒック!」

こうして、ミレム達はまんまと敵陣に進入することが出来たのである。
しかし、スワトやポウロを始め、ミレムを守る兵士達でさえ、この男が酒を飲んだ時の行動力と決断力、そして羞恥心の無さには、ただただ唖然とするばかりであった。
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第五十一回『転向撃退 震天守将 鉄壁の守将、夕日に動く』

2008年02月17日 00時24分32秒 | 架空大河小説『英雄百傑』
英雄百傑
第五十一回『転向撃退 震天守将 鉄壁の守将、夕日に動く』



日は西に傾き、すでに時刻は夕暮れの様相を思わせる。
光を遮る雲は高く陰りを見せ始め、平地に射す晴れた秋空の見事な夕焼けは、英明山の山肌を燃えるような一面の赤色に染めた。
光は朱に彩られた長い一日の戦いの跡を照らし。
散らした多くの兵士の命を高らかに覗いていた。

名瀞平野中央部の激戦に辛くも生き残ったスワト、ガンリョの軍団は、
平野伝いに進行してきたオウセイの軍団と合流し、参謀タクエンの言ったとおりに琶遥谷からやってくるであろう敵を平野中央部で待ち伏せした。
しかしそこへやってきたのは、陣へと後退するステアの軍勢であった。

思わぬ場所でオウセイの軍勢と対決することとなったステアは不意をつかれ、火計による負傷者を抱えながら流石は四天王軍団とばかり奮闘したが、後ろから来るミレム、ポウロ、ヒゴウの2千の軍勢との挟み撃ちにあい、混乱する兵を纏めきれず惨敗を喫した。ステアは猛将カワバと精鋭数十人を引き連れて、武力をもって血路を開くと、キュウジュウの陣屋へ一目散に退却した。

オウセイ率いる官軍隊は勝利に沸きあがると、疲れる兵達のためにしばしの休息をとり、計略の完成のため、英明山の麓の四天王キュウジュウの陣まで再び駆け始めた。

英名山の麓 キュウジュウの陣

「四天王ステア様が御帰陣なされたぞー!」

陣を守備する兵士の大きな声が幕舎に響く。
悔しい涙と疲労の汗を流しながら帰陣したステア軍団は、官軍隊にまんまとやられた自分達の情けない姿に恥じながら木柵の門をくぐると、そこにあった信じられない光景を見た。

「おお…なんちゅうことじゃ…四天王軍団が皆負けちょったか…」

ステアの目の先には顔を虚ろにし、敗北に敗北を重ねた四天王軍団が居た。
ソンプトの命で琶遥谷を襲ったソンプトの部下トウサ、カオウの部隊は兵を失い壊滅状態、コブキの軍団は半数以上が残っていたが、未だ大将のコブキの生存はわからず、駆け込む伝令達の報告を聞くたびに意気消沈していた。

「ステア様、守備兵数の残りを目測で数えましたが、その数2千程かと…これでは敵の襲来に備えられませぬぞ…」

陣に残った大凡の兵数を数えていたカワバは焦った。自分の予想以上に四天王軍団の被害は甚大なものだったからだ。合戦前には一万以上あった四天王軍団の兵力は、今やキュウジュウの守る陣の兵と併せて多く見積もっても、3千弱。

「ううう…いてえ…いてえよぉ…」
「水を…水をくれぇ…喉が渇いてしかたねえんだぁ…」
「た、助けてくれ…もう腕の感覚がねえ…死にたくねえよぉ…」
「静かにしてないと傷が開くぞ!こっちは水か!ええい負傷者が多すぎて軍医がたらん!元気のあるものは誰か手を貸せ!」
「合戦で俺の親父も兄貴もやられた…くそっ」
「もうこんな合戦まっぴらだ…早く田舎に帰って生まれたばかりの息子と遊びてえだよ」

兵士達のうめき、どよめき、その声は痛いほどステアの耳に入った。
陣を守るキュウジュウの守備兵1千を除けば、逃げ帰った兵達の殆どが激しい合戦に大小さまざまの傷を負い皆痛みに耐えてはいるが、どの者も半死半生…もはや、そこに戦う意思を持つ者など居なかった。
ほぼ一日中駈けずり回った兵達の体は立つ事も辛く、手をつき膝をつき体を大地に寝転がせた。身を守り敵を倒す剣や槍は大地に放り投げられ、誉れ高い四天王軍団の士気を煽る大事な将旗は地に倒れ、生気をなくした土に汚れる旗は、まるで兵士達の心を表すようであった。

ステアとカワバは、耳が痛くなるような兵士達のうめきの声の中を闊歩し、
幕舎にいるキュウジュウに合戦の終始、事の次第を告げた。

「フッ、なんてザマですか。ステア将軍。確かにソンプトの計略が敗れたのは意外でしたが、占領した陣屋の状況もわからないまま、敵の火計を許し、追撃をかけて敵を打ち破ろうとは…おめおめと将も兵も失って敗北し、私の前に出れたことすら嘆かわしい。無様にも程がありますよ…なんて無能な将軍なのでしょう!」

「そ、それは…しかし…まさか敵が自分の陣に火をかけるとは思わず…!」

「カワバやめい。キュウジュウ将軍の言う事は本当のことでゴワス」

キュウジュウの嘲りに耐えかねたカワバは思わず声をあげるが
ステアはカワバの体を止めて、ただ落ち着いてその罵倒を聞いた。

「ふん…誉れ高き四天王の部下が言い訳ですか?情けない!だいたいステア将軍もステア将軍です。このように考えもなしにいつも無駄に被害を出して突っ込む匹夫ぶり…。フフッ…上司は部下を映す鏡とは良く言いますね。配下の武将がこうも武力一辺倒でイマイチ粒が揃わないのも、ステア将軍のせいではないですか?」

「むうう…言わせておけば!!戦いもせずにおのれ!」

「やめんかカワバ!」

今にもキュウジュウに襲い掛かろうとするカワバを、腕一本で止めるステア。
キュウジュウはその行動に驚きもせず、冷静な口ぶりでステアを何度も罵った。
聞くカワバは音が聞こえるほど歯軋りし、いつ怒りのあまりキュウジュウに襲い掛かるかわからないほど手足は力が篭り、キュウジュウが口を開けるたびにワナワナと震わせた。しかしその隣でステアは、ただ敗軍の将としてキュウジュウが次々放つ冷酷な罵りに耐えていた。

そこへ、ソンプトが慌てて駆け込んでくる。

「あ、アチキの完璧な策が敗れたって!そ、そんな馬鹿なことがあるかい!」

紫の甲冑を着込んだソンプトは、慌ててキュウジュウに詰め寄る。
キュウジュウは事の次第を後からやってくる兵士から聞いた情報を
簡略にして、敗戦の結果の旨をソンプトに説明した。

「そんな…あるわけが…アチキの策は完璧のはずだわよ…あ、あわわ…」

ドカッ!

説明を聞くと、ソンプトはその場に膝をついて倒れた。

ガリッ…!ガリッ…!

「アチキの策…アチキの策は…完璧…完璧…完璧なはず…完璧なのに…何故…ありえない…ありえない…ありえない…!」

ソンプトは青ざめた顔面を地に向けると頭を抱え、ブツブツと小声で何かを呟きながら、指で顔面を爪をたててかきむしり、頭を地面に叩きつけ、異常とも思えるその行動を何度も繰り返した。
頭や指を数度往復させる内に、顔は見る見るうちに赤みをおび、爪は肌を削り皮を裂き、顔の赤みは、いつの間にか朱の色に変わり、滲み出る少量の鮮血にソンプトの顔は染まった。

「…」

カワバとステアはその光景に絶句した。
いつも偉そうに己が策を披露して鼻にかける嫌な武将だと思っていたが、このように精神的に脆い一面があることを彼らは知らなかったのである。

「完璧…完璧…完璧なはず…微塵も敗北する可能性は…可能性は…」

ソンプトの策知、計略に関する高い自尊心。
四天王随一の鬼謀を自負し、自分の考えだす策に絶対の自信を持っていた…だからこそ己が策を用いて敗北したことが許せなかった。強気に発言する自信家ほど、その自尊心が崩れる時は弱いものである。唯一無二の自信という物を喪失する恐怖感と焦燥感は、他人の感じるそれを超越したものであった。

「「「ワーッ!!!」」」

その時、沈む夕日に照らされながら陣屋の東から喚声の声があがる。
平野を走り抜けて官軍総勢6千の兵がキュウジュウの陣の5百歩先に現れた!
騎馬隊を率いて先陣を担うオウセイ、槍兵隊を率いるスワト、歩兵隊を率いるドルア、リョスウ、ガンリョ。絶やさず松明に火をくべ、小弓隊を率いるミレム、その後ろにはヒゴウ、ポウロの工作隊が銅鑼をけたたましく鳴らした。
官軍兵士達の顔は、疲れてはいたものの、勝利を手前にして意気揚々であった。

「ひっ!て、敵襲だ!」
「も、もう戦はイヤじゃ。わしは一歩も動けんぞ!」
「うう、戦いたくとも体が言う事を聞かぬ…」

陣内で負傷しうめきを上げて倒れていた四天王軍団の兵士達は、
夕焼け空に美しく映える、その層々たる人物達が立ち並んだ官軍隊の姿を見てたじろいだ。

「くぬっ!敵が勢いにのって攻めてきたでゴワスか!」

「…キュ…キュウジュウ!…敵だ!…アチキの策を破った敵がくるぞ!どうしよう…どうしようキュウジュウ…」

数の多数に慌て始めた四天王二人を前に、キュウジュウは静かな顔を浮かべ、至って冷静さを保ちながら、こう言った。

「ふっ、ソンプト将軍まで…情けない…しっかり気を持ってください。たしかに合戦には破れました、ですが、行方知れずのコブキ将軍を除き、皆生きているではありませんか。それにここには堅固な陣と無傷の守備兵がおり。なにより後ろには英名山の鉄壁の関がまだ二つあります。フフッ、そしてこの私、四天王鉄壁のキュウジュウが居る事もお忘れなく…」

キュウジュウはそう言うと幕舎を出て、
差し迫る官軍隊の兵に向かって陣屋の端々に伝令を飛ばすのであった。

「オウセイ将軍!陣を取り囲む配置が出来ましてございます!」

「よし、では我ら騎馬隊は正面の門へかかるぞ!続けーーッ!」

「「「オオォォォーッ!!!」」」

オウセイの号令と供に、キュウジュウの陣屋に向けて正面からオウセイの騎馬隊、左手からはリョスウ、ドルア、ガンリョの歩兵隊が攻めかかった!また、右手にはスワトの槍隊がミレムの小弓隊を守るように配置された。

「よいか!キュウジュウ様の言われたとおりにやるのだ!よいな!」

「ははっ!」

陣を守る守備兵1千は、正面にキュウジュウ率いる5百、右方に部下トウロウ率いる3百、左方に同じく部下のバシュク率いる2百と分散し、それぞれがキュウジュウからの秘策を預かっていた。

「キュウジュウ様!敵軍が来ます!その距離2百歩ほど!」

「ふふっ、それでは…近づいてくる敵に十梗(ジュッコウ)を浴びせてやりなさい」

「ははっ!」

ガラガラガラ…

そういうと、キュウジュウの兵士達が持ってきたのは十梗(ジュッコウ)と呼ばれるものであった。総木工で作られたそれは、見た目は巨大な筒のような物であり、下部左右二つに長く飛び出た漕ぎ棒の先に、水車と水車を重ね合わせるような簡易な歯車が存在し、幾重にも重なる伸びる強力な弦が、その歯車と中央の巨大な木箱に直線となるように配置されていた。

「漕ぎ手は4人一組で行い!狙いは先頭の一人がつけなさい。敵が見えたら一気に攻撃を開始するのです!」

「ははっ!」

キュウジュウの指揮により、兵士達がそれぞれ決められた場所に移動すると、
前後ろ二輪ずつ付いた合計四輪の強固な鉄の車輪と土台に乗せられた十梗が差し迫る官軍に向けて、向きを傾けられる。

キリキリキリ…ギリギリギリ…

漕ぎ手と呼ばれた兵士達は、官軍隊を発見すると、左右に伸びた漕ぎ棒に手をかけて重い漕ぎ棒を前へ後ろへと徐々に回転させはじめた。

すると次の瞬間、

タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!
ビュンッビュンッビュンビュンッ!

十梗の巨大な木箱のガラガラという音と供に、大筒の内部から無数の鋭い矢が放たれ、強くしなる矢は放物線を描きながら正面左右の官軍隊を襲った!!

「ぎゃあっ」
「ぬおあっ!」
「ごわわっ!!」
「げえぇっ!!!」

思わぬ場所から雨のような矢の応酬を受けて、ある者は鋭い矢を受けて落馬し絶命、ある者は逃げる暇も隙もなく矢に全身を突き刺され、官軍隊は一度に百人以上の死者を出した。

「な、なんだこの矢の数は!敵陣に万の兵でも潜んでおるのか!こ、これはマズイ!全軍一度ひけっ!ひけっ!ひくのだ!」

これには流石のオウセイやガンリョ達も兵を退かずには、いられなかった。
物見の情報から1千程と言われていた守備兵キュウジュウの陣から、一度に数千を超える矢が飛んでくるのだ。それも、どの矢筋も鍛え上げられた熟練の射手の小弓の威力と思えるほどの殺傷力を持っており、射程は迫った先鋒隊の頭を遠く飛ぶほどあったのだ。兵を束ねる将として、これほど怖い物はない。

「フフッ、官軍隊が逃げ帰りますよ。それっ次々十梗を放つのです!」

「ははっ!」

タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!
ビュンッビュンッビュンビュンッ!

「ぐわあ!」
「ぎゃあああ!」

夕日に煌く矢が十梗を美しく照らし、官軍兵士の命を奪う!
たまらずオウセイの騎馬隊は差し迫る矢の雨に被害を出しながら、矢の届かなくなる5百歩ほど下がった場所へ来ると、これまた後退してきたドルア、ガンリョの歩兵隊と合流し、差し迫る雨のような矢を前にどう攻めるかを考えていた。

「皆大丈夫か!タクエン殿が無理攻めをするなと言われた理由がよくわかったわ。流石は鉄壁キュウジュウの軍…恐ろしい攻撃だ。ふうむ、しかしこれでは攻めるに攻めれん。火の手があがらなければキレイ様達の軍も動けん…誰か、どうにかして敵陣に火をかけられぬか?」

「「「………」」」

しかしオウセイの言葉もむなしく、キュウジュウの陣から放たれるあの矢の雨を掻い潜っていけるような妙案を考え付くような者は、この中には居なかった。
どの者も閉口し、考える間に辺りは暗闇が差し迫っていた。
そこへ、ミレムの歩兵隊が合流する。

「おおミレム将軍、ご無事でござったか」

「はっはっ、派手にやられたが無事でござる…ヒック!なあに心配することはないですぞオウセイ将軍。逃げる間に妙案が思いつき申したぁ」

「む…?それはまことでござるか!?ではミレム殿。妙案、お聞きしましょう」


ミレムは抜けきらない酒気の入った息でオウセイに淡々と語り始めた。
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